
- スタートアップのコーポレート業務を丸ごと担当
- スタートアップ創業期の3つの課題を3つのサービスで解決
- 業務内製時の半分以下のコストでサービスを提供する
- 小規模企業向けBPOサービスは大手が手を出さない空白地帯
創業間もないスタートアップにとって、経理、税務、法務、労務などの専任担当者をそろえられるのはずっと先のこと。当面は、これらさまざまな“コーポレート業務”を起業家本人か、少数(多くは独り)の担当者が兼任で担わなければならない。まさに立ち上げの事業成長に集中したい時期に、バックオフィス業務にも煩わされることになり、スタートアップにとっては負担が大きい。
こうした創業期スタートアップのバックオフィス業務に特化した、サブスクリプション型の業務支援サービスが「WORK HERO(ワークヒーロー)」だ。
サービスを提供するWORK HERO代表取締役の大坪誠氏は、「自分自身もそうでしたが、起業家はバックオフィスがやりたくて起業しているわけではない。けれども会社である以上は、公器として納税や雇用保険などの義務も負います。これまでに出会った経営陣みんなが困っていたバックオフィス業務で、自分が力になれることがあると考え、WORK HEROのサービスを1年ほど前に開始しました」と語る。
スタートアップのコーポレート業務を丸ごと担当
WORK HEROが対象とするのは、シード、アーリーフェーズのスタートアップ。コーポレート業務の専任担当者がいない企業だ。こうした企業では冒頭で挙げたとおり、専門性の高いコーポレート業務を経営者や少数の担当者が兼任で担うことになる。しかし会社としての優先順位は事業づくりにあるため、業務が後回しになりやすい。
また、「組織がそれなりに大きな規模になっても、バックオフィスと営業などのフロントサイドの両方を社長1人が指揮する体系がよく見られる」と大坪氏。結果として、フロントサイドとバックオフィスの調整を多忙な社長が行うことになり、請求や契約の確認、労務人事関連の手続きなどでいつの間にか“ボールがこぼれる”事態が、急成長企業ほど起きやすいという。
WORK HEROのプラットフォームには、会計士・税理士・社労士・司法書士といったプロフェッショナルが参加。またオペレーションでは「freee」や「マネーフォワード クラウド」「SmartHR」など、既存のSaaSを活用する。WORK HEROは顧客企業の「専門家への相談窓口」「SaaSの管理者」として、スタートアップの“総務部代行”のような役割を担い、経営者が事業づくりに専念できるようサポート。経理、労務、法務などの業務に関する社員の相談窓口としても機能する。

スタートアップ創業期の3つの課題を3つのサービスで解決
大坪氏は、アーリーフェーズのスタートアップの課題を「士業とのやり取りの煩雑さ」「SaaSの使いこなし」「バックオフィス業務の内製の難しさ」の3つに分けて説明する。
まず士業とのやり取りでは、契約する専門家のそれぞれから来る、細かい依頼や確認のメールを月2〜3通は処理する必要がある。それぞれのメールには、依頼や報告が複数含まれているが、専門用語が多く、経営者1年生の起業家にとっては分かりにくいため、確認や返信にも時間がかかる。
次のSaaSの使いこなしについては、増え続けるSaaSの管理に加えて、個々のSaaS内の機能や仕様も複雑化し、これらを組み合わせて使わなければならないことが影響している。選択肢が増えたことにより、自社の業務に合ったツールと運用フローを適切に選択できなくなっているのだ。また、多くのSaaSがCSV連携やAPI連携を打ち出しているものの、実際にはデータ型や仕様同士の相性があるため、データ加工やSaaS外で行う手作業が発生する。そのことが新たなミスも生み出しているという。
最後のバックオフィス業務の内製の難しさについては、「日々の経理・労務からストックオプション設計や調達まで」という初期スタートアップで求められるオールラウンダーな人材はそう簡単には見つからないことが大きい。また事業成長とは直接結び付かない固定費を最初期から負担することをためらうスタートアップも多い。年末や期末などの繁忙期に業務が集中するため、特定時期だけ担当者の負荷が高く、繁忙期以外は逆に業務がない、といったアンバランスさも、内製コストを引き上げる。
これらの課題を解決すべく、WORK HEROはバックオフィスの「業務フロー」「日々の運用代行」「社内外の窓口代行」をサービスとして提供する。
業務フローについては、SaaSと実運用を組み合わせ、一部作業をWORK HEROで代行する。具体的には申請や承認のリマインド、SaaSへの入力といった、バックオフィス部門が行う一連の業務をパッケージとして最適化して提供する。
こうした業務は、大手のビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)サービスなどでは企業の状況に合わせてフローを構築し、人をアサインして顧客別に提供するところ。だがWORK HEROでは、業務の中に人が介在しつつも、パッケージ化したフローへ移行することにより、コストを絞ることができるという。
パッケージフローに合わせることにより、日々の運用についても、顧客企業からの特段の指示なしでWORK HEROのオペレーターが自律的に対応する。顧客側はWORK HEROとのやり取りをSlackで行い、最低限の判断と実施した作業の確認だけすればよい。運用の一部では、WORK HEROが自社開発した各種処理を自動化するSaaS的なツールも活用されているという。
社内外の窓口もWORK HEROが担当する。従業員の氏の変更や扶養家族の届け出、社名や会社住所などの登記変更など、本来、経営者や管理者が直接やり取りする必要はないが法的には必要なさまざまな手続きで、社員と専門家との間に立ち、必要な情報のやり取りを行い、会社へ結果を報告する。
プランは業務の数に応じて4種類。四半期締めの経理処理や15件までの支払管理、給与計算、入退社の労務管理、源泉徴収税の税額計算を対象とした「Smallプラン」の料金が月額10万円台から、初期導入費用が10万円からとなっている。またメンバー数や、特定のベンチャーキャピタル、アクセラレーションからの出資を受けているなど、一定の条件を満たせば最大で料金が半額となる、シード期スタートアップのサポートプランもあるそうだ。
業務内製時の半分以下のコストでサービスを提供する
「サービスとしては『CASTER BIZ』や人材派遣などとよく比較される」というWORK HEROだが、「時給制ではない点と、担当者が付くというよりはコーポレート業務全体をWORK HEROが担うイメージになる点が異なる」と大坪氏は説明する。

経理のみ、労務のみといった切り分けではなく、オールインワンでのサービス提供を行うWORK HERO。経理・労務を中心に、企業が義務として執り行う必要がある業務についてはすべて対応する。また、補助金や助成金、融資など、創業期の企業からのニーズが高い領域についても対応範囲を拡大中だ。補助金制度の活用や節税手段などを事業の数字から自然に把握できることから、財務部門的な役割として提案も行える。ほか、情報システムやIT管理などの領域は法的義務にはない部分だが、対応範囲を増やしているところだという。
WORK HEROでは、顧客に「サービス導入のトータルコストを、バックオフィス業務を内製した場合のコストの半分以下にする」ことを約束しているそうだ。さらにWORK HEROは「バックオフィスのAWSを目指している」と大坪氏は語る。急成長スタートアップが負う急拡大・急縮小時のバックオフィス要員雇用のリスクを、安定的に、拡張性あるかたちでWORK HEROが肩代わりして、提供していきたいという。
「その会社の特性や個性、本業に集中できるためのバックアップ体制を構築できるサービスとして、今、足元ではアーリーフェーズのスタートアップにターゲットを絞っています。しかし、スタートアップを顧客としているからには、IPO後までずっと伴走できるサービスでもあるべきと考えています」(大坪氏)
小規模企業向けBPOサービスは大手が手を出さない空白地帯
バックオフィス業務のSaaSが急増する中、それぞれの連携が取りづらくなり“不調和”が生じたときに、WORK HEROは「指揮者」としてそれらをつなげる役割を果たしていると大坪氏はいう。
「“コンテナオーケストレーション”と我々は呼んでいますが、それによって(各SaaSを)ERP的に利用しています。操作には人がやる部分も自動処理する部分もありますが、SaaSのデータやUIの細かい仕様、人の作業時間を分析し、その情報をもとに、よりROIの高い、安定したサービスになる部分の開発を進めています。初めは人力で対応する部分が多いのですが、どんどん“サイボーグ”化させていくというモデルです」(大坪氏)
市場規模については、国内の経理・労務とルーティンワークの人件費の合計で最大28兆円をTAM(Total Addressable Market)とし、初期市場規模(SAM:Serviceable Abailable Market)を140億円と見積もる。
大坪氏は「日本でもBPOが浸透し、市場参入のタイミングとしては良い時期だ」という。
「ただし今伸びているのは、大企業の利用です。経済産業省の調査によれば、我々がターゲットとしている従業員300人未満の企業では2割ほどしかBPOを活用していない。しかし、実際にBPOを利用した企業は規模にかかわらず、おおむね8割の企業が満足しています。小規模企業へのサービス提供は、従来の大手BPO事業者にとっては単価が見合わず、あまり進出しないホワイトスペースとなっているので、我々にはチャンスです」(大坪氏)
米国では、人事労務、財務、税務など、WORK HEROが対応する領域のBPO利用率が日本の2倍以上あり、今後日本でも同程度の普及が見込めると大坪氏は考えている。
海外では、会計や労務、ITヘルプデスクなどのバックオフィス領域でBPOサービスの利用が広がっている。また大型調達を果たすスタートアップも増えた。
たとえば会計領域では、簿記やCFOサービスなどを提供する米Pilotが、Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏の個人ファンドやWhale Rock Capital、Sequoia Capital、Index Ventures、Authentic Venturesが参加するシリーズCラウンドの調達により、それまでの累計で1億5000万ドル(170億円)以上を調達し、評価額12億ドル(約1300億円)のユニコーン企業となっている。また人事関連のコンサルティング、ソリューション導入、運用などのサービスを提供するフランスのスタートアップ・HR Pathが累計250億円、IT部門のクラウド化を支援する米Electricも累計92億円を調達している。
「日本でも、これまではそれほど大きくなかったスタートアップ市場が大きくなりつつあり、スタートアップを支援するサービスも今が出ていくタイミングではないか」と大坪氏は見ている。
「当初はスタートアップを対象に、法的にアウトプットが決まっている領域にフォーカスして、オールインワンのサービス提供を進めます。その後は、ITや福利厚生などいくつかの領域にサービス範囲を増やす。また、対象とする企業の規模も中小企業や大企業などへ広げていく考えです。ベストプラクティスの積み上げにより、すべて人が対応するBPOと比較すれば半額ほどで提供できるようなサービスにして、将来的な拡大を目指したいと考えています」(大坪氏)
3月23日、Coral Capital、East Ventures、ニッセイ・キャピタルを引受先とする第三者割当増資による、総額1.4億円の資金調達実施を発表したWORK HERO。調達資金を採用やサービス開発に充て、まずはバックオフィスサービスによるスタートアップ支援をさらに強化するもくろみだ。