
与信サービスを作る際に必要となるシステム基盤やオペレーションを“ソフトウェア”として提供することで、さまざまな企業が消費者信用事業にチャレンジしやすい仕組みを作る──。
FinTechスタートアップのCrezit Holdings(以下 Crezit)では、そのような考えからプロダクト開発を進めてきた。
与信サービスの運営には強固なシステムや円滑な業務オペレーションの構築、ライセンスの取得などが必要となり、立ち上げるだけで金銭的・時間的な負担が大きい。そのため多くの企業にとっては参入のハードルが高い領域だったが、Crezitはそのために必要な基盤を「Credit as a Service(CaaS)」という形式でまるっと提供することにより、業界の構造を変えようとしている。
同社は新たにデライト・ベンチャーズ、Spiral Capital、千葉道場ファンドを引受先とする第三者割当増資により総額6.5億円の資金調達を実施した。この資金を活用して人材採用を強化し、CaaSの展開を加速させる計画だ。
豊富な顧客データや顧客接点を持つテクノロジー企業が、その資産を活用して新たに金融サービスを提供する流れが生まれ始めている。UberやLINE、メルカリなどがその一例だ。
“非金融系の事業者が既存サービスに組み込む形で金融サービスを提供すること”は「エンベデッドファイナンス」や「組込型金融」とも呼ばれ、日本ではまだその波が本格化するまでには至っていないものの、グローバルで注目を集める。
その流れに伴い、事業会社の金融サービス立ち上げを後押しするスタートアップが台頭。日本では証券と保険の領域で次世代金融インフラサービスを手掛けるFinatextホールディングスが2021年12月に東証マザーズへ上場した。
Crezitが開発を進めるCaaSは、与信の領域において事業会社の参入ハードルを下げるサービスだ。CaaSにはローンやクレジットサービスの運営に必要となる業務システム、消費者が直接触れることになるユーザーインターフェース、既存事業に合わせた形で金融機能を実装できるAPIプラットフォームなどが含まれる。
事業会社はこの仕組みを活用することで、自社でゼロから開発するよりもスムーズに、かつ低コストで自社ブランドのローンや分割払いサービスを始められる。


2021年8月には第1弾の取り組みとして、スキマバイト(単発アルバイト)のマッチングプラットフォーム「Sukima Works」を展開するスキマワークスとタッグを組み、ギグワーカー向けの融資サービス「SukimaCredit」を立ち上げた。他にも不動産ポータルサイトと初期費用の分割払い機能の開発に取り組むなど、水面下で複数のプロジェクトに取り組んでいるという。
当初はCrezitが貸し付け業務を担う形式からスタートしたが、その場合CaaSを広めていけばいくほどCrezitが多額の資金を調達しなければいけなくなり、事業拡大のスピードを損なう原因にもなりうる。そこで直近では事業会社だけでなく、金融機関との連携強化にも力を入れてきた。
2021年10月からはアコムとCaaSの導入および新規事業創出における業務提携に向けた協議を始めている。このような取り組みが実現すれば、Crezitはソフトウェアの開発により多くのリソースを投下し、貸し付け業務はパートナーとなる金融機関に任せるといったことも可能になる。
Crezitで代表取締役を務める矢部寿明氏によると、既存の金融機関にとっては従来のブランドとは別ブランドとして新たな融資事業に挑戦できる点が大きな価値になる。これは言わば「既存の金融機関がas a Service化する」ことを意味しており、ノンバンクや地方銀行などの金融機関がそこに興味を示しているのだという。
「当初は自分たちが大きくファイナンスをして、直接貸し付け業務をする方がいいのではないかとも考えていました。ただ今の日本の調達環境で、我々のような企業がいきなり100億円規模の資金を集めるのは難しい。そんな中で既存の金融機関の方々と話をしていると、本当はもっと(自分たちが)融資したい、それも自分たちの既存ブランドを出さずに、裏方の役割に徹しながら融資をしたいというニーズがあることを感じました」(矢部氏)