Photo:anyaberkut/Getty Images
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  • 自社の情報に複数の場で触れてもらえるように工夫する
  • 採用のチャネル選びで大切なのは「感度」
  • 目的に合った適切な採用チャネルの選び方
  • 採用チャネルの中でどう見られたいか、を考える

本連載は元メルカリ・現LayerXでHRを担い、スタートアップにおける人事採用経験が豊富な石黒卓弥氏が自身の“採用論”について語っていきます。第1回となる今回は、自社の採用チャネルの選定方法についての見解です。

「採用活動はマーケティング」と言われて久しいですが、現代の採用シーンにおいて「認知」は重要なポイントになります。特に(知名度や認知度が低い)スタートアップの採用において、認知は採用の「一歩目」とも「発射角度」とも言え、極めて大切です。

当たり前ですが、どれだけ素晴らしいサービスやプロダクトがあっても、どれだけ素晴らしい経営陣やチームがあっても、その会社が社会に知られていなければ採用シーンで長く勝ち続けていくことはできません。一般的なマーケティングの話は書籍や記事を見ていただくとして、今回は採用におけるスタートアップの認知を高める方法、そして効果的な採用チャネルの選び方についてお伝えしたいと思います。

自社の情報に複数の場で触れてもらえるように工夫する

どうすれば採用活動において自社の認知を高めることができるのか。多くのスタートアップの経営者、人事担当者はこんな悩みを抱えているのではないでしょうか。

認知を高めるための方法として、私はよく「複数の異なる情報ソースから物事(会社)を知ってもらう」という話をします。例えば、とある人のブログやnoteの記事などを読み、その人が勤めている会社のことについて調べたとします。

その1週間後くらいにFacebookやTwitterなどのSNSのフィードで「(そのブログやnoteに書かれていた)会社に転職しました!」という友人の投稿を見ると、急にその会社について興味がわいてくる──。読者の中にもこのような体験をした人はいるのではないでしょうか。これが「2つの異なるソースから物事(会社)を知ると急に親近感がわく」というものです。

人は2つの異なる情報ソースから物事(会社)を知ると、自分が興味を持っていたことが肯定されたような気がするのです。採用活動の認知獲得においては、これを会社の立場から逆算して設計し、実践していくことが重要になります。

採用のチャネル選びで大切なのは「感度」

ここからは採用チャネルの話になりますが、採用チャネルを選ぶ際の最も大切なポイントは「感度」です。ROI(投資利益率)や数字などを見ることも大切ですが、“崖の上から飛び降りながら、飛行機をつくるようなこと”が求められるスタートアップにとって大事なのは、丁寧に時間をかけてチャネルを選定するよりも、まずは「試す」ことです。

そこで試すチャネルを探すために「感度」を磨くことが重要になります。ここでは社会の変化だったり、自社とのフィット感だったりといったものを総合して、「感度」と呼んでいます。この力をどう養い、どう育てていけばいいのか。それは自らの目で一次情報を取りに行くことです。例えば、他社の理解や自社の理解です。エンジニア採用であれば、自社のエンジニアや採用したいポジションと関連するメンバーから話を聞きます。当たり前のアクションをサボらないことが感度を磨くことにつながります。

目的に合った適切な採用チャネルの選び方

では、私が勤めているLayerXではどのように採用チャネルを選んでいるのか。その取り組みに加えて、今後採用チャネルがどう変化していくかもお伝えします。

LayerXでは、2021年の1月にSaaSプロダクト「バクラク」シリーズをリリースしたのを機に、それまで半年ほど全く動いていなかった採用活動を一気に再開しました。

サービスを立ち上げる、いわゆるゼロイチのフェーズという背景もあり、とにかく会社の認知拡大とリファラル採用に力を入れました。そして、その目的との相性が良さそうなことから音声SNSの「Clubhouse」、カジュアル面談プラットフォームの「Meety」、キャリアSNSの「YOUTRUST」を活用することにしました。当時の採用体制は広報兼任の私ひとりだけだったこともあり、複数のチャネルを追いかけることは諦め、これらにフォーカスしました。

採用チャネルの中でどう見られたいか、を考える

いずれの採用チャネルも比較的新しく立ち上がったものであり、当時これらのサービスを使っているユーザーたちは、きっと私たちが会いたい採用候補者の「感度」と重なる部分が大きいと判断し、注力したわけです。それに合わせて意識していたのは「これらのチャネルの中で当社のポジショニングを明確にする」ということでした。

採用チャネルの選定と同じくらい、「そのチャネルの中でどう見られたいか」を考えることも重要です。私たちはいずれのチャネルでも「初期の利用者として、熱心に使い込むことでチャネルを応援する。これを通じてチャネルからも応援される存在になる」ということを意識し、徹底的に活用してきました。

例えば、YOUTRUSTの活用開始時には「すごい副業」キャンペーンでご一緒したり、私がYOUTRUSTの活用方法をnoteで発信したりといった取り組みを実施しました。また、Meetyの企業の裏側へ突撃する名物企画「ウラ凸」の初回は当社から始まっています。同時に社内のメンバーにも「アカウントを作成して、まずは試してみよう!」というように盛り上げをお願いし、草の根的な活動にも取り組みました。

こうして、特にYOUTRUSTやMeetyにおいては「応援する・される」を意識し「共に盛り上げていく」と言うスタンスにこだわりました。

その結果として、当社の2021年採用内定数のうち、この2つのチャネルが約4分の1を占めるほどになっています。その他のチャネルを見てみると、創業期から注力しているリファラル採用や自社HPが約半数ほど。2022年はエージェントやダイレクトリクルーティングなど、より一層多様な採用チャネルの開発を進めていく予定です。チャネルの種類を増やし、多様な方との出会いを生み出すことは、事業と組織の拡大に必ずいい影響をおよぼします。

今回はスタートアップの採用の一歩目とも言える、自社の認知度の高め方、採用チャネルの選び方についてお伝えしました。ぜひ今日から試していただければと思います。