幕末から明治維新にかけて、日本の革命をけん引してきた土地、鹿児島。世界の最先端技術を取り入れ、維新の立役者となったこの地には、現在に至るまで変革を繰り返し起こし続け、新しいビジネスモデルを構築していく「イノベーションのサイクル」が生まれる気風に満ち溢れている。

東京と比べ、情報や人の多さという面ではハンデを抱えていても、地域に根ざし、着実に成果を挙げている起業家たちを次々と輩出しているのが鹿児島ならではの特徴だ。

そうした鹿児島の起業家たちが集うコミュニティ拠点となりつつあるのが、mark MEIZAN(マークメイザン)である。mark MEIZANは、鹿児島市が2019年2月に開設したインキュベーション施設で、クリエイティブ産業の創出および成長拠点となるべく、起業家を志す人やスタートアップの支援を行っている。

そんなmark MEIZANに集う若い起業家たちの躍動を頼もしく見つめる先輩起業家たちがいる。彼らは自分たちの世代から若い世代を含め、鹿児島発のイノベーションのサイクルを生み出そうとしている。

若き起業家たちの先駆けでありながら、自身は挑戦者としての姿勢を貫く2人、ユニマル 代表取締役CEO・今熊真也氏とリリー 代表取締役CEO・野崎弘幸氏の言葉から、鹿児島という土地で生み出される変革の原動力を解き明かしていく。

鹿児島を盛り上げるために、スタートアップを目指すプレーヤーを増やす

「シード・アーリー期の起業家にとって、同じ志をもった仲間の存在や周囲からのサポート、そして最新の情報に触れることは事業の成長に向けての生命線となります。地方においてはそれらが十分と言えない環境が多く、鹿児島も例外ではありませんでした」

そう話すのは、鹿児島発のITベンチャーとして2013年に創業したユニマルの代表取締役CEO・今熊真也氏だ。同社はWeb制作に特化したバージョン管理ツールを開発し、ピッチコンテスト「鹿児島ベンチャーサミット」で優勝。創業半年で東京のベンチャーキャピタル(VC)からシード資金を調達した。

現在、ユニマルが注力しているのは、セキュアで高速かつ安定したWebサイトの制作と配信を、高度なスキルがなくても運用できるCMS(コンテンツ管理システム)とサイトホスティングサービスで実現する「Spearly(スピアリー)」だ。

「Spearlyのような世界で使われるサービスを鹿児島から送り出すというのが僕らのミッションの体現であり、地方のロールモデルとしてのあり方であると考えています。ユニマルは、鹿児島生まれのエンジニア2名で立ち上げた会社です。創業時から『場所をこえる。人をつなぐ。』というコンセプトを掲げ、『地方にいることがデメリットではない社会の実現』を目指しています。エンジニアやデザイナー、ディレクターなどのWeb制作メンバーが同じ場所にいなくても、地方に住んでいたとしても、それぞれの好きな場所で面白い仕事ができる。Spearlyを通じて、そんな世界を創出したいと思っています」

ユニマル 代表取締役CEO・今熊真也氏

地方にいても面白い仕事ができる。人とのつながりを生み出して深められる。そうした可能性をITの技術に見出し、自分たちを含めた人間の生き方にまで反映させようとするユニマルは、鹿児島のIT/スタートアップのためのリアルな拠点となる「さくらハウス」の運営も手がけてきた。

「さくらハウスは、15年9月にオープンしました。昼間はコワーキングスペースとして、夜はIT勉強会やハッカソン(開発系イベント)を行える場所として開設しました。鹿児島を盛り上げるためには、スタートアップを目指すプレイヤーを増やす必要があると感じていたのが一番の理由ですね。地方でスタートアップを志す方へのサポートとして、全国から鹿児島にゲストを招いて配信するニコニコ生放送『さく生チャンネル』もお届けしてきました。ユニマルの創業時、自分たちのロールモデルとなるようなスタートアップの起業家が鹿児島にはいなくて、貴重な体験談やアドバイスを聞くといった面などで、非常なる飢えと渇きを感じてきましたからね」

新たな仲間と出会える場、既知の仲間と切磋琢磨できる場、先輩の起業家からメンタリングを受けられる場。こうした場があって、若き起業家がさまざまな欠乏感を解消しない限り、地元・鹿児島で情報関連産業を中心としたクリエイティブ産業は勃興しないと今熊氏は語る。

「mark MEIZANがあることで、若い人たちのこうした飢えと渇きはかなり癒されてきているのではないでしょうか」

地場産業のDXに触発される若者に出てきてほしい

エンジニアにフォーカスが当たる会社をつくりたい。ものづくりに真摯に向き合い、世の中のさまざまな産業に役立つサービスを生み出す──そんな思いを抱いて、17年に鹿児島市でリリーというIT企業を立ち上げたのが代表取締役CEO・野崎弘幸氏だ。

「これまでに、ISP事業を行っている会社と飲食店のオーダーアプリや就労支援施設に特化したコミュニティアプリの開発、建設現場向けのサービスを展開している会社のサービス・アプリ開発、警備会社の防犯アプリ開発、コロナ禍では、遠隔葬儀サービスのアプリも開発してきました。種子島宇宙センターがある鹿児島らしいのが、衛星データを活用したサービスの開発等の案件です。サービスが使われる現場に踏み込んで思考し、課題の本質を捉えて、苦心しながら自分たちがつくったものにより、何かが解決していく。そのような仕事に大きな誇りと喜びを感じています」

リリーは、さまざまな産業の地元企業との共創型開発を強みにしている。ベテラン漁師の暗黙知(経験と勘)をデータ化することで安定した漁獲高を目指し、後継者不足を解消して漁業を次世代型のサステイナブルな産業へと転換しようとするシステムもその1つだ。鹿児島県は農業生産額全国2位、漁業生産額全国5位を誇る。これら大地と海の豊富な地域資源をITと結びつけて、鹿児島発の一次産業のDXを実現させようとしている。

そんな野崎氏が会社を興す決断ができたのは、鹿児島にある「起業という選択肢を持てる文化」に触れていたことが大きかったという。独立する以前からIT技術系コミュニティの勉強会に参加していた野崎氏は、そこでの仲間が起業するのを目の当たりにしてきた。ユニマルの今熊氏も、そうした1人だった。

リリー 代表取締役CEO・野崎弘幸氏

「コミュニティを通じて熱量がある人たちと出会うことができて、お互いを高め合ってこられたことが、現在の自分にとって大きな財産になっています。いまは技術系だけでなくさまざまな分野の若い起業家たちがお互いを刺激しあう新しい文化が生まれてきているようなので、これからが楽しみですね」

野崎氏は、昨年の12月に鹿児島市とmark MEIZANが主催したオンラインイベントのセッションに登壇した。その時に、「自分たちが経験してきたことを話すことはできるし、若い世代の方たちから学ぶこともある。世代を越えて鹿児島のスタートアップの文化が根付いていくよう、盛り上げていこう」という思いを新たにしたという。

「イベントでは、リリーが取り組んできた漁業のDXについてお話したのですが、これから『歴史ある産業×テクノロジーで拓ける未来の可能性』を拡大する人が鹿児島に現れてくれたらという思いを込めました」

イノベーションのサイクルが、mark MEIZANを舞台にまた動き出す

今回の取材では、今熊氏と野崎氏が期せずして同じ思いを吐露する場面があった。それは、「自分こそが、若い人たち・挑戦する人たちにとってのロールモデルにならなければいけない」という強い決意だ。若い世代の手本になると同時に、まだまだ自分も成長の途上であり、一緒にグロースしていきたいという思い。そこには、鹿児島ならではの挑戦者としてのマインドセットが秘められている。

令和という時代を迎えたいま、鹿児島のmark MEIZANを舞台に、イノベーションのサイクルを生み出す歴史が動き出そうとしている。これから先も、私たちは鹿児島でロールモデルの終わりなき創出を目の当たりにしていくだろう。

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今熊真也(いまぐま・しんや)

ユニマル 代表取締役CEO。鹿児島県鹿児島市生まれ。2013年、ユニマルを創業。Web制作チームのためのクリエイティブ・プラットフォーム「universions」、ホームページ専用のテストサーバーサービス「Snapup」などを展開。現在はWebサイト制作・運用をもっと楽しく楽にする「Spearly(スピアリー)」シリーズとして、HeadlessCMSサービスや静的サイトホスティングサービスを提供している。
https://unimal.jp

野崎弘幸(のざき・ひろゆき)

リリー 代表取締役CEO。鹿児島県霧島市生まれ。東京にてネットワーク管理業務、大学職員としてシステム管理業務等に従事。2005年から鹿児島のソフトウェア開発会社にてクラウド事業の立ち上げを行い、プロダクトマネージャーとして新サービス開発業務に従事。2017年にリリーを創業。自社サービス開発に加え、企業のサービス開発支援、技術支援などDXの取り組みを支援している。
https://www.lilli.co.jp

mark MEIZANについて


市の繁華街「天文館」からほど近い名山町にあり、1階にはオープンな交流スペース(コワーキングスペース)やギャラリー、会議室、商談室などを配置。2階には最大で90名ほどが利用できるユーティリティスタジオ、商品開発に利用できるテストキッチンを用意している。2階の一部と3~5階まではシェアオフィス・入居室となっており、入居する個人や企業はインキュベーションマネージャーによる経営相談、IT面・資金調達・販路開拓などに関する支援が受けられる。また、県内外のゲスト・企業を招聘したセミナーやマッチングイベント、各界の先輩経営者によるメンタリングといったイベントも随時開催している。鹿児島においてロールモデルとなる起業家を継続的に生み出し、コミュニティの誕生と成熟を図り、県内外からのサポーターを増やすのがmark MEIZANの使命だ。

mark MEIZANは、クリエイティブ産業の成長のため、多角的に経済成長の手助けとなるネットワークを提供し、クリエイターのためのハブ施設。課題や進捗状況を確認しながら、経営相談や資金調達、販路開拓など包括的な支援を行っている。

問い合わせ先

mark MEIZAN

〒892-0821 鹿児島県鹿児島市名山町9-15

電話:099-227-1214

メール:info@mark-meizan.io

https://mark-meizan.io/

産業局産業振興部産業創出課

〒892-8677 鹿児島市山下町11-1

電話:099-216-1319