左からOKAN 代表取締役CEO 沢木恵太氏、Repro 代表取締役 平田祐介氏、SmartHR 代表取締役・CEO 宮田昇始氏、freee 代表取締役CEO 佐々木大輔氏 画像提供:OKAN、Repro、SmartHR、freee左からOKAN 代表取締役CEO 沢木恵太氏、Repro 代表取締役 平田祐介氏、SmartHR 代表取締役・CEO 宮田昇始氏、freee 代表取締役CEO 佐々木大輔氏 画像提供:OKAN、SmartHR、Repro、freee
  • 会社存続のための「適切なコストコントロール」が必要に
  • 売上拡大が困難だからこそ、顧客視点の活動が大事になる
  • 有事でも求められるペーパーワーク、余力を持つことが重要
  • クラウド化・ペーパーレス化はBCP対策にもなる

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて刻々と変化する情勢に、企業はどう向きあうべきなのか。経営の重要な機能である、「財務」「労務」「人事」「マーケティング」といった領域でサービスを提供するスタートアップ4社の代表に、企業が今取り組むべきこと、そしてこの困難を乗り越えて生き残るすべについて聞いた。(構成 ムコハタワカコ)

会社存続のための「適切なコストコントロール」が必要に

OKAN 代表取締役CEO 沢木恵太氏

 OKANは“働き続けたい人が働き続けられる”社会を目指し、組織課題改善ツール「ハイジ」、置き型社食サービス「オフィスおかん」の2つのHR事業を展開している。労働人口不足の現代において、採用した人材に適切に活躍してもらう、リテンションマネジメント(社員に長くとどまって業務を行ってもらうためのマネジメント)のための企業支援を行っている。

 今、企業の人事・総務・労務担当者は、会社存続のための「適切なコストコントロール」が求められている。

 人事・労務担当者でいえば「新規採用」、総務担当者では「環境づくり」がこれに当たる。人件費はもちろん、採用活動自体に多額のコストが発生するため、適切な採用方法の選択が必要だ。また採用と同じく、不必要な支出を見極めてジャッジをすることが求められる。

 コストコントロールのためにまず着手すべきなのは「優先順位づけ」だ。適切な優先順位をつけた上で、不要だと判断したものは思い切ってカットし、損益を最低限維持しながら、人材が働き続けられるように支援することが重要だ。

OKAN 代表取締役CEO 沢木恵太氏OKAN 代表取締役CEO 沢木恵太氏

 その上でリテンションマネジメントを重視したい。不況後は一定の経済成長が見込まれる。この苦境を耐え、立て直しを図りたい企業にとって、チャンスをつかむために最も必要になる資源は「人材」である。せっかく採用した人材や勤続年数の長い人材が流出してしまっていては、今後再起がかけられない。

 リテンションマネジメントの視点での、優先順位づけの方法として、弊社のハイジもひとつの手段である。

 ハイジは2月より完全無料化し、規模や業界にかかわらず、全従業員に無料でアンケートを実施することができるようになった。導入から最短1~2週間で組織課題を数値化することができるため、優先的に削減すべきコストを見極めることができる。

 離職につながるような間違ったコストカットを防ぐためにも、また、従業員を幸せにする責務のある立場としても、正しい経営判断が求められている。

売上拡大が困難だからこそ、顧客視点の活動が大事になる

Repro 代表取締役 平田祐介氏

 Reproは顧客データを活用し、 メールやプッシュ通知、ウェブやアプリ内ポップアップなどのチャネルを横断した付加価値の高いBtoCコミュニケーションを実現するカスタマーエンゲージメントプラットフォーム「Repro」を提供している。

 新型コロナ感染拡大の余波を受け、マーケティングコストの削減が各社ではじまっている。しかし、新規顧客獲得を目的としたデジタルマーケティングと既存顧客のLTV(Life Time Value。顧客が取り引きを終えるまでに支払う価値)向上を目的としたエンゲージメントマーケティングの予算は従来の水準を維持している印象である。

Repro 代表取締役 平田祐介氏Repro 代表取締役 平田祐介氏

 前者はマーケティングROI(費用対効果)の効果検証が定量的にできるからであり、後者はサービスのUXに組み込まれているケースが多く、いまだ改善の余地があるからだと考えられる。

 マーケティングも本質を見直す良いタイミングだ。売上拡大が困難になる局面だからこそ、顧客視点での新しいマーケティング活動の仕込みが大事だ。直近では、オフラインではなくオンライン、新規顧客ではなく既存顧客との「新たな接点」を創出するコミュニケーションの設計、の2点が重要であると考えている。

 マーケティング活動にかかる各種コストが大きく変動している(高かったものが安くなったり、その逆しかり)時期なので、しっかりと数値をモニタリングして資源を再配分することで、コスト削減と売り上げの維持は一定水準実現が可能である。

 当社の例を出すと、予算を少額に設定したうえで新規施策の検討をした結果、マーケティングROIが非常に高い活動が生まれた。目的と制約を課した方が直接的な効果の出る新しいアイディアが生まれるので試してほしい。

 Reproでは、財務基盤が確立できていないスタートアップ企業向けに低価格で開始できる特別な料金プランの提供を開始し、支援している。制約があれば、創造性は高まるものだ。マーケティングの本質を大局的に考える良い機会と捉えることで、新たなコミュニケーションのあり方が生まれるのではないかと期待している。

有事でも求められるペーパーワーク、余力を持つことが重要

SmartHR 代表取締役・CEO 宮田昇始氏

SmartHR」は、人事労務の担当者を「手書き」「ハンコ」「役所に並ぶ」などのペーパーワークから解放するクラウド人事労務ソフトだ。新入社員がスマホから個人情報を入力するだけで、入社に必要な書類を自動作成。社会保険・雇用保険などのウェブ申請も可能。雇用契約や、年末調整、給与明細もスマホやPCだけで完結する。

SmartHR 代表取締役・CEO 宮田昇始氏SmartHR 代表取締役・CEO 宮田昇始氏

 さて、企業のコロナウィルス対策でまっ先に思い浮かぶのが、リモートワークや時差通勤など「働き方の変更」に関するものだろう。実施の意思決定は経営者が行うかもしれないが、ルールを整備し、実現させるのは他ならぬ人事労務の担当者だ。リモートワークや時差通勤に伴う勤怠ルールの変更や所定労働時間をどう担保してもらうか、リモート推奨の中で新入社員をどう受け入れるか……。整備する内容は多い。

 通常時でも、大量のペーパーワークで忙しい部署だが、日々変わる情勢を注視しつつ、上記のような事柄にも対応しなければならない。効率化できるところは効率化を進め、有事にも素早く対応できるよう、余力を持っておく必要がある。

 また社会保険手続きは、健康保険証の発行にも関わっており、止めることができない業務だ。特に感染症が流行している状況下で、健康保険証の発行が滞れば、新入社員はより不安に感じるであろう。しかし、旧来型の仕事の進め方では、書類の受け渡しや、ハンコの押印の為に、必ず出社する必要がある。欧州のように外出禁止令が出た場合には止まってしまう。

 ここでクラウド人事労務ソフトの出番なのだが、シェア第1位のSmartHRですら、市場の1%ほどにしか普及できていない。クラウド人事労務ソフトとしてSmartHRが世に出てまだ4年。数十年の歴史がある会計や勤怠と比較すると、その普及は遅れている状態だ。

 2020年においても「手書き」「ハンコ」「役所に並ぶ」が主流で、アナログな人事労務を、デジタル化させていくことが我々の使命だ。

クラウド化・ペーパーレス化はBCP対策にもなる

freee 代表取締役CEO 佐々木大輔氏

 freeeは「クラウド会計ソフトfreee」や「人事労務freee」などを通じ、バックオフィス業務の効率化だけでなく、経営の可視化や課題解決の提案を行っている。日本発のSaaS型クラウドサービスとして、パートナーや金融機関と連携することでオープンなプラットフォームを構築している。

freee 代表取締役CEO 佐々木大輔氏freee 代表取締役CEO 佐々木大輔氏

 今回の新型コロナウイルス感染拡大をきっかけにリモートワークに移行を試みる企業も多いが、その中で、経理担当者などバックオフィス領域において紙文化が残っていることや承認システムの問題で移行がスムーズにいかないケースも多いと聞く。

 企業経営者はクラウド化やペーパーレス化をしておくだけで、普段の業務効率化が実現できるだけでなく、BCP対策にもなることを意識してもらいたい。

 また需要の落ち込みに対応できるよう、平時からのコスト体質の可視化及び改善も重要だ。

 今はデジタルツールによって経営状況の可視化の容易さもリアルタイム性も向上しているので、これを機に取り組みを開始するべきだ。政府の金融支援策の他、民間のオンライン資金繰り支援サービスも手軽に使えるものが登場しているので、資金面の課題解決に活用されたい。

 freeeでは新型コロナの影響により必要な資金繰りや助成金の解説、リモート勤務のやり方などを会計士や社労士による解説を交えた無料オンラインセミナーを開催している。確定申告期限の延長に伴い、確定申告期のfreeeサポートデスク営業時間延長も継続している。また、テレワークの実践方法をYouTube動画で公開するなど、スモールビジネスの事業継続に必要なサポートを実施している。

 クラウドサービスを提供し、ペーパーレスで社内業務を回すことをすでに実践できているfreeeのような企業であればこそ、全社原則在宅勤務を率先して実施し、ベストプラクティスを共有するとともに、ボトルネックを把握することが重要だと考える。例えば、すでに企業間での契約・押印のやり取りは社内業務をクラウド化できてもボトルネックになってしまうことがわかっている。これをクラウド化するには、大企業側の協力が不可欠で、積極的に働きかけをしていきたい。