
- GameFiトレンドの核は「Play to Earn(P2E)」と「スカラーシップ」
- GameFi業界の3つのレイヤーと主要なプレーヤー
- 日本がブロックチェーンゲーム大国になる可能性
2020年も大変盛況だった暗号資産業界だが、2021年にはそれを上回るほどの資金、人材、ユーザーが業界に集まった。その背景には、プレイすることで暗号資産を稼げるブロックチェーンゲーム、別名「GameFi(ゲームファイ、GameとFinanceを組み合わせた造語)」の普及がある。
海外におけるGameFiの現状および日本における可能性について、ベンチャーキャピタル、Headline Asia・Infinity Ventures Crypto(IVC)の林政泰氏が解説。IVCはHeadline Asiaの姉妹ファンドで、GameFi・DeFi・Web3といった領域に特化する。
GameFiトレンドの核は「Play to Earn(P2E)」と「スカラーシップ」
アメリカ、ヨーロッパ、中国、日本では大手ゲーム会社に所属していた多くの優秀な人材が、若手から役員までこぞってブロックチェーンゲームを開発するゲーム会社へと移籍しつつある。大手ゲーム会社によるGameFiへの新規参入も増加している。
東南アジア、インド、中東、南米、アフリカといった発展途上国では、ブロックチェーンゲームをプレイすることで生活費を稼いだり、家族を養ったりするプレーヤーが急増。GameFiのエコシステムの発展に必要な各種イノベーションに取り掛かるスタートアップや、GameFiに特化したベンチャー投資ファンドも続々と現れている。
「DeFi(Decentalized Finance)」にちなんでGameFiと呼ばれ、世界中で新しい業界を形成しつつあるこのトレンド。その本質は「Play to Earn(P2E、プレーして稼ぐの意)」と「スカラーシップ」にある。
Play to Earnは、日本ではほぼすべてのゲームにおいて禁止されているRMT(Real Money Trading)と同じではないかという指摘もある。確かに、時間をかけて強くしたゲームキャラクターや、取得したレアなアイテムを他のプレーヤーに売るというユーザーの行為自体は、RMTとほぼ同じだ。
だが、従来のゲームでは、キャラクターやアイテムはゲーム会社に中央集権的に管理されてきた。ゲーム会社の一存で、特定のプレーヤーのアイテムを削除したり、ゲーム自体を閉鎖し、ゲーム内のデータをすべて消滅させることもできる。一方で、ブロックチェーンゲームやNFTゲームにおいては、ゲーム内のデータはすべて分散型台帳に書き込まれる。ゲームを主催する会社であってもキャラクターやアイテムの変更や改ざんを行えないため、本当の意味でユーザーの“財産”となる。
取引の透明性や効率性の向上というメリットもある。ゲームアイテムがNFTであれば、たとえば元のゲームが閉鎖されることになっても、同じ会社が開発する次のゲームにおいて同じNFTを使用できる可能性がある。さらに別の会社が作ったゲームでも、同じNFTで遊ぶことが可能だ。従来、ゲームアイテムの価値は1つの特定のゲームに依存していたが、ゲームアイテムがNFTになると、NFT自体の価値はゲームと切り離され、そこに価値を感じるプレーヤーがいる限り、そういったNFTが使えるゲームはまた開発される。
また開発者側も、ゲームアイテムがNFTとしてオープンな分散型台帳に記録されるようになったことによって、そのNFTを使えるゲームを自由に開発できるようになった。加えて、それを取引したり、株式分割のようにNFTを分割したり、融資の担保として使用するアプリケーションも、自由に開発できるようになっている。今までのRMTを「Closed Play to Earn」、今のPlay to Earnを「Open Play to Earn」と呼んだ方が、その違いが分かりやすいかもしれない。
現時点で最も人気のあるPlay to Earnゲーム「Axie Infinity(アクシーインフィニティ)は、2021年に急激な成長を見せたが、実はリリースされたのは2018年にさかのぼる。Play to Earnだけではまったく伸びなかったAxie Infinityが成長したきっかけが、スカラーシップへの対応だ。
2021年、投資家とブロックチェーンゲーマーによるコミュニティ、Yield Guild Games(イールドギルドゲームズ、以下YGG)が、スカラーシップというビジネスモデルを生み出した。
YGGは世界最大規模のDAO型ブロックチェーンゲームギルドで、大手VCのAndreessen Horowitz(a16z)がフィリピンで初めて出資した組織でもある(編集部注:YGGにはIVCも出資。IVCはYGGの日本運営を担うYGG Japanを共同設立した)。
スカラーシップとは、ゲームキャラクターやゲームアイテムなど、NFT化されたゲームアセットのレンタル制度だ。
Play to Earnゲームで遊んで稼ぎたいユーザーは、先にゲームアセットを購入する必要がある。その金額が多くの潜在的プレーヤーにとって高いハードルになってきた。
YGGが発案したスカラーシップとは、NFTをYGGがプレーヤーに代わって購入し、貸し出す仕組みである。プレーヤーがNFTを使って遊んで稼いだら、収益をYGGと分配する。NFTを借りるプレーヤーは「スカラー(Scholar)」と呼ばれ、スカラーの獲得やNFTの貸し出しなどの運営を行う組織は「ギルド(Guild)」と呼ばれている。
なお、Axie Infinityでは3月22日、サイドチェーンから6億2400万ドル(約770億円)相当の暗号資産が流出する、過去最大規模のハッキング事件が発生。そして4月6日には流出した資金の返済を目的に、1億5000万ドル(約185億円)の資金調達を実施した。
GameFi業界の3つのレイヤーと主要なプレーヤー
GameFi業界には他の業界と同様に、バリューチェーンの上流から下流までさまざまなレイヤーが存在する。1つのレイヤーに特化したプレーヤーもいれば、複数のレイヤーで事業展開するプレーヤーもいる。本記事では分かりやすく、3つのレイヤーに分けて説明する。
GameFi業界のバリューチェーンの上流とは、ブロックチェーン、開発プラットフォーム、開発者向けAPIプロバイダーなど、ブロックチェーンゲームを開発するのに必要なインフラのことだ。現時点で一番使われているブロックチェーンはEthereum(イーサリアム)だが、後発のSolana(ソラナ)、Polygon(ポリゴン)、Avalanche(アバランチ)、Binance Smart Chain(バイナンススマートチェーン)、Fantom(ファントム)などの上で開発されるゲームも最近増えてきた。今後はGameFiに特化したImmutable X(イミュータブルエックス)、Ronin(ローニン)、Flow(フロー)、そして日本発のOASYS(オアシス)などの成長が期待できる。
ゲーム開発者向けの開発プラットフォームや開発支援サービスを提供するプレーヤーには、Zyngaと提携し、創業2年で900億円以上の資金調達をしているFORTEや、Microsoft、Samsungと提携し、自社トークンが日本の暗号資産取引所にも上場しているENJIN、そしてスクウェア・エニックス、セガ、バンダイナムコと提携し、ブロックチェーンゲーム「My Crypto Heroes(マイクリプトヒーローズ)」で知られる、Double jump.Tokyo(ダブルジャンプトーキョー)などがある。
GameFi業界のバリューチェーンの中流にいるのが、いわゆるゲームそのもので、一般にもっとも知名度が高いのはこのレイヤーにいるプレーヤーだ。代表格は先に紹介したAxie Infinityの開発元であるSky Marvis。Sky Marvisの時価総額は、世界の主要ゲーム企業であるActivision(アクティビジョン)、任天堂、Roblox(ロブロックス)、Electronic Arts(エレクトロニックアーツ)に次いで、世界5位となった。また、1年で売上が100倍に成長し、Softbank Vision Fundなどから700億円以上を調達しているSorare(ソラーレ、編集部注:林氏が所属するHeadlineもSorareに出資している)、欧米市場におけるNFTとブロックチェーンゲームの火付け役となったDapper Labs(ダッパーラボ)、いち早くブロックチェーンゲームの開発とGameFi業界への投資を始めたAnimoca Brands(アニモカブランズ)などが開発したゲームが人気を集めている。
他にも、まだPCゲームが多いPlay to Earnゲームの中で、いち早くスマホアプリとしてグローバルでリリースされたオープンワールド型のRPG「MIR4(ミル4)」や、ゲームに預けられた暗号資産の金額ベースで既にAxie Infinityを超えて1位となったレトロなRPG「DeFi Kingdoms(ディーファイキングダムズ)」、スマホのGPSデータと連動したMove to Earn(移動して稼ぐ)ゲームで日本でも徐々に人気が出ている「STEPN(ステップン)」、アクティブユーザー数ベースでは1位の放置系ゲーム「Alien Worlds(エイリアンワールズ)」、Immutable Xで開発されたカードゲーム「God Unchained(ゴッドアンチェーンド)」などが、最近話題を呼んでいるゲームタイトルとして挙げられる。
GameFi業界のバリューチェーンの下流にいるのは、ゲームがより多くのユーザーにリーチできるように、ゲーム開発者にサービスを提供しているプレーヤーだ。ここでのプレーヤーは主に「ギルド(Guild)」、「ローンチパッド(Launchpad)」、「アグリゲーター(Aggregator)」の3つに分類される。
ギルドは、前述したスカラーシップを運営している組織のこと。この領域ではYGGのほか、Merit Circle(メリットサークル)、Good Game Guilds(グッドゲームギルド)などがトップティアのプレーヤーとなる。
ローンチパッドとは、ブロックチェーンゲームが初めてゲームトークンを一般投資家向けに売り出す際に、売り出し前のマーケティング施策や、流動性を提供するマーケットメーカーへの紹介、売り出すプロセスの実行・管理といったサービスを提供する業者のことだ。この売り出しのプロセスは「ICO」にちなんで「IGO(イニシャル・ゲーム・オファリング」と呼ぶことが多い。プレーヤーとしてはEnjinstarter(エンジンスターター)、Gamestarter(ゲームスターター)、Seedify(シーディファイ)などの知名度が高い。
最後のアグリゲーターとは、いわゆるWeb3版の「Steam」のようなもの。たくさんのゲームにアクセスしたり発見したりできるプラットフォームだ。ユーザーはアグリゲーターを通じてさまざまなゲームを遊べるだけではなく、それぞれのゲーム内に自分が保有しているゲームアセットや、各ゲームにおける自分の収益などもダッシュボードで確認できる。ゲームアセットの取引までできるプラットフォームもある。GameFi Aggregator、Ethlas、OP Gamesなどがよく使われている。
日本がブロックチェーンゲーム大国になる可能性
日本のスマホゲームへの1人当たりの支出額は2013年からずっと世界1位で、スマホゲームのユーザー人口は5270万人に上る。Play to Earnゲームはこの巨大な潜在ユーザー層に対し、今まで通りにゲームを遊んだりゲームに課金したりするだけで収入が得られる、という明確な提供価値を持っている。
一方で、よく指摘される通り、既存のブロックチェーンゲームはデザインもテイストも海外寄りのものになっており、日本人にとって魅力的ではないものが多い。しかし、既に大手ゲーム会社のスクウェア・エニックスやバンダイナムコ、サイバーエージェント、アカツキ、gumiといった企業がブロックチェーンゲームへの進出に興味を示している。日本発のブロックチェーンゲームとしては世界1位だったMy Crypto Heroesという成功事例もあるので、近い将来に日本がブロックチェーンゲーム大国になる可能性は大いにある。
IVCが共同設立したYGG Japanでも、日本国内におけるブロックチェーンゲームの普及を促進するべく、コミュニティ育成に注力し、日本発のブロックチェーンゲームと海外コミュニティの橋渡し役としての役割も果たしていく。