スタートアップ・Luupが展開する電動キックボードのシェアリングサービス「LUUP」
スタートアップ・Luupが展開する電動キックボードのシェアリングサービス「LUUP」
  • 「ヘルメット任意」の電動キックボード解禁
  • 日本初「バイクと自転車を切り替えられるモビリティ」が登場
  • 「歩行領域」のモビリティにも新たな動き
  • 「最高時速50キロ」の自転車も登場
  • 2022年以降は都市部でクルマからパーソナルモビリティへの移行が加速

2021年は、昨年からはじまったコロナ禍が引き続き猛威を振るい、“密”を避けた移動手段に注目が集まった。世界的に電動バイクを含む自転車、電動キックボードが人気となり、自転車部品やバッテリーといった部材が不足した。

日本では9月までに3回も緊急事態宣言が発令され、なかなか自由に移動ができない状況が続いた。ただ10月以降は一転して感染が急速に収まり、国内に限れば気軽に移動しやすい日常が戻ってきている。

2021年、パーソナルモビリティ分野で起きた主な動きを振り返りつつ、2022年の展開を予測する。

「ヘルメット任意」の電動キックボード解禁

2021年、最も注目されたモビリティといえば、電動キックボードではないだろうか。4月23日、シェアリングサービス「LUUP」を展開するスタートアップのLuupは、都内の渋谷を中心としたエリアで大規模な電動キックボードのシェアリングサービスを開始。実証実験ながら、はじめて海外と同じ「ヘルメット着用義務なし」を実現した。

電動キックボードは現行法では「原動機付自転車」に分類されるため、基本的に公道を走る際はヘルメットの着用が義務となる。だがLuupは国の「新事業特例制度」を活用し、電動キックボードを「小型特殊車両」と位置づけることでヘルメットの任意化を実現した。最高時速は15キロメートルと低速ながら、はじめて諸外国並みに手軽に電動キックボードを利用できる環境を作り上げた。現在ではLuupが主導するマイクロモビリティ推進協議会に所属する事業者を中心に、各社が全国各地で同様のサービスを提供している。

Luupは現在、東京23区、横浜市、大阪市、京都市の一部で電動キックボードを展開。10月には東京海上との協業を発表し、各地で安全講習会を開催するなど、電動キックボードの普及を目指して積極的に動いている。2022年も、日本の電動キックボードシェアリングサービスをけん引する存在として、目が離せない存在だ。

世界最大手の一角「BIRD」が10月に日本上陸したのも印象的な出来事だった。世界28カ国、300都市以上でサービス展開する同社が日本に上陸するとなれば、いよいよ日本でも電動キックボードが本格的に根付くかもしれない、と期待が高まる。BIRDの強みは、その先進的なテクノロジー。たとえばGPS情報をもとに、幼稚園や小学校近辺など特定エリア内で最高速を制限するしくみを導入している。同社は、まず東京・立川市でサービスを開始し、5年後には全国で2万台規模の展開を目指す。

注意したいのは、現状、「ヘルメットなし」が認められているのは、あくまで特定のシェアリング事業者が提供している電動キックボードだけだということ。個人で購入する電動キックボードは、従来同様「原動機付自転車」の扱いとなるため、引き続きヘルメット着用・ナンバープレート装着・自賠責保険への加入・免許携帯などが義務付けられる。もちろん歩道走行はNGだ。

これを知らずに走り回る「野良電動キックボード」が増えたこともあり、事故件数が急増。メディアが取り上げる機会も飛躍的に増え、警察も取り締まりに本腰を入れはじめた。良くも悪くも電動キックボードが注目を集めた1年だった。

日本初「バイクと自転車を切り替えられるモビリティ」が登場

他にも注目のニュースがある。そのひとつが、glafitの「モビチェン」だ。同社は自転車型の電動バイク「GFR」シリーズを販売している。ペダルをこがなくてもモーター走行ができるため、電動アシスト自転車ではなく「原動機付自転車」と位置づけられている。

このGFR、電源を切ってしまえば、その構造は自転車と何ら変わりはない。ところが原動機付自転車扱いであるため、ペダル走行の場合でもバイク用ヘルメット着用が義務づけられ、自転車レーンを走ることもできなかった。幹線道路などでは自転車の速度で車道を走ることを余儀なくされ、かえって危険なケースもある。

そこで同社は、「電源をオフにしたときは自転車扱い」と認められるよう取り組みを重ねた。ナンバープレートをカバーする(自転車モード)と電源をオフ、ナンバープレートを表示する(原動機付き自転車モード)と電源をオンにする専用オプションの「モビチェン」を開発した。自転車モードでの安全性を証明すべく和歌山市で実証実験も行い、見事警察庁に認められた。7月に警察庁から通達が発出されたことで、日本初の2つの車両区分(原動機付自転車と自転車)を切り替えられる乗りものが誕生した。

このモビチェンを前例として、今後複数の車両区分を切り替えられるモビリティ(警察庁は「状態が変化するモビリティ」と呼んでいる)が出てくる可能性が開けた。例えば乗る人によって、最高時速6キロメートルで歩道走行可能なシニアカーにも、最高時速30キロメートルの原付にもなる乗りものも実現可能だ。

「歩行領域」のモビリティにも新たな動き

10月には、トヨタが歩行領域の立ち乗りモビリティ「C+walk」を発売した。最高速度は時速2-10キロメートル の範囲で切り替えることができ、歩道走行を前提としている。筆者は2019年の東京モーターショーでプロトタイプに試乗したが、歩行者に目線が近く、三輪で低速でも安定しているため、家族や友人などと並んで歩く感覚で移動できるモビリティだった。

トヨタの立ち乗りモビリティ「C+walk」 トヨタのプレスリリースより
トヨタの立ち乗りモビリティ「C+walk」 トヨタのプレスリリースより

現時点では公道走行はできないが、トヨタは発表の中で「関連法規の改正動向も踏まえつつ、将来的には公道での使用も見据え」と言及している。シニアカーのような座り乗りタイプや、車いすに連結するタイプも開発中だ。

同じ歩行領域では、電動車いすを手がけるWHILLの動きも目立った。6月に羽田空港で自動運行サービスの全面運用を開始。保安検査場近くのステーションで電動車いすに乗り込むと、指定した登場ゲートまで自動運転で運んでくれる。利用者が降りると、無人の電動車いすは自動で元のステーションまで戻るというものだ。

11月には新モデル「Model F」を発売。折りたたみ式とすることで軽量コンパクトな機体を実現。価格も従来の半額近くとなり、安価な日額レンタルも用意されたことで手軽に利用しやすくなった。歩行が困難な方が使う「電動車いす」から行動範囲を広げる「パーソナルモビリティ」へと、利用シーンの拡大を狙う。

WHILLの新モデル「Model F」 WHILLのプレスリリースより
WHILLの新モデル「Model F」 WHILLのプレスリリースより

7月に1年遅れで開催された東京オリンピック・パラリンピックでは、トヨタの自動運転バス「e-Palette」が運行され、多くの選手やスタッフを運んだ。そんな中、視覚障害のある歩行者と接触する事故が起きてしまい、改めてモビリティ分野で新技術を開発することの難しさ、責任の重さを感じた。

トヨタの自動運転バス「e-Palette」 トヨタのプレスリリースより
トヨタの自動運転バス「e-Palette」 トヨタのプレスリリースより

「最高時速50キロ」の自転車も登場

個人的に気になったニュースも紹介したい。BIRDは10月、高精度測位サービスを展開するスイスのu-bloxと共同でセンチメートル級の精度を持つ歩道検知技術を発表した。人工衛星を利用した位置情報(GNSS)や車載センサー、高精度マップを組み合わせて実現したもので、BIRDの電動キックボードで歩道に入ると警告が届くとともに、走行できなくなるしくみだ。すでに米国の一部でテスト中で、2022年には広く展開する計画だという。

歩道を正確に検知して速度制限できるのであれば、将来的には走行場所に応じて車両区分が変化するモビリティも実現可能かもしれない。そんな期待を抱かせてくれたニュースだった。

オランダのVanMoofの発表も興味深かった。同社は先進的な技術を取り入れた独創的な電動バイクを販売している。例えば一定速度に達すると自動的に変速する世界初のオートマチック電動シフターを導入したり、スマホと連携して自転車の設定を変えられたりするといった具合だ。

そんなVanMoofが10月に発表したのは、最高時速50キロメートルという高速電動バイク「VanMoof V」だ。前後にサスペンションを装備し、前後両輪駆動で走行する。価格は45万円で、2022年末まで(日本は2023年)の発送を予定している。

VanMoofの「VanMoof V」 VanMoofのプレスリリースより
VanMoofの「VanMoof V」 VanMoofのプレスリリースより

もちろん世界を見渡しても時速50キロメートルの「自転車」が走行可能な場所はなく、ほとんどの場所で最高速度は25-32キロメートル程度に制限されている。それでもあえて同社がこの製品を発表したのは、クルマやバイクを完全に電動バイクに置き換えようと、本気で考えているからだ。具体的な製品という形でソリューションを提示しつつ、政府や議員に規制のアップデートを働きかけていくという。

2022年以降は都市部でクルマからパーソナルモビリティへの移行が加速

さて、2022年はパーソナルモビリティにとってどんな年になるのだろうか。まず注目は、電動キックボードの扱いについて。鍵となるのは、警察庁が設置した「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」だ。電動キックボードや自動配送ロボットなど多様な交通主体が登場していることを受け、今後の交通ルールの在り方を検討してきた。

年の瀬も押し迫った2021年12月23日、同有識者会議が最終報告を出した。報告書は小型電動モビリティを(1)時速6キロメートルまでの「歩道走行車」、(2)時速20キロメートルまでの「小型低速車」、(3)それ以上の速度の「原動機付自転車」に分類することを提案している。WHILLの電動車いすやトヨタのC+walk、自動配送ロボットなどは「歩道走行車」となり、時速20キロメートルまでの電動キックボードは「小型低速車」に入るというもの。

最終報告書では電動キックボードは運転免許不要で、ヘルメット着用も努力義務とされた。これは海外から訪れる観光客の利用も見込んでのことだろう。最高時速は中間報告の時速15キロメートルから引き上げられ、時速20キロメートルとされた。これはドイツと同水準で、国内の電動アシスト自転車のアシスト上限である時速24キロメートルよりは遅い。

法的にも電動キックボードがひとつの交通主体として認められるという意味で、大きな意義がある。順調に進めば、今後警察庁が最終報告書をベースに細部を詰め、来期の通常国会に提出されるという流れになるだろう。

世界的なトレンドを見ると、都市からクルマが排除され、代わりに徒歩や自転車を使うという動きもますます加速しそうだ。例えば2024年オリンピックの舞台であるフランス・パリでは、市長のアンヌ・イダルゴ氏のもとで、徒歩・自転車の15分圏内で日常生活を送れる「15分都市」構想を推進。道路を自転車道へと改修し、中心部からクルマを排除しようとしている。

同様の動きは各国の都市で進められており、ノルウェー・オスロやスペイン・マドリード、イギリス・ロンドンなどのクルマ乗り入れ禁止の推進、米ポートランドやカナダ・オタワなどのコンパクトシティ、オーストラリア・メルボルンの「20分都市」構想など、枚挙にいとまがない。コロナ禍のロックダウンにより、多くの人々が大気汚染や交通渋滞がない快適さを体験した今、クルマからパーソナルモビリティへの移行は、後戻りできない大きな流れとなりつつあるように感じる。

2021年2月にいよいよ着工されたトヨタの実験都市「Woven City」には、3種類の道が織物のように編み込まれている。歩行者用と低速車両用、そしてもうひとつは自動運転車両用だ。そこに従来のクルマのための道はない。この流れが続くなら、2022年以降の私たちの移動はこれから大きく変わっていく。将来振り返ったとき、2021年はそんな「移動の未来へと一歩を踏み出した年」として思い出すことになるかもしれない。

トヨタの実験都市「Woven City」のイメージ トヨタのプレスリリースより
トヨタの実験都市「Woven City」のイメージ トヨタのプレスリリースより