
- ガラケーの「掲示板サイト」は、ネットという感覚ではない
- 「SNSでモノを買う時代」のマーケティング
- ユーザー分析から「口コミが期待できるフォロワー」獲得へ
昨年8月に発売した著書『僕らはSNSでモノを買う』がヒット中の、ホットリンク 執行役員CMOの飯高悠太氏(「高」は正しくは「はしごだか」)が登場。SNSを活用したマーケティングの課題から、企業の担当者が必要とする視点まで詳しく話を聞きました。(編集注:本記事は2019年10月23日にAgenda noteで掲載された記事の転載です。登場人物の肩書きや紹介するサービスの情報は当時の内容となります)
徳力 今年8月に飯高さんが上梓された書籍『僕らはSNSでモノを買う』を読んで、私はとても羨ましいと思いました。
というのも、私自身も「ユーザーがメディア化しているから、SNSでモノが買われるようになっている」と、10年以上ずっと言い続けてきたつもりだったんですが、私たちの世代が企業のマーケティング担当者に伝えても、どうしても「『彼らは』SNSでモノを買うんです」になってしまうんですよね。
担当者の人も頭では分かっているんだけど、何となく現実感がないような感じがしてしまうんです。それが今回、ついに「僕らは」と主語で発信してくれる人が現れたので、しみじみと喜んでいるところです。
飯高 よかったです!
徳力 飯高さんは1986年生まれですよね。私はインターネットに最初に触れた年代によって、ネット上のコミュニティに対する向き合い方が変わり、それがビジネスにも影響を与えているという仮説を持っています。飯高さんが最初にインターネットに触れたのは、いつ頃ですか。
飯高 僕はけっこう遅いですね。大学生の3年生のときに少しだけmixiをやったことでしょうか。
ガラケーの「掲示板サイト」は、ネットという感覚ではない
徳力 大学生になるまでケータイのネットサービスは、あまり使っていませんでしたか。
飯高 そうですね。ケータイは中学生の頃から持っていたのですが、当時はガラケーの掲示板サイトで、自分とは違う中学校に通う友人と連絡を取っていたぐらいでしょうか。

徳力 それは飯高さんにとっては、インターネットではないんですね。
飯高 はい、その感覚はなかったですね。
徳力 その感覚の違いが面白いですよね。飯高さんにとってのインターネット上の掲示板サイトは、友だちとの連絡を取り合うためのものだから、メールの延長線上であって、オープンなインターネットではないという意味ですね。
仕事をし始めてからインターネットをしだした私からすると、飯高さんはデジタルネイティブ過ぎるくらいにネイティブな世代です(笑)。飯高さんがインターネットにガッツリ関わり出したのは、いつからですか。
飯高 2008年にTwitterを使い始めたときでしょうか。仕事としては、人材会社で営業を経験した後にクラッチというWebマーケティング会社に入社してからです。そこでFacebookマーケティングの支援や、会社が運営するブログ「ソーシャルメディアのハンパない状況」を立ち上げました。
徳力 ソーシャルメディアがビジネスになり始めていた時期ですよね。

飯高 そうですね。ちょうどアジャイルメディア・ネットワークさんや、トライバルメディアハウスさんがソーシャルメディア事業を始めるタイミングだったと思います。
その後、2012年にデジタルマーケティング支援会社のハイベロシティに入社して、企業のFacebookページの運営を支援するアプリ「Hivelo Social Apps」を担当して、導入社数を一気に伸ばしていきました。
「SNSでモノを買う時代」のマーケティング
徳力 今回の書籍のタイトル『僕らはSNSでモノを買う』は、とても秀逸だと思いました。飯高さんは、SNSの口コミにモノを買わせる効果があるという結論に早いタイミングで至っていたのでしょうか。
飯高 そうですね。自分の中でそれが答えとして出たのは、ハイベロシティにいた7年前だったと思います。あまりインターネットを触っていなかった私でさえ、SNSの口コミでモノを買うのであれば、より多くの人もそうだろう、と。
徳力 Facebookマーケティングの支援をしながら、SNSは単純にファンを増やすだけでなく、その口コミ、つまり「UGC(User Generated Contents=ユーザー生成コンテンツ)」が売上に貢献すると考えていたというわけですね。
飯高 はい。実はUGCは最近注目されるようになった言葉ですが、2000年代からすでに存在していたんです。掲示板に書かれているコメントやグルメサイトのレビューもUGCですよね。当時から、みんな「食べログ」のコメントを見て、お店を予約していました。そう考えると、僕らはずっとUGCでモノを買っていたんですよ。
さらに、その後に登場したFacebookやTwitterは、掲示板やグルメサイトよりもユーザー同士のつながりが密接なので、情報の信頼性がより高く感じられます。それならば、SNSでモノを買わない理由はない、と思っていました。
私はその消費行動の変化を「ULSSAS(ウルサス)」というモデルで解説しています。UGCを起点に検索行動をして、アクションを起こすモデルです。
UGC(ユーザーが作ったコンテンツ=口コミ)→LIKE(いいね)→Search1(SNSで検索)→Search2(ヤフー、グーグルなどで検索)→Action(行動・購買)→Spread(拡散)
徳力 前回の「カメラを止めるな!」の上田監督のインタビューでも、SNSの口コミから映画を観に行った人の割合が高いという話がありました。ネット上の口コミでモノが売れるという論は、納得できるものだと思います。
ただし、マス広告に慣れている世代のマーケティング担当者は、ある程度広告を当てることで会員登録させたり、クリックさせてサイトに誘引できたり、人を動かせると思っているケースが多いですよね。
実はデジタルの世界も同様で、大量の広告を当てて、そのクリック率が低くても数%がコンバージョンすればいい、あるいはインフルエンサーの起用もフォロワーが大勢いる方が確率的に多くの人が動くはずだ、と思っている人が非常に多いと感じています。
ところが実際のところ、先ほど飯高さんが話したように、私たちは数十人しかいない友だちから言われた口コミから消費しています。大企業の担当者は、そのギャップに板挟みになりがちですが、どうすれば乗り越えられると思いますか。

飯高 そこは私も本当に難しいと思っています。正直なところ、私たちがSNSでこうすると成果が出ますと説明しても、担当者が使う予定の金額とSNSの施策の規模が合わないということもあります。与えられた予算を使い切ることがマーケターの仕事の評価にも関わってくるとなると、やりづらい面があります。
また、キャンペーンでフォロワーを増やしてきたアカウントは、僕らが入ってアカウント分析を行うと、懸賞用のアカウントが半分以上占めていることもあります。人間の身体に例えると、癌のステージIV。
徳力 死にはしなくても、メタボ状態とは言えそうですね(笑)。
飯高 はい、厳しい状態です。大きく方針転換する必要があるのだけれど、彼らはそれで評価を得てしまっているので、もう抜け出せない状況になっています。
徳力 そうですね。例えば、フォロワーの7割がキャンペーン用アカウントなので、残りの3割をしっかり見ていきましょうと提案しても、その7割がもったいないという発想になりがちです。
飯高 その通りです。インプレッション数を見てしっかり届いていると言いますが、懸賞目的のアカウントは動いていないに等しいんです。その本質を知らずに風呂敷ばかりを広げているけれど、実は中身がないという状態を理解してもらうには、まだまだ難しいなと思っています。
ユーザー分析から「口コミが期待できるフォロワー」獲得へ
徳力 フォロワーの大半がキャンペーン用アカウントでも、ライバル企業より多ければいいと言われてしまった、ということもありそうです。数値化しづらい「質」が分かりやすい「量」に負けることが頻繁に起きていますが、そうした状況を抜け出すためにはどうすればいいでしょうか。飯高さんでしたら、すでに突破口を見つけているのではないでしょうか。
飯高 それで言うと、見つけていますね。私は「質」をフォロワーになってくれ、口コミする確率が高い人と定義しています。BtoC商材であれば、画像付きのツイートやInstagramの投稿をUGCと捉えて、この投稿数を指標にしています。
徳力 フォロワー数ではなく、UGCの数をKPIにするということですか。

飯高 はい、絶対にそうした方がいいと思います。書籍では、菓子メーカーのシャトレーゼの事例を紹介していますが、まずはユーザーインサイトを見て、シャトレーゼのケーキをSNSに投稿してくれる人はどんな人なのか、データをクロス分析しながら口コミする確率が高いクラスターを見つけます。
同じシャトレーゼでも、おいしいから買うという人もいれば、孫が喜ぶから買うという人、アレルギーでも食べられるから買うという人まで、さまざまです。それぞれの属性に対してアプローチを仕掛けてフォロワーになってもらい、口コミをしてもらえる確率を上げていくんです。
徳力 なるほど。では、これまでフォロワー数をとにかく増やすことに集中してきた企業の担当者は、フォロワーをグループごとに切り分けて、こういう目的の人にはこういうアプローチをしたら、こういうUGCが生まれるかもしれないという仮説のもと、PDCAを回すということでしょうか。
飯高 そうですね。自社の商品に一定の口コミがあるのであれば、まずはそれを分類することがスタートです。次に競合の商品の口コミも同じように分類すると、絶対に自分たちの口コミにない分類が出てくるんです。あとは、その分類の口コミを増やす施策を考えます。
また、まだフォローしてくれていない分類があるのであれば、そのステークホルダーを集めながらUGCを増やすこともあります。
徳力 飯高さんの著書でも、公式アカウントがユーザーの投稿に「いいね!」を付けたり、リツイートしたりすることを推奨していますが、実際にSNS運用がうまくいっている企業はそういうことを地道にしているんですよね。前回、お話を聞いた上田監督のチームも、本当に丁寧にやっていました。
飯高 商品を買って公式アカウントがアクションを起こしてくれたら、シンプルにうれしいですよね。映画であれば、その出演者や制作者がアクションを起こしてくれるなんて、普通はありえないことです。でも、それが起きるのが、SNSの一番いいところだと思います。
マーケティングは、当たり前のことを愚直にやるのが一番重要です。キャンペーンでポーンと打ち上げ花火を上げても、入射角と反射角は一緒なので、2日でバズったものは2日で消えてしまいます。しかし、自然発生的に起きた口コミは、なかなか落ちないんですよ。
>>3月19日(木)公開予定の後編に続きます。