Photo:ChakisAtelier/gettyimages
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  • ユーザーデータはオープンで囲い込めない──Web3のアーキテクチャー
  • Web 2.0とWeb3のアーキテクチャーの違い
  • 組み合わせることで生まれる新たなプロトコルとアプリケーション
  • 結局のところ、Web3はもうかるのか
  • ブロックチェーンすら発展途上、これからのWeb3はどうなるか

ブロックチェーンを基盤とした新しいウェブのかたち、Web3(Web 3.0)。すでに多くの解説記事が出ている概念ですが、その理解を深めるためには、基礎からもう少し丁寧な解説が必要と考えました。

聞きたいけど今さら聞けない、Web3の基礎とこれからのインターネット【前編】」では、Web3登場以前のウェブの課題と、それをWeb3がどのような方法で解決しようとしているのか、見てきました。本稿では、Web 2.0とWeb3とのアーキテクチャーの違いから、Web3のサービスやプロジェクトの収益の考え方、そしてこれからのWeb3について解説します。

ユーザーデータはオープンで囲い込めない──Web3のアーキテクチャー

これまでユーザー視点でのトークンによるWeb3について解説してきましたが、Web3のアーキテクチャーについても見てみたいと思います。

Web 2.0とWeb3とのアプリケーションのアーキテクチャーの決定的な違いは、クリプトファンドのPlaceholderのマネージングディレクターを務めるジョエル・モネグロ氏による古典的な「ファットプロトコル理論」に現れます。

これを端的に言うと、「Web3ではプロトコルレイヤーのほうがアプリケーションレイヤーよりも価値が高くなる」ということです。どういうことでしょうか。

その前に言葉の定義をしておきましょう。これまでWeb3で提供されるものを「サービス」と総称していましたが、サービスとは提供される無形の財のことであり、実際にはプロトコルやデータ、ビジネスのロジック、インターフェイスなどが組み合わさった状態で提供されるものです。ユーザーはインターフェイスを持つアプリケーションを通じてそのサービスを受けることになります。

Web 2.0ではプロトコルといえばインターネットの通信の基盤となるTCP/IPやウェブの通信手順のHTTPといったもので、重要ではありますが、価値を内在できるものではありませんでした。その代わりに、その上で稼働するアプリケーションに価値が集中しました。

Web 2.0の富の源泉はユーザーに関するデータであり、Web 2.0企業は独自にユーザーに関するデータを自ら収集して管理し、それを使ったアプリケーションロジックを開発して、独自のインターフェイスでラップしてユーザーに提供しています。アプリケーションは独自で集めたデータからインターフェイスまでを含む概念でした。これによってWeb 2.0企業は大きな利益を得ていたのです。

一方で、Web3では、ユーザーのデータはオープンな形式でブロックチェーン上に保存されます。そして、それは誰もがアクセスできる共有データ層として存在しています。したがって、その上でロジックや独自のインターフェイスをラップしてアプリケーションを作っても、データを囲い込めないので競争力を持ちません。

それよりも、ロジックとなる機能部分をオープンなプロトコルとして集中して開発し、相互につながるような競争力を持ってモジュール化して設計したほうが開発者のインセンティブが働きます。なぜなら、プロトコルは独自のトークンを発行するからです。プロトコルが利用されればされるほどそのトークンに注目が集まり、トークンの値上がりが起こるため、プロトコルの価値は向上します。

そして、アプリケーションはプロトコルの機能を使って、あるいは組み合わせて提供されるユーザーインターフェイスです。アプリケーションの成功はプロトコルの成長を加速させるため、アプリケーションの価値の合計よりも、プロトコルの価値の合計のほうが早く成長していくとモネグロ氏は説きます。

この対比がWeb3においてアプリケーションよりもプロトコルのほうがファット(Fat:富んでいる)な理由です。アーキテクチャーの思考とトークン配布のメカニズムがWeb2.0とWeb3との決定的な違いを生み出しています。

Web 2.0とWeb3のアーキテクチャーの違い

Web 2.0とWeb3のアーキテクチャーの違い

なお、前後してしまいますが、プロトコルとはサービスの供給者と消費者の間の交換を調整する論理システムのことで、これ単体ではビジネスとはなりません。Web3ではこの部分を最小限の機能を提供する共有のものとし、誰もが使えるようにしています。

例えばUniswapは暗号資産の交換を目的としたサービスを提供していますが、実際は機能を提供するUniswapプロトコルとユーザーが実際に操作する画面のUniswap インターフェイスに分かれています。Uniswapでは、「UniswapインターフェイスはUniswapプロトコルと対話するための多くの方法のうちの1つに過ぎない」としていて、プロトコルを使って他のアプリケーションが作られることを想定しています。

ほかにも暗号資産の貸し借りを提供するCompoundや暗号資産を担保にステーブルコインを発行するMakerなど、我々がサービスだと思っているものはプロトコルを標ぼうし、その機能とユーザーインターフェイスを区別しています。

組み合わせることで生まれる新たなプロトコルとアプリケーション

プロトコルはオープンソースで提供されますが、その価値は運用されて始めて作られるので、たとえコードがコピーされて同じものが作られたとしても、プロトコルのスイッチングコストを価値が下回らない限り、ネットワーク効果によってユーザーは乗り換えずに利用しているプロトコルを使い続けます。

また、オープンな形式でプロトコルが提供されているため、開発者はインスピレーションを得たプロトコルを使って新たなプロトコルを作ることができます。開発者の間では「コンポーザブル」という言い方をしますが、モジュール化されたプロトコルを組み合わせて新たなプロトコルやアプリケーションを作りやすく設計することが、Web3のサービスには求められています。

特にDeFi(ディーファイ:非中央集権的金融、Web3による新たな金融サービスの総称)の世界ではこの傾向が強く、モジュール化されたプロトコルをレゴブロックのように組み合わせてサービスを提供することから「マネーレゴ」と形容されることがあります。

コンポーザブルであることは結果的にはそのプロトコルに価値をもたらします。なぜなら、繰り返しになりますが、ユーザーに使われれば使われるほど、そのプロトコルの価値は高まり、それがプロトコルのトークンの価格を引き上げるからです。

結局のところ、Web3はもうかるのか

多くの人が気になるのは、「(ユーザーが)所有できる」というWeb3のモデルに転換することで、サービスを提供する側がもうかるのかどうかということでしょう。これはイエスでもあり、ノーでもあります。どういうことでしょうか。いくつかの例を見てみましょう。

前出のUniswapでは、Uniswap上で暗号資産を交換したユーザーからわずかな手数料を徴収しています(現在のバージョン3では0.05%または0.3%または1.0%、トークンの組み合わせにより異なる)。直近の取引量が1日あたり20億ドルなので、もし手数料の平均が0.3%だったとしたら1日に600万ドルの収入があることになります。

1日にそれだけの収入があるので、さぞやUniswapはもうけているのではと思うかもしれませんが、この収入はUniswap上で流動性(暗号資産の交換をしやすくするために暗号資産を交換所に貸し付けておくこと)を提供するユーザーにすべて還元されています。なので、Uniswap自体はもうけてはいません。

またUniswapはUNIトークンを所有するユーザーによるDAOが管理していますが、UNIトークン保有者はUniswapの売上からは何も得ていません。

対して、同様の暗号資産の交換を機能を提供する「Curve」プロトコルもCurve上で暗号資産を交換したユーザーから手数料を徴収していますが、こちらは手数料収入を流動性を提供するユーザーに還元しつつ、Curveのガバナンストークンである「CRV」を所有している人(実際はCRVを一定期間預けている人)にも還元しています。それぞれへの配分は50%ずつです。

Curveの直近の取引量は1日あたり3億ドルです。主に扱う暗号資産がステーブルコインというほとんど価格差のないものなので、手数料は0.04%と少ないのですが、それでも1日12万ドルの収入となります。

“稼げるゲーム”として有名になった「Axie Infinity」はどうでしょうか? Axie Infinityの収入源は大きく2つあります。1つはゲームのキャラクターやアイテムなどが売買されるマーケットプレイスの売買手数料です。こちらは売却時に売り手から4.25%の手数料が運営に徴収されます。もう1つはブリーディングというゲームキャラクターの配合時に、ゲームプレイヤーが使うガバナンストークン「AXS」とユーテリティートークンの「SLP」という2種類のトークンです。これは、いずれも運営に徴収されます。ただし、徴収されたSLPは徴収後に消却されます。

最盛期には1日にマーケットプレイス手数料で150万ドル、ブリーディングで1600万ドルの収入がありましたが、2022年1月31日時点ではそれぞれ9万3000ドル、28万ドルまで下がっています。

これが運営のSky Mavisに入るのかというとそうではなく、「コミュニティートレジャリー」という基金に保管されます。この基金については今後、AXSトークンホルダーによるDAOでゲームの発展のために使う方法が決められます。

このように見ていくと、Web3のサービスは、手数料という薄いながらも規模によって大きくなる手法で収益を得ていますが、そのサービスを立ち上げた企業が永続的に利益を得るという構造にはなっていません。これは「運営はガバナンストークンを持つDAOが実行していくものだ」という考えがあるからだと言えます。そして、その収益はサービスが持続的に運営されるように、DAOやそのサービスに貢献してくれた人たちに還元されるように設計されています。

では、Web3のサービスを立ち上げた会社やそのプロジェクトに投資をした投資家たちは何でリターンを得ているのかといえば、トークンの売却です。通常は立ち上げチームや投資家は発行全体の数十%のトークンの割当を得ているので、トークンの価格が上がると大きな利益をもたらします。

サービスの運営がDAOに移管されたとしても、トークンの価値が高まることは立ち上げ企業にも投資家にも後からDAOに参加したユーザーにも共通の願いなので、理想的にはトークンを早い段階で売ってしまうよりも、価値が十分に上がってから売ることが正しい選択ということになります。

ここで挙げた例はDAOによる非中央集権的な運営を目指すものですが、もちろんWeb3のサービスにも中央集権的な側面を持つものもありますし、今後もそうしたサービスは出てくると思います。もしそうであっても、薄い手数料によって収益を得ながら、発行する独自トークンの価値が下がらないように、トークンホルダーやサービス貢献者に還元していくことが、これからのWeb3サービス発展の鍵になりそうです。

ブロックチェーンすら発展途上、これからのWeb3はどうなるか

Web3とは何かについて説明してきましたが、ここでの解説は現在のWeb3で議論されているスナップショットに過ぎません。

アーキテクチャーの解説で触れたファットプロトコル理論も、ゲームやメタバースのアプリケーションの登場でアプリケーション層が薄い状態から変わっていくでしょう。なぜなら、ゲームやメタバースの場合は、データやロジックよりも、リッチなユーザー体験での差異が大きな意味を持つ可能性があるからです。

ただ、本質的にはトークンの経済的インセンティブによるプロトコルレベルでの機能の開発は今後も続くと思われます。

Web3がどのような分野で使われているかについては、ここまであまり説明をしてきませんでした。現状ではDeFiのような暗号資産を使った金融サービスが主流だと考えられますが、昨年話題になったNFTの利用やゲーム分野が注目されています。ただ、多くの場合はトークンの投機的な価格の高騰が注目を浴びているようにも思えます。

それよりも本当は、未来のWeb3によってわれわれの生活やビジネスがどうなっていくかが重要です。

これからも、さまざまなアプリケーションが登場してくることは間違いないのですが、今はまだベースのレイヤーになるブロックチェーンすら発展途上の状態です。

例を上げると「ガス代」(手数料)の問題があります。Web3のサービスを構築するのによく使われるEthereumというブロックチェーンがありますが、Ethereumはその上でスマートコントラクトというプログラムを実装できます(これがWeb3のプログラムということです)。

このプログラムを動かすためには、イーサ(ETH)というトークンで手数料を支払わなければなりません。この手数料のことをガス代(コンピュータを動かすためのガソリンの意味)と言いますが、Ethereum上では現在、多くのプログラムが動いているため、絶えず多数のトランザクションが発生しており、ガス代が高騰する傾向にあります。場合によっては、数千円からときには数万円もかかってしまい、大金がないとしょっちゅうはプログラムを動かせません。

これを回避するために、Ethereumの上に処理を高速化するための仕組みとしてLayer2という上位のブロックチェーンが登場したり、Ethereumに対抗するブロックチェーンが登場したりしていますが、どれが市民権を得ていくのかという問題もあります。

こういったベースとなる技術も進歩しながら、その上のプロトコルやアプリケーションが開発されている混沌とした状態は、1990年代のインターネットを彷彿させます。

2000年代になってやっとWeb 2.0が定義され、多くの人がウェブの使い方を理解したように、われわれはWeb3の世界についてやっと理解をしようとしています。

前出のクリス・ディクソン氏は「スキューモーフィック(skeuomorphic)」という言葉で現状を説明しています。スキューモーフィックとはデザイン用語で、現実世界のオブジェクトを模倣して、その表現方法とユーザーとのインタラクションの方法を決めることを指します。ディクソン氏は、現在のWeb3アプリケーションで実現しようとしていることが、Web 2.0時代のアプリケーションをなぞろうとしていることを言おうとしているのでしょう。

もちろん、これは大事なプロセスではあると思いますが、最終的にはWeb3のネイティブのアプリケーションはこれから登場してくる、見たこともないようなものになるかもしれません。

ですから、今われわれにできることは、まずはこの新しいテクノロジーを使いこなし、評価して、自らも作る側として参加することだと考えます。