
- サステナブルな再エネ電力を地産地消型で利用する
- 初期費用0円で太陽光発電システムを設置、余剰電力の売電で収益化
- 米欧でも注目される住宅用エネルギー源「Behind The Meter」
- 住まい領域のPPA(電力購入契約)サービスから脱炭素化の加速目指す
日本では多くの人が「当たり前のこと」と捉えていた電力の安定供給が、実は考えていたほど確かなものではないと思い知らされる事案が、このところ続いている。
3月22日、東京電力・東北電力管内で初の「電力需給ひっ迫警報」が出たことは記憶に新しい。これは3月16日に起きた福島県沖の地震の影響により、火力発電所が一部停止していたことと、悪天候により、気温が低下して暖房需要が増えた上に太陽光による発電もできなかったことが主な要因だった。
またロシアのウクライナ侵攻によるLNGや石炭の高騰は、日本でも電気料金値上げの一因となっている。これまでも東日本大震災以降、日本の電気料金は上昇傾向にあり、国際原油価格の下落でいったん下降に転じたが、2017年以降は再び上昇が続いている。
カーボンニュートラルへの世界的なうねりの中、太陽光による再生可能エネルギーを地産地消で利用できる仕組みを、各家庭レベルで安価にインストールできないかと2018年に始まったサービスが「シェアでんき」だ。サービスを提供するシェアリングエネルギーは4月8日、第三者割当増資と融資により、総額40億円の資金調達実施を明らかにした。
シェアでんきと従来の太陽光発電システムや電力サービスとの違いは何か。シェアリングエネルギー代表取締役の上村一行氏、事業開発室長の井口和宏氏に話を聞いた。
サステナブルな再エネ電力を地産地消型で利用する
上村氏は2009年ごろから再生可能エネルギー領域の事業に携わってきた。当時上村氏が代表を務めていたアイアンドシー・クルーズはエネルギーや住まいの領域でサービス比較メディアを複数運営しており、「10年間ほど、太陽光発電システムのコストが下がっていく様子をずっと肌で感じていた」(上村氏)という。

シェアリングエネルギーは2018年1月、環境エネルギー投資とアイアンドシー・クルーズとのジョイントベンチャーとして設立。「比較サイトで太陽光発電システムの仲介をするより、当事者として再生可能エネルギーを広げていく方が早いのではないか」と考えた上村氏らにより、最初は別会社としてスタートした。2020年2月にアイアンドシー・クルーズがじげん傘下に子会社として入ることになったタイミングで、上村氏ら経営陣が株式を取得して現在の形となっている。
太陽光発電システムにかかるコストは十数年で10分の1近くまで下がり、「山を切り開いて大がかりにパネルや機器を設置する」という姿からは、登場するプレーヤーもバリューチェーンも大きく変わっている、と上村氏は語る。
「脱炭素社会へ向かう中で、あるべき姿としては再生可能エネルギーの分散電源をあまねく広げることによって、エネルギーシステムを地産地消型に変革していくのが正しいのではないかと考えています」(上村氏)
シェアリングエネルギーでは、住宅の屋根の上で太陽光により電気を作り、そこでできたエネルギーをバッテリーや電気自動車にためながら自家消費率を高めることで、系統外から電気を買う必要がない状態に近づけようとしている。さらに余った電気は、地域内で流通させる姿に変革していくことを目指す。
背景には脱炭素社会への潮流に加え、自然災害などによる停電時にレジリエンスを確保するという目的がある。その観点では、電力需要と直結する戸建てのルーフトップがこれからの分散電源の主流になると、上村氏らは見ている。

また、昨今では「電力卸市場の単価が上限に張りついている」と上村氏。ずっと高騰化する電気代を払うのではなく、自分たちで発電してサステナブルな形でエネルギーを担保できる状態に入る必要があるだろうと、上村氏らは考えている。
井口氏は、家庭用の電気料金が上昇する裏側には、再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)や燃料費調整額の影響があると言う。再エネ賦課金や燃料費調整額を加えた一般的な家庭の電気料金の金額は、特に2021年に入って以降、急激に増加している。
「電気料金単価や料金プラン自体は大きくは変わっていないのです。何が変わっているかと言えば、再エネ賦課金と燃料費調整額です。再エネ賦課金は、日本で再生可能エネルギーによる発電設備が導入されるにしたがって上がるので、これまでも徐々に上昇してきました。一方、最近非常に急激に上がっているのが、燃料費調整額です。これには、ウクライナ侵攻でLNGの原料が調達できないことなども影響しています。太陽光発電設備を設置すれば、自家消費の部分の課金には燃料費調整額と再エネ賦課金が含まれません。つまり電気を買うより、太陽光発電を行って自家消費した方が、安くなる状況になっているのです」(井口氏)
もうひとつ、上村氏は人口減によって、電気に関わるインフラ維持がますます難しくなると予測する。
「過疎地を含めた地域に張り巡らせた送電・配電網のインフラ設備の維持修繕コストは、今後なかなか払っていけなくなることが予測されます。その意味でも、その地域その地域で発電して使っている、電気の地産地消システムへのシフトはやらねばならないことです」(上村氏)
初期費用0円で太陽光発電システムを設置、余剰電力の売電で収益化
シェアリングエネルギーが提供するシェアでんきは、電力会社として電気を供給するサービスではなく、太陽光で発電した再生可能エネルギーを、発電設備を設置した家庭に使ってもらい、使い切れずに余った電気を別の送配電事業者に売ることで収益を得るというサービスだ。
シェアリングエネルギーは太陽光発電システムの設置にあたって、1件当たり約100万円を負担。発電した電気の自家消費は最初の1年間は無料だ。同社自体は、売電収入のほかに、各家庭で1年の無料期間が終了した後の自家消費分について課金することによって、初期投資を回収し、収益を得ていく構造となっている。
自家消費分の課金額は22円キロワット時。東京電力などを利用した場合の一般家庭の平均的な電気代が35円キロワット時ほどであることを考えると、昼間の電気はかなり割安に使えることになる。また15年経過した後は、無償で設備がユーザーに譲渡され、その後は無料で自家消費できるほか、余った電気をシェアリングエネルギーか、同社の指定事業者に売ることもできる。

夜間など、太陽光発電ができない時間帯の電力は別の電力会社から買うことになるが、この部分についてもシェアリングエネルギーは対応を進めている。2021年11月にはTeslaの蓄電池「Powerwall」の認定提供企業として、シェアでんきとTesla Powerwallをセットで提供する新サービスも開始した。

昼間は太陽光で作った電気を家の中で使い、余った電気をバッテリーにためておけば、日が沈んだ夕方以降はこのバッテリーから電気を使う形で、外から買う電気を最小限で済ませることができる。この新サービスも初期費用は無料だが、蓄電池の利用料金として月額1万7800円がかかる。
現在、シェアでんきの契約は依頼数ベースでは5000件を超え、設備の設置を担当する住宅建設会社などの提携事業者も600社を突破した。上村氏はシェアでんきについて、「これまでの、安い電力会社への切り替えや、再生可能エネルギーで発電された電気を買って使うというスタイルとは、ちょっと切り口が違ったサービスです」と説明する。
「4年前にサービスをスタートした時には、シェアでんきのような『0円ソーラー』というモデルはまだありませんでした。最近では似たモデルが出てきていますが、初期費用0円という見え方になっているだけで実際には設備費を単にリース・割賦で売っているだけというサービスが多いんです。我々はシンプルに、設置してもらえば使う電気代が安くなるという経済メリットが出るサービスを提供しています。ちょっと長いですが20年間で見ると何もしなかった場合と比較して、おおよそ100万円ぐらいは得をする計算になっています」(上村氏)
米欧でも注目される住宅用エネルギー源「Behind The Meter」
世界的にも、住宅に太陽光発電システムや蓄電池を設置して活用する分散電源の事業は伸びている。調査会社のReport Oceanは、屋上設置型太陽光発電(PV)の世界市場が2022年から2030年までに年平均成長率6.4%で成長し、2030年には852億ドル(約10.5兆円)規模に達すると予測する。

井口氏によると、直近では海外でも、メガソーラーや巨大風車を使った風力発電などの産業用電源に代わって、住宅用のエネルギー源をいかに活用するかという「Behind The Meter(電力メーターの後ろ)」と呼ばれる領域の事業展開にフォーカスが当たっているという。
たとえば、欧州最大の蓄電池アグリゲーターであるドイツのSonnen(ゾネン)はもともとは蓄電池メーカーだが、小売電気事業者として自社で電力の小売も行っている。Sonnenは、蓄電池を購入した顧客を統合してコミュニティ化し、そこで電気を融通し合うというユニークな取り組みを行っている。太陽光発電で余った電力を蓄電池にため、電気の需給バランスが取れないときに放電し、コミュニティ内で電力が足りない家へ供給する。再生可能エネルギー100%で電力を賄っているという点が特徴的で、2019年には石油メジャーのシェルグループが買収。時価総額は数百億円を超えるとも言われている。
また米国のSunrun(サンラン)は北米最大の住宅向けPVプロバイダーで、初期費用無料でPVを提供するという、シェアでんきが採用したモデルの先駆者でもある。Sunrunは初期費用無料で徐々に月額費用がかかるという月額リースプランを推奨してシェアを拡大。時価総額1兆円規模に成長し、PV導入数は55万世帯を超える。
同じ米国のSwell Energy(スウェルエナジー)は、2014年設立のスタートアップだ。同社ももともとは蓄電池を家庭向けに販売していた企業で、現在は「バーチャルパワープラント(VP)」と呼ばれるビジネスを展開する。太陽光発電システムとTesla Powerwallのセットをリースで月額113〜150ドルで提供。電力需要が逼迫したときには蓄電池を遠隔制御して、家庭内に放電させる。これによりユーザーは電力料金を減らすことができる。
シェアリングエネルギーでは、こうした海外の先行事例を踏まえ、日本の市場でも住宅リソースを活用した電力プロバイダー事業と、そこから先のVP事業やエネルギーマネジメントサービスの展開を見据えて、今年度からは実証実験にも参画していく予定だという。
住まい領域のPPA(電力購入契約)サービスから脱炭素化の加速目指す
シェアリングエネルギーは、2020年10月にはENEOSから、2021年2月には第一生命保険、インキュベイトファンドからの資金調達を実施している。
4月8日に発表した資金調達はシリーズBラウンドのファーストクローズにあたり、引受先はJICベンチャー・グロース・インベストメンツ。今回はみずほ銀行からの融資との合計で、総額40億円の資金調達となった。
今回の調達について「脱炭素社会の実現に向け、住まいの領域におけるPPA(電力購入契約)のサービスを皮切りに、カーボンニュートラルへの動きを加速させる目的での調達」と語る上村氏。年間1万棟への設備設置を目指すための初期投資としても活用していく考えだ。
また、今後全国へのサービス展開を進めるにあたっての組織強化と、サービス啓蒙のためのマーケティング、システム開発などにも投資していくという。
「やはりまだまだ、太陽光発電システムが0円で設置できるということは知られていません。また、太陽光発電の文脈で見た時には家庭の屋根というのは一番小さな単位ですが、それが数千棟、数万棟、数十万棟と増えていく過程で、オペレーションの標準化、ユーザー体験の最大化も必要となります。そのためのシステム投資なども今後、より加速させていきます」(上村氏)
シェアリングエネルギーでは、サービスの全国展開にあたり、自治体との提携も進めている。2021年10月には福岡県吉富町との提携協定を締結。地域レベルの脱炭素化と電気の地産地消モデルの推進を目指す。上村氏は「今後も地域との取り組みはより加速させていくつもり」と述べ、各地の有力企業や金融機関との連携も進めたいとしている。