左から、Beam・CEOのアラン・ジャン氏、CTOのデブ・デブガンゴパッデェ氏 画像提供:Beam
左から、Beam・CEOのアラン・ジャン氏、CTOのデブ・デブガンゴパッデェ氏 画像提供:Beam
  • シンガポール「Beam」はテクノロジーによる安全性実現を強調
  • 韓国「SWING」の強みはフランチャイズ方式によるビジネス展開
  • アジア大手の2社は国内最大手Luupに追いつけるか

アジア圏の電動キックボードシェアリング大手で、シンガポールを拠点とするスタートアップのBeamが日本進出に本気だ。同社は2月に米国を代表するベンチャーキャピタルのインド法人、Sequoia Capital Indiaなどから9300万ドル(約113億円)もの資金を調達。大型の資金をもとに、2022年中にも日本展開をスタートする。

韓国最大手のSWINGも日本市場への参入に名乗り出た。同社は2月に2400万ドル(約30億円)の大型調達を実施。初の海外進出先に選んだのは、ここ日本だ。

アジア圏の商習慣などには明るいシンガポール・韓国のプレーヤーたちだが、日本市場での勝機はあるのか。Beam・CEOのアラン・ジャン氏、そしてSWINGの日本法人でCOOを務める石川昇氏に話を聞いた。

シンガポール「Beam」はテクノロジーによる安全性実現を強調

2018年設立のBeamは現在、マレーシア、タイ、韓国、オーストラリア、ニュージーランドなどの35都市で電動キックボードのシェアリングサービス「Beam」を展開する。

Beam・CEOのジャン氏はライドシェアサービス「Uber」の中国、マレーシア、ベトナムでの立ち上げに携わり、インドネシア法人のカントリーマネジャーも務めた人物だ。ジャン氏はBeamの強みについて、「政府や行政、街と連携した安全施策」と話す。具体的には、展開する地域と連携し、ユーザーへの安全講習会を公共スペースで展開。安全講習会は展開する全地域で年に数回実施する。

Beam・CEOのアラン・ジャン氏
Beam・CEOのアラン・ジャン氏 画像提供:Beam

Beamは2022年中にも新たな電動キックボード「Beam Saturn」を世界市場に投入する予定だ。Beam Saturnには「Beam Pedestrian Shield」というAIカメラを搭載する。このAIカメラによって歩行者を検知することで、衝突を未然に防げるのだという。

Beamの機体はこれまでも、「Augmented Riding Safety」という遠隔操作システムに対応。GPSを活用して機体の走行位置を特定し、エリアごとに異なる最高速度を設定することができた。今後はBeam Pedestrian Shieldの導入により、歩道と車道で異なる最高速度を設定するなど、より細かな遠隔操作が実現するという。

Beamでは直近の大型調達をもとに、日本に加えてインドネシアとトルコにも進出する予定だ。資金の一部はBeam Saturnの導入にも充てられる。

日本国内の既存プレーヤーたちは筆者との過去の取材で、欧米に比べ、電動キックボードの普及が進んでいない日本では「危険な乗り物だ」という認識が強いと話していた。だがジャン氏は「安全面での課題はすべてテクノロジーで解決する」と話すなど強気だ。

Beamでは1年前の2021年4月に日本法人を設立。政府や行政との対話を重ね、日本展開に向けた準備を慎重に進めてきた。そして場所や時期は未定だが、2022年中をめどに、日本での実証実験を開始する予定だ。

「我々は政府や行政、そして市民との対話を何よりも重視しています。それはBeamが展開するどの国や街でも一緒です。電動キックボードは新しい乗り物で、まだ人々は見慣れていません。Beamでは安全面での理解を人々から得るために、テクノロジーを活用していきます」(ジャン氏)

韓国「SWING」の強みはフランチャイズ方式によるビジネス展開

「SWING」が展開する電動キックボード
「SWING」が展開する電動キックボード 画像提供:SWING

韓国で電動キックボードのシェアリングサービス「SWING」を手がけるSWINGは2018年の設立。韓国国内では5万台もの機体を設置する最大手のプレーヤーだ。

SWINGは日本法人を2021年11月に設立。同社の代表取締役は本国のCEO、キム・ヒョンサン氏が務めるが、日本でのサービス展開の準備を指揮するのはCOOの石川氏だ。

石川氏はリクルートキャリアなどを経て、2019年に海外食品の輸入・販売を手がけるテイゲンを設立。2021年に韓国のSWINGで働く知人に誘われたことがきっかけで、同社の日本法人にCOOとしてジョインした。

石川氏いわく、韓国には赤字のプレーヤーが多い中、SWINGは黒字化しており、2021年には24億円の売上を記録したという。その鍵となるのは、SWINGの運営を希望する企業に機体やソフトウェアを提供する、フランチャイズ方式によるビジネス展開だ。割合としては、SWINGが展開する機体のうち、4割がフランチャイズによる運営で、6割が自社運営だという。石川氏は「フランチャイズ方式によりロイヤリティフィーを得られるため、利益率が高い」と説明する。

SWINGの日本法人でCOOを務める石川昇氏
SWINGの日本法人でCOOを務める石川昇氏 画像提供:SWING

だが、単にフランチャイズ方式で展開すれば黒字化するわけではない。石川氏は、黒字化する上で単価と回転率の黄金比を見極めること、そして機体の移動やバッテリー交換などで発生するオペレーションコストを可能な限り下げることが重要だと説明。SWINGでは黒字を実現できるビジネスモデルを見いだし、その上でフランチャイズ展開することで、大きな売り上げを達成できたという。

日本においてもフランチャイズ展開は視野にあるが、まずは2022年中に実証実験という立て付けでのサービス開始を目指す。Beamと同様、場所や時期は未定だが、SWINGでは「街中に無造作にポートを展開するのではなく、特にニーズの高いエリアに多くの機体を設置する方針だ」と石川氏は説明する。

加えて、石川氏は「並行に走る路線間の移動には大きなニーズがあるのではないか」とも述べる。例えば、線路が並行に走る中野駅(JR東日本・中央本線)から沼袋駅(西武鉄道・新宿線)に移動する場合、電車よりもバスによる縦の移動の方が早い。だが、バスは混雑する上、待ち時間も発生する。徒歩に適した距離とも言い難いため、電動キックボードに活躍の余地があると説明する。

「値段がバスよりも100円ほど高かったとしても、電動キックボードを利用したいユーザーは多いのではないでしょうか。バスを置き換えるとまでは考えていませんが、バスでも拾いきれていないようなニーズにも応えられればと思います」(石川氏)

SWINGでは日本市場を韓国の約10倍となる1.5兆円規模と見ている。石川氏は「日本では法改正も進んでおり、巨大なプレーヤーも存在しません。米国のBirdがすでに参入(日本法人名はBRJ)しているため、SWINGは後発とはなりますが、日本はまだまだ参入余地が多い状況だと見ています」と述べる。

アジア大手の2社は国内最大手Luupに追いつけるか

3月4日には時速20キロメートル以下の電動キックボードを「ほぼ自転車」扱いの「特定小型原動機付自転車」とする、道路交通法の改正案が閣議決定された。満16歳以上であれば、免許は不要、ヘルメット着用も任意で公道走行できるようになる見込みだ。

日本市場においては国内スタートアップのLuupに勢いがある。国土交通省のデータによると、政府主導の実証実験に参加する5社による2022年1月までの累計走行距離は約92万キロ。そのうちの約85万キロ(約92%)をLuupが占める。現在、東京、横浜、大阪、京都でサービスを展開する同社では、法改正を見越して、2023年中をめどに全国拡大を目指している。

そんなLuupに追いつくためには、日本市場への多額の投資も必要だ。Beamのジャン氏、SWINGの石川氏らは2人とも、具体的な額こそ示さなかったものの直近の資金調達で得た資金の多くを日本市場に投資すると述べている。

Luupは「歩道ではストップ」も可能にする、衛星を活用した安全施策を実証実験中だ。だが、現状は高価なデバイスを機体に装着する必要もあり、サービスへの反映と正式な提供開始時期は未定となっている。もし、Beamの安全性を高める新機能の精度の高さが早期に政府や行政、街から認められれば、Beamを優先して誘致する地域も出てくるかもしれない。

なおDIAMOND SIGNALでは4月26日にスタートアップをはじめとした挑戦者を表彰する「SIGNAL AWARD 2022」を開催。当日のオンラインイベントでは表彰式に加えて、Beamのジャン氏やメルカリ創業者・代表の山田進太郎氏らが登壇するセッションなども実施する予定だ。イベントへの参加は無料で、Peatixにて参加登録を受け付けている。

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