ゲシピが展開する「eスポーツ英会話」では、実際にオンラインゲームをプレイしながら英語を学んでいく
ゲシピが展開する「eスポーツ英会話」では、実際にオンラインゲームをプレイしながら英語を学んでいく
  • フォートナイトをプレイしながら学んだ英語を即活用
  • “英語を実践する場”として小学生を中心に500人以上が活用
  • 原体験は中学時代にハマったゲーセン、ヤフーを経て起業
  • “メタバース教育企業”としてさらなる挑戦へ

かつてSkypeを始めとしたビデオ会議ツールの普及をきっかけに、オンライン上で講師と会話をしながら英語を学ぶ「オンライン英会話」という選択肢が生まれた。

若年層を筆頭にオンラインゲームが広く親しまれるようになった現代においては、オンライン英会話の発展形として“オンラインゲームをしながら英会話を学ぶ”時代がくるかもしれない。

そのような世界観の実現に取り組んでいるのが、2018年設立のゲシピだ。同社では2020年5月より、生徒が講師と一緒にオンラインゲームの『フォートナイト』をプレイしながら英語を学ぶ「eスポーツ英会話」を展開してきた。

フォートナイトをプレイしながら学んだ英語を即活用

eスポーツ英会話では生徒3人、コーチ1人の4人チームでレッスンに取り組む
eスポーツ英会話では生徒3人、コーチ1人の4人チームでレッスンに取り組む

eスポーツ英会話はグループレッスン形式で、基本的に生徒3人とコーチ(講師)1人の4人チームでレッスンが進む。

最大の特徴はオンラインゲームをプレイしながら英語を学んでいくこと。1回80分のレッスンでは独自のカリキュラムを軸にした講師のレクチャーからスタートし、その後はゲームをしながら学んだ英語を使っていく。ゲームをプレイしている時間は40〜50分ほど。ゲームの合間や終了後には一般的なスクールと同じように復習の時間も設けている。

基本的なメニューは1回80分のレッスンを月に4回実施するコースで、料金は月額8800円(税込)。自宅のゲーム機を使って参加でき、レッスンには「Discord」のボイスチャットや画面共有機能などを用いる。現在対応しているタイトルは『Apex Legends』とフォートナイトだ。

“英語を実践する場”として小学生を中心に500人以上が活用

ゲシピ代表取締役CEOの真鍋拓也氏によると現在の会員数は500人を突破しており、6ケ月後の継続率も90%以上を維持している。受講希望者も2000人を超える状況で、体制を整えながら「今年中に3000人を目指していく」計画だ。

利用者の9割以上は小学生で、特に小学3年〜6年生が中心。「他の英会話スクールでは楽しめずに継続できなかったが、eスポーツ英会話なら楽しみながら受講できそう」「他の英会話スクールにも通っているが、学んだ内容を実践する場として活用したい」といった理由からeスポーツ英会話に入会するユーザーが多いという。

「発話に特化し、話すことに自信がつくプログラムになっていることが特徴です。子どもたちは恥ずかしさを忘れるくらい楽しむことができ、ゲームに勝ちたいから学んだ英語をどんどん話します。(少人数かつメンバーとコーチが固定制のため)安心安全で、失敗してもコーチがサポートしてくれる環境を作っています」

「(保護者に対しても) これを使えば英検3級が取れます、といったような話はしていませんし、それを求めるならば他の選択肢の方が良いかもしれません。自分たちが大事にしているのは、英語に自信を持てるプログラムかどうか。(他のスクールなどで)学んだけれど実践で使うことができない、間違った英語でも良いので自信を持って英語でコミュニケーションできるようになって欲しいという理由から活用いただくことも多いです」(真鍋氏)

カリキュラムの例
カリキュラムの例

そういったニーズも踏まえ、カリキュラムにはゲームの中だけではなく日常の会話でも応用できる内容を盛り込んだ。必ずしも既存の英会話スクールと競合するわけでもなく、併用しているユーザーも一定数存在するという。

100人を超えるコーチ陣についても、バイリンガルでゲームが上手く、子どもとのコミュニケーションに長けた人材を採用しているそうだ。

原体験は中学時代にハマったゲーセン、ヤフーを経て起業

真鍋氏の言葉を借りれば、ゲシピは「ヤフー出身の親父経営陣」が牽引する会社だ。真鍋氏と取締役CTOの松井謙氏はともにヤフーの出身で、前職では同じ事業部門で働いていた。

当初は社内起業を考えグループの社内起業プログラムに応募していたが、最終プレゼンを前に「本当に会社の中でやりたいことなのか」と考え、自ら起業する道を選択。約10年間務めたヤフーを40歳で退職し、2018年1月にゲシピを設立した。

ゲシピ代表取締役CEOの真鍋拓也氏(左)と取締役CTOの松井謙氏(右)
ゲシピ代表取締役CEOの真鍋拓也氏(左)と取締役CTOの松井謙氏(右)

現在ゲシピでは「ゲームの時間を学びの時間に変えていく」というコンセプトのもと、eスポーツ英会話とeスポーツジムを展開している。eスポーツを事業のテーマにしているのは、真鍋氏の中学生時代の体験の影響が大きい。

「中学生時代に、ゲームセンターで『ストリートファイター2』にハマったんです。ゲームそのものはもちろんですが、それ以上にゲームセンターに集まる人たちとのコミュニケーションが楽しかった。性別や世代、職業などの枠を超えていろいろな人と接する中で、振り返ってみるとその経験から学んだことがいくつもありました。それがきっかけでゲームと学びをテーマに事業に挑戦したいと考えるようになったんです」(真鍋氏)

起業時に考えていたアイデアは、短い動画でゲームのテクニックが学べるアプリだ。料理レシピ動画サービスからヒントを得て、ゲームとレシピを掛け合わせるかたちで「ゲシピ」と名付けた。

ローンチしてみると、ユーザーは順調に増え、MAU(月間利用者数)は40万人ほどまでに成長した。ただ、肝心の継続率が伸びない。新しいユーザーを獲得しても、すぐに離れてしまうためマネタイズに苦戦し、最終的には投資家から集めていた資金が尽きてしまったという。

それ以降も受託事業をやりながらなんとか食いつなぎつつ、eスポーツ×教育領域で事業に挑戦してきた真鍋氏たち。その中で立ち上がったのが、現在も運営しているeスポーツジムやeスポーツ英会話だ。

ゲシピでは東京メトロとの協業で、東京メトロ南北線赤羽岩淵駅直結にeスポーツジムも展開している
ゲシピでは東京メトロとの協業で、東京メトロ南北線赤羽岩淵駅直結にeスポーツジムも展開している

“メタバース教育企業”としてさらなる挑戦へ

特に投資事業として強化しているeスポーツ英会話を始めたきっかけは、真鍋氏自身の子どもがコロナ禍の一斉休講で外出できなくなってしまったことだった。

「外に出られないので1日に6〜7時間もフォートナイトをしている。僕自身もゲームが好きでしたが、流石にこの状況は良くないとも思いました。その時に考えたのが『ゲームの時間をもっと価値あるものに変えられないか』ということ。(当時eスポーツジムの準備をしていたため)eスポーツ英会話のようなアイデアはあったものの、イベントのようなものを想定していて、事業になるとまでは想像していませんでした。ただ、実際に子どもに試してもらったところ『ものすごく面白い』といってくれたので、事業化できる可能性があるかもしれないと考えるようになったんです」(真鍋氏)

かつての失敗体験もあったので、ローンチから半年間は12人だけに使ってもらい、ひたすらカリキュラムやサービスの改良に時間を費やした。

徐々に入会希望者が増えていたので悩んだ時期もあったというが、サービスの磨き込みを優先した結果、11人が半年間継続して使ってくれた。退会した1人も、別の習い事との日程の兼ね合いで止むを得ないかたちだったという。

カリキュラムの内容にも自信がつき、多くのユーザーに半年以上使ってもらえる手応えを掴めたタイミングで、本格的にサービスの提供をスタート。上述したとおり現在の会員数は500名を超え、入会希望者も2000人以上集まっている状況だ。

2021年にはXTech Ventures、日本スタートアップ支援協会、東京地下鉄、個人投資家などを引受先とした第三者割当増資により総額約6200万円の資金調達も実施。体制を強化しながらプロダクトの改良も続けており、今後はゲームタイトルの拡大やレッスン言語の拡大にも取り組んでいく計画だという。

「バーチャルの世界の中で(英語を)教えるという観点では、自分たちはメタバース教育企業だと考えています。ゲームだけにこだわるというよりは、バーチャルの世界で学ぶ環境を整えていきたいです。場合によってはアバターを介して別人格で学べるような環境を用意しても良いかもしれない。今でも生徒がつまづいた時に『今失敗したのはゲームの中のキャラクターなんじゃない?』と言って勇気付けることがあります」

「スキルが本人につくのであれば、別人格で学んでも良い。将来的にはゲーム以外のプラットフォームも含めたメタバース世界での教育企業として、多くの人にサービスを届けていきたいと思っています」(真鍋氏)