
先進国を筆頭に世界各国で温室効果ガスの排出を実質ゼロにする、カーボンニュートラルを長期目標に掲げる流れが加速している。これを背景に、脱炭素や気候変動領域に特化したVCファンドが増え始めている。
欧米ではクリーンテック(CleanTech)やクライメートテック(Climate Tech)と言われ注目を集める領域だ。勢いのあるVCの1社であるBreakthrough Energy Venturesはビル・ゲイツ氏が主導し2016年に発足。2021年1月には新たに10億ドル(約1100億円)の資金を調達した。同社のサイトによると2021年は1年間で25件以上の新規投資を行っており、投資先の数はすでに80社を超える。
TwitterやUberの初期投資家として知られるクリス・サッカ氏が立ち上げたLowercarbon Capitalもクライメートテック領域特化型のVCとして2021年8月に8億ドル(約880億円)を集め、話題を呼んだ。
こうした流れはこれまで幅広い領域に投資をしてきたプレーヤーにも影響を与えている。老舗VCの一角を占めるUnion Square Venturesが2021年1月に約1.6億ドル(約180億円)のClimate Fundを設立したように、著名VCがクライメートテック領域特化型のファンドを新たに立ち上げる動きが出てきた。

日本でも独立系VCのANRIが1月26日に気候変動・環境問題特化型のファンド 「ANRI GREEN 1号」を新たに設立。総額100億円規模を目指し、ファーストクローズで産業革新投資機構や関⻄電力グループのK4Venturesなどから43億円を集めた。
グローバルでの気候変動領域ファンド増加の背景には、機関投資家の変化も大きく影響している。近年「ESG投資」という言葉を耳にする機会も増えたが、大手資産運用会社のBlackRockを筆頭に有力な機関投資家が脱炭素や気候変動対策に向けた取り組みを推し進めている。米国ではジョー・バイデン政権が誕生し、政府としてもカーボンニュートラルの目標を掲げたことで、さらに流れが速まったかたちだ。
日本政府も2020年10月に「2050年までにカーボンニュートラルを目指すこと」を宣言している。クリーンテックやクライメートテック領域に特化したVCという観点では米国の方が動きが進んでいるものの、上述したANRIの新ファンドを含め、今後同様の取り組みが広がっていく可能性はありそうだ。