Photo:ChakisAtelier/gettyimages
  • Web3が登場する以前の課題とは?
  • トークンを所有することでユーザーがデータを制御できる
  • ウォレットでアクセスするシングルサインオン
  • クリエイターはNFTで新たなビジネスを生む
  • 利用料も投票権も「トークン」に──サービスをユーザーが所有するということ
  • DAO:透明性を持って運営される組織

Web3(またはWeb 3.0)についてはすでに多くのところで話題になっています。ブロックチェーンを基盤とした新しいウェブのかたちについて多くの解説記事が出ていますが、その理解を深めるためには基礎から学べるように、もう少し丁寧な解説が必要だと考えました。

これまでとは異なるアーキテクチャーを持つこの新しいウェブがどんなものなのか、さらに一歩踏み込んで、前後編に分けて解説してみます。まず前編となる本稿では、Web3登場以前の課題と、それをWeb3がどのような方法で解決しようとしているのか、探ってみましょう。

Web3が登場する以前の課題とは?

Web3が生まれた背景やその定義については、インターネットの歴史を交えてすでにたくさんの説明があるので、ここでは簡単に触れておくだけにしておきます。

Web3は、ブロックチェーン・Ethereumの共同創設者で、その後Web3 Foundationを立ち上げたギャビン・ウッド氏が2014年に定義しました

ウッド氏はエドワード・スノーデン氏が告発した米国政府によるソーシャルメディアの監視などに対抗する手段として、ブロックチェーンを基盤としたウェブの構築について定義をしています。ただ、もっと現代的に解釈するのであれば、ベンチャーキャピタル・Andreessen Horowitz(a16z)のパートナー、クリス・ディクソン氏が定義した言葉がわかりやすいでしょう。

すなわち、Web3とは「開発者とユーザーが所有するインターネットのことで、トークンを使って編成されるもの」で、ブロックチェーンを使って実現されます。

Web3の重要性は、2005年以降にWeb 2.0のアイデアを突き詰めていった結果、GAFAに代表される巨大なインターネット企業が生まれたこととの対比で浮かび上がります。そもそもインターネットは分散型のネットワークでさまざまなコンピュータがつながることで、無数のコンピュータがそれぞれの機能を提供することを想定して作られていました。

この仕組みは今も変わっていないのですが、プラットフォームとなった企業は(それが儲けにつながるため)ユーザーに最適な機能を提供しようとするあまり、個人情報を含むさまざまなデータを集めて集中化させるようになりました。結果、情報を一極集中させたサービスを提供する巨大インターネット企業の誕生につながっています。

巨大インターネット企業の何が問題かといえば、(1)プラットフォーム上でユーザーが保持するデータの扱いの不透明さ、(2)プライバシー情報の収集による過度な利用や情報漏えい、(3)プラットフォーム上で活躍するクリエイターへの還元の少なさ、(4)競合排除による市場イノベーションの欠如、といったような点でしょう。

ではなぜ、トークンによってこれらの問題が解決できるのでしょうか。

トークンを所有することでユーザーがデータを制御できる

クリス・ディクソン氏の言う「ユーザーが所有する」の意味には2つあると考えられます。

1つは、トークンそのもの、すなわち、ビットコイン(BTC)のような暗号資産や代替可能なトークン(ファンジブルトークン、FT)と非代替性トークン(ノンファンジブルトークン、NFT)をユーザーが所有することです。この両トークンの実装はブロックチェーンによって実現されます。

トークンはインターネット上の財産となるようなデータを表し、複製できるものではなく、われわれが実生活でやりとりするような、ほとんどのものを表現できます。たとえば、「お金」「メタバース上の土地」「ゲームで使うアイテム」「ブログのポスト内容」「映画や音楽や本などのコンテンツ」「契約書や許可証」などなど、ほかにも思いつくものはたくさんあります。

これまでのウェブでは、そのサービスで扱うデータは、たとえユーザーが投稿したものでもサービスを提供する企業によってどう扱うかを決定することは可能です。

一方、Web3のサービスでは、ユーザーのデータはブロックチェーン上に置かれるため、サービスで扱うデータはサービスから独立したものとなり、どのデータを使うかをユーザーが選択できるようになっています。

例を挙げてみましょう。

過去にあるサービスにおいて、罰則規定にともなってユーザーアカウントを削除された人がいました。その罰則とは直接関係ないにもかかわらず、同じアカウントで購入した電子書籍が読めなくなってしまいました。

もしWeb3のサービスとして購入した電子書籍がトークンとなっていたら、アカウントの削除と関係なくユーザーは購入した電子書籍を読めるようにできるし、場合によっては、購入した電子書籍を自由に売ることすらできます。

このようにサービスで使うデータをユーザーが所有するトークンとして扱うことで、データ自体をユーザーが制御できるようになるのです。

課題1:
プラットフォーム上でユーザーが保持するデータの扱いの不透明さ
解決方法:
データをトークン化すればユーザーはプラットフォームと関係なく自身で制御できる

ウォレットでアクセスするシングルサインオン

ウォレットを使ってWeb3.0のアプリケーションにシングルサインオンでログインする。アプリケーションを動かしたり、送金したりするには都度ウォレットで認証する必要がある。ウォレットには保持しているトークンが表示されているが、実際にはブロックチェーン上に記録されたトランザクションに過ぎない
ウォレットを使ってWeb3.0のアプリケーションにシングルサインオンでログインする。アプリケーションを動かしたり、送金したりするには都度ウォレットで認証する必要がある。ウォレットには保持しているトークンが表示されているが、実際にはブロックチェーン上に記録されたトランザクションに過ぎない

ブロックチェーンの仕様上、そもそもトークンを扱うためにウォレットというツールが必要になります。ウォレットはユーザーに固有に割り振られたブロックチェーンのアドレスを持ち、ウォレット内にはアドレスに対応した秘密鍵がしまわれています。

トークンはブロックチェーン上に記録されたデータにしか過ぎません。そのデータにアクセスして制御するのが秘密鍵です。

Web3のサービスを使うために、ユーザーはこのウォレットを使ってシングルサインオンでアクセスすることになります。

この仕組みを使えば、サービスにアクセスするのに個人のメールアドレスやパスワードを準備する必要はありません。加えてサービスに必要なデータにのみアクセスできるようにするといったことができます。

課題2:プライバシー情報の収集による過度な利用や情報漏えい
解決方法:
ウォレットでログインすることで不必要に個人情報を渡さずに済む

クリエイターはNFTで新たなビジネスを生む

非代替性トークン、つまりNFTは2021年の流行語大賞にノミネートされるほどメジャーになりました。このNFTこそクリエイターにとってインターネットのビジネスを変える可能性を持つものだと関係者は言います。

クリエイターは、これまでのウェブのプラットフォームでは無料で作品を公開するか、あるいはわずかばかりのお金で作品を公開する、もしくは実際の「モノ」をECで販売するぐらいしか、インターネット上でお金を生む方法はありませんでした。

しかし、NFTによって作品を公開することで、デジタルな世界でも直接その作品を販売できるという手段ができたのです。すでに世界最大のNFTのマーケットプレイスであるOpenseaでは取引量が1日1億ドルを超え、2月1日には約3億6000万ドル(約415億円)もの取引を記録しました。最近では億単位のフィッシング事件も起こり、別の意味でも注目を集めました。

また、NFTでは単純にファンに作品を売るだけ以上のことが提供できます。たとえば音楽著作権のNFTを販売するRoyalでは、ファウンダーでEDMアーティストの3LAU(ブラウ)をはじめ、ラッパーのNASなどの楽曲のNFTを販売していますが、このNFTには購入者がその曲のストリーミングの配信で得られたロイヤリティを受け取れる権利が付与されています。

NFTは単に作品を販売するためだけのものではありません。クリエイターのファンによるコミュニティーのアクセスパスのようなものも提供できるなど、NFTの使い道は多様です。

今後はプラットフォームに縛られないクリエイター向けの新たなビジネスが、Web3の進化によって登場してくると考えられます。

課題3:
プラットフォーム上で活躍するクリエイターへの還元の少なさ
解決方法:
クリエイターはコンテンツやファンとのコミュニケーション手段としてNFTを直接ファンに販売できる

利用料も投票権も「トークン」に──サービスをユーザーが所有するということ

ここまではトークンそのものを所有することによるメリットを紹介してきましたが、クリス・ディクソン氏が説明する、もう1つの「所有」について紹介したいと思います。

Web3で提供されるサービスの多くは、そのサービスに関連した独自のトークンを発行しています。

この独自トークンは、そのサービスの利用料を支払うために使われたり、あるいはサービスの重要な決定についての投票権として利用されたりします。特に後者の機能を持つトークンを「ガバナンストークン」と呼びます。

例を上げると、暗号資産同士を交換する機能を提供するWeb3の代表的な「Uniswap」というサービスがあります。Uniswapは2020年9月にガバナンストークンの「UNI」を発行し、開発者や投資家などにUNIを配布しています。このとき、それまでUniswapを使ったことがあるユーザーにも1人あたり400UNIを配布しました(厳密には1アドレスごとの配布)。

UNIを使うとUniswapの運営に参加することができます。運営に対する議案に賛成や反対の投票をすることができますし、一定量のUNIを保有していれば議案を起案することもできます。つまり、ユーザーがガバナンストークンを保有することは、サービスの行方をユーザーが左右できるということです。

Uniswapのようなサービスでは、特定の誰か(例えばサービスを立ち上げた会社やその株主)の意思によってサービスの機能を意図的に変えられるようにするのではなく、ユーザーに配るなど幅広くガバナンストークンを広めようとしています。

また独自トークンは、Bitcoinブロックチェーンの通貨・ビットコイン(BTC)やEthereumブロックチェーンの通貨・イーサ(ETH)のように最終的には市場で取引されて値段がつくことが想定されています。このためUNIの配布は開発者や初期ユーザーに対するインセンティブにもなります。初期ユーザーへの配布時(2020年9月)は1UNIあたり4ドル、400UNIで1600ドルの価値がありました。1600ドルももらえるなら、それだけでもうれしいと思いますが、その後、価格は10ドル程度(2022年2月13日現在)まで上昇し、今では4000ドル相当の価値になっています。

自分が所有するトークンの価値が上がることがわかっていれば、ユーザーはサービスの発展に貢献するような活動を行うようになります。間違った方向に行かないために投票することはもちろん、たとえば、積極的にそのサービスの宣伝をするといったこともするでしょう(実際、トークンの配布はプロモーション目的でも使われています)。

トークンを通じて開発者やユーザーがサービスを所有するということは、サービスの自発的な発展を促すことにつながるのです。

課題4:競合排除による市場イノベーションの欠如
解決方法:
サービスの運営方法を透明にして、ユーザーや開発者がサービスの方向性を決定できる

DAO:透明性を持って運営される組織

Uniswapのようにユーザーや開発者などが、管理者を置かずに共通のルールに従ってガバナンストークンを使って調整を試みる組織をDAO(Decentralized Autonomous Organization、自律分散型組織)と呼びます。

DAOはこれまでの会社組織に対抗するものとして考えられています。それは、ヒエラルキーのないフラットな組織で、ブロックチェーン上のプログラムで実装されたルールに従って、労働者が個々に働く組織として定義されています。最終的には労働者の働きに応じてブロックチェーン上のプログラムから労働者に自動で報酬が支払われることまでを想定しています。

DAOの概念

Web3ではそのサービスの運営をDAOが行うことは珍しくありません。なぜなら、特定の誰か(企業や権力者など)がサービスを管理していると、その人の意向でユーザーや開発者の意図しない変更が加えられてしまうかもしれないからです。したがって、ガバナンストークンの投票によってDAOが運営される場合は、誰かに偏らないようにトークンを分散化させることが重要になってきています。

ブロックチェーン開発者の間では「ディセントラライズ(decentralize)」、つまり分散化、非中央集権化と表現しますが、ブロックチェーンには誰かに権限が集中しないようにする仕組みが設計上、取り入れられています。たとえば、特定の誰か(コンピュータ)がその仕組みを管理するのではなく、多くのコンピュータが参加することによって特定者の意思を排除することで、ブロックチェーン上のやり取りの信頼性が高まります。

また同じく「トラストレス(trustless)」という言葉もブロックチェーン開発者の間で使われます。これは信頼がないということを意味しているのではなく、信頼をしなくてもよいようにすることを意味しています。すべてがオープンになっているブロックチェーンでは、仕組みやソースコードを検証すれば、誰かを信頼することなしに、正しく振る舞う仕組みを目指しています。

DAOはこういったブロックチェーンの設計思想を組織にまで落とし込んだものと言えるでしょう。

ただ、実際にはここで掲げるような思想まで徹底されたDAOは存在していません。DAOの運営はまだ試行錯誤の段階だと思われますが、Web3での組織運営の方法として注目されていることは間違いありません。

後編では、Web 2.0とWeb3とのアーキテクチャーの違い、Web3のサービスやプロジェクトの収益の考え方、そしてこれからのWeb3について解説します。