
コレクター向けのアイテムに特化したライブコマースプラットフォーム「Whatnot(ワットノット)」は、2021年に急成長した海外スタートアップの1社だ。
同社が手がけるのは、アプリを使ってライブ配信をしながら物の売買ができる“ライブコマース”型のマーケットプレイス。特徴的なのはポケモンカードを始めとしたトレーディングカードやコレクターズトイなど、希少性の高いアイテムに注力していることだ。
こうした商品のライブオークションはInstagramなどで行われることも多かったが、既存の配信プラットフォームは必ずしもこの体験に特化して開発されているわけではない。Whatnotはそこにチャンスを見出してプロダクトを磨くとともに、対象となるアイテムを拡充しながら熱量の高いコミュニティを築いてきた。
2021年には9月に発表されたシリーズCラウンド(1.5億ドル)を含め、3回の資金調達を実施。米TechCrunchの報道によると同社の評価額は約15億ドルで、ユニコーン企業の仲間入りを果たしている。
日本でも数年前にライブコマースがトレンドになり、ファッション領域を中心にいくつものサービスが立ち上がったが、期待されるほどの成長を遂げたサービスはほとんどない。ただ、Whatnotのようなアプローチであれば、可能性はあるのかもしれない。
少なくともトレカ特化型ライブコマースアプリ「ミニッツ」を運営するミニッツ代表取締役社長の山本圭樹氏はそのように考えているようだ。
同社はポケモンカードに特化するかたちで、2021年6月末よりベータ版の提供を始めた。現在は審査に通過した人のみがサービス上でライブ配信ができる仕組み。毎日19時〜24時の間に数本、1週間にだいたい20〜30本の配信が行われている。
スタートしたばかりのサービスではあるものの、山本氏の話では少しずつ熱狂的なコミュニティが生まれ始めており、アプリを開いたユーザーの平均試聴時間は90分を超える。前月の購入者の約半数はリピート購入に至っており、定期的に商品を購入するユーザーも多い。サービス内のGMV(流通総額)も数千万円規模に拡大しているそうだ。
ものすごく大雑把に分類すると、ミニッツでの販売パターンは「特定の商品を販売する」形式と「オリジナルパック(オリパ)を販売する」形式の2種類がある。
ポイントは透明性とエンタメ性だ。トレーディングカードは、カードの傷やコンディション、光り方などによって価値が大きく変わる。こうした情報は画像ベースのフリマアプリなどでは見極めるのが難しく、トラブルの原因にもなりやすい。
ミニッツではライブ配信という形式をとることで、視聴者が配信者とチャットで会話をしながらカードの状態を見極めて購入できる環境を整えた。
後者のオリパはトレーディングカード市場では人気を集める販売手法である反面、詐欺が発生しやすいため、メルカリなどフリマアプリでは販売を禁止しているものも多い。ミニッツの場合には取引成立後、その場で実際に配信者が中身を開封していくことで、「それぞれのパックにどのようなカードが入っていたのか」が全ての視聴者に開示されるようになっている。

またYouTubeなどで「開封動画」が人気を集めているように、配信者と視聴者が一緒にパックの開封を楽しむコンテンツはエンタメ性が高い。実際にミニッツの配信を覗いてみると双方向のやりとりが活発に交わされていて、山本氏も「完全にメディアであり、自分の好きなパック開封をみんなで見て、盛り上がるコミュニティになってきている」と話す。
山本氏はフリマアプリのフリル(現ラクマ)を手がけていたFablic(現在は楽天が買収)の出身で、サービスの運営を通じてトレーディングカード領域の課題を実感したことがミニッツを開発するきっかけになった。
海外ではWhatnotに投資をする著名投資家がエンタメ性を取り入れたコマース体験として「ショップテイメント」という表現をしているそうだが、ミニッツとしても新たなコマースの仕組み作りに挑戦していく計画。そのための資金として、2021年8月にANRI、スマートバンクCEOでFablic創業者の堀井翔太氏などから5000万円を調達したことも明かしている。