
- 与信精度の向上など、BNPLの運用面における高いハードル
- プラットフォーマーの参入や分割払いの課題
- 商品だけでなく、サービスの支払いなど幅広い対応が求められる
日本や世界を取り巻くBNPL(Buy Now, Pay Laterの略:後払い決済)の現在について、ネットプロテクションズのネットプロテクションズ 代表取締役社長の柴田紳氏が解説する本連載。
前回の記事では海外の市場を中心にBNPLの導入状況を紹介してきた。最終回となる本稿では、BNPLサービスを提供する上で重要となる与信精度の仕組み、そしてBNPLのビジネスを取り巻く課題と、今後の展望について、柴田氏が考察する。
与信精度の向上など、BNPLの運用面における高いハードル
すでに国内のBNPL市場でも、ネットプロテクションズが提供する「NP後払い」をはじめ、7、8社からサービスが提供されています。サービス導入の決め手には手数料の安さや運用の柔軟性などいくつかの要素がありますが、最終的なサービス選択では、利用者に対する与信の精度が重要なポイントとなります。
たとえば、BNPLの与信の通過率が10%下がれば、その分、本来なら支払ってくれる顧客までを取り逃がしてしまう可能性が高まり、ECショップは販売機会を損失するリスクを負うことになります。後払い決済の利用者が増えれば、このリスクはどんどん大きく膨らむため、手数料に大きな差がなければ、与信精度の高い後払いサービスが選ばれることになります。
ネットプロテクションズは約20年かけて与信の仕組みを作り上げており、精度の高さにはかなりの自信を持っています。すでに20年間の決済実績があり、蓄積されたデータを与信に生かすことができています。そして現在は蓄積されたデータに機械学習技術を適用し、それにより与信精度のさらなる向上も図っているところです。
またITの仕組みで自動的に与信を行うのではなく、怪しいと思ったものは人による目視で審査をしています。これについても10年以上の実績があり、人が与信を行った結果を、さらに機械学習で学習させています。目視などの人のノウハウも積極的に与信に組み込んでいるところが、他社との違いです。今はAIや機械学習技術は誰でも容易に使えるようになっていますが、与信精度の向上に使える学習データの量と質が、他とは異なる大きな特徴です。

BNPLのビジネスモデル自体はそれほど難しいものではなく、ビジネスを始めるために莫大な資本や多くのリソースも必要ありません。そのため比較的参入しやすいビジネスと思われやすいのですが、現実はリスクを最小化し企業ビジネスとして成立させるために与信精度を向上させること、大規模トランザクションへの対応など、運用面では高いハードルがあります。
結果的にBNPL市場の拡大は予測されているものの、専業ベンダーが次々と参入するような状況にはなっていません。ここ最近は、流通系やすでに他の決済サービスを提供している企業が、後払い決済方法を追加するのが主な流れです。
たとえば、ネットプロテクションズでは2021年2月にJCB、8月にはオリエントコーポレーションと業務提携を実施しています。クレジットカード決済を既に提供するこれら大手企業が、独自に後払い決済方法を構築しサービスに追加するのではなく、実績あるネットプロテクションズと組む。これは後払い決済サービスの運用面のハードルが高いことの現れとも言えるのではないでしょうか。
プラットフォーマーの参入や分割払いの課題
一方、海外に目を向けると、AppleやGoogleなど巨大プラットフォーマーが決済サービスに参入しており、4回の分割後払いなどの決済方法を提供する動きもあります。日本でもメルカリなどのサービス事業者が、後払い決済を提供しています。今後も力のあるプラットフォーマーが、独自の決済方法を追加する動きは加速していくかもしれません。
プラットフォーマーがそのプラットフォームに最適化された独自の後払い決済などを提供すれば、会員にとっては使いやすいものとなり、新たな価値提供でユーザーの囲い込みにつながります。しかしながら、ユーザー視点では、プラットフォームが異なればいつもの決済方法が選べないことにもなります。したがってユーザーの利便性とのバランスを考慮しながら、決済方法のラインアップを揃えていく必要があると考えています。
また、日本では一括の後払いが中心となっていますが、分割の後払いが多い海外では、新たな課題も生まれています(連載第2回参照)。分割で支払う際、ユーザーには手数料や利息は発生しません。しかし、支払いが遅延すれば、ユーザーに延滞損害金が発生します。
海外では分割後払いなど、ユーザーにとってBNPLの利便性が高いことから、若年層などが支払い能力を超えて後払いを利用するケースも増えてきています。
そのため支払いの遅延が発生し、高利率の延滞損害金が利用者に求められるケースが増加しているそうです。国によってはこういった状況を問題視し、BNPLが規制対象の金融商品とみなされ、事業者にさまざまな安全策を講じる義務が発生する例も出てきています。
日本は分割後払いが一般的ではないため、現状ではこういった懸念はありません。しかしながら、後払いが数多く使われるようになれば、良くないBNPLの使い方をする売り手なども出てきます。悪い使い方をするところが出てくれば、規制や規約が厳しくなりかねません。こういったことには、ネットプロテクションズだけでなく業界全体が協力し、対処していく必要があります。
そのため、後払い決済サービス関連の取引を公正にし、後払い決済による取引に携わる関係事業者の業務の適正な運営の確保、利用者の消費生活の向上と利便に貢献することを目的に「日本後払い決済サービス協会」が2021年5月に設立されました。会員企業には私たちネットプロテクションズを含め、後払い決済サービスを提供する7社が加入しています。
商品だけでなく、サービスの支払いなど幅広い対応が求められる

BNPLには今後サービス料金の支払いなど、幅広い対応が求められるようになっていくでしょう。これまで後払い決済が対象としてきたものは、主にECサイトなどで購入する物品でした。しかし、昨今はそれがEC以外のさまざまなサービスの支払いにも利用されるようになっています。ネットプロテクションズでもすでに訪問型のサービスの支払いに対応しています。今後はサブスクリプション型のサービスビジネスの台頭もあり、そうしたサービスビジネスへの柔軟な対応も求められるようになっていくでしょう。
サービス対象の幅を拡げる際に、ネットプロテクションズがポリシーとして重視するのが「誰でもできることはやってもしょうがない。ネットプロテクションズしかできないことをやる」と言うこと。
これを実現するために、組織としても柔軟性を持ち素早い判断ができるようにする。そのために、フラットな組織でお互いが協力する体制となるようにしてきました。組織が縦割りだと、これは実現できません。そのため20年間で最も苦労してきたのは、BNPLの仕組み作りよりもフラットな組織作りだったかもしれません。
グローバルで注目を集め市場も拡大しているBNPLのビジネスですが、国ごとにもビジネス状況が異なり、それぞれの国や地域に合ったサービスを生み出していく必要があります。これからも使いやすく安全、安心な決済プラットフォームが登場することで、時代の変化に対応した新たな社会インフラとなっていくでしょう。
ネットプロテクションズは、次代の変化を敏感にキャッチし、柔軟な組織をもって、社会に求められるサービスをこれからも生み出していきたいと思います。