
- 古着と雑貨の店舗からスタートしたウェブシャーク
- 海外からのYogiboの輸送費「7万円」に衝撃
- “ポップアップ戦略”で着実に認知を拡大
- Yogiboは“ソファの再発明”
9人組のガールズグループ・NiziU(ニジュー)のメンバーが「ヨギボー」という言葉とともに倒れ込むテレビCMでお馴染みのビーズソファ「Yogibo(ヨギボー)」。
そんなYogiboの日本国内での販売を手がけているのが、大阪発の企業・ウェブシャークだ。2014年11月に本社である米国のYogiboと日本総代理店契約を締結してから、年々Yogiboの事業規模を拡大させている。
2021月12月時点で日本国内では86店舗を展開している。これは、全世界にあるYogiboの約7割(世界130店舗)を占める規模だ。日本での人気はウェブシャークの業績にも表れており、2021年7月期の売上高は前期比76.8%増の168億円となった。ウェブシャークはバンズの代わりに卵を使用したハンバーガーであるエッグウィッチの専門店も展開しているが、売上高のほとんどはYogiboの販売によるものだという。
日本での販売開始から約7年。着実にYogiboというブランドを世の中に浸透させてきたウェブシャークが先日、米国本社のYogiboを買収したことは記憶に新しい。2021年7月に本社から買収の提案があり、12月30日にYogiboの全株式を取得した。買収額は非公開だが、「100億円超の規模」と見られる。今回の買収について、ウェブシャーク取締役の小猿雄一氏はつぎのように語る。
「Yogiboの本社は『合同会社』で株主は共同創業者の3人です。彼ら自身、そもそも上場は考えておらず、昔から会社のイグジット戦略として『売却』は考えていたそうです。そうした背景もあって、昔から『そういう話があったときは、連絡してほしい』というコミュニケーションはずっとしていました」
「2022年にキャピタルゲイン課税の税率が引き上げられることも相まって、2021年内に会社を売却したいという相談が2021年7月ごろにありました。私たちとしては、日本でのビジネスが順調に伸びているのに、どこかのファンドに買収されて、何かが起きる事態だけは避けたかった。そうしたこともあり、資金の準備を進めていき、買収に至りました」(小猿氏)

代理店が本社を買収する事例としては、イトーヨーカ堂とセブンイレブン・ジャパンによるサウスランド(米セブン-イレブン本社)の買収、また近しいものとしてダスキンがIM(インターナショナル・マルチフード)から日本におけるミスタードーナツの営業権を取得したケースなどがあるが、こうした事例はあまり多くない。
なぜ、ウェブシャークはYogiboの買収を決断したのか。創業からの事業の変遷、国内でのYogiboの販売戦略を小猿氏に聞いた。
古着と雑貨の店舗からスタートしたウェブシャーク
今でこそYogiboの代理店として知られているウェブシャークだが、実はネット業界では古くから知られた会社である。創業は1996年。最初はブランド古着と雑貨の店「FURIMAYA」を立ち上げる形でスタートを切った。
その後、1998年にはブランド古着のネットショップ「map-sytle.com」も展開するが、代表取締役の木村誠司氏の中には「在庫を抱えることへの不安もあった」(小猿氏)という。そこから事業内容をピボットし、2002年2月にアフィリエイトサービス「電脳卸」を開始したほか、2006年8月には商品を仕入れない代わりに、商品が売れたら商品メーカーから購入者へ発送する「電脳卸ドロップシッピングサービス」を開始した。
「古着のように在庫を持つのではないビジネスのかたちもあるのではないか。インターネットが普及していく中で、その技術を使ってできることを考えていった結果、木村の中で思い浮かんだのが当時アメリカでアフィリエイトと言われていたビジネスだったんです」(小猿氏)
外部の資本も入れながら、アフィリエイトサービスの先駆けとして順調に売上を伸ばし、「2005〜2006年ごろには上場準備をしていた」(小猿氏)そうだが、最終的には上場する理由を見出せなくなり、2008年ごろに上場準備をやめる決断をしたという。
その間にアフィリエイトサービスを展開する競合プレーヤーも増えてきたことから、ウェブシャークはアフィリエイト以外のサービスも複数展開していく。
「木村自身、いろんなサービスを立ち上げることが好きだったので、美容・健康の専門ショッピングモール『Dr.Tony』を展開したり、今でいうメルカリのような不用品のフリマアプリ『GarageSale』を展開したりしました。モノを売る“商売”をしたり、ITサービスを立ち上げたりというのをずっと繰り返してきた、という感じです。実際、今も飲食店を手がけていますし、本当にいろんなことをやってきています」(小猿氏)

海外からのYogiboの輸送費「7万円」に衝撃
さまざまなサービスを展開する中、なぜウェブシャークはYogiboの販売を手がけることにしたのか。きっかけは木村氏がYogiboを購入する際に感じた課題が関係している。
「ネットサーフィンで見つけたYogiboを購入してみたところ、商品自体の質は良かったそうなのですが、ネットで見たときの色味と少し違ったみたいなんです。それでもうひとつ購入しようと思い、現地の人に代理購入をお願いしたら『送料だけで7万円かかる』と言われ、商品代も含めて購入に10万円かかることに衝撃を覚えたそうです」(小猿氏)
「そんなに高価なものを買う人はいない」と思った木村氏は、日本でYogiboを販売しているところを探してみたものの、どこにもなかったという。そこで木村氏は「すごく良い商品なのに、なぜ日本で販売しないのか。もし誰もやらないなら、(モールサービスの展開などで)集客に強みを持っている私たちにやらせてもらえないか」とメールを送ることにした。強引なアプローチだったが、本社の代表であるエヤル・レヴィー氏から「それなら一度上海で会わないか」と返信があり、実際に会って話をしたところ、意気投合。日本総代理店契約に至った。
「当時、本社の経営陣には海外展開の考えはなかったそうです。ただ、日本での売上が伸びていることもあり、日本展開の後に韓国や台湾などへの展開も始まっています」(小猿氏)

また、小猿氏はYogiboの国内展開について、こんなエピソードも話してくれた。
「1999年ごろ、木村は当時大阪の南港で開催されていたフリーマーケットにブランド古着などを出品していました。そのフリーマーケットの開催地の近くに輸入家具のお店があり、そこにYogiboと似たような商品があったそうです。木村はよくそこへ休憩しに行くという原体験があったみたいなんです」(小猿氏)
その後、2002年に無印良品がビーズソファーを発売。ネットなどでは“人をダメにするクッション“と話題になったが、木村氏はフリーマーケットの休憩時に体験したものと全然違うものに感じていたという。「同じようなものが出てこないかな」と思っていたところ、先述したようにネットサーフィンでYogiboを見つけた。それが当時体験したものにすごく似た商品だったという背景も相まって、木村氏はYogiboの日本展開という決断を下すことになった。
“ポップアップ戦略”で着実に認知を拡大
先述のとおり、Yogiboの売上は伸び続けている。国内では無印良品やニトリが競合ともいえるような商品を展開しているが、なぜYogiboは成長を続けられるのか。
「ウェブシャークが国内でYogiboの展開を始めた後も、私たちが調べている限りでは無印良品やニトリが展開するクッションの販売個数や販売額は大きく変わらず、ほぼ一定を保っています。私たちは彼らのパイを奪ったというわけではなく、どちらかと言えばクッション市場全体のパイを広げていっている、というイメージです」(小猿氏)
そんなYogiboの国内展開の戦略を語る上で欠かせないのが、“ポップアップ戦略”だという。具体的にどういうことか。小猿氏はこう説明する。
「2014年11月からオンラインでYogiboの販売を開始したものの、当時のウェブシャークにはあまり資本もなかったので、十分なマーケティング活動ができていませんでした。そうした中、マーケティング費用を抑えつつ、商品を販売する方法というのがショッピングモールでポップアップショップを展開することだったんです。ポップアップショップの期間は基本的に3カ月〜半年、長くても1年ほどと短いので、企業はあまり出店したがりません。ただ、ショッピングモール側はなるべく家賃をとりたい。そうしたニーズをくみ取ることで、期間は短くてもいいので家賃を安くしてほしいなどの交渉ができたんです」(小猿氏)
その戦略のもと、ウェブシャークはYogibo日本1号店となる「大阪 あべのQ’s MALL店」を2015年2月にオープンし、2015年5月にはYogibo日本2号店となる「デックス東京ビーチ店」をオープンするなど、“ポップアップ戦略”で立て続けにお店を展開していった。
「あべのQ’s MALL店は最初の頃、エスカレーターの横にある広めのスペースを活用し、そこでポップアップショップを展開し、Yogiboを販売していました。出店費用をなるべくかけずにどれだけ稼げるか。今の時代のスタートアップとは違い、当時はお金をかけず、とにかく地道にやっていました。ただ、オンラインで販売を始めてから1週間後くらいにテレビに取り上げられ、そこで認知が高まったのはすごくありがたかったですね」(小猿氏)
潤沢なマーケティング費用はなかったものの、「当時からブランディングは強く意識していた」と小猿氏は振り返る。格闘技イベント「RIZIN」の年間冠スポンサーに就任したり、YogiboのCMキャラクターに「NiziU」を起用したりしているのも、すべてはYogiboというブランドイメージを向上させるための施策となっているとのこと。
「私たちは販売促進するための施策はマーケティング、広告宣伝するための施策はブランディングと、それぞれを切り分けて考えています。NiziUのCMでも機能性や価格は一切伝えていません。それは『Yogiboってなんか気持ちよさそう』というブランドイメージを浸透させるためです。そうした施策が効いていき、Googleでの『Yogibo』の検索件数は現在、『人をダメにするクッション』の検索件数を上回っています。日本でのYogiboの成功要因は、このブランドイメージの向上が大きく関係しています」(小猿氏)

Yogiboは“ソファの再発明”
今後ウェブシャークは、日本国内ではオンラインストアでの購買率を高めることに力を入れ、現在6割(店舗)と4割(EC)となっている販売比率を、半々にすることを目指していく。また、顧客のLTV(顧客生涯価値)を伸ばすために、リペア機能も併せ持った店舗に加え、リペアをメインにした店舗の立ち上げなども行う予定だという。
「Yogiboはイスにもなるし、ソファにもなる。その上、持ち運べて、カラーも豊富でメンテナンスもできる。本質的な価値を訴求していくことができれば、“ソファの再発明”としてソファ市場にも入っていけます。私たちが考える市場の最大値を踏まえれば、まだ5%ほどしか獲得できていない。まだまだ伸び代があると思っています」(小猿氏)
また、海外展開に関しては日本で培ったマーケティング技術やAIの需要予測のシステム導入によるオンライン販売の高効率化、各国でのデザインの統一などのブランドイメージの向上に努めていくという。
「これは個人的は肌感覚ですが、そうした各国での販売戦略の基盤を整えるだけで、現状の売上の3〜5倍の規模になるような気がします」(小猿氏)
本社の買収後もYogiboの快進撃は続いていきそうだ。