
「効果測定が難しい」とされてきたテレビCMや屋外広告にデータサイエンスを持ち込み、オンライン広告と同じように“科学”できるようにする──。そのような切り口から事業を成長させてきたのがサイカだ。
同社の主力サービス「MAGELLAN(マゼラン)」はテレビCMを含むさまざまな広告の効果を統合的に分析できることを強みとする。広告に巨額な予算をつぎ込んできた大企業を中心に導入が進み、累計で200社を支援してきた。
2020年からはMAGELLANで培った分析ノウハウを応用した新サービス「ADVA(アドバ)」を通じて、需要の多かったテレビCM領域の課題解決に特に力を入れている。
そのサイカは2月2日、さらなる事業拡大に向けて複数の投資家より37億円を調達した。
今回のラウンドではシニフィアンとみずほキャピタルが共同で運営するTHE FUNDがリード投資家を務め、Yamauchi-No. 10 Family Officeと社名非公開の海外機関投資家も参加をしているという。なおサイカの累計調達額は59億円となる。
サイカは2012年2月に代表取締役CEOの平尾喜昭氏が立ち上げた。統計分析を強みとしたデータ分析のコンサルティング会社としてスタートした同社にとって1つの転機となったのが、「自分たちの業務を効率化する」目的でMAGELLANの前身となるクラウド型の統計分析サービスを開発したことだ。
このサービスを簡単にデータ分析ができるツールとして外部にも提供してみたところ、特に企業のマーケターから多くの反響があった。そこでマーケターの課題解決に焦点をあてるかたちでプロダクトをアップデートし、2016年にMAGELLANとして展開を始めた。
同サービスではオンライン広告・オフライン広告を統合して各施策を評価することで、それぞれの成果への貢献度だけでなく、ROI(費用対効果)を踏まえた最適な予算配分を算出できる。分析のプロではない“現場のマーケター”でも使いこなせるのが特徴で、これによって「結局どの広告がどれだけ成果に繋がったのかがわからない」「その結果として適切な予算配分ができない」というマーケターが抱える課題の解決に取り組んできた。
たとえば大企業の場合、テレビCMを実施する際にはオンライン広告や交通広告などと連動してプロモーションをかけることが多い。そのため「テレビCMだけの成果」を正しく評価するには、他の施策の成果を差し引いて考える必要がある。
MAGELLANはさまざまな広告を複合的に分析する仕組みを整えてきたからこそ、テレビCMの効果も高い精度で分析でき、特に広告予算が大きい大企業から評価されてきたという。

こうした背景もあり、顧客からの要望に応えるかたちで2020年にはテレビCM広告代理事業としてADVAを立ち上げた。ADVAはテレビCMプランニング最適化ツール、動画クリエイティブ制作サービス、成果報酬型テレビCM出稿サービスの3つから構成されており、この事業を通じて「テレビCMの出稿から分析まで」を一括で支援する。
MAGELLANで培った分析技術をもとにテレビCMのすべての出稿プロセスを定量的に評価し、売上などの事業成果を最大化する出稿プランを作れるのが大きな特徴。ビジネスモデルも業界ではユニークで、出稿前に合意した事業成果を獲得できた場合に初めて管理進行費が発生する成果報酬モデルを採用した。
「テレビCMの領域に挑戦するにあたって、2つのことを絶対に変えたいと考えていました。1つはデータサイエンスを取り入れることです。つまり経験や勘だけに頼るのではなく、もっと蓋然性を持って実行できるようになるべき。この観点ではオンライン広告の方が進化が早く、(予算として)巨大なテレビCMについても実現しなければならないと思っていました」
「もう1つがビジネスモデルです。顧客の売上に関係なくマージンをもらう従来の代理店モデルではなく、顧客と同じ方向を向いて同じ成果を目指し『御社が成功しなければ僕たちもマージンをもらえないんですよ』という仕組みを作る必要があると考えていました」(平尾氏)
平尾氏の話にもあるように、オンライン広告の世界ではデータの活用が進んでいることもあって「テレビCMを科学すること」に対してのニーズは以前から存在していた。ただ「テレビCMの予算は聖域」のように扱われることもあり、オンライン広告ほど急速には変革が進んでいなかった。
それが新型コロナウイルスの拡大を1つのきっかけに変わり始めているという。コロナ禍で今まで以上に企業の広告費に対する考え方がシビアになり、特に大企業を中心に広告効果の説明責任が強く求められるようになってきているわけだ。
そこで分析技術に強みを持つサイカの引き合いが増え、従来は既存の大手広告代理店に依頼をしていた企業がADVAに乗り換える事例も増えてきているのだという。
2020年9月に前回の資金調達を実施した際は、まさにこれからADVAに力を入れていくという段階だったが、現在は「利益ベースではMAGELLANと肩を並べるくらいの事業に育ってきている」(平尾氏)状況とのこと。サブスクリプションモデルのMAGELLANとトランザクションモデルのADVAが柱となり、強固な基盤が構築できたことも今回の資金調達につながった。
今後、サイカは調達した資金を人材採用に投資し、プロダクトと人材の掛け合わせによって事業を加速させていく計画だ。
オンライン広告のような形式でテレビCMを運用できる“運用型テレビCMサービス”については、「テレシー」やラクスルの「ノバセル」など複数のプレーヤーが生まれてきている。サイカのサービスも含めて、テクノロジーやデータを活用した「テレビCMの科学」は今後さらに進んできそうだ。