
- 販売先の検討・製造元の工場探しから着手
- ポイントは「すぐにどんな商品なのかがわかる愛称」
- SNSでの拡散力を高め、月1万円のマーケティング費用のみで売上を伸ばす
- 「バズる」から商品購入・ファン創出へつなげるための情報設計
- 「ちょっと手を伸ばせば買える」プレミア感を強化したい
ヒットするモノには必ず理由がある──その裏にある法則を、若年層女性向けSNSメディア「Sucle(シュクレ)」やSNSマーケティング事業を展開するFinT代表の大槻祐依氏がひも解く連載「令和のモノの売り方」。
今回、大槻氏が話を聞いたのは、ランジェリーブランド「BELLE MACARON(ベルマカロン)」を展開するashlyn代表の小島未紅氏。主力商品であるノンワイヤーブラ「24hブラ(にじゅうよんえいちぶら)」は自社ECサイトのみでの販売にも関わらず、2021年6月にはシリーズ累計1万枚を突破。“おうち時間”の増加も相まって、2019年と比較して販売数は4倍超となっている。また、2021年7月には日商2000万円の売上を記録するなど、SNSを中心に、女性たちから支持を集めている。
商品が売れ始めたきっかけは、小島氏のあるツイート。そこから見出した「ヒットの法則」とは何だったのか。
販売先の検討・製造元の工場探しから着手
大槻:ここ数年で立ち上がったD2Cブランドでも、日商2000万円の売上を立てているところはそうそうありません。小島さんはもともとエンジニアで、アパレル未経験ながら「BELLE MACARON」を立ち上げています。最初は何から始めたんですか。
小島:私はIT企業のエンジニアとして働き続ける中、ブラジャーに悩みを感じるようになり、2016年5月にashlynを立ち上げました。社会人になるとブラジャーの着用時間は長くなります。従来のブラジャーは補正力はありますが締め付け感もあるため、長時間の着用には適していません。
結果的にブラジャーを着用するのがストレスになっていたんです。2016年当時、ユニクロのノンワイヤーブラがすでに人気でしたが「長時間着用できる×かわいい」という切り口のものはまだなかった。「だったら私が作ろう」と思ったんです。
IT企業を退職した後は、派遣社員や業務委託のエンジニアとして週3日働くことで生計を立てながら、ブランド立ち上げの準備を進めていきました。
ブランドを立ち上げるにあたって、まずは「販売先の検討」「製造元の工場探し」の模索から始めました。「販売先の検討」では、大手ECサイトやショッピングモールを考えていたのですが、自分が理想とするブラジャーの開発をしていたら、どんどん細部へのこだわりが強くなっていき、モールなどへの出店費用と商品の価格帯が合わなくなったんです。
例えば、楽天市場では下着の上下セットは安いもので2000円、平均価格は4000円ほどですが、BELLE MACARONの商品は8000円ほど。知名度もない中、むやみに商品を出しても埋もれてしまう。そうしたこともあり、自社ECサイトを立ち上げることにしました。
大槻:「製造元の工場探し」はどうでしたか。
小島:最近は、どこのブランドでも商品開発にOEM(Original Equipment Manufacturer、納入先商標による受託製造)を取り入れています。つまり、企画さえ持っていけばデザインやパターンも含めて製造してもらえるんです。昔よりもオリジナル製品をつくるハードルが低く、BELLE MACARONも製造自体はスムーズに進められました。
難しかったのは、私自身にアパレル経験がなく「何がいいのか」を決めきれなかったことです。200万円の自己資金をもとに、1色200枚程度の初期ロットを発注。出来上がったサンプルを着用してフィット感などを確認し、そこから細部をを修正し、完成度を高める。そうしたことを繰り返していき、半年以上の時間をかけて24hブラの前身となる「働く女性のためのおしゃれなノンワイヤーブラ」のプロトタイプが完成しました。

そこで2017年1月にノンワイヤーブラの制作プロジェクトを立ち上げ、クラウドファンディングを実施しました。初期ロットはクラウドファンディングで売り切ることができ、7月に自社販売サイトを立ち上げ、ようやく正式に販売することができました。しかし、最初は全く売れませんでした。
そこから素材の90%以上にストレッチ素材を使用したり、胸の横流れを防ぐパワーネットパネルを使ったり、ズレを防ぐカーブ設計など細かなアップデートを重ねていったんです。また、トルソー(マネキン)を使って開発したら、実際の胸と着用感に違いが出ることが分かり、それ以降すべて実際の体を使ってフィッティングなどを調整していきました。そうしたアップデートを重ねて、2018年11月に「24hブラ」が誕生しました。

ポイントは「すぐにどんな商品なのかがわかる愛称」
大槻:振り返ってみて、ヒットのポイントはどこにあると考えていますか。
小島:まずは、ネーミングだけで「どんな商品なのか」をわかるようにしたことです。24hブラは、その名のとおり「24時間つけていて心地がいいブラジャー」。こうした一発で商品の特徴がわかるキャッチコピーが、SNSとの相性がよかった。2018年11月の販売時にプレスリリースを出し、その後、2019年2月にInstagramを本格的に稼働。24hブラのビジュアルや特徴を積極的に発信していきました。
大槻:わかりやすいキャッチコピーが競争力になる、と。
小島:特徴がわかりやすいものだと、なおいいですね。24hブラはOEMで製造してはいますが、私としては、こだわりが10個以上ある商品でもあります。
大槻:商品力はもちろんのこと、それをしっかり伝えるのも大事ですよね。今の時代はさまざまな情報が飛び交っていて、顧客にとっても「おいしい」「使い心地が良い」だけでは良さが分かりません。「何のための商品なのか」まで言えないと難しいと思います。大手企業のように資本力のないブランドの戦い方として、本当に顧客が買ってくれるきっかけとなる情報を提供するのは必須ですよね。

小島:同感です。私の仮説ですが、多くの顧客が自然に商品を発見し、「ここが魅力だ」と発信してくれることは、ほぼありません。コンビニのお菓子でも「◯本入っている」「コクがある」などの情報を知った上で食べて「おいしいからおすすめ」となる。そうやって関連情報を含めることで、顧客の理解が深まります。
24hブラは、パンフレットだけでなくTwitterなどSNSアカウントの基本情報にも詳細や商品写真を必ず掲載しています。顧客にとっても、気になる商品をチェックしに来たのに情報量が少ないとシェアする気持ちになれません。情報設計は大事なんです。
SNSでの拡散力を高め、月1万円のマーケティング費用のみで売上を伸ばす
小島:24hブラがヒットする転機になったのは、Twitterです。当初は、アパレルとの相性がいいことからInstagramを頑張るつもりでした。でも、当時の24hブラは4色しかなく、写真のバリエーションを出せなかった。ブラジャーの商品写真以外でも、バストの豆知識などを発信してみましたが、ビジュアル勝負のInstagramではうまくいきませんでした。
であれば、Twitterでもやってみようと思い、私の個人アカウントを使ってハウツー系のコンテンツを投稿してみました。そうしたら「ブラジャーの干し方」を紹介したコンテンツが1.6万リツイート、4.8万いいねを記録するほどバズり、その日のうちに24hブラは10万円もの売上を記録しました。
ブラジャーの干し方で悩むのは今日で最後にしましょうか😊
— こじみく👙24hブラのプロデューサー (@milkonPANDA) March 25, 2019
男性のみなさまも脳裏に焼き付けておいてください😊 pic.twitter.com/iJBHRQqVIF
このときに感じたのは、TwitterなどのSNS経由やユーザー生成コンテンツ、クチコミなどを通じた方が、売上につながりやすいということ。メディアで紹介された場合、商品を見た人を中心に10万円売れたとしても、そこから広がりにくい。でもSNSでは最初に買ってくれた10人の顧客からさらにユーザー生成コンテンツ、クチコミなどが広がっていき、売上とともにリピーターも増えるんです。それがわかってから、24hブラは2年半かけてTwitterを中心にエンゲージメントを高めてきました。
大槻:SNSにはクリエイターの想いを伝えやすいメリットがあります。そうした利点を活用できているんですね。今もTwitter経由が多いんですか?
小島:9割がTwitter経由です。Twitterは文字ベースなので、Instagramのように「写真にバリエーションがないと勝てない」わけではありません。
24hブラにはこだわりが多く、商品の細部だけでなく工場での製作過程の裏側など発信できる情報はたくさんありました。最近ではTikTokでも発信を始めています。Twitterと似ていて拡散力があると聞いていたので「どんなものだろう」と思い、24hブラを作っている風景を流してみたんです。そうしたら、2万3000回再生までいきました。
アパレルとInstagramは相性がいいと言われますが、それは写真にバリエーションを付けられるからこそです。大切なのは自社ブランドとSNSとの相性の見極め。24hブラの場合、リツイートなど拡散力があるTwitterやTikTokとの相性が良かったんです。おかげで、今も月に1万円のマーケティング費用のみで売上を伸ばすことができています。
「バズる」から商品購入・ファン創出へつなげるための情報設計
大槻:昨今ではバズること自体が難しく、また話題になり続けることも簡単ではありません。24hブラは、そのあたりの工夫をどうしているんですか。
小島:情報設計をしっかりすることですね。でも、ブラジャーを投稿してもらうのはハードルが高い。そのため、24hブラはSNSにアップしたくなるようなラッピングにしています。
大槻:今も小島さんの個人アカウントでSNSを運用していますよね。24hブラの公式アカウントは使わないのでしょうか?
小島:公式アカウントの場合、発信内容が機械的になったり、リリース情報になったりしがちです。それに24hブラは私以外にスタッフがまだいないため、「中の人」の感じも出せない。それなら、私自身がやったほうがいいと思ったんです。生産者の顔が見えたほうが、顧客には安心していただけます。
大槻:海外ではインフルエンサーマーケティングが主流です。日本でも一時は話題でしたが、今では大々的すぎると「結局PRじゃないの」と受け取られることもあり、難しいですよね。

小島:大槻さんが言うように、今は情報が多すぎて「何を買えばいいのかわからない」状態にあると私も思っています。それにインフルエンサーと呼ばれる人たちより、フォロワー数が200人にも満たないマイクロインフルエンサーの発言のほうが重視されています。ユーザー生成コンテンツも、そういった人たちを中心につくられ、売上につながっていますね。顧客のリテラシーも上がっているんです。
また、ネット上ではお互いの顔が見えないので不信感も募りやすい。私としては、起業当初からお客様には「接客を直接受けているような感動や体験」を感じてもらうことを追求してきました。SNSとはいえ、コメントを返すときも「お客様個人」に対して接していますし、公式LINEも24時間以内に返信しています。
「ちょっと手を伸ばせば買える」プレミア感を強化したい
大槻:今後、より力を入れていきたいところはどこですか。
小島:今はまだ私1人で事業をしていることもあり、どうしても手作り感が出てしまいます。顧客の中には自分の声が反映されるところに喜びを感じる方もいらっしゃいます。ただ、顧客全員の声を拾い上げるには限界がある。それに、あまり情報を出しすぎたり、知られすぎたりするとサプライズが減ってしまいます。バランス感覚が難しいです。

SNS上では「ちょっと手を伸ばせば買える」ようなプレミア感あるものほど自慢したくなり、シェアされやすい傾向があります。日曜日と月曜日しか販売せず、すぐに売り切れてしまう(チーズケーキのD2Cである)「Mr. CHEESECAKE」は、そのいい例ですよね。
おいしさはもちろんのこと、ブランドの世界観にもプレミア感があり「買えたよ」とツイートしたくなるイメージが成立しています。24hブラは、まだその立ち位置にたどり着けていないんです。
24hブラも生産体制がだんだん追いつかなくなり、次第に「(買えない)幻のブラ」と言われるようになりました。当時は焦りましたが、(今振り返ると)結果的にはプレミア感が出たように思います。顧客がすぐに買える状態が望ましいので、今後は生産体制も強化していければと思っています。
大槻:では、今後は事業を拡大しつつブランド強化もしていくということですか。
小島:年商が1億円近くまで伸びています。24hブラを販売してから、短期間で売上を伸ばすことができたのは前述したプレミア感に加えて、実際に購入してくれた人の熱量の高い口コミが話題を集めたことが大きかったと思います。
また、顧客のリアルの声を受け取りながら、商品の改良や新商品の企画に繋げるなど、顧客と一緒にブランドを育てていった点も大きかった。こうしたブランドとしての軸はブラさずに引き続き、売上を伸ばし、ランジェリーブランドとしての基盤を固めていきたいですね。
同時に、事業規模が大きくなると顧客とのコミュニケーションの密度が下がってしまいます。そこで考えているのが、インスタライブだけでなくポップアップなどで顧客と直接やりとりし、コンセプトを伝えていくこと。そうやって、顧客との距離を縮めていきたいです。
