
- クイックコマースサービスの鍵を握る「ダークストア」
- ヨーロッパを中心に市場が急速に拡大、複数のユニコーンが誕生
- 日本では1月にZホールディングスが本格展開をスタート
注文から約10分で食料品や日用品が届く即配EC、「クイックコマース(Qコマース)」領域のサービスが国内外で広がっている。
海外では米国のGopuffやドイツのGorillasを筆頭に複数のユニコーンが誕生。特にGorillasは2020年5月の設立ながら1年経たずにユニコーン企業の仲間入りを果たし、現在の時価総額は30億ドルを超える。
さまざまな地域でクイックコマース領域のスタートアップが生まれているが、中でも盛り上がっているのがヨーロッパだ。 この1〜2年の間で新規参入が活発になり、大型の資金調達ニュースも頻繁に目にするようになった。すでに事業者間での買収や統合も進み始めている。
現段階では欧米ほどではないものの、日本でも関連するプレーヤーが増えつつある状況だ。専業のスタートアップに加え、UberやWoltといったグローバル企業が「ダークストア」と呼ばれる配送専用の拠点を開設し、新たな取り組みを始動。1月にはZホールディングスグループも「Yahoo!マート by ASKUL」という名称で、クイックコマースサービスを本格的にスタートさせている。

クイックコマースサービスの鍵を握る「ダークストア」
クイックコマースはその名称にもある通り、注文してからその商品が届くまでの時間が非常に短い点が特徴のECだ。サービスごとに違いはあれど、通常の店舗と同等かそれに近い価格帯で商品を購入できる点をうたっているところも多い。
なぜそのようなことが可能なのか。鍵を握るのが「ダークストア」だ。
ダークストアとは配送に特化した実店舗(倉庫)のこと。一般的なスーパーやコンビニのように顧客が来店して買い物をするわけではないため、ダークストアと呼ばれる。クイックコマースサービスでは自社でダークストアを設け、自ら在庫を保有し、そこから注文の入った商品を配送するモデルが主流となっている。
このやり方なら配送拠点が1つのみのため、注文が入ればその場で該当する商品を選び、すぐに配送作業に移ることが可能だ。加えてサービスの対象エリアを拠点周辺の1.5km前後に限定している事業者が多く、こうすることで“10分配達”を実現しているわけだ。
また商品の価格という観点でもダークストアであることの意味が大きい。通常の店舗ほど内装や立地にこだわる必要がなく、レジや接客なども必要ないため店舗運営にかかるコストをおさえやすい。
ダークストアの事業構造はシンプルな小売事業と同じで、店舗を通じて発生した利益によって拠点の運営やサービス開発、配送にかかるコストなどを賄えれば事業として成り立つ。これがサービス利用料(手数料)による収益を軸としたプラットフォーム型のサービスと異なる点だ。
日本のクイックコマースサービスでは商品代金に一律の配送料(200円〜400円ほどが多い)を加えて提供しているものが多いが、安く仕入れ、コストを抑制した上で一定の規模まで拡大できれば、販売価格を小売価格と同等かそれに近い価格帯にしても事業として成長が見込めることになる。
これがプラットフォーム型の買い物代行サービスやデリバリーサービスだとサービス利用料が上乗せされるため、どうしてもユーザーの目線では小売価格よりも高くなりがちだ。Uber Eatsでコンビニの商品を頼んでみるとよくわかるだろう。
ヨーロッパを中心に市場が急速に拡大、複数のユニコーンが誕生
冒頭で触れたように、現在は欧米を中心にクイックコマース関連のプレーヤーが急増している状況だ。
クイックコマースの市場が急速に立ち上がった理由はいくつか考えられるが、日本で2019年からこの領域でサービスを運営してきたクイックゲット代表取締役の平塚登馬氏は「各国でフードデリバリーサービスが浸透し始めたこと」を大きな要因にあげる。
フードデリバリーの利便性を実際に体験する消費者が増える中で「(食事以外にも)いろいろなものを、よりクイックに届けて欲しいというニーズが広がった」というのが同氏の見解だ。
今夏にもクイックコマースサービスの立ち上げを計画しているMesh代表取締役CEOの佐藤峻氏も、同様にフードデリバリーの影響を挙げる。消費者の間で生鮮食品など幅広い商材に対するデリバリーの需要が生まれたことで、事業者側にも「これだけニーズがあるのならば自社で倉庫や在庫を抱えてでも、より良いユーザー体験を作ることに価値があるのではないか」という考えが広がった。
この領域は店舗や在庫が必要なため事業の拡大にあたってある程度の資金が必要になるが、Gorillasを筆頭に先行するプレーヤーに多額の資金が集まったことも大きいのではないかと佐藤氏は言う。デリバリー市場が盛り上がった背景には、新型コロナウイルスの影響もありそうだ。
ヨーロッパではすでに前述のGorillasや同じくドイツ発のFlink、トルコ発のGetir、スペイン発のGlovoなどエリアごとに大きなプレーヤーが生まれており、複数社がしのぎを削っている。Gorillas、Flink、Getirはいずれもユニコーンで、GorillasとFlinkは共に2020年の設立だ。創業から間もない段階にも関わらず数十億円〜数百億円規模の資金を集める企業も増えてきた。
これらの地域では複数者が多額の資金を費やしてマーケティング(クーポン)合戦を繰り広げているほか、企業間の統合も進み始めている。大きなところではフードデリバリー大手のDelivery Heroが2021年12月にGlovoの株式の過半数を取得することを発表。米国ユニコーンのGopuffがイギリスのDijaを、GetirがスペインのBlokを買収するなど、スタートアップ間での統合も増えてきた。
フードデリバリー市場では地域ごとにスタートアップが生まれ、その企業をより大きなプレーヤーが買収しながら急激に巨大化していく動きが目立ったが、クイックコマースの領域でもこれから同様の流れが加速していくかもしれない。
日本では1月にZホールディングスが本格展開をスタート
日本においても、この1年で徐々にプレーヤーが増えてきた。スタートアップとしてはクイックゲットとOniGOがその代表格だ。
クイックゲットは2019年11月からベータ版というかたちでサービスを始めた。2020年9月の正式ローンチ時は「注文から30分で届くデジタルコンビニ」という打ち出し方で事業を展開していたが、現在は都内で3店舗(中目黒、広尾、港区三田)を設け、早ければ注文から約10分で食事やお菓子、日用品や缶ビールなどが届く仕組みを作っている。
「10分で届く宅配スーパー」を掲げるOniGOも2021年8月に目黒区でサービスを開始。直近ではローソンストア100と協業するなど新しい取り組みも始めている。

Uberが東京都内で食品・日用品専門店の「Uber Eats Market」を、Woltが札幌や広島などで「Wolt Market」を展開するといったように、海外のデリバリーサービス事業者がダークストア関連の事業を始める動きも目立つ。
そのほかでは韓国のEC大手Coupangが2021年6月から品川区を皮切りに都内の一部エリアでサービスを展開。1月にはZホールディングスが「Yahoo!マート by ASKUL」を通じてクイックコマースに本格進出することで注目を集めた。

日本でもこれからサービス間での競争や統合が進んでいくことも考えられるが、「コンビニやスーパーにおいてもいろいろな選択肢があるように、クイックコマースの領域でも企業ごとに色が出て『このサービスだけが使われる』とはならないのではないか」というのが平塚氏の考えだ。
実際にクイックゲットのユーザーの中にもCoupangなど他サービスと併用する人が一定数いるそう。クイックゲットは「次世代コンビニ」を掲げていることもあり、コンビニのように食料品から日用品まで幅広い商材を扱っている点が特徴。そのため生鮮食品に強みを持つサービスなどとは利用シーンが異なるという。
リアルな小売店と同じように1人のユーザーが複数のクイックコマースサービスを使い分けるといったケースもありえそうだ。
現在サービス開発中の佐藤氏も資本力に優れた企業の参入は「正直怖い部分もある」としながらも、「(コンビニやスーパーなど)リアルな店舗と同様にアプリ上の店舗でもプロダクトごとに違いは出せると考えており、後発でも事業を広げていける余地はある」と話していた。
