
- 韓国発、スマホ最適化されたコミックは翻訳で海外にも進出
- 日本でもウェブトゥーン“国産化”への機運が高まる
- 市場規模予測は7年で7倍の3兆円、収益アップを分業化で図る
片手で隙間時間に手軽に読める、韓国発の縦読みデジタルコミック「ウェブトゥーン(Webtoon)」が、日本でもコミックアプリなどで人気を博している。Netflix製作の『梨泰院クラス』『Sweet Home ー俺と世界の絶望ー』をはじめ、ドラマ原作としても世界で注目されるウェブトゥーン。その特徴や市場規模などについて紹介する。
韓国発、スマホ最適化されたコミックは翻訳で海外にも進出
ウェブトゥーンとは、縦スクロール型でフルカラー、スマートフォンでの閲覧に適したスタイルのデジタルコミックの総称だ。
2000年前後、韓国の漫画家たちが自身の作品をウェブサイトで掲載することから始まったウェブトゥーンは、当初は紙で出版されているコミックと同様、1ページまたは1見開き単位でページを閲覧できる形式だった。
2003年ごろからカカオやネイバーなど、韓国大手IT企業が、ポータルサイトでウェブトゥーンサービスを開始。ブラウザによるウェブページの先読み(プリロード)機能が強化されてからは、縦にスクロールして連続した長いコマを読み込む、現在のウェブトゥーンに見られるレイアウトが採用されるようになっていった。
そして2010年代以降はスマートフォンの普及により、片手で読める縦読みスタイルのウェブトゥーンは、コミックの新形態として定着。同時に、ウェブブラウザ上からスマホアプリなどの新たなプラットフォームへと掲載の場を移しつつある。
アプリでの掲載が一般化すると同時に、ウェブトゥーンの英語への翻訳も始まり、欧米へのコンテンツの進出も進んでいる。また、中国や台湾、インドや東南アジア圏でもウェブトゥーンの人気は上昇。日本でもウェブマンガアプリの普及に伴い、徐々に浸透が進んでおり、IT系のメガベンチャーや出版社などによる事業展開や投資が2021年以降、盛んに行われている。
日本でもウェブトゥーン“国産化”への機運が高まる
日本でウェブトゥーンを掲載する主なプラットフォームには、2013年ローンチの「LINEマンガ」「comico」や、2016年公開の「ピッコマ」などがある。いずれも韓国IT大手が立ち上げに関わっており、LINEマンガを運営するのはネイバーグループのWEBTOON Entertainmentの子会社であるLINE Digital Frontier。comicoはNHN Entertainmentの日本法人NHN JAPAN傘下のNHN comicoが運営する。ピッコマの運営はカカオの日本法人・カカオピッコマが行っている。
ピッコマは後発ながら、2021年におけるApp Store(ブックカテゴリ)とGoogle Play(コミックカテゴリ)の合計売り上げが日本でも世界でも1位を記録。累計ダウンロード数は3000万件を突破した。先行するネイバーのLINEマンガ(ワールドワイドでは「WEBTOON」の名でアプリを展開)は、グローバル全体ではカカオのピッコマにいったん追い越されたかたちだが、2022年上半期には欧州・フランスに拠点を設立。米・韓・日・欧の主要市場で事業を展開して、巻き返しを図る構えだ。対するカカオもピッコマの欧州進出を企てている。
これまでウェブトゥーン作品のほとんどが韓国で制作され、日本においては翻訳・アレンジしたものがアプリなどに掲載されてきた。だがここへ来て、国内の企業からも投資が進んでおり、現在は“国産ウェブトゥーン”展開への動きが活発化している。
2021年にはソラジマやLOCKER ROOM、taskeyといった、スタートアップをはじめとする企業により、ウェブトゥーン専業の制作スタジオが相次いで設立。また、小学館や集英社などの大手出版社や、アカツキ、and factory、コルクのようにIPビジネスやマンガアプリ制作を手がける企業による、ウェブトゥーン制作スタジオへの出資も盛んになった。
アカツキはまた、ウェブトゥーンアプリ「HykeComic(ハイクコミック)」を2022年春に国内先行リリースすると発表している。出版社ではKADOKAWAが2021年8月に「タテスクコミック」レーベルを始動し、自社の人気タイトルをウェブトゥーン型にリニューアルして配信するほか、オリジナル作品の開拓にも取り組む。クリエイター寄りのプラットフォームとしては、ピクシブがLOCKER ROOMとの共同制作プロジェクトを3月28日に開始している。
市場規模予測は7年で7倍の3兆円、収益アップを分業化で図る
調査会社のQYResearchは、世界のウェブトゥーン市場が2022年から2028年の間に30.99%のCAGR(年平均成長率)で伸長すると見積もる。市場規模は2021年の36億7347万ドル(約4400億円)に対し、2028年には262億1359万ドル(約3兆1500億円)に達すると予測している(『Global Webtoons Market Size, Status and Forecast 2022-2028』より)。
ウェブトゥーンプラットフォームの収益モデルはさまざまだが、多くは「冒頭から数話など、限定話数を無料で公開し、それ以外は課金する」、あるいは「1日に1話〜数話を無料で公開し、それを超えた分について課金する」といった形式が採用されている。
ウェブトゥーンを制作するスタジオは、アプリなどのプラットフォームが得た売り上げから、印税のように一定の料率を得る。事業者との契約にもよるが、その料率は25%〜40%ほど。ピッコマで公開された『俺だけレベルアップな件』が2020年5月に月間販売額2億円を突破した例もあり、「作品がヒットすれば月額数千万円規模を稼ぐことが可能」とあって、この領域はクリエイターからも注目され始めている。
ウェブトゥーンの制作は作家個人でも可能ではあるが、売れる(読まれる)作品を定期的に数多く配信するために、原作、シナリオ(ネーム)、キャラクターデザイン、作画、着彩、仕上げなどの作業を、編集者(ディレクター)の指揮の下、分業で行うスタジオが多い。この点、従来の漫画家の制作スタイルよりは、ゲームやアニメーション作品の制作体制に近いと言える。
紙のコミックがウェブに掲載されるのとは逆に、人気ウェブトゥーンをコマ割により紙の本のレイアウトに最適化して書籍化するパターンも現れている。冒頭で触れたNetflix作品のほかにも、LINEマンガの『女神降臨』が韓国でドラマ化されるなど、IP(著作物)を別の形態で展開することも増えており、収益を得る手段はオリジナルのウェブトゥーン作品の配信にとどまらず、広がっている。