
- 米国から注目される「日本のHRTech」
- 特許を取得した独自の「シェア機能」
- ぬるい上司に「喝」を入れる“おせっかい”
質の高い人材を採用することが難しくなっている今、社員の働きやすい環境を作ることが企業の重要課題となっている。そんな中、上司と部下の関係性を円滑にするツールを作り出した日本発のスタートアップ・KAKEAIが注目されている。悩める上司を救うAIツールの実態とは。(ダイヤモンド編集部 塙 花梨)
リモートワーク、副業解禁などにより働き方が多様化し、企業が優秀な人材を採用するのに努力が必要になっている。社員が自分の力を発揮できる環境を作ること、辞めさせないことは、企業にとって喫緊の課題だ。
特に米国では、従業員が働く上での体験のことを 「Employee Experience(従業員体験。以下、EX)」と呼び、EXを高めることが組織づくりの重要なミッションとなっている傾向にある。
例えば、宿泊施設・民宿のマッチングサービスを運営する米国のユニコーン企業Airbnb(エアビーアンドビー)では従業員の満足度を高めるEX専門部署を設け、社内制度の改革やカルチャーの醸成を進めている。
米国から注目される「日本のHRTech」
日本よりも一足先にEXの重要性に目を向けつつある米国で、注目されている日本のスタートアップがある。上司と部下の関係づくりを支援するツールを提供しているKAKEAI(カケアイ)企業だ。
KAKEAIは、HRとテクノロジーを掛け合わせたHRTech領域のツールだ。SmartHRやカオナビなどをはじめ、約500のサービスが生まれており、国内の市場規模は349億円だ(ミック研究所『HRtechクラウド市場の実態と展望2019年度版』のプレスリリースより)。今後も年間40%の成長が見込まれており、2024年度には1700億円にまで成長すると予測されている。
KAKEAIは2018年に創業してから、そんな活発なHRTech市場の中で独自の存在感を放っている。2019年10月にラスベガスで開催されたHRTechの世界最大級イベント「HR Technology Conference & Expo 2019」に参加。その中で、日本企業で初めて「世界のHR techスタートアップ30社」に選出された。
KAKEAI代表取締役社長の本田英貴氏は、日本発のサービスが海外のHRTechイベントで受賞した理由を次のように推測する。
「米国は今、『従業員の力をどうしたら最大限に引き出せるか』に関心が強いです。特に、KAKEAIの上司と部下のコミュニケーションにおける課題は万国共通。むしろ人種や宗教の違いもあるため、日本企業よりも課題感が大きいのかもしれません」(本田氏)
特許を取得した独自の「シェア機能」
KAKEAIは、性格診断データやチームメンバーからの報告データをAIが分析し、部下の性格や感情を可視化。属人化しがちな現場のマネジメントを改善できるサービスだ。
多くのHRTechツールが人事部門向けなのに対し、現場のマネジャーを対象にしている。これについて「従業員が働く上で、現場の上司の影響がいちばん大きいはず」だと本田氏は主張する。
「日本だといまだに、人事部門が管理する考え方が主流のため、従業員満足度を高めようと組織を内側から変えようとしても、のれんに腕押し状態。だからこそ、上司部下の関係性を可視化して属人化を防ぐことで、現場に裁量がある環境を作ろうと考えました」(本田氏)
最大の特徴は、上司と部下のコミュニケーションにおける複雑かつ膨大なデータを蓄積し、独自のAI分析によるアドバイスをほかの上司にも共有できる仕組みだ。上司が部下にどのように接したか、またそれに対して、部下がどのように感じたかを、すべて蓄積できる。
具体的な使い方としては、まず、上司と部下それぞれが、性格診断テストを受ける。その結果で得られる性格の特徴は、回答者本人にフィードバックされるのに加え、KAKEAI上にデータとして蓄積される。
また、部下の変化をチームメンバーが報告できる仕組みも搭載されている。部下はツール内の「気づきボタン」を押して、他のメンバーの様子などを投稿できる。これにより上司だけでは気付きにくいことや目の届いていないことを、チームで補完できる。
これらのデータをAIが分析し、上司が部下に行うべき関わり方をアドバイスするのだ。部下の特性や状況に応じて、適切なコミュニケーション方法が事例ベースでAIから提案されるため、1on1ミーティングなど、上司と部下の面談で利用される場合が多い。
最後に、部下が「上司との面談を通してどう感じたか」のフィードバックを、KAKEAIに入力する。感情や悩みを段階評価で回答するか、またはフリーコメントで細かく記入できる。AIは、性格診断結果や職場での状況なども包含した上で、近しい上司部下の組み合わせや状況になっている社内の別の上司部下のフィードバックもリコメンドしてくれる。
これによって上司は、現在の部下との関わり方を確認することだけでなく、効果的なコミュニケーション方法を見つけるヒントも得ることができる。

この「何かしらの⽅法で得られた、どのような特徴の⼈が(Xさんとする)、どのような特徴の⼈に対し(Aさんとする)、どのような状況で、どのように関わり、それを相⼿(Aさん)がどう感じたかというデータをもとに、XさんやAさんと近い特徴や状況にある⼈に対し、相⼿への最適な関わり⽅を提案する」というナレッジシェアの仕組みは、ビジネスモデル特許も取得している。
ぬるい上司に「喝」を入れる“おせっかい”
創業2年目にして、大企業からスタートアップまで約30社が導入しているKAKEAI。特に大企業との親和性は高く、オムロングループなどの有名企業でも一部導入されている。
「1on1を実施していてもうまくいっていない企業にはお勧めです。また、ゆくゆくは会社間でも個人を特定しない形でナレッジシェアできる仕組みをリリースする予定なので、他社の1on1も参考にできるようになります」(本田氏)
さらに本田氏は、「上司やマネジャーに刺激を与えるきっかけを作りたい」と主張する。
「今の時代、上司と部下の1対1の関係性だと、なんとなくの主観でマネジメントをする“ぬるい人”が結構いる。それをAIの力で解消したい。昔は会社によく、“おせっかいな人”っていたじゃないですか。『あの人がこう言っていたよ』とか『あれは良くないんじゃない?』とか言う人。実はああいう人がいるおかげで、多面的に見られていた部分が少なからずあった。あの“おせっかいな人”AI版をやりたいんです」(本田氏)
MBOやOKRなどの評価制度を設けても、上司と部下が組織のベースとなることに変わりはない。KAKEAIのようなテクノロジーを使い、部下の人間性や感情が可視化できれば、現場のマネジメントが大きく変わるかもしれない。