KiteRaの創業者で代表取締役CEOを務める植松隆史氏。自身が社労士として働く中で感じた課題を解決すべく、起業してプロダクトを開発した。
KiteRaの創業者で代表取締役CEOを務める植松隆史氏。自身が社労士として働く中で感じた課題を解決すべく、起業してプロダクトを開発した
  • Wordでは煩雑な業務、社労士特化型のエディタで効率化
  • 14億円調達で事業拡大、企業向けの新サービスもローンチへ

社会保険労務士(社労士)の業務を支援するSaaS「KiteRa Pro」が好調だ──。2019年のローンチから社労士事務所などで活用が進み、2022年2月時点で有料導入社数が800社を超えている。この1年で約500社増えたかたちだ。

運営元のKiteRaを立ち上げた植松隆史氏は前職の事業会社で社労士として働いていた。自身が社内規定類の整理業務に携わる中で課題を感じ、「社労士の規定業務をもっと効率化したい」と考えたことが起業のきっかけになったという。

ローンチからしばらくして社労士事務所のユーザーが多いことに気付き、まずは事務所向けに特化して機能改善を続けた。それが功を奏し、月額2万5000円からのサービスながら急ピッチで導入社数が増えている。

KiteRaでは引き続きKiteRa Proの事業拡大に取り組むほか、4月中には一般企業向けの「KiteRa Biz」の提供も始める計画。それに向けた資金として以下の投資家より総額約14億円を調達した。なお同社の増資と融資を合わせた累計調達額は約18億円となる。

  • XTech Ventures
  • 三井住友海上キャピタル
  • DIMENSION
  • Sansan
  • みずほキャピタル

Wordでは煩雑な業務、社労士特化型のエディタで効率化

KiteRa Proは社内規定類の作成から運用に至るまでの業務をサポートする社労士向けのサービスだ。植松氏によると就業規則を始めとする社内規定類は、作成やメンテナンスに大きな負担がかかっているという。

文書の性質上「条番号」や「インデント」を細かく調整する必要があるが、規程の数が増えるほど編集作業の手間も増える。従業員の働き方やルールの変更に合わせてその都度メンテナンスも必要になるため、文書の変更履歴を管理する仕組み(バージョン管理)も欠かせない。法改正など社会動向の変化に関する情報収集も必要だ。

KiteRa Proにはこうした課題を解決するための機能が盛り込まれている。

「KiteRa Pro」の画面
「KiteRa Pro」の画面

社労士が新たな規定を作成する際に活用する「ヒアリングシート」をシステム化するかたちで、用意された設問に回答するだけで規程が自動生成される仕組みを開発。“特化型クラウドエディタ”として、条番号の自動採番や条文の横断検索など編集作業を効率化する機能も取り入れた。

社内規程類の作成にあたってはMicrosoft Wordが定番のツールになっているが、この用途に特化して作られているわけではないため、作業に時間がかかることも多い。KiteRa proは社労士のために開発された専用の文書作成ツールでもあるわけだ。

また顧問先と一緒に使うことで、従来はメールに文書ファイルを添付して進めていたやりとりをスムーズにする仕組みを備えているほか、サービス上で法改正情報と規程改訂のポイントを配信する取り組みも行っている。それによって「一連の業務プロセスをクラウド上で進められることが特徴」(植松氏)だ。

植松氏によるとこの1年の間でプロダクトの認知度が広がったことに加え、新型コロナウィルスの影響など社会的な変化に伴うニーズの高まりも事業拡大につながっているという。

働き方改革関連法やコロナの状況を踏まえ、多くの企業で社内制度やルールを見直す必要が生じた。助成金の申請業務など社労士の活躍の場自体が増えたこともあり、社内規定類の作成や運営をもっと効率化したいというニーズが高まっている。

また社労士事務所の場合は所長の決定権が大きいところも多く、一般企業に比べて導入に至るまでの期間が短い。植松氏の話では商談から契約までに要する日数が「平均で3〜4日」であり、この点も急成長の要因の1つといえるだろう。

14億円調達で事業拡大、企業向けの新サービスもローンチへ

KiteRaでは次の一手として、今月中に事業会社向けのKiteRa Bizをローンチする。軸となる機能はKiteRa Proと大きな違いはないが、同じ機能でも用途を変えてカスタマイズしていく計画だ。

「KiteRa Proは社労士事務所の生産性向上のサポートがコンセプトでしたが、KiteRa Bizでは社内規程類の適切な運用管理を通じて企業のガバナンスやリスクコントロールに関する課題の解決に取り組んでいきます。当初はエンタープライズの顧客を想定していて、グループ間での規定の一元管理や、履歴の確認などができるようにしていきます」(植松氏)

今後は条項を分析した上で絶対的必要記載事項の不足がないかを検知する機能や、AIレビューのような仕組みなども検討していく計画。2023年3月までにKiteRa Bizについては90社、KiteRa Proについては1700社への導入を目指すという。