左から、VanMoofの新モデル「S5」と「A5」
左から、VanMoofの新モデル「S5」と「A5」
  • フレームの形が異なる新モデル「S5」と「A5」を発表
  • スマートフォンと連携した未来的な「コネクテッド」自転車
  • 目指すのはクルマに代わるクリーンな交通手段

「今日、アップルは電話を再発明する」——。スティーブ・ジョブズ氏が誇らしげに宣言して発表したiPhoneは、携帯電話をスマートフォンへと進化させ、世界を大きく変えた。

そんな革命を、モビリティの分野で起こそうとしているのが、オランダ発のeバイクメーカー、VanMoof(バンムーフ)だ。創業者で工業デザイナーのタコ・カーリエとティーズ・カーリエ兄弟は、自転車に関してはまったく無知だったがゆえに、自由な発想でeバイクに新たなアイデアを持ち込み、業界に革新を起こし続けている。シンプルで細部までこだわり抜いたデザインをまとう点も、アップル製品との共通点かもしれない。業界の常識を次々と覆す姿から、「自転車界のテスラ」と呼ばれることもある。

2009年に自転車大国のオランダで創業したVanMoofは、先進的な技術と未来的なデザインで人気を集めている。今では東京を含む世界8都市に店舗を持ち、約20万人のライダーがいる。2021年9月にはシリーズCとして1億2800万ドル(約158億円)の資金調達を行っている。

フレームの形が異なる新モデル「S5」と「A5」を発表

そのVanMoofが4月6日、新モデルの「S5」と「A5」を発表した。2020年4月に発表された従来モデル「S3」「X3」と併売される。2機種の違いは、主にフレームの形。S5はシティバイクのような形をしており、身長165〜210センチメートルのライダー向け。大柄なオランダ人にも合う仕様だ。

VanMoof「S5」
VanMoof「S5」

一方A5は、BMX向けバイクのような後ろ下がりのフレームを採用。こちらの対応身長は155〜200センチメートルと、小柄な人にも乗りやすくなっている。

前モデルの「X3」はトップチューブ(ハンドル部分とサドル部分をつなぐパイプ)が水平だったが、新型「A5」は後ろ下がりとなり、より乗り降りしやすく街乗りに向いた仕様となった。価格は両モデルとも31万5000円で、前モデルからは2万円高くなっている。

VanMoof「A5」
VanMoof「A5」

両機種ともフロントタイヤのハブ部分にパワフルなモーターが組み込まれており、電動アシスト自転車として上限の時速24キロメートルまでペダルをアシストしてくれる。ハンドルには「ターボブースト」ボタンがついており、これを押している間は一時的にアシストが強まり、爽快な加速ができる。1回の充電で走行できる距離はS5が60〜150キロメートル、A5が55〜140キロメートルとなっている。

スマートフォンと連携した未来的な「コネクテッド」自転車

VanMoofのeバイクの特徴は、ヘッドライトやリヤライト、ロック、バッテリーといったパーツ類がすべてフレームに組み込まれ、一体化されていること。これがすっきりしたデザインにひと役買っている。チェーンもケースに覆われており、頻繁なメンテナンスは必要ない。変速機はなんとオートマチックで、設定した速度になると自動的に変速する。

コネクテッド機能、つまりスマートフォンとの連携も特徴のひとつだ。専用アプリを使って警笛の音色やアシストの強さ、自動変速のタイミングなどを自由に変更したりできる。走行距離や走行時間、速度といったデータもアプリを使って確認できる。最新モデルではハンドル中央にスマートフォンをマウントし、走行距離やバッテリー残量などを見られるようになった。

VanMoofの専用アプリのイメージ
VanMoofの専用アプリのイメージ

ロックもスマートフォンと連動している。後輪部分に設置された「キックロック」と呼ばれるボタンを“キック”するだけで施錠でき、解錠時はアプリで解錠ボタンをタップするか、アプリを接続した状態で警笛ボタンを押せばOKだ。さらに最新モデルでは、スマートフォンを持って近づくだけで解錠されるようになった。

アプリによるロック解除のイメージ
アプリによるロック解除のイメージ

後輪をロックするだけでは心もとないと思うかもしれないが、そこがVanMoofのユニークなところ。テクノロジーを使った盗難防止システムが組み込まれている。ロック中に自転車を動かそうとすると、内蔵の加速度センサーがそれを検知して音と光で警告。同時にスマホアプリに通知が届く。それでも盗まれてしまった場合は通信機能を利用して位置情報が追跡できる。2021年4月にはアップルの「探す(FindMy)」機能にいち早く対応し、4月以降に販売された機体はMacやiPhoneなどの「探す」アプリを使って見つけられるようになった。

さらにオプションで盗難保証サービスも用意されている。盗難に遭うと「バイクハンター」と呼ばれる専門チームが捜索してくれる。2週間たっても見つからなかった場合は、同等品を提供してくれるというものだ。このプランは盗難が多いヨーロッパなどでも提供されており、同社の盗難防止技術に対する自信がうかがえる。

目指すのはクルマに代わるクリーンな交通手段

未来的なeバイクを作り続けるVanMoofだが、その目線はさらに先に向いている。同社は2021年10月、最高時速50キロメートルという野心的なeバイク「VanMoof V」を発表。2022年末(日本は2023年を予定)までに発売する予定だ。高速でも安定走行できるよう、前後輪それぞれにモーターを内蔵し、バイクのように太いタイヤと前後サスペンションを搭載している。

もちろん自転車の最高時速は国によって決まっているから、実際には走行する国によって制限がかけられることになる。日本ではアシスト上限が時速24キロメートルとなっている。それでもVanMoofがこんな自転車を発表したのは、都市モビリティの再定義をするため。クルマに代わるクリーンな交通手段としてeバイクの普及を目指す同社は、持続的な未来に向けて政策をアップデートするよう、各都市と議論していきたいとしている。

VanMoof Vは45万円という価格にも関わらず、発表から約3カ月で予約数が世界で1万台を突破したという。新たな交通手段としてのeバイクへの期待は世界的に高まっているようだ。