
日本の経済にインパクトを与える可能性を秘めた、アントレプレナーシップ(起業家精神)をもった挑戦者たちを表彰する「SIGNAL AWARD 2022」。4月26日に開催予定の表彰式イベントで最終審査の結果が発表される。
最終審査に関しては、審査員を務めるグロービス・キャピタル・パートナーズ ジェネラルパートナーの高宮慎一氏、シニフィアン共同代表の朝倉祐介氏、マクアケ共同創業者・取締役の坊垣佳奈氏、早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏が革新性・成長性・持続性・市場規模とシェアの4項目で採点を行い、最も優れた企業を決定する。
はたしてグランプリに輝く企業は一体どこか。
表彰式イベントの開催まで残り1週間を切ったということで、改めて一次審査を通過した20社を5日間にわけて紹介していく。今回紹介するのはCashi Cake、ペイトナー、mento、YOUTRUSTの4社だ(掲載は五十音順)。
米ロサンゼルスを拠点に和菓子ブランドを展開する「Cashi Cake」

“ボーン・グローバル”といった言葉があるように、近年日本ではなく、海外で起業する人の数も増えつつある。Cashi Cake CEOの三木アリッサ氏もそのひとりだ。
Cashi Cakeは「日本文化を世界に」というミッションのもと、海藻寒天を加工する技術を活用した琥珀糖のブランド「MISAKY.TOKYO」を展開するスタートアップ。これまでにアカデミー賞・エミー賞前夜祭でベンダーとして出店したほか、1億9000万人超のフォロワーを持つセレブ・キム・カーダシアンのフレグランスブランドKKW Fragranceとのコラボ商品を製作。また、ブランドアカウントのTikTokフォロワー数が30万人(累計動画再生回数4800万回)を超えるなど、着実に認知度を高めている。
三木氏は日本酒ベンチャーのKURAND(旧:リカー・イノベーション)で新ブランドの立ち上げのほか、イスラエル専門商社で新規事業開発マネージャーを務め、Life is Tech ! (ライフイズテック)ではアメリカ進出の戦略立案に従事した経験を持つ。

そうした経験を経て、2019年9月に渡米。2つのスーツケースに荷物を詰め込み、貯金の200万円と航空券を持って単身でロサンゼルスに飛んだ。
その後、砂糖の量を5g単位で変えたり、温度を1度ずつ変えたりしながら200通りのレシピを試すなど、試行錯誤を繰り返し、主力商品の「Crystal Treats」が誕生した。2022年2月には、千葉道場ファンド、ココナラスキルパートナーズ、Headline Asiaなどからシードラウンドで約1.2億円の資金調達を実施。現在は「MISAKY.TOKYO」の製造拠点の拡大、新海藻ドリンクブランドの立ち上げに注力している。
「日本の精進文化は、世界が求めるソリューションです。ビーガン、サスティナブル、メンタルウェルネスは全て「精進」につながっています。もっと多くの日本人に、日本の文化を誇りに思ってもらえるよう、これからも世界で戦っていきます」(三木氏)
スモールビジネスの商取引をシンプルにする「ペイトナー」

会社に属さずに働く、いわゆる“フリーランス”。ランサーズが実施した「フリーランス実態調査 2021」によれば、広義のフリーランス人口はすべての労働人口の24%を占める1670万人となるなど、フリーランスの数は増加傾向にある。
自由に働くことができる一方で、ネックになるのが資金繰りだ。フリーランスは会社員と違って月末に決められた額が必ず入金されるわけではない。入金のサイクルは取引先ごとに異なり、中には支払いが翌々月になるといったパターンもある。その結果、資金繰りに悩みを抱えてしまうフリーランスも多くいるのが現状だ。
そうした課題を解決すべく、オンライン型ファクタリングサービス「ペイトナー ファクタリング(旧:先払い)」を展開するのがペイトナー(旧:yup)だ。
ペイトナー ファクタリングは取引先に送った入金前の請求書情報を登録すると、即日、報酬を受け取ることができるサービス。資金繰りに悩む時間を付加価値を作り出す時間に変える“資金繰り支援サービス”として2019年9月に提供を開始し、2022年1月には累計申込件数は2万件、申込総額は50億円を突破している。
また先日、サービス開始から蓄積したビッグデータを用いることで、これまで60分ほどかかっていた与信判断の時間を最短10分に短縮するアップデートも実施した。

2021年8月にW venturesをリード投資家として、インキュベイトファンド、セブン銀行、AGキャピタル、FFGベンチャービジネスパートナーズ、會田武史氏を引受先とした第三者割当増資と、ベンチャーデットを手がけるブルー・トパーズをはじめとする金融機関からのデットファイナンスを合わせて、総額4.5億円の資金調達を実施しているペイトナー。
2022年3月には、クラウド請求書処理お任せサービス「ペイトナー 請求書」ベータ版(2022年夏リリース予定)の事前登録を開始するなど、事業領域を拡大していっている。代表取締役社長の阪井優氏は「ペイトナーは、BtoB決済サービスに特化したスタートアップです。お金の流れをなめらかにすることで、スモールビジネスにおけるあらゆる商取引を簡単・シンプルにする事業を展開していきます」と語った。
個人と法人の両軸でコーチングサービスを提供する「mento」

コロナ禍で従来のような対面のコミュニケーションができず、マネジメントに苦戦する人が増えている。企業も従来の一定の人数が集まる「集合研修」ではないかたちで、どうやってマネージャーの育成を支援していくか、を模索している。
そうした中、一人ひとりに寄り添ったキャリア形成と能力開発を支援する“コーチング”に注目が集まり、需要を拡大していっているのがmentoだ。
同社の設立は2018年2月。代表取締役の木村憲仁氏が新卒で入社したリクルート時代にコーチングを経験したことをきっかけに、コーチングの事業を立ち上げている。
まずは個人をターゲットに、2019年10月にコーチングサービス「mento」の提供を開始。約2年弱が経った2022年1月には所属コーチ数は160人以上、累計セッション時間は2万時間を超えるコーチングプラットフォームとなっている。
その後、法人向けのコーチング事業を展開。2020年はコロナ禍で研修費用を削る流れもあり、思うように伸びなかったが、2021年に日系大企業のコーチングへの関心が高まり、導入企業数が増加。伊藤忠商事、江崎グリコ、メルカリ、ヤフーなどの企業で導入が進み、2021年の売上は初年度比20倍の規模にまで成長を遂げている。

2022年4月には米シリコンバレーに拠点を置くVC・WiLから総額3.3億円の資金調達を実施したほか、社名をウゴクからmentoに変更したほか、コーポレートブランドのリニューアルを実施。現在はサービス拡充のため、人材採用の強化に力を入れている。
今後はユーザーに対してはコーチのサポート役となる“AIコーチ”のようなソリューションなどの開発に取り組んでいくというmento。代表取締役の木村憲仁氏は「スタートアップの社会的使命は産業を効率化させ経済を最大化させるだけではなく、人が幸せに生きるための持続可能なシステムをつくることに変わりつつあると思います。私たちはその大きな潮流の先端を拓き、真に豊かな未来を実現します」と語る。
日本のキャリア市場の変革に取り組む「YOUTRUST」

友人や同僚と仕事の話を楽しみながら、新しいつながりやキャリアに役立つ情報,、自分にあった仕事と出会える場所として、利用者を増やしていっているのがキャリアSNSの「YOUTRUST」だ。
iOSアプリをリリースした2021年4月には、実数は非公開ながら昨年同月比で累計ユーザー数は5倍以上に増えたほか、WAU(週間アクティブユーザー数)も15倍以上に増加。アクティブユーザー数が増えたことで転職・副業意欲の高い人と企業のマッチングも増え、売り上げも10倍以上になっている。
2018年4月のリリース当初は副業・転職をしたい人と企業がつながるマッチングサービスとしてスタートを切ったが、途中で方針を転換。「タイムライン(時系列で友人の投稿が見られる欄)」を導入し、自分の考えの共有やメッセージの投稿、友人や知人の副業・転職意向などが見える現在のかたちになった。
運営元であるYOUTRUSTの代表取締役を務める岩崎由夏氏は、新卒でディー・エヌ・エー(以下、DeNA)に入社し、人事として働いた経験を持つ人物。その経験をもとに、「転職エージェントに登録していくつか転職先の候補を紹介してもらうだけではない、新たな転職の仕組みをつくろう」と決め、YOUTRUSTを創業した。

YOUTRUSTは、2021年8月にデライト・ベンチャーズをリード投資家として、STRIVE、W ventures、ANRIから総額4.5億円の資金調達を実施。現在は新規ユーザーを獲得を目指して屋外広告(OOH)を筆頭に認知拡大の施策を実行していくほか、既存ユーザーのエンゲージメント向上のためのマーケティング施策を強化している。
「ファイナリストまで残った以上、栄えある第1回目SIGNAL AWARDのてっぺん目指したいです!よろしくお願いします」(岩崎氏)
なお、岩崎氏の創業の経緯については、4月26日に開催するイベント「SIGNAL AWARD 2022」内のセッションで詳しく話を聞いている。興味のある人は、ぜひイベントの参加申し込みをしてほしい。