
- 「SX」とは企業の存続・成長と社会の持続可能性を同期させる経営の在り方
- 投資家との対話を促すSXの具体的施策、DXとの違いとは
- カーボンニュートラルの実現を目指した経済社会システムの変革「GX」
環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の3つの観点を重視した「ESG投資」や持続可能な開発目標「SDGs」、そして日本が2050年の実現を目指す「カーボンニュートラル」。いずれも前世紀なら産業成長の足かせと捉えられかねなかった概念だが、今や企業、ひいては国家経済の持続的な発展に欠かせない考え方として浸透してきている。
こうした文脈から、「サステナビリティトランスフォーメーション(SX)」や「グリーントランスフォーメーション(GX)」と呼ばれるビジネス変革の取り組みも重視されるようになっている。SXやGXは、ここ数年取り上げられてきた「デジタルトランスフォーメーション(DX)」以上に重要になると考えられているコンセプトだ。
SX、GXとはどのような考え方で、企業はこの変革にどう取り組むべきなのだろうか。
「SX」とは企業の存続・成長と社会の持続可能性を同期させる経営の在り方
サステナビリティトランスフォーメーション(SX)とは、持続可能性を意味する「サステナビリティ(Sustainability」と、変革を表す「トランスフォーメーション(Transformation)」を組み合わせた言葉。英語では接頭辞の「Trans」を「X」と書く慣習があるため、DXと同様に「SX」と略される。
経済産業省は2019年11月に「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」を設置。一連の検討を踏まえて2020年8月に「中間取りまとめ」を公開した。この報告書で、SXとは「『企業のサステナビリティ』と『社会のサステナビリティ』を同期化させ、企業と投資家が長期の時間軸で対話を繰り返して経営のレジリエンス(強靱さ)を高めるような、経営や対話の在り方」と定義されている。

SXが重視される背景には、新型コロナウイルス感染症の拡大や気候変動の影響もあって企業経営を取り巻く環境の不確実性が一段と増していること、社会のサステナビリティに対する要請が強まっていることが挙げられる。
報告書は、新規事業創出やESG、SDGsへの取り組みなどにおいて、企業と投資家との間に“ギャップ”が存在すると指摘。このギャップを解消するためには「企業と投資家の間で、対話における長期の時間軸を共有することが必要」と示している。
投資家との対話を促すSXの具体的施策、DXとの違いとは
経産省の中間取りまとめでは、企業と投資家との間に横たわるギャップを解消し、質の高い対話を促すためのSXの具体的施策として、次の3つが挙げられている。
1. 企業としての強みや競争優位性、ビジネスモデルを中長期で持続化・強化するために、事業ポートフォリオの管理やイノベーション創出に向けた種植えなどの取り組みを実践すること
2. 不確実性に備え、社会のサステナビリティ(将来あるべき姿)から逆算して、企業としての稼ぐ力の持続性・成長性に対する中長期的な「リスク」と「オポチュニティ(機会)」双方を把握し、それを具体的な経営に反映させていくこと
3. 不確実性が高まる中で企業のサステナビリティを高めていくために、将来、シナリオ変更がありうることを念頭に置き、企業と投資家が1・2の観点を踏まえた対話やエンゲージメントを何度も繰り返すことにより、企業の中長期的な価値創造ストーリーを磨き上げ、企業経営のレジリエンスを高めていくこと
企業の価値創造という観点では、デジタルテクノロジーを活用したビジネス変革の取り組みであるデジタルトランスフォーメーション(DX)ももちろん、おろそかにして良いわけではない。ただしDXは、直近の環境変化に次々に対応し、競争優位性を確保することを目的とした取り組みだ。つまり、どちらかと言えば「今すぐ取り組み続けなければ、環境の変化から脱落してしまう喫緊の課題」である。
DXに加えてSXの視点を取り入れることで、企業はより長期的な視点で戦略を立てることが可能となり、将来に向けての持続的な企業と社会の存続(サステナビリティ)を目指すことができると考えればよいのではないだろうか。
カーボンニュートラルの実現を目指した経済社会システムの変革「GX」
一方のグリーントランスフォーメーション(GX)とは、カーボンニュートラル(カーボンオフセット)の実現を目指した、経済社会システム全体の変革のことを指す。
温室効果ガスの排出を実質的にゼロにするカーボンニュートラル。日本政府は2020年10月、2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言した。また、2021年4月には、2030年度の温室効果ガス排出削減目標として2013年度から46%の削減を目指すとし、さらに削減率50%に向けて挑戦するとの指針を示している。
日本がこのカーボンニュートラルを達成し、世界全体のカーボンニュートラル実現にも貢献しながら、産業競争力を高めるためには、企業がいち早くこの動きに対応し、自社以外のステークホルダーも含めた経済社会システム全体の変革をけん引していくことが重要となる。
経済産業省は2022年2月、「GXリーグ基本構想」を公表。GXに積極的に取り組む企業群が、官・学・金でGXに向けた挑戦を行うプレーヤーとともに、一体として変革のための議論と新たな市場の創造のための実践を行う場として、GXリーグの立ち上げを宣言した。

世界的にカーボンニュートラルへの取り組みが求められている理由は、世界の平均気温の上昇による気候変動に伴い、豪雨や猛暑をはじめとした気象災害や、生態系、水資源に及ぶ影響が産業・経済活動に対するリスクにもなるからだ。温暖化への対応を経済成長の制約やコストとする時代は終わり、「成長の機会」と捉える時代はもうすでに始まっている。
イノベーティブな手段による企業のGXへの対応は、前述したSXにおける「社会のサステナビリティ」の要請に応える経営戦略の一部を構成することにもなるだろう。