Photo:Handout/Getty Images
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  • いま、K-POP業界の投資先はメタバース、NFT関連企業
  • メタバースの拡大でK-POPアイドルとライブはどう変わる?
  • ファン同士の売買も利益に? K-POP企業が「NFTコンテンツ」に注目する理由
  • 新しい価値が生まれる一方で、さらに価値が高まる“リアル”コンテンツ

BTS(防弾少年団)やBLACKPINKの世界的大ヒットなど、今や世界を席巻するほどの人気を見せる「K-POP」。そのK-POP業界の2022年の動向を予測する上で欠かせないキーワードとなっているのが、昨今話題の「メタバース」と「NFT」だ。一体、この2つのキーワードがK-POP業界と、どう関係しているのか?

例えば、韓国の大手芸能事務所・SMエンターテインメントは2022年の元日にメタバースをテーマにした、所属アーティストの合同オンラインライブ「SMTOWN LIVE 2022:SMCU EXPRESS@ KWANGYA」を開催。そのライブの模様はYouTubeやTikTokなどで無料配信され、世界161の地域で約5100万件のストリーミングを記録し、成功をおさめた。

また、BTSが所属する芸能事務所・HYBE(ハイブ)は韓国の暗号資産取引所「Upbit(アップビット)」を運営するDunamu(ドゥナム)と戦略的パートナーシップを締結。合弁会社を設立し、NFT事業に参入することを発表している。

なぜ、K-POP業界の今後の動向を考える上でメタバースとNFTが重要なキーワードだと考えるのか。それぞれのキーワードに関する詳細は専門家による書籍や記事を見ていただくとして、今回は“K-POP業界”という特定領域において、いま起こっている出来事と今後予想される展開、その裏にある事務所の狙いについて語っていきたい。

いま、K-POP業界の投資先はメタバース、NFT関連企業

SMエンターテインメントの創業者であるイ・スマン氏は2020年に開催された「世界文化産業フォーラム(WCIF)」で、現実と仮想の相互で全世界にアクセスし、交流できるメタバース「SM Culture Universe(SMCU)」の構想を発表している。

さらにブロックチェーン(分散型台帳)関連のカンファレンスでも「韓国がメタバース、NFTコンテンツのフロントランナーになっていくだろう」とも語っていた。その言葉からは韓国の中でもK-POP業界が先導役を担うという決意、意志が感じられた。

実際、メタバースはアーティストのコンセプトにも反映されている。SMエンターテインメントから2020年にデビューしたガールズグループ「aespa(エスパ)」のメンバー4人には“もう一人の自分”であるアバター「ae-aespa(アイ-エスパ)」が存在し、仮想世界に存在するという設定となっている。

また、1月3日にはSMエンターテインメントがメタバース上で展開する仮想国家「MUSIC NATION SMTOWN」の市民権を付与するデジタル旅券「MUSIC NATION SMTOWN META-PASSPORT」の発行を発表した。META-PASSPORTに登録したファンの活動がデジタルデータとして保存され、今後さまざまな特典を受けられるという。既存のファンクラブの先をいき、仮想社会でのコミュニティと市場をつくろうという、実験的な試みだ。

BTSが所属するHYBEがNFT事業に参入することは前述したとおりだが、同社は2019年から「ファンダムプラットフォーム」とうたうファンコミュニティ「Weverse」を展開。同プラットフォームはBTSだけでなく、BLACKPINKやSEVENTEENなど人気のK-POPアーティストたちがライブチケットやグッズ販売、コンテンツ配信などをする際に利用している。コロナ禍でオフラインのライブが開催されなかった時期に、アーティスト自身が文章や動画を投稿したことで利用者が増加。K-POPファンにはなじみ深いサービスとなっている。

Weverse公式サイトのスクリーンショット
Weverse公式サイトのスクリーンショット

NFTの販売にはWeverseが利用されるとのことで、今後Weverseがメタバースのプラットフォームとして活用の幅を広げていくのではないか、と筆者は思っている。

さらにTWICEやITZY、StrayKids、NiziUなどが所属するJYPエンターテイメントも2020年11月に自分に似た3Dアバターを制作できるアプリ「ZEPETO」の運営元に投資。2021年には超高画質デジタルコンテンツ制作企業・4by4に50億ウォン(約4億8千万円)を出資し、メタバース上で運用するためのリアルなバーチャルヒューマンをつくる準備をしている。

メタバースとNFTに注力しているのは大手芸能事務所だけではない。2017年に発表した曲「Rollin'」で再ブレイクを果たしたBrave GirlsもNFTアートを販売。400個の作品が瞬時に完売した。

他には、BTOBやPENTAGON、(G)I-DLEなどが所属するCUBEエンターテインメントも、香港拠点のNFTゲーム開発企業アニモカ・ブランズと合弁会社を設立し、メタバースの構築やアーティストや俳優のIP(知的財産)を利用したNFTの発行に取り組んでいくという。中小の芸能事務所も我先にと動き始めている状況だ。

メタバースの拡大でK-POPアイドルとライブはどう変わる?

K-POP業界におけるメタバースの展開で、すぐにイメージできるのはオフラインとオンラインに次ぐ“第3の形式”となるバーチャルライブだ。最近ではジャスティン・ビーバーが仮想エンターテインメントプラットフォーム「Wave」上でライブイベントを開催したことで話題にもなった。

モーションキャプチャースーツを着用し、アバター化したジャスティン・ビーバーが最新アルバムの楽曲を披露していたのが記憶に新しい。実際に鑑賞してみての正直な感想は「バーチャルならではの魅力を見出せなかった」というものだったが、まだ“試作品”の段階であり、今後ブラッシュアップされていくのだろうと期待している。

リアルにしろオンラインにしろ、従来のライブやイベントはアーティスト本人の稼働と時間拘束が必須で体力的な負担も大きい。また、スタッフや場所の確保も必須だ。

その点、バーチャル空間であれば設計次第でアーティストの負担を減らせる可能性がある。そして韓国の男性芸能人であれば避けられない兵役の空白期間も、メタバース上のアバターが埋めてくれる。そんな時代も来るのではないだろうか。

さらにメタバース上でのみ活動する「仮想アイドル」の育成も可能だ。aespaのアバターのような実在アイドルの分身的扱いではなく、完全に独立した存在として運営するパターンもあるだろう。これまでもアニメやゲーム上のオンラインアイドルは存在しているし、ボーカロイドも一種の「仮想アイドル」だ。韓国でも2018年にゲーム初の「K/DA(ケーディーエー)」という仮想K-POPアイドル(声はガールズグループ(G)I-DLEのメンバーが担当)が誕生しており、新しい概念ではないものの、メタバース上でさらなる市場拡大を狙える分野だ。

ファン同士の売買も利益に? K-POP企業が「NFTコンテンツ」に注目する理由

もう1つのキーワード「NFT」の活用については、アーティスト事務所の「利益取り逃がし」がなくなることがメリットのひとつだ。簡単にいうとアーティストの写真や作品、あらゆるデータコンテンツに「所有者」や「どう譲渡(転売)されたか」という記録がすべて残ることになる。例えば今、誰かがアーティストのフォトブックを他のファンにメルカリ等で転売したとしてもアーティストや所属事務所には情報も利益も入ってこない。たとえ定価の10倍で高額転売されていたとしても、だ。

そしてフォトブックが最終的に誰の持ち物となったかも追うことはできず、フォトブック自体には何の履歴も残らない。しかし、NFTコンテンツとしてフォトデータを販売すると、それらが記録として把握できるようになる。そして「二次販売(転売)でもロイヤリティが制作者に入ってくる」という点がアーティスト、事務所側として最も喜ばしい部分だろう。

Photo:Neilson Barnard/Getty Images
Photo:Neilson Barnard/Getty Images

一度市場に出して売ってしまえば、コピーも転売も事実上アンコントローラブルだったコンテンツを「管理」し、きちんと「対価」をもらえるのだ。「初回限定盤」「数量限定品」など希少価値のある商品を準備すれば、半永久的にファンの間でやり取りが生まれ、手数料が継続的に入ってくる。

その一方で、NFTを製作する過程で過度なエネルギー消費が避けられない点が環境破壊につながるとし、反対の声をあげるファンもいる。そうした点は今後、NFTの普及が進むにつれて議論されていくべきポイントだとも思う。

ただし、K-POP業界にとってメタバースとNFT関連ビジネスは、いま投資しておくべき「未来の利益を産む金の鶏」であることは間違いない。

新しい価値が生まれる一方で、さらに価値が高まる“リアル”コンテンツ

メタバースとNFTが注目される一方、アーティストを生で観られるリアルライブやアナログコンテンツの価値はさらに上がっていくだろう。

例えば、昨年ロサンゼルスのSoFiスタジアムで開催された、BTSにとっては2年ぶりとなるオフラインコンサートは全4公演が完売するほどの盛り上がりを見せた。今年3月に韓国で予定されているオフラインコンサートも注目を集めている。

やはり、推しているアイドルには生で会いたい、というのはコロナ禍を通じても痛感したことだ。NFTコンテンツに関しても現状はまだ投機的な面も否めない。ただでさえお金のかかる“推し活動”が、より一層「資金力がモノをいう世界」になりませんように……と思うのは私の勝手な杞憂だろうか。

しかし、K-POP企業がアーティストや楽曲、システムへ投資したものがきちんと利益還元され、ファン同士の活動も複利としてK-POP市場の発展に反映されるのであれば喜ばしいことである。