
- 「最終面接が白紙に」困惑する就活生たち
- 完全ウェブ面接に切り替える企業も
- 採用に「コロナの影響出ている」と答えた企業が10倍に
- ウェブ面接は“コロナ特需”で流行するのか
- ウェブ面接を通過するコツは「環境整備」
3月1日、新卒採用の説明会が解禁されたが、新型コロナウイルスの影響により相次いで中止になっている。この“想定外”の就活スタートに学生からは不安の声が上がる中、代替策として急遽ウェブでの説明会に踏み切る企業が増えている。思わぬ需要で注目が集まる、ウェブ面接による採用の実態とは。(ダイヤモンド編集部 塙 花梨)
「参加するはずだった説明会が、全部中止になった」
「ツイッターでウェブ面接の対策が必要だって流れてくるけど、何をしたらいいの?」
3月1日より企業説明会が解禁し、ちょうど就職活動の時期に差し掛かった大学生は不安の色を隠せない。予定されていたインターンや面接が中止になるなど、新型コロナウイルスの影響が、新卒採用にまで広がっているのだ。
「最終面接が白紙に」困惑する就活生たち
食品業界を志望するある女子大学生は、「参加を予定していた説明会のほとんどが中止になり、まだ何の代替案も明示されていない企業も多い。説明会もOB訪問も制限がかかっているため、会社の情報を得たり、企業の方と接したりする機会が作れない」と困惑する。
また、電通グループの選考を受けていた学生は、「最終選考に残ったタイミングで、電通内でコロナ発症者が出てしまったため、面接のスケジュール自体が一旦白紙になってしまった」と嘆く。
取材当日に“マスク着用必須”の面接に参加したばかりだというマスコミ業界志望の男子大学生は、「面接も説明会も、ほとんどが対応待ちの状態。面接の日程を入力した直後に、ウェブ面接に切り替わり日程が再調整になることもある」と説明した。
さらにTOEICを受験する予定だった学生は「事前に申し込んでいたが、中止になってしまった。5月以降に振り替えになると連絡がきたが、就職活動のために3月に受験しかたかったので、困っている」と不安な様子だ。
一方で、現状はあまり影響を感じていない学生もいる。ITソフトウェア業界志望の男子大学生は「中止を想定して多めに説明会を申し込んでおり、半数ほどは通常通り実施しているため、私自身今のところは大きな影響はない。志望業界を絞っていた友人は困っていたので、就活スタイルによるかもしれません」と語る。
完全ウェブ面接に切り替える企業も
企業側も、急な対策に迫られている。マーケティングのクラウドサービスを提供するベーシックは2月17日、これまでオフィスで面接を実施していたところを、原則ウェブ面接に切り替えた。21日からは、従業員のフルリモートも実施している。
ベーシックの人事マネージャーである今村龍平氏は、「今のところ大きな課題感は感じていない」と説明する。
「言語によるコミュニケーションは問題なくできるのであまり支障はありません。ただ、雰囲気や立ち振る舞いなど、対面でないとわからない情報もあるため、最終面接のみ対面で実施しています」(今村氏)
ベーシックは17日以前から、マスク着用や出社時間をずらすなど、従業員に対して感染予防策を講じていたが、社外の人への施策は実施していなかった。
採用をウェブに振り切った一番の背景は、Twitterでの就活生のツイートでした。面接に行く不安を呟いていたのを見て、採用活動もお互いにリスクがある行為だなと感じ、ウェブ面接に移行しました」(今村氏)
採用に「コロナの影響出ている」と答えた企業が10倍に
ベーシックのように、採用をウェブ面接に切り替えようとする企業は急増している。ウェブ面接ツール「インタビューメーカー」を提供するスタジアムが企業1万1764社を対象に実施した調査によれば、2月8日時点と3月3日時点で、企業の採用活動におけるコロナウイルスの影響が大きく変化していることがわかった。

2月8日時点で「新型コロナウイルスの影響出ている」と回答したのは6%なのに対し、3月3日時点では60%と、約10倍に増えている。さらに2月8日時点では「今後も影響は出ないと思う」と答えたのが約半数の48%もいたことから、企業側も数週間前まで楽観視していたことがわかる。現在まさに、“想定外”の対策に追われている状況なのだ。
実際、スタジアムが2月8日週とその翌週以降の週の問い合わせ件数を比較したところ、22倍に急増した。スタジアムが1月28日からウェブ面接ツールの無償提供に乗り出したこともあるが、「クルーズ船で患者が増え続けているという報道の影響か、2月10日以降で急に引き合いが増えた」と、スタジアム執行役員の前澤隆一郎氏は語る。
「当初は『ウェブ面接を導入したい』という問い合わせばかりでしたが、リクナビが合同説明会の中止を発表した2月17日以降は、『面接だけでなく、説明会もウェブでやりたい』という声を多数いただくようになりました」(前澤氏)
ウェブ面接は“コロナ特需”で流行するのか
ウェブ面接の導入検討は、誰もが知っているような大手企業で特に多い。三井住友銀行などはすでに、コロナ対策として先輩社員と就活生が話せるリクルーター面談をウェブに切り替えている。
前澤氏も「何もしなくても応募者が集まってきたような人気企業は、これまでウェブ面接を導入する必要に迫られていませんでした。ですが今回のコロナウイルスの影響で、一気に導入が進みました」と語る。
インタビューメーカーには、今回無償提供している「ウェブ面接」の機能以外にも、有料でさまざまな機能が存在する。録画データから相手の思考や感情を分析できる機能、面接中の会話が自動で文字起こしできる機能、内定後の活躍から落としてしまった逸材を発掘する機能など、AIやデータ分析を駆使したものが多い。

どうしても属人的で主観的な判断をしてしまいやすい採用活動の中では、意外と対面でなく、ウェブの方がテクノロジーの力を借りられてフェアな選考ができる側面もあるのかもしれない。事実、コロナ対策でインタビューメーカーを試験的に導入した企業のうち、1割強の企業は有料のプランに切り替えている。
ウェブ面接を通過するコツは「環境整備」
ウェブ面接が急増することで、対応を迫られるのは企業だけではない。学生も同様だ。実際取材をしていくと、不慣れなウェブ面接で失敗してしまったという声も多い。「カメラ有りのウェブ面接だったのに電話面接だと勘違いして、寝起きでパジャマを着たまま人事担当者と顔を合わせてしまった」という珍事件まで起きてしまっている。
前澤氏は「ウェブ面接で通過するためのちょっとした“コツ”がある」と言う。余談にはなるが、最後にそのコツについて紹介する。
「相手にどううまく伝えるか以前の問題で、ウェブの場合は使う端末とブラウザ、ネットワーク環境が一番大事です。これによって、納得のいく面接ができるかが、ほとんど決まります」(前澤氏)
自宅などで不慣れなウェブ面接を行うと、設定の問題で音声がうまく聞こえなかったり、通信環境が悪くて映像が固まってしまったりと、環境の不備によるトラブルが起こりやすい。しかしそういった環境についての確認を怠ったまま、面接での回答ばかりを考えて当日を迎える人が多いのだ。普段使わないツールを使うからこそ、必ず事前に確認しておいた方がいい。
また、カメラに映るものを意識する必要もある。
「人の感情表現は、首から上の動きと手の動きで読み取れるものなのですが、ウェブ面接のカメラで写るのは肩より上。気を付けないと、手が全く見えなくなってしまうので、できる限り見えるように意識するといいと思います。あと、背景に物が映っていたり雑音のある場所にいたりすると、そちらが気になってしまうので要注意です」(前澤氏)