CO2排出量見える化・削減クラウドサービス「アスゼロ」
アスエネが展開するCO2排出量見える化・削減クラウドサービス「アスゼロ」
  • 企業へ「脱炭素経営」を求める流れが加速
  • スキャンするだけでデータ回収、CO2排出量の見える化を効率的に
  • 18億円調達で事業加速、将来的なアジア展開も

国内外で“脱炭素”に向けた取り組みが加速していることに伴い、「Climate Tech(クライメイトテック : 気候テック)」関連のスタートアップが増えてきている。

特に“企業のCO2排出量の見える化・削減”を支援するテクノロジーには複数社がチャレンジをしており、企業や投資家からも注目を集めている状況だ。

2019年創業のアスエネもこの領域で事業を展開する1社。同社ではCO2排出量の算出をサポートするソフトウェア「アスゼロ」とSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)コンサルティングを組み合わせることで、企業の脱炭素化を後押ししている。

現在アスゼロは上場企業から中小企業まで約200社が導入しており、今後も機能改善を進めながら事業を拡大していく計画。それに向けた資金として、アスエネでは以下の投資家を引受先とした第三者割当増資と商工組合中央金庫からの融資により総額で18億円を調達した。なお同社の累計調達額は約22億円となる。

  • Pavilion Capital(シンガポール政府傘下の投資会社)
  • GMO VenturePartners
  • Axiom Asia(アジアのPEファンド)
  • インキュベイトファンド
  • STRIVE
  • 環境エネルギー投資

企業へ「脱炭素経営」を求める流れが加速

「(2018年のデータでは)世界のCO2排出量は年間330億トンを超えていて、日本ではその約3%を占める11億トンを毎年排出していると言われています。そのうちの約8割は企業によるものです。日本としても2020年10月に当時の菅政権が『2050年カーボンニュートラル』を掲げましたが、企業の脱炭素の取り組みをしないと、国としてのカーボンニュートラルも達成できない。そのような背景もあって、現在は企業向けに特化してサービスを展開しています」

アスエネの創業者で代表取締役CEOを務める⻄和田浩平氏は、同社が現在展開している事業についてそのように話す。

近年、企業に対して脱炭素経営を要請する流れが高まってきている。2021年6月に東京証券取引所から公表されたコーポレートガバナンス・コードの改訂版では、サステナビリティに関する取り組みについての内容が追加された。

特にプライム市場やスタンダード市場に上場する企業にとっては「(気候変動に関する情報開示が)義務ではないものの、それに近いようなかたちでの対応が必要」(⻄和田氏)になりつつある。

これは何も上場企業に限った話ではない。サプライヤーに対してもCO2排出量の削減を求める動きが大手メーカーなどを中心に増えてきているため、中堅・中小企業にも同様のニーズが生まれてきている。

このように企業側の課題意識は増してきているが「各社がCO2を削減しようと掲げているものの、その前段階として『自社がどれほどの量のCO2を排出しているか』を把握できている企業は少ない」(⻄和田氏)のが実情だという。

スキャンするだけでデータ回収、CO2排出量の見える化を効率的に

障壁となっているのが、データの収集や算出にかかる手間だ。中でも物流や廃棄など「自社の事業に関連した“他社”のCO2排出」にあたるScope3の算出が難しく、多くの企業が苦戦するポイントになっている。​

GHGプロトコル(温室効果ガスの排出量の算定と報告に関する国際的な基準)では事業者によるCO2排出量の算出・報告対象がScope1〜Scope3に分けられている。

  • Scope1:自社の事業活動において直接排出したCO2排出量

  • Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用により発生する間接的なCO2排出量

  • Scope3:上記以外の事業活動に関わる上流・下流のサプライチェーンの CO2排出量

「特にScope3の算定方法・前提・算定領域の範囲がわからないという企業や、算定にものすごく手間がかかっているという企業は多いです。ある上場企業ではExcelを活用してScope3までの排出量を算出していたものの、シートの数が100ほどあって作業の負担が大きいということでアスゼロの導入に至りました」(西和田氏)

アスゼロのダッシュボード
アスゼロのダッシュボード

そこでアスゼロでは、排出量の集計作業を簡単にするための仕組みを作った。たとえばAI OCRなどの技術と人の力を組み合わせてデータをスムーズに取り込む機能があるため、ユーザーは領収書やレシートなどの画像をスキャンしてアップロードするだけでいい。

また一部のデータは会計システムや経理システムとAPI連携をすることで入力できるほか、サプライヤーと連携してデータを集める際にも極力作業を自動化し、担当者の負担が少なくすむようにした。

アスゼロには環境省などが示すGHG(温室効果ガス)排出量の算出方法などに沿った計算式がプリセットされているため、データ回収後はメニューを選べば自動で排出量が算出される。

排出量を見える化するためのソフトウェアは選択肢が増えてきているものの、見える化した情報を基に、SXコンサルティングを通じて削減目標の設定や削減策の提案などまで踏み込んでいるのがアスエネの特徴だ。

「システムとコンサルのどちらか1つのみを提供している企業が多い中で、1社単体でシステムから(クリーン電力などの)CO2削減策やオフセットのソリューションまでをワンストップで提供できるのが大きなポイントです。実際にその点に価値を感じて導入していただけるケースも増えてきています」(西和田氏)

アスゼロ導入先の約200社は製造業や建設、金融業界などが多い。上場企業の方がニーズは顕在化しているが、中堅企業の顧客もいるという。また金融機関との連携も進めており、農林中央金庫や地銀10社とタッグを組む。

脱炭素×ファイナンスの領域では、企業がCO2削減目標を達成すると金利や融資期間などの面で優遇を受けられる「サステナビリティ・リンク・ローン」のような仕組みも生まれている。このような取り組みに関心を示す金融機関が、融資先などにアスゼロの導入を推進するパートナーとなっている。

「中堅企業の視点では、大企業の顧客と取引をするにあたって脱炭素に向けた取り組みをしていなければ認められないような時代になってきています。そのほかコスト削減やブランディング、資金調達、将来的な炭素税の導入などを見越して(脱炭素経営を)いち早く進めたいという企業に活用いただいている状況です」(西和田氏)

18億円調達で事業加速、将来的なアジア展開も

アスエネの創業者で代表取締役CEOを務める⻄和田浩平氏
アスエネの創業者で代表取締役CEOを務める⻄和田浩平氏

アスエネ創業者の西和田氏は三井物産出身の起業家だ。同社で再生エネルギー領域の投資や事業開発などに携わり、在籍中にはブラジルのエネルギー系企業Ecogenへの出向も経験した。

当初から環境領域に関わりたくて三井物産に入社したが、出向先の代表などから刺激を受け、自身でも経営にチャレンジしたいと考えるようになったという西和田氏。キーエンス出身の岩田圭弘氏(取締役COO)やメルペイ出身のラクマ氏(テックリード)と共同で2019年10月にアスエネを立ち上げた。

もともとは社名にもある、クリーン電力サービス「アスエネ」からスタート。同サービスを展開する中で企業におけるCO2排出量の見える化・削減ニーズが高まってきたことや、既存顧客からもそれを求めるような声があったことなどを受け、2021年8月にアスゼロをローンチした。

今後も2つのサービスを展開していく予定だが、まずはアスゼロを注力事業として積極的に投資をしていく方針だという。

冒頭でも触れた通り、この領域はすでにスタートアップを含めて複数社が事業を始めている状況だ。海外では米国のPersefoniが2021年10月に1億100万ドルを調達。直近でもフランス発のSweepが7300万ドルを集めるなど、欧米を中心に勢いのあるプレーヤーが生まれてきている。

日本でも1月に12億円の資金調達を発表したbooost technologiesを始め、ゼロボードやオンドなどがVCから資金を集めてサービスを展開しているほか、地方銀行がコンサルティング会社とタッグを組んでビジネスを立ち上げるケースも出てきた。

アスエネとしては日本で事業基盤を固めつつ、将来的にはアジア展開も進めていく計画。今回国内だけでなく海外のファンドから資金を調達したのは、海外展開も見据えた上での判断だという。

「この分野は欧州が2歩ほど進んでいて、その次に米国、そして日本が続いているような状況だと考えています。欧米では徐々にプレーヤーも増えてきていますが、アジアは黎明期で事業者の数もまだ少ないですし、チャンスも大きい。まずは5年後に1万社への導入を目指していきます」(西和田氏)

アスエネでは18億円の調達を経て組織体制を強化する計画。将来的にはアジアでの事業展開も見据える
アスエネでは18億円の調達を経て組織体制を強化する計画。将来的にはアジアでの事業展開も見据える