9secondsが運営している「Quicker」はウェブサイトを訪問した顧客と営業担当者を最短10秒でつなぐサービスだ
9secondsが運営している「Quicker」はウェブサイトを訪問した顧客と営業担当者を最短10秒でつなぐサービスだ
  • 最短10秒、営業担当者と見込み顧客が1クリックで通話可能
  • 3.2億円調達で事業拡大へ、海外では「Conversational Marketing」領域として注目
  • 電話営業に感じた課題感がきっかけ、営業の負の解決目指す

「自分自身が複数社でインサイドセールスや営業に携わる中で、電話営業に限界を感じていたことが1つのきっかけになりました」

セールステック関連サービスを手掛ける9seconds代表取締役CEOの渡邊将太氏はそう話す。

渡邊氏は2020年に起業するまで、NTTドコモやfreee、Dropboxの日本法人で営業を経験してきた。日本の大企業、急成長中のスタートアップ、外資系のメガベンチャーとそれぞれ毛色は異なるが、どの現場においても感じたのは電話営業の難しさだ。多い時には1日に150件の電話営業をする日もあり「法人営業担当と見込み顧客とのコミュニケーションのタッチポイントがあまりに少なすぎる」と考えるようになったという。

「電話営業は事業を伸ばしていく上で重要ですが、一方で『10年後も同じようなことをしているか』というと、そうはならないだろうと。テクノロジーが電話営業を変革して、もっとスムーズに担当者と見込み顧客がコミュニケーションできるツールが出てくるはずだと思いました」(渡邊氏)

9secondsが現在ベータ版として運営している「Quicker」は、渡邊氏が話すようにBtoBの営業において“担当者と見込み顧客とのコミュニケーションの在り方”を変えようとしているサービスだ。

最短10秒、営業担当者と見込み顧客が1クリックで通話可能

Quickerのイメージ画像

Quickerの特徴は営業担当者と見込み顧客がウェブサイト上にて最短10秒程度でつながり、そのまますぐに会話できることだ。

企業がQuickerを活用すると自社サイトの左下に電話型のアイコンが設置されるようになる。サービスに興味を持った見込み顧客がそのアイコンをクリックすると簡単なフォームが表示され、名前や電話番号などを入力した上で担当者との通話を希望することが可能だ。

通話のリクエスト後は担当者に通知され、“すぐに対応できる状態であれば”という条件付きにはなるものの、最短10秒足らずで両者がつながり通話が始まる(担当者が顧客の電話番号宛に携帯電話やIP電話から発信)。

これまで法人営業担当者と見込み顧客とのウェブサイトにおける接点は、資料請求のフォーム、問い合わせ用の電話番号、チャットボットなどが主流だった。

ただこれらの手段では「顧客はプロダクトの有用性を知りたいのに先に個人情報などの入力が求められる」、「営業担当者は顧客につながるまで何度も電話をかけて、問い合わせの背景や意図を聞かなければならない」など、双方に負担がかかっていたと渡邊氏は話す。

特にコロナ禍では担当者に電話がつながらないケースが増え、企業側の「顧客との新しいタッチポイント」へのニーズが一層高まった。Quickerは現在ベータ版という位置付けではあるが、社員数50〜300名規模の企業を中心に数十社が活用しているという。

「実際にサービスに興味を持った顧客が営業担当者と話すまでに、平均で42時間くらいの時間がかかっていると言われています。顧客が問い合わせフォームに情報を入力して、メールが送られて。(インサイドセールス担当者が)電話をするもののすぐには繋がらない場合もあり、時には何度か電話をしながら日程調整をするといったように膨大な工数がかかっていました。Quickerはこれを最短でたった10秒にすることを目指したサービスです」(渡邊氏)

Quickerの特徴

Quicker導入後の変化としては「顧客との接触率」に大きな違いが生まれることが多い。ある導入企業では問い合わせをしてきた顧客のうち、30%ほどしか電話がつながらず、課題を感じていた。その数値がQuickerを利用し始めてから70%ほどに上がったのだという。

3.2億円調達で事業拡大へ、海外では「Conversational Marketing」領域として注目

Quickerでは最短10秒で見込み客とつながれるという機能を軸に、サービスを強化している状況だ。IPアドレスから見込み顧客の企業を推定し、その上でポップアップの表示の有無やタイミングを変更する機能なども実装。Salesforceのように営業担当者が利用する外部システムとの連携も強化している。

渡邊氏によると“ウェブ接客”機能を持つサービスやチャットボットなどと比較されることもあるが、Quickerとしてはあくまで「B2B企業のセールスや顧客とのコミュニケーションの体験」に注力し、機能を拡充する方針だ。

Quickerのようなプロダクトは、海外では「Conversational Marketing(Sales)」領域として複数のサービスが存在している状況だ。Conversational Marketing(Sales)とは“会話”を通じて顧客との関係性を構築するマーケティングや営業の手法のこと。それを後押しする企業としてはユニコーンのDriftが代表格で、海外ではこうしたスタートアップが手がけるサービスを自社サイトで活用する例も増えているという。

日本においてはまだプレーヤーが少なく、9secondsとしてもまずは国内で事業を広げていく計画。そのための資金として、ジャフコグループとXTech VenturesからプレシリーズAラウンドにて総額3.2億円の資金調達も実施した。

海外のセールスマーケティング領域の主要なプレイヤー
海外のセールスマーケティング領域の主要なプレイヤー。QuickerはConversational Marketing(Sales)領域のサービスだ。

電話営業に感じた課題感がきっかけ、営業の負の解決目指す

渡邊氏は2020年の起業当初から、自身もなじみが深い営業領域の課題を解決するべくセールステック領域でプロダクトを開発してきた。もっとも、最初からQuickerのアイデアがあったわけではなく、複数のアイデアを検証し、何度かピボットした上で行き着いたのがQuickerだったという。

9seconds代表取締役CEOの渡邊将太氏
9seconds代表取締役CEOの渡邊将太氏

転機となったのは、以前試作していたプロダクトの広告をFacebook上で出したことだ。

その広告を見た見込み顧客から問い合わせがきたが、コロナの影響もあってか「(興味を持ってくれたはずなのに)すぐ対応しても、電話をかけてみるとつながらない」ということが何度かあった。「これって大きなペインだな」渡邊氏自身の課題感がQuickerにつながった。

「思い返せば以前勤めていた会社でも、問い合わせに対応したものの反応がこないということが一定数ありました。一方で海外のサイトでは従来の問い合わせフォームなどの代わりにDriftのようなサービスが使われ始めている光景を見て、このような仕組みが日本でも作れればニーズがあると感じてQuickerを作り始めました」

「日本の営業の領域はまだまだ負が大きいです。電話営業は事業を伸ばす手段の1つとして重要ではあるものの、(担当者の)心理的な負担や、電話を受ける側の体験の悪さは何十年も変わっていないと思っています。その体験を大きく変えていくことを目指していきます」(渡邊氏)