
リモートワークの広がりに伴って、“商談のデジタル化”が進んでいる。ZoomやGoogle Meetなどのオンライン会議ツールが徐々に定着しつつあり、これらを活用したオンライン商談が珍しくなくなってきた。
ここでカギを握るのが「商談の録画データ」だ。商談をデジタル化することで、従来は俗人化しがちだった商談のノウハウを社内に共有しやすくなる側面もある。実際に日本国内でもこの1〜2年で、商談の録画データを軸に営業担当者や営業組織をサポートするツールが増え始めている。
主要なサービスに共通するのは、Zoomなどで実施した商談動画を音声認識AIを活用して自動で書き起こしをするというもの。発言者ごとに分けて文字に起こしてくれるため、議事録の作成や「誰がいつ、どんな発言をしたのか」を振り返る際にも役立つ。またSalesforceのようなSFA(営業支援システム)と連携しているサービスも多く、商談の基本情報や録画データのURLなどを自動で入力することで、担当者の負担を減らす。
東大松尾研発のAIスタートアップであるACESも、この領域でサービスを展開する1社だ。同社では2021年11月に「ACES Meet」のベータ版をローンチし、2022年3月より正式版の提供を始めた。
ACES Meetでは現在Zoomに対応していて、実施したオンライン商談のデータをサービス上で一元管理できる。
商談の内容が話者ごとに分けて自動で書き起こされるため議事録作成が容易になるほか、特定の箇所や特定の話者の発言だけを後から聞き直すといったことも可能。商談のポイントをピックアップするハイライト機能を使えば、該当する箇所の発言だけをテキストと音声ですぐに確認することができ、社内に情報を共有する上でも効率が良い。


ACES MeetのURLや商談情報をワンクリックでSalesforceに連携する仕組みを取り入れているほか、現在は試験的に一部の企業に提供している状態ではあるものの、商談参加者の表情や動きなどを解析してリアクションや感情の変化が大きかった瞬間を特定する技術も開発中だ。
ACES執行役員でACES Meetの事業責任者も務める西條真史氏によると、十数社がベータ版を利用しており、複数社へ本導入が決まっている状況。AI文字起こしによる議事録作成の支援やSalesforceへの情報入力の自動化など営業パーソンの業務負担削減だけでなく、社内でのナレッジ共有や人材育成の面で効果を期待して導入に至るケースが多いという。
たとえばある企業では「初回の商談ではヒアリングするべきポイント」をチェックリストにしてスプレッドシートで共有していたが、その際に関連するACES MeetのURLを一緒に貼り付けるようにしている。そうすることで「成果を出している担当者は、各ポイントで具体的にどのようなトークをしているか」をより具体的に伝えることができる。
「『自分たちの会社では営業担当者がこういう話をします』『こういう人が売れます』といった情報は属人化されやすく、キャッチアップをするのが難しいという悩みを抱えている企業も多いです。全体の成約率を向上させる上で社内の勝ちパターンを確立し、そのナレッジを新人や苦労している担当者に効果的に共有していくためのツールとして活用してもらえています」(西條氏)
データを取り入れた先進的な営業組織の育成手法は「セールスイネーブルメント」という名称で語られることも多く、ACES Meetも含めてこの領域に関連するスタートアップが国内でも増えてきている。
商談のDXというアプローチでは「アンプトーク」や「ailead」といったサービスがACES Meetと同様にオンライン商談や架電内容を自動で書き起こす機能を備え、業務効率化や人材育成をサポート。音声解析AI電話「MiiTel」を手がけるRevCommも、Zoomでの面談を可視化するサービスを2021年10月より開始した。
この1〜2年の間にスタートしたサービスも多く、新型コロナウイルスの影響でリモートワークやオンライン商談が急速に広がったこともその要因の1つだろう。
海外ではユニコーン企業の米Gongが2021年6月に2.5億ドル(約297億円)を調達しており、時価総額は70億ドルを超える。同年7月にはZoomInfo(Zoomを運営するZoom Video Communicationsとは別会社)が、Gongと同じくこの領域を代表するスタートアップのChorus.aiを5億7500万ドル(約683億円)で買収することを発表し、注目を集めた。