
- ピッコマの還元料率は「ありえない低さ」──関係者
- 独占配信期間は2年間
- 料率は妥当か──ピッコマはノーコメント
- 不利な条件を強いるプラットフォーム──問われるその姿勢
「現場の編集者にはフラストレーションがたまっています。製作中のウェブトゥーンを、一体どこで配信すれば良いのか」──今や飛ぶ鳥落とす勢いの漫画アプリ「ピッコマ」を運営するカカオピッコマ。東京証券取引所への上場に向けて準備中の同社が、ウェブトゥーンを制作する新興企業に対して不利な配信条件を突きつけている実態が明らかとなった。
韓国発の縦読み漫画・ウェブトゥーンの世界市場は、2020年の約2600億円規模から、2027年までに約1兆8700億円規模にまで成長するとの予測もある。まさに“金のなる木”と言えるウェブトゥーン。ここ数年では一攫千金を狙う国内の新興企業も市場に参入してきた。そうした新参者を苦しめる、漫画アプリの“王者”、ピッコマの条件とは。
ピッコマの還元料率は「ありえない低さ」──関係者
ウェブトゥーンを制作する事業者が危惧の念を抱いているのは、ピッコマが提示している還元料率だ。複数人の業界関係者によると、ピッコマはここ数カ月、独占配信の場合は28%、非独占配信の場合は25%という料率を提示している。関係者らによると、例えば競合サービス「LINEマンガ」の料率は、独占配信の場合だと35%〜40%程度。他のサービスも同様の水準だという。ピッコマの料率について、ある関係者は「業界水準と比較して、ありえない低さだ」と憤る。
一般的に、ウェブトゥーン作品を制作するには、20話程度でも1000万円以上のコストがかかるとされている。同関係者は「制作側は28%、25%の中から、作家などの権利者へ還元する必要がある。この料率では制作にかかる初期費用までを回収できず、トータルでは赤字になってしまう。制作側にとっては極めて厳しい条件だ」と説明する。
しかも、2021年時点ではピッコマは事業者らに競合サービスと同等の独占配信の料率を提示していたという。仮に料率が40%から28%に下がったのであれば、得られる金額は実に3割減となる計算だ。想定外の低料率を突きつけられた事業者らは、事業方針を見直すなど、苦渋の選択を強いられている。
独占配信期間は2年間
ピッコマと独占契約を交わした場合の独占配信期間は2年間。仮に利益が出なかったとしても、そのタイトルは2年間、ほかのプラットフォームで配信できない。であれば「非独占配信するべきではないか」と思うかもしれないが、もちろん独占配信にもメリットはある。
ピッコマは特に人気のコンテンツに対しては積極的なプロモーションを展開する。コンテンツをアプリ上で目立つ位置に配置するだけでなく、SNSやオンライン広告を通じたプロモーションを実施することもある。そのため、作品がヒットすれば、料率が低くても大きな売上が発生するケースもある。だが、非独占配信の場合、この恩恵にあずかれる可能性は低い。
ピッコマの人気ランキングは100位までしか表示されない。そのため、100位以内に食い込まなければ、検索やレコメンドなどを除いて、読者に新しい作品を読ませるのは難しいと関係者は語る。「ユーザーの目に触れないことは、制作側にとっては死活問題だ」(関係者)
2021年12月にはゲーム会社のアカツキがウェブトゥーンに特化したアプリ「HykeComic(ハイクコミック)」を2022年春より展開すると発表した。同月にはDMM.comもウェブトゥーン市場への参入を表明。IT企業のドリコムも、ウェブトゥーン関連の新事業を立ち上げ中だ。そのほかにもIT系メガベンチャーが参入するといったうわさが後を絶たない。
それならばピッコマより高い料率を提示するプラットフォームに流れることも考えられるが、そんな単純な話ではない。ある関係者は「(新しいプラットフォームが登場しても)それでもピッコマの存在感は強い……」と言い、唇をかむ。
ピッコマは2021年におけるApp Store(ブックカテゴリ)とGoogle Play(コミックカテゴリ)の合計売り上げが日本でも世界でも1位で、累計ダウンロード数は3000万件を突破する、世界最大規模の漫画アプリだ。2019年に公開したウェブトゥーン作品『俺だけレベルアップな件』の月間販売金額が2020年5月に2億円を突破するなど、他のプラットフォームにはない大きな成功事例もある。
「Korea JoongAng Daily」など複数の韓国メディアによると、ピッコマの2021年における日本での取引額は前年比74%増の7227億ウォン(約695億円)で、累計取引額は1兆3000億ウォン(約1250億円)。同関係者は「競合サービスと比較しても、ピッコマの売上規模は大きく、トラフィックも多い。たとえ料率が50%だったとしても、ピッコマで期待できるくらいの流入がなければ意味がない」と話す。
料率は妥当か──ピッコマはノーコメント
極めて低いと批判されるピッコマの料率だが、運営のカカオピッコマではどのように捉えているのか。
独占配信と非独占配信、それぞれの料率や、独占配信の場合の独占期間、ミニマムギャランティ(最低保証:制作側がロイヤルティ収入を先払いで受け取る仕組み)の有無などについて問い合わせたが、カカオピッコマの広報担当者は「取引条件に関しては当事者間での機密事項につき回答を差し控える」と回答するのみだった。
料率に関する見解や妥当性についても見解を求めたが沈黙を貫いた。
不利な条件を強いるプラットフォーム──問われるその姿勢
過去にはプラットフォームがコンテンツを制作するスタートアップや新興企業らに対して不利な条件を突きつけたとして、公的機関による調査や訴訟に発展するようなケースもあった。
例えば、「モバゲータウン(現Mobage)」を展開するディー・エヌ・エーは2010年、ソーシャルゲームを提供する複数の制作会社に対して、競合のGREEにソーシャルゲームを提供した場合、モバゲータウンで提供するゲームにトラフィックを流さないという通達をした。公正取引委員会はこの件が独占禁止法違反に当たるとし、ディー・エヌ・エーに再発防止を求める排除措置命令を出した。
2020年にゲーム会社のEpic GamesがAppleに対して訴訟を起こしたのも記憶に新しい。
Epic Games CEOのティム・スウィーニー氏はApp Storeで購入するたびにAppleが徴収する30%の手数料に異議を唱えていた。そこで、同社の人気ゲーム『Fortnite』に独自の決済システム「Epic Direct Payment」を導入した。Appleは規約違反であるとしてFortniteをApp Store上から削除。Epic Gamesは同日中にAppleを提訴した。
中央日報によると、2016年4月の公開から1カ月後、ピッコマの日本における1日の販売額はたったの200円だったという。だが累計取引額が1200億円を超え、ウェブトゥーンを配信する漫画アプリとしては世界最大規模にまで成長した。更なる飛躍のために上場を目指す今、ピッコマはプラットフォーマーとしての姿勢が問われている。
「せっかく作品を作ったところで、配信先を決められない事業者も出ている状況です。『ピッコマに付くのか、付かないのか』を試される時がきたのだと感じています」(関係者)