
- 従来のメディアとWeb3時代のメディア
- Web3型ブログプラットフォーム:Mirror.xyz
- Web3型ソーシャルメディア:BitClout(DeSo)
- 日本発の分散型ブログサービス:HiÐΞ(ハイド)
- その他事例:BlueSky、Friends with Benefit(FWB)
ここ数カ月、スタートアップ業界を中心に大きな盛り上がりを見せている「Web3」。ブロックチェーン技術を活用した分散型のインターネットは、メディアのあり方も変えようとしている。Web3時代のメディアはGoogle、Facebookなどのプラットフォーマーが力を握っていた中央集権型のいわゆるWeb1.0やWeb2.0のサービスと、何が異なるのか。
情報発信やメディアにおけるWeb3の背景および現状について、ベンチャーキャピタル・Headline Asiaの林政泰氏が解説する。
従来のメディアとWeb3時代のメディア
そもそもインターネットが普及する前は、テレビや雑誌などのメディアに広告を出稿するのが当たり前だった。しかし、広告出稿後に顧客が増えたとしても、どの顧客がどの広告をみたかは把握しにくかった。具体的に広告の効果を把握するため、注文の際に「テレビ番組の〇〇を見た」や「雑誌の〇〇を見た」などと伝えれば割引がもらえたりする仕組みがある。ただそれもかなり効率が悪く、正確性に欠けるやり方だ。
その後インターネットが普及し、Web1.0では一般大衆でもさまざまな情報を検索したり、取得・受信したり、テキストサイトなどで発信したりできるようになった。Web2.0では受信だけでなく、一般の人もより簡単に発信したり、コンテンツなどをネット上で公開したりしやすくなった。
同時にAdTech(アドテック:広告技術)が発展し、どの顧客がどのサイトでどの広告を何回見たか、何秒見たか、その後どのような行動を取ったかなどのデータが取得可能となった。商品を販売する企業は顧客情報などのデータをたくさん集めては分析し、商品の売上を最大化するために、さまざまなアフィリエイトサイトやメディア、ソーシャルメディアで広告を出し、その内容や出し方をデータ分析の結果に基づいて最適化し続けている。
一方、商品を購入する消費者には、自身の行動が常にモニタリングされ、分析されていることに対して不快感を覚える人も多い。また、UI・UXを重視し、メディアやプラットフォームに広告を載せないことを求める消費者も増えている。各国政府や企業はそういった消費者の意向をくんで、手を打っている。
EU(欧州連合)は一般データ保護規則「GDPR」を施行し、米国カリフォルニア州は通称「Prop 24」という法改正を行った。また、GoogleはブラウザのChrome上で個人を特定できるサードパーティー「Cookie」を2023年までに廃止することを宣言し、Appleは2020年にiPhoneなどデバイスを特定できるIDFAに使用制限を設けた。(編集部注:IDFAを使うには、デバイスの持ち主である消費者側の同意が必要となる)。
Web3はそうしたWeb2.0の施策のさらに一歩先を進んでいる。具体的には、コンテンツの情報をオンラインプラットフォームで自由に発信・受信できるだけでなく、そういったプラットフォームで記録されたさまざまなデータをどう活用して、どう収益を上げるのか、さらには収益をどう運用し、分配するのか、それらの決断の権利をユーザー、消費者、一般の人の手に取り戻せる。
また、プラットフォームを使い込めば使い込むほど、プラットフォームが創り出した「価値」を享受できるようになっている。
Web3がそれを実現できるのは、「株式」に代わる「トークン」と、「会社」に代わる組織形態「DAO」と、「広告収入」に代わるビジネスモデル「トークンエコノミクス」のおかげだ。本記事ではメディア業界におけるWeb3の具体例をいくつかピックアップした。
Web3型ブログプラットフォーム:Mirror.xyz
Mirror.xyz(以下、Mirror)は米国大手VCのAndreessen Horowitz(a16z)の元パートナーであるDenis Nazarov氏によって2020年12月にローンチされたサービスで、初期の頃は「ブロックチェーン版のMedium」と呼ばれたが、ここ1年でさまざまな新しい機能が追加された。Web2.0では比較対象が見当たらないほど、独特なサービスになりつつある。
Mirrorではゼロからブログを書くことはもちろんできるが、すでにMediumやSubstackといったパーソナルメディアのプラットフォームで記事を書いている場合は、記事のURLを貼り付けるだけで、コンテンツを自分の手で動かすことなく直接Mirror.xyzにインポートすることができる。記事内にNFT化した画像や動画を簡単にエンベデッドすることも可能だ。
そして、Mirrorは自動的に分散型ストレージネットワークであるArweaveに記事を公開し、コンテンツを半永久的に保存することができる。 さらに、コンテンツクリエイターは記事に「表紙」を付けて、その表紙をNFTとして公開して販売し、気に入った読者はそれを購入することも可能だ。
また、複数人の共著であれば、記事の最後にお礼や引用の欄を設けるだけでなく、スマートコントラクトによって自動的にNFTの販売収益を按分(あんぶん)することもできる。
ブログ記事以外にも、Mirror上で簡単にクラウドファンディングを実施したり、NFTのオークションを開催したり、指定のトークンを持っている人に対して投票アンケートを行ったりできる。コンテンツクリエイターは広告に頼ることなく、活動を継続させるための資金をさまざまな方法で取得することが可能となる。
以下は筆者が所属するHeadlineの自社開発ツール「EVA」で抽出した、Mirrorに関するデータだ。ウェブ上のさまざまな公開情報を収集分析し、ウェブサイトのトラフィックランキングを作成した上、Mirrorの順位を推計したグラフとなっている。ここ1年で当サイトの順位は29万位から3239位に急成長している。

Web3型ソーシャルメディア:BitClout(DeSo)
BitCloutはもともとBitcoinと同じく、提案者は匿名となっており、完全オンラインかつオープンソースで、背後に企業や法人が存在しない形で発足した。その後、創業者のNader Ai-Naji氏が正体を明かし、同時にa16z、Sequoia、Coinbase Ventures、Panteraなどから2億米ドル(約220億円)を調達したことを発表した。
BitCloutはTwitterのようなユーザーインターフェースになっており、ユーザーは自由に思っていることをテキストでつぶやくことができる。ユーザーがBitCloutでアカウントを開設すると、自動的に独自トークンが発行される。
自分のトークンや他のユーザーが発行するトークンを購入するには、「クリエイターコイン」というBitClout独自のトークンを使う必要がある。ユーザーがBitClout上で投稿したり、自分の発行したトークンを購入してくれた人に特別なコンテンツを提供したりすることによって、自分のトークンの価値を高めることができる。日本でひと昔流行ったVALUにかなり似ている。
BitCloutは2021年前半に爆発的に伸びた一方、物議も醸している。なぜなら、BitClout上ではElon Musk氏やJustin Bieber氏など有名人のアカウントがたくさんあるが、ほとんどは本人が作ったものではなく、BitCloutチーム側が作ったものとなっているからだ。
そのアカウントが本人が作ったものだと信じ込み、発行しているトークンを購入したユーザーも多数存在し、なりすまし詐欺の理由でBitCloutを起訴するインフルエンサーもいた。ただし、BitClout創業者のNader氏によると、先に公式アカウントを作ったのは、逆になりすましの人を減らすための施策だと主張している、有名人はTwitterでBitCloutのアカウント名をツイートすれば、そのBitCloutアカウントを取得することができる。
以下はEVAで抽出した、BitCloutに関するデータだ。残念ながら、今のところ、BitClout上で発行されたクリエイタートークンはまだ特別なユーティリティ(機能)が付与されておらず、BitCloutの順位を推計したグラフを見ると(上述の物議の悪影響もあり)、2021年後半以降はトラフィックが伸び悩んでいる。
創業者のNader氏はその後「DeSo」というブロックチェーンをローンチすることを発表し、BitCloutはDeSo上で作られた最初のアプリケーションとなる。Nader氏は今後はブロックチェーン基盤となるDeSoの開発に力を入れると宣言している。

日本発の分散型ブログサービス:HiÐΞ(ハイド)
HiÐΞは日本のスタートアップ・和らしべが開発した分散型ブログサービスであり、分散型CMSだ(編集部注:林氏が所属するHeadline Asiaは和らしべに出資している)。従来のブログプラットフォームは記事データが運営の管理下でマネタイズされていたり、サービス利用料や法外な手数料が徴収されたりしていた。和らしべはそうした状況を問題視し、 SEOや広告依存のビジネスモデルを排除し、運営が関与せず、個人に報酬が永続的に循環するシステム・HiÐΞを開発した。
また、オープンソースプロトコルのHiÐΞ protocolを開発しており、HiÐΞ protocolをベースにしてブログやクラウドファンディング、マーケットプレイス、クラウドソーシングなどアプリケーションの分散化に取り組んでいる。
その他事例:BlueSky、Friends with Benefit(FWB)
BlueSkyはTwitterが2019年に発表した分散型ソーシャルメディアのプロジェクトだが、現在はまだ開発と初期メンバーの採用を行っている段階で、具体的な計画は発表されていない。主な狙いとしては、悪質なコンテンツのモニタリングや削除を、プラットフォームが行うのではなく、民主化されたプロセスでユーザー全員が行えるようにすることだ。
Friends With Benefitは$FWBトークンを持っている人しか参加できないオンラインコミュニティになっており、ユーザーがコミュニティ内で投稿したりコンテンツを増やしていくと、FWBに参加したい人が増え、$FWBの価値もあがるので、ユーザーがその恩恵を受けられる。
トークンエコノミーの経済圏をつくり出せるWeb3時代のメディアや情報発信プラットフォームは今後もさらに成長していくだろう。コンテンツをつくる際に、広告収入を気にすることなく、純粋に面白いものや価値のあるものを作ることに集中することができるようになる。そして生み出した価値は企業やプラットフォームではなく、自分の手に入る。そうした点が個人的にはWeb3時代のメディアの面白いところだと思っている。