デジタルウォレットアプリ「Kyash」
デジタルウォレットアプリ「Kyash」

デジタルウォレットアプリの「Kyash(キャッシュ)」がさらなる事業拡大に向け、国内外の投資家から新たに49億円の資金調達を実施した。

同社にとっては2020年3月に実施したシリーズCラウンドに続くシリーズDラウンドという位置付けで、累計の調達額は約128億円となる。今回同社に出資した投資家は以下の通り。既存投資家のほか、ゆうちょ銀行の連結子会社であるJPインベストメントや米国のBlock(旧Square)などが新たに加わった。

  • JPインベストメント
  • Block
  • Greyhound Capital
  • Altos Ventures
  • Goodwater Capital
  • StepStone Group(旧Greenspring Associates)
  • Yitu Capital
  • SMBC日興証券
  • 三井住友海上キャピタル
  • AGキャピタル
  • ジャフコ
  • SMBCベンチャーキャピタル
  • W ventures

Kyashは2015年1月設立のスタートアップ。モバイルアプリからすぐにバーチャルカードを発行し、ユーザー間での送金やVisaのオンライン加盟店での決済ができるサービスを手掛ける。

プラスチックカードの「Kyash Card」を発行するとオフライン決済にも使えるほか、2020年に資金移動業のライセンスを取得したことで、本人確認手続きを完了したユーザーについては銀行口座からの入金やKyash残高の銀行口座への出金もできるようになった。

2021年には後払いサービスの「イマすぐ入金」機能の提供をスタート。同年12月からは「Kyash法人送金サービス」も始めており、フードデリバリーサービスの「menu」と連携してギグワーカーがKyashを通じて報酬を受け取れるような仕組みも作っている。

特に2020年に企業向けカード発行事業の「Kyash Direct」をインフキュリオンへ譲渡して以降は、コンシューマー向けサービスのKyashに注力して機能拡張や新たな取り組みを進めてきた。

今回の資金調達に関して代表取締役の鷹取真一氏は「決済事業単体でユニットエコノミクスが黒字化していることが前回からの大きなアップデート」だと話す。ここでいうユニットエコノミクスの黒字化とは事業構造として黒字化の状態が作れており、ユーザーが使えば使うほど利益が膨らんでいくことを指す。

Kyashでは創業時からプロセシングシステムを自社で構築するなど、システムの内製化に力を入れてきた。外部のシステムを使うのではなく内製化している点なども含めて、優れたコスト構造を作れているのも大きいという。

「去年上場した(ブラジルのチャレンジャーバンクである)Nubankも、開示資料などにおいて1アクティブユーザーあたりの販管費が従来の銀行の1/10である旨をうたっています。Kyashでも日本の商業銀行やネットバンクに比して、それに近い水準を実現できている。単に支店のあるなしだけでなく、裏側のシステムを内製化できている点なども含め、サービスの拡張性とアセットライトな部分を(投資家からも)評価いただけたことは大きいと思っています」(鷹取氏)

立ち上げ当初は決済アプリとしての見え方が強かったKyashだが、鷹取氏が以前から掲げるバンキングサービスに向け、ゆくゆくはお金を貯める機能や資産を運用する機能などの提供も見据えながら「ワンストップの複合的な金融サービス」への発展を目指していく。

Kyashではもともと3メガバンク傘下のベンチャーキャピタルから出資を受けていたが、今回の調達では新たにJPインベストメントが加わった。また米国でモバイル決済サービス「Cash App」を展開するBlockが株主として参画したことも興味深い。

Blockでは後払い決済サービスを運営するAfterpayを買収するなど、他社との連携も含めて事業拡大を進めている状況。Blockとの取り組みについては、現時点では「お答えできない」との回答だったが、今後サービス間での連携なども考えられる。

近年は国内のフィンテックスタートアップと海外企業との連携が加速しており、2021年7月にはGoogleが送金アプリ「pring」の買収を、同年9月にはPayPalが後払い決済サービス「Paidy」の買収を発表した。今回のBlockによるKyashへの資本参加も含め、国内外のフィンテック企業が買収や出資を通じて手を組むケースが今後増えていく可能性もありそうだ。