• PCゲーム流行の理由は、良質なゲームの増加によるもの
  • ゲーム機の進化=グラフィックの進化。その結果の人件費高騰
  • PC版でゲームを発売する、ゲームメーカー側のメリット
  • Google、Amazonが諦めた「クラウドゲーム」は新しい潮流となるか
  • 唯一無二のポジションを得たSwitchと任天堂

モンスターハンターシリーズ最新作の『モンスターハンターライズ』の発売や『ウマ娘 プリティーダービー』のヒット、1年が経過してもまだまだ購入が困難なPlayStation 5(PS5)、そしてゲーム配信プラットフォーム「Steam」のさらなる隆盛など、2021年もゲームビジネスにはさまざまな動きがあった。今年最後となる本稿では、2022年のゲームビジネスの行く末を予想してみよう。

2021年7月に発売された『ファミ通ゲーム白書2021』によると、日本のゲーム専用機ユーザーは2707万人であったのに対し、PCゲームユーザーは1527万人。このうち、どちらでもゲームをするユーザーは773万人となっている。

日本に住んでいると、テレビCMやニュースでモバイルゲームの流行についてはわかっても、PCゲームがここまで普及しているということに気付きづらい。なぜPCゲームのファンが増えているのかと言えば、魅力的なゲームがPCで発売されることが増えているからに他ならない。

PCゲーム流行の理由は、良質なゲームの増加によるもの

PC用ゲーム増加の理由は、主な流通経路がダウンロード販売になるため、小資本のパブリッシャーでもゲームがリリースできる点(パッケージ販売をする場合には、生産原価がかかる)。そして、発売される本数が増えるほど競争が激しくなり、結果として優れたゲームだけが生き残るという切磋琢磨が生じて、高クオリティのゲームが誕生するという点だ。

それに加えてSteamでは、ユーザーレビューを記載する習慣が根付いている。ヒットゲームともなればレビュー数が数万件という投稿数になるし、どのレビューも「自分が好きなゲームを、他の人にも遊んでもらいたい」という感情が伝わってくるような優れたものばかり。その件数の多さから、飲食店情報サイトやAmazonで問題となっているような「やらせレビュー」もほとんど無いので、購入に迷っているユーザーにとっては非常に心強い存在となっている。たとえば『NieR:Automata』Steam版ユーザーレビューページであれば、レビュー件数は7万件超で、平均点数は「非常に好評」となっている。

ゲーム機の進化=グラフィックの進化。その結果の人件費高騰

PS5やXbox Series X|Sなど、Nintendo Switchを除く家庭用ゲーム機の最新機種における進化はより高精細なCGで、たくさんのポリゴンを表示できるという方向への進化をたどっている。Wiiリモコンや、Wii Uゲームパッド、タッチパネルといった独自UIが搭載されていないため、結果として「高性能ゲーミングPCと同等の性能を、大量生産する分、安価に販売できます」という、廉価版ゲーミングPCのようなハードとなった。つまり、ゲームのハード依存はほとんどなくなったと考えても構わない。

その一方で、進化したグラフィック性能を駆使した高精細CGをゲームに取り入れるのはいいが、その分グラフィックを作る制作チームの人件費が高騰し、損益分岐点が上がり続けている。

そうなると、利益を出すためには全世界向けに発売し、家庭用ゲーム機の普及率が比較的高い日本や北米、EUなどに向けては家庭用ゲーム機向けとPC向けの両方で展開。家庭用ゲーム機がほとんど普及していない中国や韓国などに向けてはPC向けでのみ展開するというように、両プラットフォームに向けて同時発売するという開発スタイル/販売方法を選ばざるを得ない。

PC版でゲームを発売する、ゲームメーカー側のメリット

しかもPC版であればパッケージ版を作らず、ダウンロード専売にできるため、在庫リスクや品切れというチャンスロスからも開放される。さらに言えば、家庭用ゲーム機とは違って、ゲーム開発においてWindows PCはメーカーに支払うロイヤリティがないだけでなく、パッケージ版と違って流通や小売店の利益も不要になるため、純粋に利益率が高い。

こうなると、ソフトメーカーとしては家庭用ゲーム機に固執する必要がないどころか、PCゲームも含めたマルチプラットフォーム向けの「ソフトメーカー」へと業態変更していかなければ生き残る道はない。日本経済新聞社が実施したカプコン代表取締役社長・辻本春弘氏のインタビュー記事「ゲーム売上のうち、PCゲームの比率を2022年には50%超を目指す」という発表は、ソフトメーカーが存続し続ける上では至極当然の判断であろう。

Google、Amazonが諦めた「クラウドゲーム」は新しい潮流となるか

それに拍車を掛けようとしているのが、「クラウドゲーム」だ。クラウドゲームは簡単に言えば、プレーヤーの操作はインターネットを介してサービス提供側の高性能サーバへ伝達。ゲームの実行はこのサーバ側で行われ、動作結果は動画としてプレイヤーの画面へと伝えられるというものだ。厳密に言えば操作に対して0コンマ何秒の遅延は発生するが、最近では、ネット越しでプレイしているとは思えないほど快適に遊べるようになってきた。

クラウドゲームに活路を見出していたのは何も既存のゲームメーカーだけではない。Googleも「Google Stadia」の名称で2019年より海外でサービスを展開してきた。日本ではサービスを行っていないため知名度はやや低いかもしれないが、ウェブブラウザのGoogle Chromeを使うため、サービス利用可能な端末として考えれば世界最大のプラットフォームだった。しかし、今年2月にGoogleは、Stadia用オリジナルゲームを作るために立ち上げた開発スタジオを閉鎖すると発表した。閉鎖の理由はいくつかあるのかもしれないが、最大要因は利用者が期待したほど集まらなかったのだと推察できる。

Amazonでもクラウドゲームを開発していた。Amazon Fire TVのほか、WindowsやMac用の専用アプリを用意し、将来的にはスマートフォン用アプリも配信すると2020年に予告していたが、最近は動きも止まっているようだ。おそらくはGoogle Stadiaと同様の状態に陥っていると考えられる。

こうしたハードウェア依存を脱却しつつある大きな潮流の変化で、より大きな決断を迫られているのが家庭用ゲーム機のハードメーカー、PS5のソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)とXboxのMicrosoftの2社だ。すでにSIEは「PlayStation Now」、Microsoftは「Xbox Cloud Gaming」という、前世代ハードで発売していたゲームソフトをサーバ上で動作させる、クラウドゲーミングサービスを開始している。2社は当面、ソフトウェアメーカー兼ゲームプラットフォームとしてクラウドゲームサービスの提供をサブスクリプション(サブスク)型で提供することで売上面を確保しながら、今後のゲーム専用機のあり方を模索している最中ではないだろうか。

ただし、クラウドゲーミングサービスはメーカーにとっていい話ばかりではない。再生機はもはやゲーム機である必要すらなくなる。ライバルのハードウェアはもちろん、数世代前のスマートフォンやタブレットでも動画くらいはスムーズに再生できるので、もはやゲーム専用機が存在意義を問われつつあると言っても過言ではない。このサービスを提供することが、ゲーム専用機の寿命を縮めかねないというリスクもはらんでいるのが非常に難しいところだろう。

唯一無二のポジションを得たSwitchと任天堂

一方で、こうした動きとは無縁のゲーム機メーカーがある。ご存じ、任天堂だ。任天堂はNitendo Switchという、携帯ゲーム機兼据え置き機という唯一無二の特性があるために、他ハードとの競争に巻き込まれず、独自の市場を確保できている。

SIEとMicrosoftがゲーム専用機ビジネスから退場しようとしているのであればなおさら、任天堂は新ハードを出して競争する必要が薄くなる。もちろんSwitchはクラウドゲーミング技術の再生機としても利用できる。現行のニンテンドースイッチを今後5年、10年と売り続けられるようになるため、利益率はどんどん高くなっていく。Nintendo Switchは、ファミコンと同等、それ以上に息の長いゲーム専用機になると予測している。

PCゲームやその先にあるクラウドゲーム、そして独自の路線をはしる任天堂──2022年のゲーム業界からも、目が離せそうにない。