
- 起業家・エンジェル投資家 有安伸宏氏
- DIMENSION代表取締役社長 宮宗孝光氏
- F Ventures 代表パートナー 両角将太氏
- XTech Ventures 代表パートナー 手嶋浩己
2020年に引き続き、新型コロナの影響を大きく受けた2021年。人々の生活様式はさらに変化し、その影響は大企業からスタートアップまでを巻き込んでいる。果たして2022年はどんな年になるのか。
DIAMOND SIGNAL編集部では昨年と同様に、ベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家向けにアンケートを実施。彼らの視点で2021年のふり返り、そして2022年の展望と注目の投資先について語ってもらった。第1回はエンジェル投資家の有安伸宏氏、DIMENSION代表取締役社長の宮宗孝光氏、F Ventures 代表パートナーの両角将太氏、XTech Ventures 代表パートナーの手嶋浩己氏の回答を紹介する。
起業家・エンジェル投資家 有安伸宏氏
2021年のスタートアップシーン・投資環境について
下がらなかった株価
まず、マクロ目線の投資環境について。株式市場へ影響を与える最も大きな要因として、コロナ禍が沈静化した後の各先進国の金融政策に注視していました。しかし、残念ながらコロナ禍は沈静化せず。金融政策は引き締められることなく、株式市場は引き続き堅調に推移しました。国内スタートアップの調達環境も一貫して楽観的で、日本へ出資する海外有力VCの名前をよく聞くようになった1年でした。2021年の国内IPO社数も、昨年よりも35社増えて137社の見込みだそうです。
そうこうしているうちに、(この文章は、12月中旬に書いているのですが)12月14日の報道では、マザーズ指数は昨年8月以来の低水準となったのだそうです。実体経済と株式市場が乖離し続けた状態が、そう何年も続くわけはないので、「いよいよ来たか」という気持ちで年末を迎えます。2021年は、上場を延期するかどうか、という議論が起業家の間で聞かれる年になりそうです。
次に、ミクロ目線のスタートアップ環境について。コロナ禍のもとで、力強く飛躍的に成長した支援先を2社紹介します。
教育機関を猛烈な勢いでDXしたManabie
1社めはEdTech企業・Quipper(リクルートが買収)共同創業者の本間拓也さんが2019年に創業した会社です。120社超の支援先スタートアップの中で、コロナ禍において最も大きく成長した企業の一つとなりました。Manabieは、創業時からオンラインとオフラインを融合させた次世代モデルの学習塾を東南アジアで展開。そこへ、新型コロナウイルスというゲームチェンジャーが訪れました。日本でも、子どもたちが塾や学校へ通えなくなり、リモート授業をはじめとしたDXニーズが急激に高まりました。
そのような環境下で、東南アジアで培われたケイパビリティを転用し、塾、専門学校、私立学校等に対して、猛烈な勢いでDXを推進しました。日本人創業者のスタートアップとしては珍しく、現在6カ国に拠点をもち、プロダクト開発チームを完全にグローバルでスケールさせています。シリアルアントレプレナーらしい、死角のない盤石なスタートアップ経営です。
コロナ前から10倍の売上高となったTebiki
2社めは、Tebiki。製造業や物流業等の「デスクレスワーカー」向けに動画で現場教育を行うSaaSを提供。2021年11月にシリーズA調達でグロービス・キャピタル・パートナーズから8億円を調達し、累計調達額は11億円になりました。
これまで、工場や物流拠点では、スタッフの動線設計の難しさや、温度や湿度、粉じんといったオペレーション現場特有の問題によって、IT化が阻まれていました。しかし、コロナ禍による強制的な行動変容によって現場環境は一気にオンラインに向かい、現場DXを標ぼうするさまざまなSaaSが勃興しています。そのなかでも、現場ノウハウを動画で可視化するTebikiの売上はコロナ前と比べて10倍の伸びを見せました。長年OJTに頼っていたオペレーション教育は遠隔かつ非同期のモデルへシフトしつつあり、このトレンドを上手く捉えました。大企業との契約を次々と獲得しながらも、解約率0.5%という非常に低い数字を維持したまま成長し続けており、同社のポテンシャルを実感する一年でした。
2022年の投資環境の変化や注目領域・プロダクトについて
Web3の衝撃:インターネットは民主化されるのか
Web3、クリプト、NFT、DAOなどと表現される領域に注目しています。ビジネスチャンスというよりも、1つの社会実験として興味をもっています。GAFAをはじめとする巨大プラットフォーマーに個人情報や著作物を無料でアップロードせざるを得なかった既存のインターネットのパラダイムから、むしろWeb黎明期の頃の理想に近い、中央の管理者を必要としない自律分散型のインターネットへ。Webそのものを大きく民主化させうるという意味で、スマートフォンが出てきた頃のような混沌と高揚を感じます。
この領域における最もわかりやすい分散型アプリケーションとしてビットコインがありますが、その思想は、価値貯蔵の手段の民主化だと表現できるでしょう。通貨に限らず、さまざまな領域で「民主化」を標ぼうするプロダクトの試行錯誤が、海外を中心に進むと思います。しかしながら、中央集権モデルを上回るかたちでシェアを獲得するようなプロダクト、第二のビットコインのような成功事例が他領域で出てくるまでには5〜10年はかかりそうだと考えています。
また、日本でも、ここ最近の経営者同士の会食では、Web3についての話題が必ずあがっているという印象があります。しかしながら、国内投資家の動向という意味では、a16z(アンドリーセン・ホロウィツ)やUnion Square Venturesなどの米国投資家のようなアグレッシブさで、国内VCがこの領域へ投資することは、少なくとも2022年中はないと思います。少しずつお金が流れ始める、というのが現実的でしょう。
その理由の1つ目は、まず、日本のVCの目線に立つと、SaaSやFinTechなどの既存の投資機会と比較して、リスク、リターンの魅力度が劣るから。「すぐ横にもっと魅力的な果実があるのでそちらで十分」と合理的に判断するGPが多いと思われます。理由の2つ目は、税法・金商法等の問題から日本にWeb3スタートアップがほとんど存在しないから。また、海外企業に出資したくともLPとの投資契約上それが難しいベンチャーファンドも多数あります。このような現状において、Web3領域で挑戦したい日本在住の起業家にとっての現実的な解は、海外法人を設立してグローバルでチームを組成することです。残念ながら、これは2022年も同様でしょう。
この領域への投資姿勢をアナウンスしている日本のVCファンドは、gumi Cryptos Capital、B Cryptos、Headline Asiaなどが知られており、また、数件のファンドが水面下では組成準備中のようです。日本でも1つの大きな成功事例をトリガーにして、もっと大規模に資金流入がはじまって社会実験が加速するといいな、と思っています。
2022年に注目すべき投資先
OLTA:資金調達サービスの「クラウドファクタリング」と請求管理ツールの「INVOY(インボイ)」の2つのプロダクトを提供するFinTech企業です。累計調達額は30億円超。コロナ禍で、数十兆円の資金が融資のかたちで中小企業に対して供給されましたが、経営実態と比較して融資額の水準が高止まりするという状況を生み出しました。一方、経済が回復局面に向かうと、突発的な受注を受けた仕入れなど、SMBが運転資金を求めるシーンも増えてきます。
こうした状況下、金融機関は「リスクの高い追加融資を実行できるか?」という命題に直面します。融資以外の選択肢をメニューとして備えるため、OLTAとクラウドファクタリングの提携をしようという地銀の動きが増えています。この流れは2022年以降も続くでしょう。USの類似事例では、Fundboxが2021年にユニコーンの仲間入りをしました。OLTAは日本で15行の銀行と提携し、累計申込金額は600億円を突破。既存金融を“破壊”ではなく“補完”しながらグロースしていく攻め方は、日本型FinTech普及シナリオの王道的な勝ちパターンになりつつあります。
Azoop:トラック運送事業者向けに車両売買プラットフォーム「トラッカーズ」を提供する企業です。既存株主はジャフコなどで、累計調達額は13.7億円。日本では、国内貨物輸送量の90%以上をトラック運送が担っています。大都市から地方都市にいたるまで全国に張り巡らされた物流インフラは、成長するEC市場を支えるという意味でも重要な役割を担ってきました。その一方で、トラック運送業は、ドライバーの高齢化や業務のデジタル化の遅れなども影響し、低い生産性が社会課題となっています。
この課題を解決しようとしているのが、Azoopです。2018年のサービスロンチ以降、営業エリアを関東圏に絞ってきた同社は、2021年には全国1万3000社以上の運送業者と取引するトランコム社や地銀など7社と提携し、サービス提供エリアを全国へ拡大。こうした提携がスムーズに進んだ背景には、同社のサービスが、運送業者が求めるニーズに強く合致(PMF)していることにあります。車両売買プラットフォームの累計出品台数は2021年11月末で1万2500台へ、取引社数も1000社へ飛躍的に伸びています。
カイゴメディア:介護職向け動画メディア開発とマーケティングサービスを提供しています。日本の介護市場は現在11兆円、2025年に15兆円、2040年には26兆円になるとの政府見通しが出ています。2021年は、コロナ禍でのクラスター発生、高齢者の外出自粛などの影響で、介護の現場を支えている介護職や家族の負担が非常に大きかった1年でした。また、介護職不足は根深い社会問題で、2025年には32万人、2040年には69万人が不足すると言われる深刻な状況です。
このような課題が山積する介護領域において、長期的なコミットメントを掲げて創業されたスタートアップです。現在は、全国介護職の約1割にあたる15万人の介護職をカバーする動画メディアを運営。メディア開発を皮切りに、大手小売ベイシアグループとの高齢者向け商品の共同開発などを行い、売上規模は昨対比で3倍成長。今後、厚労省との連携や大手消費財メーカーとの取り組みも予定しており、2022年以降も成長が期待される企業です。
DIMENSION代表取締役社長 宮宗孝光氏
2021年のスタートアップシーン・投資環境について
2021年を振り返って、大きく3つのことを感じています。
(1)東証マザーズへの上場社数は過去最多の90社以上を記録しました。時価総額1兆円を突破したメルカリや上場後に数百億円の資金調達を実現したfreee、マネーフォワードなど、総じてスタートアップの存在感や躍進が目立つ1年でした。
(2)米PayPalによる3000億円でのPaidyの買収や、海外大手PEファンドが未上場スタートアップへの出資を始めるなど、海外含む大きなお金が国内スタートアップに流れはじめた1年だったと思います。数十億円単位の増資を実現するスタートアップが数多く現れたのも印象的です。
(3)昨年以上に“苦戦組”と“堅調な成長を遂げた組”の差が、拡大した1年だったとも感じています。
コロナは、環境変化に伴うゲームチェンジの重要性をしみじみと認識させた出来事だったと思っています。成り立たなくなったビジネスモデルやオフィス環境など、これまでの定石を環境に合わせて大胆に変え、いち早く実行することができたスタートアップは、業績を大きく伸ばしている所が多いと感じています。
2022年の投資環境の変化や注目領域・プロダクトについて
2022年以降に盛り上がりが予想される領域は、国内で2つあると認識しています。
1つめは、ヘルスケアと社会インフラ。これまでの人や紙ベースだったり、対面では応対できないが、真剣に悩む多くの顧客が存在するヘルスケア領域は新しいやり方が渇望されています。また昭和に整備された道路や橋、都市のインフラは経年劣化により修繕や入れ替えが必要になりつつあります。結果、規制緩和が起こったり、提供するサービス・商品の進化により、新たな市場が形成されていくと考えています。付き合いのある顧客候補やプレーヤーとのやり取りから、そうした潮流を感じています。
2つめは、海外展開。先ほども海外含む大きなお金が国内スタートアップに流れはじめたとお伝えしましたが、そうした大きなお金を活用して、海外への事業展開を図る起業家が現れはじめるのではないかと感じています。創業した会社を離れた後、2回目の起業をされるシリアルアントレプレナーが日本でも増え始めていますが、そうした経験を積んだ起業家が次は海外で大きく事業を伸ばすチャレンジを始めるように思っています。
また長期トレンドにはなりますが、今まで以上に「SDGs」「サステナブル=地球環境維持」に注目が集まると予想しています。4年ほど前から大きなキャッシュを持っている機関投資家がSGDsの視点での投資を世界的に増やしており、今は「SDGsに即しているか」、「地球環境維持に通じる事業か」で投資判断が変わる世界になりました。大きなキャッシュが集まる所でスタートアップが増えるのは、自然なことだと考えています。
2022年に注目すべき投資先
AnyMind Group:前職での出資先になりますが、「次世代のビジネスインフラ」の創造を掲げ創業4年で売上100億円を突破。スピード感や規模感、世界13マーケット・17拠点で事業展開している点など、2022年の代表的なスタートアップの1社になると思っています。
五常・アンド・カンパニー:DIMENSIONファンドの最初の出資先で、マイクロファイナンスのビジネスをインドやミャンマーなどで手掛けてます。「民間版の世界銀行」としてより便利で安価な金融アクセスを世界中の途上国の方々に提供していきたいという、慎社長の強い理念に共鳴して集まった経営チーム・メンバーの世界での取り組みに注目しています。
サスメド:DIMENSIONファンドでの出資先で、「デジタル創薬」という新しいビジネスモデルで12月24日に東証マザーズへの上場しました。新たなサービスがどのように顧客支持を広げていくか、社会的な意義の観点でも楽しみな1社です。
F Ventures 代表パートナー 両角将太氏
2021年のスタートアップシーン・投資環境について
2021年が終わりに差し掛かってきたタイミングで急激に日本でも盛り上がってきた、Web3の領域に注目しています。F Venturesとしては、2018年から取り組んできた領域でしたが、幻滅期が訪れ、私自身も少し離れていました。しかし、ここにきて、世界に認められるブロックチェーン企業が現れたり、日本でもWeb3専門のDiscordコミュニティが生まれたりと、再び盛り上がりを見せています。
2021年は立て続けに日本および海外のWeb3スタートアップにエクイティで投資しており、現在Web3企業には6社投資実行、ほかにも多数投資検討しています。(従来通りのスタートアップにももちろん投資しています。)規制の関係で日本ではあまり盛り上がりの実感がありませんが、海外ではすでにユニコーン級の会社が続々と生まれており、トップティアVCの投資も活発で、日本語で追っていては追いきれない速度で膨張している市場です。このコロナ禍であっても海外に足を踏み込んで一次情報をとりにいっている起業家はかなり恵まれた環境にあると思っています。
とはいえ、資本政策も従来通りのやり方では通用しない場面もあり、スタートアップがトークンを発行する場合、国内の規制の関係で一般的なVCはトークンには投資できず、投資スキームもEXIT手段もこれまでと変わっていく可能性があると感じています。Web2.0までの常識でこの領域を捉えようとしても頭で理解できないことがたくさんあり、VC側もスピード感をもって学んでいかねばならないと危機感を覚えるほどです。
また、SolanaやAlchemy、Polychainなどパブリックブロックチェーンやプロトコル開発企業がファンドや財団を作る流れもあります。これはブロックチェーンやプロトコルが生み出すエコシステム上にアプリケーションが乗れば乗るほど、彼ら自身の価値が上がることを期待しているのでしょう。今後も継続していく流れになると思っており、独立系VCにとっては脅威でもあり、Web3の世界を共創していくべきパートナーとも言えます。
2022年の投資環境の変化や注目領域・プロダクトについて
Web3において注目が集まるのは、自律分散型組織であるDAO。2022年以降急速に盛り上がるのではないかと感じています。まだまだ環境が整備されていないので、今すぐDAO化することがメリットだとは言い難いですが、DAO向けのツールやノーコードのような周辺事業が充実していくのではないかと感じています。DAOが普及するとVCの現行モデルでは対応しきれないため、業界の変化に応じて我々もキャッチアップし、かたちを変えていかなければなりません。投資先にもDAO化を目指すスタートアップがおり、EXITのスキームを議論しています。
また、メタバースもバズワード化してきていますが、仮想空間での取引においてもDeFi、NFT、Wallet、DAOは切っても切り離せない存在になるのではないでしょうか。メタバース、eSports、クリエイターエコノミーなどは、Web3の文脈から盛り上がるのではないかと感じています。Axie Infinityなどのブロックチェーンゲームも盛り上がりを見せていますが、正直やってみてもまだあまりゲームとしては面白くはありません。ここに日本のIP活用やゲームクリエイターたちが集えば、日本にチャンスが巡ってくるのではと感じています。
Web3には、ガバナンスやプライバシー、スケーラビリティ、などさまざまな問題が山積みです。まさにインターネット黎明期のような状態に近いです。とくに、頭が柔らかい若い人たちにチャンスが多いマーケットだと感じています。例えば、スケーラビリティの課題を解決するようなL2(セカンドレイヤー)、プライバシーの問題を解決するゼロ知識証明などのプロトコルなど、続々と技術が生まれてきています。
それぞれのプロトコルが単体で完結するものではなく、コンポーザブルな(組み立てできる)ものであり、お互いが結合して新しいインターネットを創る、というイメージです。未成熟なドメインなので、Web3では全体をふかんしつつ、L1、L2、アプリケーション層への投資を積極的に頑張っていきたいです。ただ、中国では暗号通貨が全面禁止になったりと、法規制の影響は大きく、当たり前ですが無視できない存在です。この市場で挑戦するスタートアップは必ず法規制と向き合っていく必要があります。
2022年に注目すべき投資先
Cryptoeconomics Lab:従来は、L2関連のソリューションを開発。現在は、DeFiプロダクトを開発、ローンチ準備中。まだ公開前で具体的には言えませんが、2022年期待のスタートアップということで掲載しておきます。
ロジクラ:メインサービスであるECの在庫管理SaaSの「ロジクラ」。EC事業者の煩雑な在庫管理の課題を解決し、解約率も低く、着実に成長しています。新たに開始したOMOストアの取組みにおいても、ECと店舗のシームレスな連携を実現しており、新たな打ち手を展開しています。また、佐川グループのSGLとも協業し、展開している24時間稼働のロボット物流センターXTORMでは翌日配送を実現しており、個人でEC事業を営むユーザにとっても重宝されています。誰でもECショップをオンラインで展開できる時代に非常にマッチしており、今後のユーザー数拡大を大変期待しています。
パンフォーユー:冷凍パンのサブスクサービスですが、熱狂的なユーザーが集まってきており、パンの生産が追いつかないほど急成長しています。マスメディアや雑誌などでよく取り上げられ、一般消費者に人気を博しているサービスです。ギフティとの連携によるeギフトや、全国パン共通券の発表も行い、ギフトECの事業を拡大しています。(個人的にもよくギフトで使わせていただいています)
XTech Ventures 代表パートナー 手嶋浩己
2021年のスタートアップシーン・投資環境について
井上尚弥の世界戦や、延期になりましたが村田諒太とゲンナジー・ゴロフキンの試合も、地上波テレビではなくオンライン配信限定となるなど、メディアのキングが明確に入れ替わるエポックメイキングな1年と記憶することになると思います。ABEMAのPPV売り上げの推移も注目してみていました。
個人的には圧倒的にポッドキャストを聴く時間が増え、VCとしても番組を継続的に配信しています。移動中にひたすらその場の環境を無視してポッドキャストを聴いていると、起きている時間のシェアがデジタル環境に確実に侵食されていることを感じます。ちまたではメタバース、メタバースと言われますが、それを「ライフタイムにおけるデジタル居住時間の増大」という現象と捉えると、私ももうメタバース的な何かに没入しているのかもしれない、と考えたりします。ある日突然メタバースに人がいる、のではなく、徐々にメタバース的な何かに入り込んでいる、気づいたら包囲されている──そんな感じで捉えています。
スタートアップでは競争のレベルが上がったと思います。企業内の情報システム分野のサービスでは、マネーフォワードとラクスルがほぼ同時にサービスをリリースしました。おそらくこの分野でほぼ同時期にスタートした、もしくはしようとしていた未上場スタートアップも複数いたはずです。
できるだけ良質な試行錯誤を短期間かつステルスで行うこと、イケると思ったらリスクテイクしてスピード感持って成長させていくこと、そのためのリソース調達能力など。有望なことがわかりやすい領域ほど、以前にも増してのんびりジワジワやっていく余地が減ってきているように思えました。そのために必要な情報(note記事など)やツール、環境もどんどん拡充してきていると思います。逆説的にはリーンスタートアップの終焉というか、ゼロからスタートアップを起業するには信用が一定ある人が大きい構想を持って長期に実現させていく時代に入ったとも言えると思います。
個人的にはリクルートホールディングスが10兆円企業、メルカリが1兆円企業、フィンテックの分野でもアンバンドリングが進み日本も世界も銀行や証券といった規制産業でも新しい会社の台頭が激しいことなどをみて、スタートアップが生まれ続けてそこから大きい価値を持つ会社が継続的に出ていくことの重要性を今さらですが、改めて実感する1年となりました。
2022年の投資環境の変化や注目領域・プロダクトについて
社会的にソフトウェア活用のリテラシーが上がってきている中で、引き続きたくさんのバーティカルSaaSが生み出され隙間を埋めるように社会の非効率性を改善していくと思います。また、隙間隙間の課題を解決していく中で、企業や事業同士がいろんなかたちで結合しながらより便利になっていくようなことも促進されていくと思います。
セーフィーの上場でその事業モデルが注目され、刺激されたこともあり、「ハードウェアとサブスクリプションの融合モデル」での起業も増えてくると思います。ソフトウェア単体の場合と比べて経営の難易度は上がりますが、確立した時のMOAT(堀、転じて事業の強みや競合優位性)は強固に築ける事例が出てくるでしょう。
PayPayとLINE Payがどのように統合し、Zホールディングスとしてどのようにフィンテック事業を再編していくのかに注目しています。個人的にも近所でPayPayのみキャッシュレス決済OKの店が増え、その利便性を享受しています。PayPayへのペイロールも解禁されればそれをホイッスルとして日本のフィンテック環境もまた一段とデジタル化が進むと思います。その再編の核となるのが消費者と大きい継続コンタクトが取れるモバイルアプリになってくると思います。私自身それに遅ればせながら深く気づいたのは今年読んだNewsPicksでのメルペイの方のインタビューを読んだ時でした。
メタバースやブロックチェーン、トークンの分野では数年前から粘り強くやっていた人や長く本質を見続けてきた人が、地道に何らかの事業アセットを積み上げる1年になるのではないでしょうか。今のバズワード的なムーブメントは2022年後半には幻滅期に入り、表面的に興味持った人は再度離れていくと思います。また、メタバースとブロックチェーンを長期構想として繋げて語るのは良いですが、短期的にはまだつなげて語るのは時期尚早な印象です。
2022年に注目すべき投資先
ベースフード:「テックじゃないよね」「VCが投資するモデルなの?」など懐疑的な投資家が多い中、苦しい資金調達をくぐり抜けてきた同社の事業は完全に華開きました。今後はコンビニなどのオフラインとオンラインをまたいでナショナルブランドのようなたたずまいで日本人の主食をイノベーションしていくことになるでしょう。麺やパンといった主食の分野を主軸に、大塚製薬のような佇まいを持つ日本を代表するフードサイエンスカンパニーに成長すると思います。2016年にDeNAを退職し、自宅で粉の配合をして自分で麺を作り始めたという橋本さん(代表取締役の橋本舜氏)のストーリーが今後も楽しみです。
東京:社長の羅さん(代表取締役CEOの羅悠鴻氏)が型破りの起業家です。学生起業し、参入がそもそも難しい(から競合がほぼいない)エレベーター広告事業を完全に立ち上げ切っています。オフラインデジタルメディアへの出稿意欲も旺盛で、上りのエスカーターに乗っているようです。その過程で日本一の影響力を持つ三菱地所と資本業務提携、JV設立なども実現し、日本でも稀有な大企業とシード期スタートアップ協業の成功例を生み出しつつあります。キャッシュフロー創出で一定の基盤を作った同社の2022年は世の中を驚くような型にはまらない展開を志向していくことでしょう。
24Karat:デジタルマーケティング分野で新規事業立ち上げや収益化の実績を持つチームがブロックチェーンやトークンを使ったブランドのポイントプログラムやCRMの分野の変革に挑戦しています。登記からご一緒し、創業投資した後、日本でもこの分野が盛り上がり始めていますが、当初から持っている自分たちのビジョン実現にこのムーブメントをうまく活用して波乗りしていってほしいです。大企業への営業力も強く、サッポロビール様等と取り組み開始しています。