
- SNSは、友達とおもしろいことをするために、つながる手段
- 誰が見ているのかが大事。届くべき人に届けばいい
- 140文字を使って、なぜそのサービスがいいのかを言語化するトレーニングをする
- 業界の人に知ってもらうならTwitterよりもFacebookが効く
- その業界の中で目立つのと、ユーザーの間で話題になるのは違う
「SNSは多くの人に見てもらう感覚があると思いますが、僕は1人ひとりとつながると思って使っていることが多いです」
そう語るのは、プレイ代表取締役のイセオサム氏。「写真で一言ボケて(bokete)」(以下、ボケて)など、合計1000万インストールを超えるスマホアプリの育ての親でもある。
メディアプラットフォームを提供するnoteプロデューサーの徳力基彦氏が、活躍するビジネスパーソンにSNS活用術をインタビューする本シリーズ。第7回では、海外アプリのローカライズや企業のデジタル活用アドバイザー、オンラインサロンの運営などマルチに活躍するイセ氏に、SNSの使い方や活用のコツを聞く。
SNSは、友達とおもしろいことをするために、つながる手段
——「ボケて」などのスマホアプリのプロデュースの印象が強いイセオサムさんですが、数々の企業の取締役やYouTubeチャンネルの運営、オンラインサロンの運営など、マルチに活躍していらっしゃいます。ご自身では自分のことをどう表現されていますか。

広い意味で「プロデューサー」と呼んでいます。起業家のアイデアや事業をドライブさせる支援や、オンラインサロンではサラリーマンが本業以外の活動に一歩踏み出すためのコミュニティづくりなど、人が才能を世の中で発揮するための活動をしています。
——そんなイセさんがどのようにSNSを使っているのかお聞きします。利用しているサービスはTwitter、Facebook、Instagram、noteということですが。
新しいサービスを出したときや日々のアイデアはTwitter、ビジネスで提携先を募集したり、まだ言語化できていないトピックについて議論したいときはFacebookに書くことが多いです。特にFacebookは人脈を“つなぐ”という意味ではここ10年ほど、とても助けられています。noteは自分が言語化できたことを記事としてストックしたいとき、Instagramは釣り、ゴルフ、ワインなどの遊び用アカウントです。

私がSNSを使い始めたのは大学生のとき。mixiやGREEといったSNSサービスが出てきて、友達とつながって一緒に映画を撮る仲間を集めるとか、一緒に釣りに行く仲間を集めるとか、何かおもしろいことをやるためにつながる手段として使っていました。
——SNSファーストジェネレーションなんですね。「仕事で使う」という発想ではなかったと。
そうですね。僕は大学3年生のときに初めて起業し、ガラケーで利用できる、メーリングリストをアレンジしたSNSをつくりました。当時のSNSはパソコンでの利用が中心でした。でも自分たち(大学生)が使っているガラケーで人とつながれるSNSをつくりたかった。
趣味が起業のネタになってるというか、自分がほしいと思うものをつくれたらいいなと思っていました。

誰が見ているのかが大事。届くべき人に届けばいい
——プロデューサー業に役立てる意味で特に重要視しているSNSの使い方のポイントを教えてください。
先に申し上げておくと、僕個人はあんまりバズらない人間なんですよ。つくったサービス、たとえば「ボケて」のオフィシャルTwitterアカウントは6.8万フォロワー、Instagramは14.7万フォロワー(2022年1月時点)いますが、僕自身はマスにウケる存在ではないですから個人Twitterアカウントは5700フォロワーほど。そのうちの数百人が見てくれるだけでいい。バズらせることをそんなには狙っていないんです。誰が見てくれているかが大事です。
僕が書いた、車の出張整備をしてくれる「seibii(セイビー)」というサービスの紹介記事を例にあげましょう。僕は新しいサービスを試して、その上で分析するのがすごく好きなんです。そして、いいものは誰かに紹介したい。seibiiはたまたま車のタイヤを交換したいなと思って見つけて、単純にすごいサービスだなと思ってnoteに紹介記事を書きました。
これをTwitterでシェアしたら、ちょうど友人の投資家が見つけてくれて、後から連絡がきて「あそこ(イセ氏のnoteで知って)投資したよ」と。ツイートがきっかけで投資につながりました。
——ご自身が関わっているサービスではないですよね。
はい。完全にユーザーとしてのレビューです。もし仕事の目で見ていたら、僕が投資する視線で書いちゃいますよね。でもそうしたらフラットなレビューにならない。その証拠に、僕はここに投資できていない。
—— このケースは、noteやTwitterを掲示板的に使って知り合いにおしゃべりする感覚で使っているのがいいんでしょうね。届く人には届いたと。
140文字を使って、なぜそのサービスがいいのかを言語化するトレーニングをする
——Twitterがバズった例もありますよね。どういうことに気をつけていますか。
「ファストドクター」という救急往診サービスのレビューですね。これはバズることをちょっと狙いました。
このサービスが世の中に普及するのはとてもいいことなので、その視点でなるべくわかりやすく書いています。僕がTwitterで140文字で書く場合は、その企業やサービスが自分でもわかりやすく説明できるかを心がけていますね。
嫁と子供が夜熱出したので、初めてファストドクター頼んでみた。
— イセオサム (@ossam) December 27, 2019
お医者さんがおっきなスーツケースもって来てくれて、インフルと診断され、その場でタミフル処方。決済もカードで事前にできるし、薬局にもいかなくてよい。
しんどい時には病人じゃなくて医者が移動してくれると助かる。 pic.twitter.com/9Cf1IkpOYk
具体的なユースケースとそれに対するソリューション、その企業やサービスが社会的にどのような良い影響をもたらすか。ファストドクターを紹介する投稿では、それをエレベーターピッチ(数十秒程度の短時間でアイデアや事業をプレゼンする手法)みたいな感じで書いています。
——それはプロデューサー視点で、ということですか。
そうですね。
また起業家として心がけているのは、いいサービスが「なぜいいのか」を自分の中で言語化すること。このトレーニングを繰り返すことによって、事業アイデアが自分でまとめやすくなるんですよ。その練習にTwitterはすごくいいです。
やみくもに1日に20ツイートするのではなく、誰に何を届けるかを20回書く練習をすることが大事。いいものを届けるべき人に届ける練習です。マーケティングや広報の感覚に近いかもしれません。
——その感覚はいつからですか。
もともと分析が好きだったのだと思います。特にウェブサービスが好きというのが大きいですね。僕はユーザーが出会うサービスが好きなんです。SNSもそうですよね。
——自分が好きな方向性のサービスを自分の言葉でどのように紹介したら周りが乗ってくるかを練習している感じですか。
はい。140文字のプロトタイピングみたいな感じかな。例えば、自分が思う事業を140文字で書いてツイートする、それがウケるかどうかで、事業をやるかやらないかを決める、とか。
また、Twitterで反響ありそうだなと思ったら、noteに詳細を書いて記事をストックするという使い方をしています。
——Twitterを、その事業がウケるかどうか、感覚を調整するために使うという感じですね。
業界の人に知ってもらうならTwitterよりもFacebookが効く
——ビジネス向けの告知にはFacebookがいいと伺っています。

はい。前提として、僕はFacebookでは実際に会った人としか、つながっていないんです。ここ10年以上で、ビジネスセミナーやイベントなどで会ってきた人がたくさんいて、この人たちが自分の人脈の中で一番“濃い”。なのでウェブサービス業界の人に知ってもらおうと思ったらFacebookに投稿します。
例えば、オンライン動画配信サービス「Hulu」とコラボした「Huluとボケて」というキャンペーンの紹介はFacebookに投稿しました。
これはHuluの海外ドラマなどの公式素材を使ってボケられるというキャンペーンで、ウェブ業界の方が結構喜んでくれましたね。また、事業でIP(知的財産)を持っている方が「ボケて」とのコラボを申し出てくれるかもしれないですし。
——Facebookは、投稿にコメントがたくさんつくと友達に表示されやすくなる特徴がありますから、コメントされやすいコラボ企画には最適ですね。
SNSは多くの人に見てもらう感覚があると思いますが、僕は1人ひとりとつながろうと思って使っていることが多いです。
その業界の中で目立つのと、ユーザーの間で話題になるのは違う
——最初に、「届くべき人に届けばいい」とおっしゃっていましたね。とはいえ、新しくプロダクトをリリースしたときは人に言いたくなりませんか。
そうなんですよ。でも情報を伝えることには、メリットとデメリットがあるんです。
メリットは、ユーザーに直接刺さればそのサービスを使ってくれること。そして起業家としては、資金調達や採用に役立つという面があります。
一方で、どこまで伝えるかという問題もあります。なぜなら、いい事業やサービスであればあるほど模倣されやすいので。結果、競合がめちゃくちゃ増えてしまう。
なので、ユーザー間でバイラルを起こすのが一番いい使い方です。例えば、あるアプリがすごいよとなったら、ユーザーがリツイートしてくれたりnoteにレビューを書いてくれるというのが一番いい例。ですからユーザーが友達に教えたくなるようなコミュニケーション設計をします。BtoB領域であれば、業界の必要な人にだけに伝わるような情報設計をする。
誰にその情報を流したらいいかを設計するのが、たぶんSNSの使い方なんでしょうね。
——話題にするには、プレスリリースを出したりメディアに露出するというのが基本的なアプローチですが、SNSならユーザーがユーザーに届けてくれると。
はい。個をつないでいくイメージです。ベストは、サービスの構造にそれを埋め込むこと。友達招待キャンペーンがそうですね。例えばメルカリの場合、娘が「洋服が売れてよかった」という体験を得たら「お母さんを招待しよう」とつながる。別に業界内で話題にならなくても、そうやってユーザーが広がっていくわけです。
——なるほど。その発想はスタートアップならではかもしれません。
はい。PRせずにステルス(事業を外部に公表せずに進めること)でやってる会社が最近増えているのも、情報の届け方としてそれが適切だからだと思います。
結局、ユーザーを見ているかどうか。僕は、SNSのその先に誰がいるのかを見ていて、Twitterのフォロワーならこれを書けば届くとか、Facebookの仲のいい人たちはこういう書き方なら伝わるかなとか、結果的にその人の顔を思い浮かべて書いていることが多いですね。
また、その延長線上の話ですが、いまクローズドな場所がものすごく求められていると感じています。例えばLINEのグループやFacebookのクローズドなオンラインサロンみたいなグループとか。そういう場所だから言えることがある。僕はインターネットはこの先、閉じていくのではないかと思っています。
——SNSにおいて、人とのつながりを強く意識しているイセさん。多くの人に見てもらうのではなく、SNSの先にいる1人ひとりの顔を思い浮かべながら書いているという言葉が印象的でした。SNSはオープンな場所というイメージですが、これからはクローズドな場所が求められているという指摘は、SNSのみならずインターネットでのコミュニケーション設計のこれからを予言する示唆に富んだ考察だと思います。

ゲスト:イセオサム氏(プレイ代表取締役)
学生起業を経て、2005年に日本テレビ放送網に入社し、AD、ディレクターとして映像制作に従事。その後、ネット広告代理店のオプトを経て2008年、HALOを共同創業。取締役COOとしてスマホアプリ事業を展開する。海外からのアプリローカライズや、「ボケて」などのアプリプロデュースで累計1000万DLを突破。文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門受賞。現在はプレイ代表取締役として企業のデジタル活用アドバイザー、オモロキおよびRoadieの取締役としてボケてのアプリと企業コラボを担当。社外取締役を務めるNAVICUSでは企業や自治体のSNSマーケティングをサポートする。複業をはじめとした新しい働き方を提示するオンラインサロン『ハイブリッドサラリーマンズクラブ』も運営。エンジェル投資先は10社ほど。
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