飯髙悠太氏 ホットリンク執行役員CMO 広告代理店やスタートアップ企業で複数のWebサービス・メディアの立ち上げ、50社以上のコンサルティングを経験。2014年4月、「ferret」の立ち上げに伴いベーシックに入社後、「ferret」創刊編集長、執行役員を務め、2018年12月末に退職。2019年1月より現職となる。2019年よりホットリンクで執行役員CMO(マーケティング責任者)を務め、支援企業のマーケティング・SNSコンサルティングを実施。 提供:Agenda note
  • 営業として売上を上げる中で、常にあった違和感
  • インフルエンサー活用の正しい考え方とは

2019年8月に発売した著書『僕らはSNSでモノを買う』が4刷となり、ヒット中のホットリンク 執行役員CMOの飯髙悠太氏へのインタビュー後編。SNSを活用したマーケティングの課題から解決方法まで詳しく話を聞きました。(編集注:本記事は2019年10月28日にAgenda noteで掲載された記事の転載です。登場人物の肩書きや紹介するサービスの情報は当時の内容となります)
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徳力 飯髙さんは、20代の頃にFacebookマーケティングの事業で成功して手応えを感じて、そこから口コミで商品が買われていくようになった過程を実体験していますよね。その経験が現在の飯髙さんに大きな影響を与えていそうです。

飯髙 そうですね。ただ当時は、大企業から多くの広告費をいただいて「いいね!」を集めて、自分の営業成績は上がるんだけれど、「これで本当に正しいのかなあ」という疑問をもちながら働いていました。

 例えば、フォロワーを集めるために、広告を無作為に当てて「いいね!」してくれた人が本当の企業や商品のファンと言えるのだろうか。または、本当に消費者が動くのは、ユーザーが自発的に投稿した情報なんじゃないかと考え始めて…。

営業として売上を上げる中で、常にあった違和感

徳力 当時、なぜ違和感を感じることができたんでしょうか。例えば、ExcelでFacebook広告のCPA(Cost Per Action・顧客獲得単価)を追っていると、いつの間にかユーザーの感情を忘れてしまって、数字の改善が全てになってしまいがちですよね。

飯髙 うーん、なぜでしょうか…。ただ、CPAは売上に関わってくるので、その数字を追うことは、まだ理解できるんですが、CPF(Cost Per Follow・フォロー獲得単価)も同じように考えてしまうのが不思議だったんですよね。ファンになったからといって、そのままモノを買って売上に貢献するわけではないですし。

徳力 広告会社の立場でありながら、その感覚を持てたことがすごいですよね。クライアントから広告費をもらって仕事をしていると、どうしても「目の前の数字を上げてなんぼ」という意識になりがちじゃないですか。その罠にはまらなかったのは、なぜですか。

飯髙 それはハイベロシティにいた当時、私が自社プロダクトやオウンドメディアのマーケティングを担当するなかで、SNSの貢献度は短期的なコンバージョンだけではない、と分かっていたからかもしれません。

徳力 自社のマーケティングをしているから、KPI(key performance indicator)とKGI(Key Goal Indicator)のギャップみたいなものに気づいたんですね。

飯髙 ただ、そうした思いをクライアントに伝えても、なかなか分かってもらえなかったんです。そもそもファンという言葉も人によって定義が違いますし。

徳力基彦氏 アジャイルメディア・ネットワーク アンバサダー/ブロガー ピースオブケイク noteプロデューサー 提供:Agenda note

徳力 たしかにFacebookページ上のファンと、そもそもの企業やブランドのファンを同じと捉えてしまう人もいますよね。単に「いいね!」ボタンを押しただけなのに、これでファンが増えた、と。ある意味、うまく騙せばビジネスにしやすい時代だったと思います。

 その後に飯髙さんは、ベーシックに移ってWebマーケティングのメディア「ferret」の編集長に就任されますが、それはなぜですか。

飯髙 「ferret」はもともとSEOなどのサービスだったのですが、ベーシックの代表である秋山勝さんに会ったときに、それをピボットしたいという想いを伝えられて、僕も実体験として本質的なことを広告会社が提供しきれていないという違和感を持っていたので、メディアであれば世の中の多くの人が騙されずに、マーケティングの知識を一般化できるのではないかと考えました。

 僕は当時の年齢で、他の人よりも幅広い経験をさせてもらって、SNSの運営もメディアの育て方も理解していたので、ベーシックに移るのは、面白いと思ったんです。

インフルエンサー活用の正しい考え方とは

徳力 今まで伺った話は、企業の担当者はSNSのそもそもの活用方法を理解していないケースが多いという内容が中心でした。一方で、最近のトレンドとしてはSNSやインフルエンサーを活用してマーケティングをしようという流れも起きている感じはありますよね。

飯髙 そうですね。ただ、多くの企業は、インフルエンサーの活用自体が目的になっていると感じています。でも本来は、企業にとって必要なインフルエンサーが誰なのかを定義するべきなんですよね。

 また、インフルエンサーを起用することは否定しませんが、それだけでは、波をつくっては落ち着くということの繰り返しになってしまいます。普段から口コミが起きているのであれば、それをきちんと積層させて、インフルエンサーを起用して勢いづけると考えれば、いいのではないでしょうか。

徳力 やはり短期的な売上や配架、広告的なキャンペーンの指標で動いていているケースが多いからでしょうか。

飯髙 そうですね。企業は3カ年計画を立てても、どうしても直近1年や四半期ごとの数値ばかり見がちです。SNSはすぐに貢献する確率が低いんです。ただ、純粋な口コミが出てくれば、先ほどお伝えしたように、その山は基本的に下がりません。しっかり未来を見据えて投資をして、次のリターンを創造できるかという発想が大事なんです。

徳力 もともとマス広告で伸びてきた大企業の担当者が、その純粋な口コミを重要視する考えを社内に浸透させるとしたら、飯高さんであれば、どうしますか。

ホットリンクCMOの飯髙氏 提供:Agenda note

飯髙 大企業は、実績を重視すると思います。例えば、それがECサイトであれば、自分で簡単にアフィリエイトサイトをつくって、そのSNSアカウントを運営して結果を出して、できることを証明しますね。

徳力 たしかに、実際に売れていることを経験していない担当者が多そうです。

飯髙 はい。だから、こういう経験を積み重ねていくことが重要だと思います。自分の目で、SNSで物が売れることを見られたら、投資しない理由がないんですよ。

徳力 確かに、露出数だけ見てしまっている大企業の担当者は多いかもしれませんね。参考になる話をたくさんもらいました。ありがとうございました。