
- 「陣痛からワクチン接種まで」お母さんの要望に応えたアプリ
- 米国で盛り上がる「ベビーテック」市場
- “手間をかけること”を美学とする日本
「陣痛」「授乳」「離乳食」「ワクチン接種」――出産や子育てにおいて「管理」が大切になる事柄は数多い。これらは今まで手帳など「紙」に記録してきたが、最近ではスマートフォンの専用アプリを使い、ワンタッチで記録するケースが増えている。共働きの夫婦が増える中で余計な手間を減らす、子育てとテクノロジーを掛け合わせた、“子育テック(こそだてっく)”の実態に迫る。(ダイヤモンド編集部 塙 花梨)
「病院の先生から『毎日記録するように』と授乳記録用のシートを渡されたのですが、母乳量や授乳時間、尿や便など記録する項目が多くて驚きました。スマホアプリだとタップするだけで簡単に記録できるし、リマインドもしてくれるので、とても助かっています」
そう語るのは、都内に住む主婦・Iさん(28)だ。Iさんのもとには、生後5カ月になる娘がおり、毎日4時間おきに授乳が必要だ。授乳時には、おもむろにスマートフォンを取り出し、アプリを起動させる。
授乳前にアプリをタッチして、時間の計測を開始。授乳が終わったら、再度タッチすれば授乳時間の入力が完了する。左右の時間が均等になるように、バランスを取りながら授乳する。
「(この記録に合わせて)授乳ペースを調節している」というIさん。授乳時間で飲んだ量を把握することは、赤ちゃんの健康状態を管理するために欠かせないことなのだ。以前は、手帳に書き込んで記録をつけるのが当たり前だったが、最近では「アプリで授乳記録をつけるのが常識」だとIさんは話す。
このようにワンタップで授乳記録をつけることができ、夫婦間での共有もできるアプリ「授乳ノート 簡単シンプル赤ちゃんの育児記録(以下、授乳ノート)」を提供している企業が、カラダノートだ。
搾乳器、哺乳瓶で授乳した時も、項目ごとに記録でき、おむつや睡眠の記録も管理が可能だ。さらに、授乳アラームが設定でき、最適な授乳間隔でリマインドまでしてくれる。
「陣痛からワクチン接種まで」お母さんの要望に応えたアプリ
2008年に創業したカラダノートは、創業から5年ほどは“子育て”にジャンルを絞らずに、身体に関する悩みや不安を改善するための、疾患をチェックできるアプリを複数リリースしていた。その中でも、妊活のための記録アプリ「ママびより 妊娠から出産、育児まで使える情報アプリ(以下、ママびより)」の伸びが良かったため、2013年に“子育て”ジャンルの開発を中心とするようになった。

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今では、先ほど紹介した「授乳ノート」や「ママびより」に加えて、陣痛間隔を記録するアプリ「陣痛きたかも」や、離乳食の量や時間を把握する「ステップ離乳食」、ワクチン接種を管理する「ワクチンノート」の計5種類のメインアプリを提供している。どれも“記録”することが軸になっているのが特徴だ。
代表取締役社長の佐藤竜也氏は「これまでお母さんたちが、頭の中で考えてやっていたものを、すべてアプリ化できるのが理想です」と意気込む。
分野と使用期間が限られているため競合が少なく、実際に出産や子育てを経験した女性の声をもとにアプリを設計することで利便性を追求していることから、ダウンロード数は伸び続けている。また、この領域に参入したのが早かったこともあり、今では5種類のアプリを足して55万MAU(月間アクティブユーザー)、新規で毎月3万人以上のユーザーを獲得している。
「出産や育児のため休職している人口は約84万人といわれているので、そのうちの過半数はカラダノートのアプリを使ってくれている計算だ」と佐藤氏は言う。
「夫婦間で情報を共有すると幸福度が高いといわれているので、情報共有機能は意識して取り入れています。ほかにも、単なる健康管理ではなく、日常の記録の中で家族の幸福度があがる仕組みを作りたいです」(佐藤氏)
米国で盛り上がる「ベビーテック」市場
米国では、2016年頃から赤ちゃん(Baby)とテクノロジーを組み合わせた「ベビーテック(BabyTech)」という言葉が使われるようになった。
妊活、出産、子育てをサポートするテクノロジーの総称で、「Baby Eats(赤ちゃんの食事)」「Baby Learn & Play(赤ちゃんの発育)」「Baby Safety(赤ちゃんの安全)」「Healthy Baby(赤ちゃんの健康管理)」「Fertility & Pregnancy Help(妊活補助)」の5領域で語られることが多い。
世界最大の家電ショーである「CES」でも、2016年から「BabyTech Award」が開かれ(昨年より日本でも開催)、ベビーテック領域に特化するスタートアップも増えている。

具体的には、スマートフォンアプリと哺乳瓶が連動し、赤ちゃんが飲んだミルクの量や温度をリアルタイムに記録できるサービス「BlueSmart mia」や、子どもの安全に関してアラートを出せるチャイルドシート「The Cybex Sirona M」などがある。
“手間をかけること”を美学とする日本
カラダノートでも、出産や育児の領域でテクノロジーを活用することを「子育Tech(こそだてっく)」と名付け促進を進めているものの、米国と比較すると日本はベビーテック後進国だ。日本は米国よりも乳幼児向けサービスの規制が厳しく、IoTデバイスやハードウェアが作りにくいのが原因だ。
さらにもうひとつ、日本が米国に遅れをとる原因として、「米国との文化の違いにある」とカラダノートの広報担当者は主張する。
「米国は無痛分娩が一般的で、4人に1人が産後2週間で仕事復帰します。日本だと、いまだに親が子どもに手間をかけることが美学とされているところがある。効率化して楽をすることを“悪”とする文化が根付いていることが、普及の進まない1つの要因ではないでしょうか」
しかしながら、日本でも共働きの夫婦はどんどん増えている。日常の少しの手間をテクノロジーの力で省くことができれば、その分家族と触れ合う時間が増え、生活はより良いものへと変わっていく。テクノロジーが出産や育児を成り代わるのではなく補助として活用できれば、日本のお母さんの心強いパートナーになるだろう。