
- タレント個人のソーシングには限界がある
- 1号案件はタレントにビデオメッセージを依頼できる“日本版Cameo”
特定の領域に特化したファンドの設立が増えてきている。BEENEXTが2019年6月に組成したSaaS特化型ファンド「ALL STAR SAAS FUND」を筆頭に、2021年11月にはEnFiがゲーム特化型ファンド「EnFiグローバルイノベーティブテクノロジーファンド」、2022年1月にはANRIが気候変動・環境問題特化型ファンド「ANRI GREEN 1号」を組成している。
そうした流れに続くように、お笑い芸人や俳優、モデル、 アーティストなどのSNSアカウントのコンテンツ制作・運用、ビジネスモデル構築などを支援するFIREBUGが2月15日、新たにエンターテインメント特化型ファンドの設立を発表した。
ファンド名は「WONDERTAINER FUND(ワンダーテイナーファンド)」。運用規模はセカンドクローズ予定分を含めて約3億円を想定する。主な出資者にはエンターテインメント業界を中心にサービスを提供する企業、個人が名を連ねる。
具体的にはソーシャルゲーム会社のグリー、アーティスト・Aimerなどが所属するアゲハスプリングス、クリエイターエージェンシーのコルクのほか、個人ではお笑いタレントの田村淳氏、プロサッカー選手の槙野智章氏など13人だ。
投資対象は、タレントやアーティストなどの新たな表現や収益の場となるサービスを提供する企業、著名人やIP、事業会社などの連携によってグロースが期待できるサービスを提供する企業、エンターテインメントに関わるシード・アーリーステージの企業だという。
タレント個人のソーシングには限界がある
FIREBUGの設立は2016年2月。当初は30秒動画サービス 「30(サーティー)」を展開していたが、途中から現在のタレントのデジタル化支援の事業にピボット。これまでに、お笑いコンビ・よゐこや菊地亜美といったタレントなど著名人のパートナーとして、デジタルを起点としたIP開発・ビジネスモデル構築を支援してきたほか、いきものがかりを始めとするアーティストの活動プランニング、戦略に基づくコンテンツの企画・制作、ビジネス開発の支援などをしてきた。
タレントや芸能事務所のデジタル化を支援してきたFIREBUGが、なぜ新たにファンドを立ち上げることにしたのか。FIREBUG代表取締役CEOの宮崎聡氏はエンターテインメント業界の課題をこう口にする。
「日本のスタートアップ・エコシステムはエンジェル投資家やVC、CVCなど、資金の出し手が増えたことにより、この10年ほどですごく整備されてきたと思います。一方、日本のエンターテインメント業界に目を向けてみると、次世代のエンターテインメントをつくっていくような企業に資金がまわる仕組みがありません」
「ここ数年、タレントたちの活躍の場はテレビからInstagram、YouTube、TikTokなどのSNSに変わってきています。その流れはさらに加速し、今後ますますエンターテインメント業界でもデジタル化の重要性が高まっていくでしょう。そうした変化を踏まえたときに、エンターテインメント業界の第一線で活躍してきた個人や企業が、次世代のエンターテインメント業界を担うような企業に投資や支援を行う仕組みが必要だと思ったんです」(宮崎氏)

海外では、エンターテインメント業界の第一線で活躍してきたセレブがスタートアップに投資することは当たり前と言っても過言ではない状況になっている。
例えば、俳優のレオナルド・ディカプリオ氏はスニーカースタートアップの「Allbirds」や代替肉の開発を行う「Beyond Meat」に投資している。そのほか、俳優のアシュトン・カッチャー氏やプロテニスプレーヤーのセリーナ・ウィリアムズ氏はファンドを立ち上げ、数多くのスタートアップに出資している。
もちろん、日本にもそうした動きがなかったわけではない。田村淳氏はネットショップ作成サービスのBASE、プログラミング学習サービスのProagateに投資しており、歌舞伎役者の市川海老蔵氏は応援購入サービスのMakuakeに投資している。そのほか、プロサッカー選手の本田圭佑氏が2016年に自身のファンドKsk Angel Fundを立ち上げ、エンジェル投資を開始し、2018年には俳優のウィル・スミス氏とDreamers Fundを立ち上げている。
「例えば、田村さんは投資先のBASEが上場しており、一定のキャピタルゲインも得ています。もっとスタートアップに投資していきたいそうなのですが、ひとりでソーシング(投資案件発掘)できる量には限りがある。であれば、エンターテインメントとスタートアップの両方を支援してきたFIREBUGが間に入り、エンターテインメント業界の第一線で活躍してきた個人や企業から資金を預かり、その資金をスタートアップに投資していく仕組みをつくればいいと思いました。それで今回、ファンドを組成することにしたんです」(宮崎氏)
1号案件はタレントにビデオメッセージを依頼できる“日本版Cameo”
WONDERTAINER FUNDが1号案件として投資したのはレターファンだ。同社はタレントにビデオメッセージを依頼できるサービス「レターファン」を運営する、いわゆる“日本版Cameo”とも言えるスタートアップだ。Caemoの運営元であるBaron Appは2017年の設立から約4年で評価額は10億ドル(約1100億円)を超え、ユニコーン企業の仲間入りを果たしている。2020年の1年間で130万以上の動画メッセージが作成されたという。
「海外で盛り上がりを見せているCameoも近々、日本に上陸してくるはずです。ただ、日本のエンターテインメント業界には独自のルールもあり、芸能事務所がきちんとハンドリングできる形でないとサービスが成立しないと思います。その点、レターファンは独立した個人が事務所を通さないパターン、事務所が事前にチェックするパターンの両方に対応できる仕組みがあります」(宮崎氏)
そうした点が国内でタレントにビデオメッセージを依頼できるサービスを展開する上では強みとなり、日本ではCameoよりもポジションが取れる、と見込んでいるという。
WONDERTAINER FUNDの投資額は1案件あたり、平均で約1000万円。宮崎氏は「合計20社に投資できたら」と語る。投資先の中から、一定のトラクションを獲得する企業が出てきたら、そこにフォローオン投資していく予定だという。
「エンターテインメントに関わるシード・アーリーステージのスタートアップの悩みの多くはビジネス開発です。芸能事務所、レーベル、著名人などKOLとのネットワークがないことから、なかなかサービスの導入が進まず、伸びないまま終わってしまうこともある。WONDERTAINER FUNDでは資金提供だけでなく、これまでに培ってきた著名人、IP、事業会社とのネットワークも活用して、スタートアップの支援にも取り組みたいと思っています」(宮崎氏)
