• 過去全ゲーム中で歴代5位の高評価「97点」
  • ヒット作続きのゲーム開発会社、フロム・ソフトウェア
  • 超高難易度ゲームであっても「名作」と呼ばれる理由
  • プレイして分かる『ELDEN RING』の本当の魅力
  • ネットを通じて自分以外の冒険者の“存在”を感じる

ウクライナ情勢の悪化で2月20日頃から下がり続けていた株価は、2月24日の軍事侵攻開始によりさらに急落(例:トヨタ自動車は2月9日の終値が2317.5円、3月4日の終値が1974円)。こんな状況下でも、株価を急上昇させた銘柄が2つあった。

それはKADOKAWAとバンダイナムコホールディングス(バンダイナムコHD)だ。KADOKAWAは2月22日の終値が2461円だったが、2月25日の終値は2753円となり、3月4日時点での終値は2880円まで上昇。同じくバンダイナムコHDは2月22日の終値が7650円だったが、2月25日には終値8439円まで上昇。3月4日時点の終値は8747円となった。

この2社に共通していることは、2022年2月25日に発売されたゲームソフト『ELDEN RING(エルデンリング)』の発売元であるということ。KADOKAWAは、開発と日本国内向けの販売元であるフロム・ソフトウェアの親会社だ。バンダイナムコHDは、日本以外での海外向け販売を担当している。つまり、株価にもインパクトを与えるほどの影響力を持ったゲームソフトが発売されたということだ。

ファミ通.comの発表によると、初週売上(2022年2月21日~2022年2月27日)はPS4版が18.8万本で、PS5版が9.0万本。PS4/5の合計で27.8万本となった。

この数字は、PS4/5版ソフトとしてはかなり多い部類に入る(例:その前週発売だった話題のタイトル『Horizon Forbidden West』は、PS4版が4.8万本、PS5版が4.3万本だった)。なおこのランキングは店頭販売分をカウントしたものなので、ダウンロード版しか販売していないXbox OneおよびSeries X|S版、Steam版は対象外だ。

過去全ゲーム中で歴代5位の高評価「97点」

海外の人気ゲーム・エンタメサイト「metacritic」では、ゲームメディアのレビュアーたちが先行プレイした結果の評価を40サイト以上集計した評価ポイント(100点満点)を掲載している。PS5『ELDEN RING』のメタスコアは97点だった(Steam版は95点)。

100点満点で97点というだけで高い評価であることは伝わると思うが、97点というスコアは『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド(ゼルダBotW)』と並ぶ歴代5位タイとなる。

PS4/5やXbox One、Xbox Series X|S用ソフトとしては初の97点評価と、まさに「ゲーム史に残る名作」レベルの超高評価が与えられた。

ヒット作続きのゲーム開発会社、フロム・ソフトウェア

大型汎用コンピュータ向けソフトを開発していたフロム・ソフトウェアがゲーム開発を始めたのは、PlayStation専用ソフト『キングスフィールド』(1994年発売)と『アーマード・コア』(1997年発売)に端を発する。PlayStationの特徴だった3Dポリゴンを駆使し、『キングスフィールド』では一人称視点のアクションRPGを。『アーマード・コア』では三人称視点のロボットシューティングをそれぞれ発売し、どちらも人気シリーズとなった。

同社の転機となったのは、2009年に発売した『Demon's Souls』。日本国内はソニー・コンピュータエンタテインメント(現:SIE)、海外市場向けにはバンダイナムコゲームスが販売を担当したこのゲームは、世界で170万本というヒットを記録した。そのゲームの最大の特徴は、ファンからは「死にゲー」とも呼ばれる超高難易度設定。このゲームをクリアすること自体が、ゲームの腕前を証明するステータスになったのだ。

この難易度を踏襲し、国内向けのみ自社販売へと切り替えた続編的タイトル『DARK SOULS』は1作目が世界合計で230万本を出荷。うち37.5万本が日本国内市場での出荷本数だ(『DARK SOULS II』発表会にて公表)。2作目は世界合計210万と横ばいだったが、3作目では前作の5倍近い1000万本の大ヒットを記録した。

『Demon's Souls』と同様にSIEが販売した『Bloodborne』は、『DARK SOULS』シリーズとの差別化のためか19世紀ヴィクトリア朝をベースにした世界観を採用し、210万本(うち、日本国内は20.1万本)を出荷したと、2015年のPlayStation Media Previewにて発表している。類似のシステムを採用し、戦国時代末期の忍者を主人公にした『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』も、世界合計で500万本を出荷した。

このように『Demon's Souls』以降、一貫して高難易度のゲームをヒットさせてきたフロム・ソフトウェアが作るゲームは「難易度は図抜けて高いが、クリアできた時の達成感は最高」という評価を確立していった。

最新作『ELDEN RING』はそんな大ヒットソフト『DARK SOULS』シリーズに近い、中世ヨーロッパ的ダーク・ファンタジー世界が舞台の新しいゲーム性を持った作品だ。それに加えて世界観構築には小説『氷と炎の歌』著者のジョージ・R・R・マーティン氏を起用している。『氷と炎の歌』は8シーズンにもおよぶ人気テレビドラマシリーズとなった『ゲーム・オブ・スローンズ』の原作と言えば、聞き覚えがあるのではないだろうか。

こうした背景もあり、『ELDEN RING』は制作発表の段階からファンの間で「約束された神ゲー」と呼ばれ、『DARK SOULS III』超えの注目を浴びていたのだ。

超高難易度ゲームであっても「名作」と呼ばれる理由

映画をはじめとする映像コンテンツの場合、「不朽の名作」と呼ばれる作品は万人向けのものが多い。ところがゲームの場合、必ずしもそうとは限らない。その理由はずばり、ゲームソフトは受動的に観る作品ではなく、能動的に操作する必要があるコンテンツだからだ。

もう少し、具体的に説明しよう。

ゲームメディアの記者など、いわゆるゲーム業界の識者が「このゲームは素晴らしい」と絶賛したとしよう。それはゲームが得意で、より斬新なゲームを求めている人にとっては「過去最高の名作」という評価になるかもしれない。でも、そのゲームの難易度が驚くほど高く、初中級者がまったく楽しめなかった場合はどうなるだろう。

映像作品なら、あまりに難解な場合は「傑作ではあるが、観る人を選ぶ」「一度観ただけでは理解できなかった」などの評価も多くなる。しかしゲームの場合、特にゲーム好きの人々が「難し過ぎる」「自分には無理だった」というギブアップ宣言をするケースは少ない。「自分のゲームの腕前が低かった」と思われたくないプライドもあるのか、難易度に関するネガティブな感想は聞こえてこない。ゲームの紹介などを行うメディアの人間であれば、なおさらだろう。

難易度の高さを示すデータがある。PS4のソフトには全プレーヤーの進行度合を確認する「トロフィー」という機能があるのだが、ソフト発売の翌日(2月26日)17時の段階で1体目のボスを倒せたのは全プレーヤー中の22.4%。2体目のボスに至っては6.3%だった。これだけ話題を集めるソフト。ゲーム実況をするYouTuberの中には「クリアするまで寝ません」と豪語する者もいる中で、この結果である。参考までに、『ELDEN RING』の前週に発売されたビッグタイトル『Horizon Forbidden West』のトロフィー取得率を紹介すると、1つ目が88.3%で、2つ目が73.0%だった。PS4のゲームソフトにおけるトロフィー取得率はこれくらいが一般的だ。それにもかかわらず、『ELDEN RING』のネット上の声は絶賛ばかりである。

あまりに低いボス突破率を見かねてか、発売元のフロム・ソフトウェアが発売翌日に、(おそらくは想定外で)「ゲーム序盤のTips」ページを公式ウェブサイトに追加したことは興味深い。さらに、すでにボスを討伐した人はこれから挑戦する人へ手を貸す人が多く、熟練の共闘者が急増。結果、1体目のボスを倒せた割合は22.4%から、わずか1週間で62.8%へと急上昇したのも面白い。

要素が非常に多いゲームなので、チュートリアルを流し見してゲームを進めてしまい、詰まった人にとって役に立つコンテンツが掲載されている
要素が非常に多いゲームなので、チュートリアルを流し見してゲームを進めてしまい、詰まった人にとって役に立つコンテンツが掲載されている

この難易度設定については、アメリカ市場の特殊性も大きく関係している。たとえば日本とアメリカとで家庭用ゲームの売上を比較すると、アメリカは日本の3倍近く大きい。つまりは日本市場でヒットを狙うよりもアメリカ市場でヒットした方が販売本数が増えるため、日本生まれのゲームソフトでも北米市場向けに方向転換したゲームは『バイオハザード』シリーズや『ストリートファイター』シリーズをはじめとして数多くある。それに英語版ソフトを作っておくだけで、英語を公用語として使っているイギリスやオーストラリア、カナダなどでも販売できるという副産物もあるので、なおさらだ。

ただしアメリカ市場にはゲームソフトに限らず、購入した商品は開封後でも返品が可能という商習慣がある。ゲームソフトの場合はレシートがあり、パッケージと中身がそろっていれば、1週間(期間はショップごとに異なる)以内であれば全額返金されるというものだ。ゲームソフトを返品されたショップはゲームメーカーへ返品するため、リスクを負うのはゲームメーカー側だ。

そこでアメリカのゲーム業界が選んだ販売戦略は、「1~2週間ではクリアできないくらい、歯応えのあるゲームを作ること」。そう聞くと、ここまでの説明がふに落ちるのではないだろうか。世界市場向けのゲームソフトの販売本数報告が「出荷」本数をベースとしているのは、こうした返品本数をカウントしていないことも関係している。

プレイして分かる『ELDEN RING』の本当の魅力

ビジネスとして見た『ELDEN RING』の話だけではなく、ゲームソフトの内容についてもお話しよう。

本作は『DARK SOULS III』の後継作というイメージだが、ゲームの進行自由度は大きく上昇している。広大なマップの中を自分の好きな順番で巡り、強い敵と遭遇しても戦わずに逃げることもできるという自由度の高さもセールスポイントだ。

筆者の印象は『DARK SOULS』シリーズの難易度やテイストを踏襲しつつ、ゲーム性としては『ゼルダBotW』に似たフィールド探索要素と自由度を盛り込んだように感じた。

遠くに見える塔。そこに何があるのか。無事にたどり着けるのか。行ってみなければ、何もわからない
遠くに見える塔。そこに何があるのか。無事にたどり着けるのか。行ってみなければ、何もわからない

『ELDEN RING』のうまいところは、コミック調なビジュアルの『ゼルダBotW』とは異なり、『DARK SOULS』シリーズにも通じるハイ・ファンタジー世界にするという差別化を行っているところ。ハイ・ファンタジーの代表作にはJ・R・R・トールキンの『指輪物語』やC・S・ルイスの『ナルニア国物語』などがある。ここでは日本での知名度が高い、三浦建太郎の漫画『ベルセルク』を例に説明してみよう。

『ベルセルク』のように魔物も存在する中世ヨーロッパ風の世界に、チープな短剣と盾を持たされて放り出された主人公。『ベルセルク』主人公・ガッツのような恵まれた体格はないが、プレーヤー自身が知識を得て、テクニックを学びながら生き延びるしかない。経験値やレベルアップという要素もあるが、2~3段階程度のレベルアップでは強くなったことを実感できないので、そこに期待はできない。

移動中、松明の火を見つけて道路脇にしゃがんで隠れる主人公。どうやら楽勝で勝てるゾンビのようなので、背後から急襲することに決めた
移動中、松明の火を見つけて道路脇にしゃがんで隠れる主人公。どうやら楽勝で勝てるゾンビのようなので、背後から急襲することに決めた

しかし、思い出してほしい。このゲームの難易度はかなり高いので、アクションゲームが得意な人ですら苦戦する。攻略サイトを確認し、攻略動画をで予習しても、自分で挑んでみたら何もできないまま蹂躙されるというのは、ほぼ全員が経験するだろう。

アクションゲームの腕前に自信がない人は強敵とは戦闘せず、馬にまたがって横を駆け抜けるという考え方もある。ストーリーとしては先に進めなくなるが、「普通の兵士の1人」として広大なフィールドを探索するという目的で遊んでも、軽く数十時間は遊べてしまうからだ。

このゲームには、さまざまな強さの敵が混在して登場する。ほとんど攻撃して来ないが松明を持っているために「触れたらダメージを受ける」程度の敵から、1対1で慎重に戦えば軽傷で倒せる相手。敵の一撃で瀕死にはなるが、攻撃を避け続ければどうにか倒せる敵。そして、行動パターンを完全に把握するまで倒せる気がしないようなボスまで多種多様だ。このうち「倒せそうもない敵」を回避して生きていくという選択肢も、このゲームでならあり得ると感じるほどに、この世界は魅力的だ。

馬はかなり序盤で手に入れられるが、未開の地を探索する際には馬で駆け抜けるのではなく「自分の足で歩いて、確認しながら先へ進みたい」と感じた。セーブポイントをはじめとする重要オブジェクトを見落とさないためでもあるが、筆者は『ELDEN RING』の世界を堪能したいという気持ちの方が強かった。非戦闘時の「ファーン…」という、静かで雄大な世界を感じさせるBGMに耳を傾けたいという欲求すら生まれたほどである。

道中で敵に出会ったら、先ず敵の種類を見極めて「戦うべきか、逃げるべきか」を判断する。次に敵の人数を確認して、1体ずつ誘導できるかを検討。次に敵が手にしている武器の種類を確認し、敵が剣を持っているならばぎりぎり当たらない位置をキープして空振りを誘い、その隙に反撃。リーチが長い槍ならば横に回り込みながら、側面から攻撃。飛び道具を持っているなら、盾で防ぎつつ間合いを詰める。これらの対応を怠れば、1分後に袋叩きに遭っているのは自分だ。

これらの説明を聞いて「むしろ、燃えてきた」──そう思える人だけが、このゲームを手に取って欲しい。

ただ道を歩いていただけなのに、HPゲージが長い敵、つまり強敵と遭遇。スタート時点の主人公では到底歯が立たないので、全力逃亡した
ただ道を歩いていただけなのに、HPゲージが長い敵、つまり強敵と遭遇。序盤の主人公では到底歯が立たないので、全力逃亡した

ネットを通じて自分以外の冒険者の“存在”を感じる

本作はインターネットを介したマルチプレイにも対応している。『モンスターハンター』のように仲間を招いて共闘することもできるが、本作の特徴である「他プレーヤーのためにメッセージを残す」および「血痕が残る」という2つの仕組みについて説明しよう。

前者のメッセージは固定の単語を組み合わせて文章を作成し、地面に記せるというもの。メッセージの多くは、その先にある敵や罠についての警告がほとんど。役に立ったメッセージはよい評価を、プレーヤーを騙す嘘メッセージには悪い評価をつけられるので、評価されているメッセージだけを信じていけばいい。

メッセージを評価すると残したプレーヤーにも「評価されました」と通知が届く。メッセージを残した側もリターンを得て、幸福感も感じる仕組みとなっているため、プレーヤーには「喜ばれるメッセージを残したい(評価されたい)」という心理が働き、新たなメッセージが増える。

メッセージに残せる内容には限界があるが、何かを伝えようとする気持ちは感じ取れる
メッセージに残せる内容には限界があるが、何かを伝えようとする気持ちは感じ取れる

後者の血痕についても紹介する。本作ではプレーヤーが死亡すると、その位置に血痕が残る。たくさんの血痕がある場所には、強敵または罠が待ち構えているというわけだ。

血痕がたくさん残っている場所は、すなわち自分も新たな血痕を残す可能性が高い場所。一瞬の判断ミスが死に直結する
血痕がたくさん残っている場所は、すなわち自分も新たな血痕を残す可能性が高い場所。一瞬の判断ミスが死に直結する

血痕に触れた状態で△ボタンを押すと、その血痕を残したプレーヤーが死ぬ数秒前の映像を幽霊のような姿で見ることができる。剣を振り回しながら死んだのなら、強敵に襲われたのだろう。突然パタリと倒れたのであれば、罠にかかったのかもしれない。先人たちの死に様を眺め、自分のプレイに生かせる仕組みだ。だが、その床に新たな血痕を残すのは、あなた自身かもしれない。

一瞬の判断ミスが死に直結するシビアな難易度設定、ゆるやかにつながるネットワーク機能、重厚な世界観やストーリー──これらがフロム・ソフトウェアの集大成とも言える本タイトルの評価の理由だと言えるだろう。

小さな洞窟でも、最深部には洞窟のボスが待ち構えていることが多い。安易に足を踏み入れただけで、プレーヤーは蹂躙されてしまう
小さな洞窟でも、最深部には洞窟のボスが待ち構えていることが多い。安易に足を踏み入れただけで、プレーヤーは蹂躙されてしまう