ミラーフィット代表取締役の黄皓氏
ミラーフィット代表取締役の黄皓氏
  • 自宅をジムに変えることで、「運動しない」理由をなくす
  • 自己資本ではなく、外部資本を入れた狙い
  • 真に目指すのは「鏡のイノベーション」
  • MIRROR FIT.の普及に向けた「3つの戦略」

Amazonプライム・ビデオで配信されたリアリティショー『バチェラー・ジャパン』シーズン4に出演し、“4代目バチェラー”として知られている黄皓(こう・こう)氏。

そんな黄氏が「運動しない理由をなくす」と意気込み、力を注いでいるのが専用のミラーデバイス、専用アプリを通じて、自宅にいながら本格的なトレーニングプログラムを体験できるサービス「MIRROR FIT.」の展開だ。

MIRROR FIT.は、500種類以上のフィットネスコンテンツのほか、100人以上のトレーナーによる本格的なレッスンが受けられるミラー型のフィットネスデバイス。AI採点プログラムが搭載されており、正しいフォームでトレーニングできているかも教えてくれる。

画像提供:ミラーフィット
画像提供:ミラーフィット

本体価格21万7514円(応援購入サイト「Makuake」での先行販売分は割引価格で販売されている)。本体価格とは別でアプリ使用料として毎月6578円がかかる。

本体の薄さは3cm(スタンドの奥行きを入れると20cm)で、幅は55.8cm、高さは144.7cmとなっている。またAndroid 7.1を搭載しており、運動だけでなくゲームや動画・音楽などさまざまなアプリをタッチスクリーンを通して楽しむこともできる。

運営元のミラーフィットは体型管理機能やパーソナルトレーニング機能などの開発を目的に、千葉道場ファンドを含めた投資家から資金調達を実施したことを4月18日に発表した。今回の資金調達により、創業からの累計調達額は3.2億円となった。

今後は機能開発に加えて、グループフィットネスワークアウトや有名トレーナーとの連携による魅力的な動画コンテンツも拡充させていく予定だという。

資金調達も実施し、事業成長に向けてさらにアクセルを踏んでいく黄氏。もともとパーソナルジムを展開していた彼は、MIRROR FIT.の提供を通じて何を目指すのか。国内でも「Fitness Mirror(フィットネスミラー)」や「embuddy(エンバディ)」といった競合プレーヤーが登場し、盛り上がりを見せるミラー型フィットネスデバイス市場における、ミラーフィットの戦略について、彼の考えを聞いた。

自宅をジムに変えることで、「運動しない」理由をなくす

──黄さんはパーソナルトレーニングと高級セルフエステを月額3万2780円(税込)で“受け放題”にするジム「Karada BESTA」を展開しています。なぜ、ミラー型のフィットネスデバイスを展開することにしたのでしょうか。

Karada BESTAに関しては、当初ライザップとほぼ同じクオリティのサービスを半額の20万円で提供するモデルでスタートしました。当時、2店舗で合計2000万円の売上はあったのですが、体験してみてからの入会率が50%という状態だったんです。多くの人が“お金”を理由に通えなかった。

であれば、月額制の通い放題にしてしまえばいいのではないか。そう思い、30分のパーソナルトレーニングと、30分のセルフエステもしくは有酸素運動を組み合わせることでジムの稼働率を上げ、月額3万2780円で通い放題のモデルを構築しました。

有難いことにKarada BESTAは好調です。会員数も順調に伸びており、ジムの数も15店舗まで増えています。このビジネス自体はニーズがあるという実感はあります。ただ、それでも「痩せるのはわかったけど続けられない気がする」「忙しくなったので辞めます」という意見が一定数ありました。そこに追い討ちをかけるようにコロナ禍がやってきました。

ジムにも行けないので、「運動をしない言い訳」がたくさんできる状態になってしまったんです。従来のジムでは行くのが面倒ですし、荷物が邪魔になったり、予約がとれなかったり、実際に運動するまでのハードルが高すぎる。1回ならまだしも、これをずっと続けていくのは不可能だな、と。また、大手がパーソナルジムの認知を高めた功罪でもあるのですが、「運動は3カ月〜半年頑張ってやめるもの」というイメージを持つ人も増えてしまいました。

運動を習慣化し、継続させるにはどうしたらいいのか。自分は毎日必ず帰ってくる自宅を運動するのにベストな場所、ジムにすればいいのではないかと思ったんです。

画像提供:ミラーフィット
画像提供:ミラーフィット

──習慣化と継続という意味では、賃貸マンションにKarada BESTAを入れる取り組みもしていましたが、そちらはどうだったのでしょうか。

ジムに通い続ける自信がない人が多かったので、それならばマンションにジムをつけてみたらどうなのか。実験的にやってみたら反響があり、たくさんの申し込みがありました。ただ、このマンションを世の中に広げていこうと思うと、お金と時間がかかりすぎる。また、土地も必要になります。もちろん、それはそれで粛々と進めていくのですが、スタートアップ的な急拡大を目指すには自宅をジムにするべきだと思いました。

それでKarada BESTAを運営するRILISISTとは別で、新たにミラーフィットという会社を立ち上げ、ミラー型のフィットネスデバイス「MIRROR FIT.」を展開することにしたんです。

──海外では同じミラー型のフィットネスデバイス「MIRROR」のほか、フィットネスバイク「Peloton」などもコロナ禍で人気を博しました。

まず、Pelotonのようなフィットネスバイクは導入コスト・維持コストの観点から、日本の住宅環境に適していない、と思いました。またスマホやタブレットを活用したオンラインフィットネスサービスもありますが、それらは導入コストが低く利便性が高い一方、画面が見づらく自分の姿もわからないので“運動っぽいこと”しかできません。

そうした中で、ミラー型のフィットネスデバイスが最も日本の住宅環境に適していると思ったんです。海外ではPelotonと同様にMIRRORも伸びていたので、日本でも受け入れられるはずだと思い、ミラー型のフィットネスデバイスを開発することにしました。

──MIRROR FIT.を開発する際にこだわった部分は。例えば、競合のembuddy(エンバディ)は脚のないデザインが大きな特徴と言っています。

何より意識したのが、家になじむかどうかです。そういう意味では、実際の全身鏡を見ていただければわかるのですが、必ずフレームがあります。またトレーニング中に下の部分を見ることはなく、視線は自然と上の方に来ます。そのため、MIRROR FIT.は下の部分はスペースをつくり、上の部分に鏡を持ってきました。また、絶対に家になじむ状態をつくらないといけないので、幅や大きさ(32インチ)などはかなり意識しました。

また、従来の製品は壁に立てかけるタイプだったのですが、「自立式タイプが欲しい」という声もあり、新たに自立式タイプの製品も開発しました。

運動するモチベーションを維持しやすくするために、体型データを記録し、トレーニングの成果が可視化しやすいシステムを取り入れたり、理想の体型データに基づいたシェイプアッププログラムを提案するシステムを取り入れたりしています。

自己資本ではなく、外部資本を入れた狙い

──従来のジムという“箱”をつくってたくさんの人を呼び込むモデルから一転、今回はデバイスを開発し、それをたくさんの人に届けるモデルです。

成長のハードルがこちらのリソースになってはいけない、と思ったんです。従来の労働集約型のモデルでは会員が増えれば増えるほど、トレーナーなどの労働力が必要になります。

一定のキャパシティを超えてしまうと労働力が確保できず、サービスが提供できなくなってしまう。それは一番良くない状態です。労働力をあまり必要とせず、それでいてサービスの提供範囲を広げるために、今のモデルになりました。

いろんな人に運動することの良さを広めるためには、オンラインが最も効率が良い。またオンラインは会員数が増えれば増えるほど事業コストも下がっていくので、成長曲線も描きやすいというのがありました。

──先日、千葉道場ファンドなどの投資家から資金調達を実施しています。

Karada BESTAも売上高は毎年200〜300%成長を続けているのですが、今の状態になるまでに5年もかかった、という感覚があります。今まで自己資本で経営してきたのでリスクは少なかったのですが、一方で高い成長曲線も描きづらかった。

MIRROR FIT.は何年もかけて成長を目指すのではなく、1〜2年で急拡大させていかなければいけない、と思っています。だからこそ、今回資金調達も実施しました。

真に目指すのは「鏡のイノベーション」

──実際に販売してみての手応えは。

昨年まではPoC期間(Proof of Concept。実証実験のこと)という位置付けだったのですが、50台の先行販売を2回実施してみたところ、どちらもすぐに完売しました。サービス利用料も含めて初期費用が15万円弱するので決して安くはないのですが、買ってくれる人たちがいた。今まで運動に挫折していたけれど、「これならば」と期待を寄せる人たちがこれだけいるんだ、と感じました。

このビジネスの面白い部分は、売って終わりではなく、売り始めたところから消費者との関係がスタートすることです。実際に届いてから、どういう使われ方をしているのか、満足度が高いのか。解約率はどれくらいなのか、解約している理由は何かをひたすら検証し、サービスの改善を進めていっています。現在サービスの解約率は10%ほど。まだまだ数値は高いですが、今後は機能を拡充させていき、解約率を下げていければと思っています。

その一方で、すでに「毎日使って5〜10kg痩せた」という声も聞いています。そういう意味では、特定の人たちにはPMF(プロダクトマーケットフィット)しているので、どういうシーンなら使えるのか、どうしたら継続するのか。そこを深掘りし続けているところです。

──Makuakeで先行販売しているモデルは、運動以外に動画鑑賞やビデオ通話などの価値訴求をしている点も印象的でした。

運動に興味がない人に「MIRROR FIT.を買って運動しましょう」と言っても絶対に買いません。また自宅にある全身鏡が運動しかできないのはナンセンスだと思っています。そのため、運動以外に動画鑑賞などのエンターテインメント、オンライン会議やビデオ通話などのコミュニケーションの活用といった価値訴求をしています。

オンライン会議でのMIRROR FIT.の利用イメージ 画像提供:ミラーフィット
オンライン会議でのMIRROR FIT.の利用イメージ 画像提供:ミラーフィット

思い描いているミラー型デバイスの事業は、これまで反射しかしてこなかった鏡にイノベーションを起こすことです。姿を写すことしかしてこなかったのに、これだけ求められている鏡が、いろんなサービスのシームレスな入り口になったらすごく便利だと思いませんか。

ただ、いきなり自分たちがそれを実現しようとすると、リソースが行き届かない。さまざまな選択肢がある中、最も訴求しやすい価値が運動だと思ったので、運動から始めています。今後は少しずつサービスや機能を広げていき、5〜10年後に鏡のイノベーションを実現できたら、と思っているところです。

MIRROR FIT.の普及に向けた「3つの戦略」

──MIRROR FIT.の販売戦略はどのように考えていますか。

基本的にはtoC、toB、不動産デベロッパーとの連携の3つの軸で考えています。

まず、toCに関しては店舗販売やテレビショッピングなどを通して、運動に挫折したことがある人に対してMIRROR FIT.の価値を訴求していきます。ただ、それでは「使わなくなったらどうしよう」などの不安があるので、その不安を解消するようにキャンペーン価格で提供したり、分割払いで購入できるようにしたりします。

また、運動に使わないときにも全身鏡やスマートメディアとしての価値を訴求していき、「この買い物が無駄ではない」と“購入の言い訳”ができるようにしていくつもりです。

toBは基本的にリース販売がメインです。今のところ、ホテルやマンションでの導入が進んでいます。ホテルは安い初期コストでスペースを使わずにウェルネスプログラムを顧客に提供できるので、顧客満足度もあがり、集客に役立てることができる。マンションは住民の付加価値向上、入居者の募集などに役立てることができます。

ジムなどでは人件費の削減、業務効率化に寄与できると思いますが、まだここは機能が足りていない。CRM機能をつけて基幹システムのようにしていければ、長く使ってもらえるサービスになると思うので、今後はtoB向けの機能開発もどんどんやっていきます。

不動産デベロッパーとの連携に関しては、MIRROR FIT.の費用を建築費に入れてしまい、不動産デベロッパーが本体費用を負担するようなスキームを構築できればと思っています。毎月のサービス利用料は管理費として、支払ってもらう。このような形で顧客に負担をなるべくかけずにMIRROR FIT.を導入できる選択肢をつくっていければと思っています。

──今後の展望についても教えてください。

顧客は運動はしたいけど、自分で運動のメニューは考えたくない。だからこそ、MIRROR FIT.は「今日はこれをやりましょう」という提案まですることが求められていると思っています。鏡の前に立つと、身体のコンディションが表示されて「今日は腹筋」という感じでメニューが表示される。パーソナルトレーニングは何も考えず、コーチに任せるところが良くて、みんな高いお金を払っているわけです。それをローコストで擬似的に体験できるようにしていければと思います。

また、鏡と人の接点を増やすために、どういうUI/UXがいいのか。これをひたすら考え、最適な形に改善していければと思っています。

MIRROR FIT.の生産体制は月間2000台をつくれるようになりました。これからは、ニーズがあることを示しつつ、LTVを伸ばすための検証と改善を繰り返していくフェーズです。そこで一定の目処が見えてきたら、デバイスの価格を下げて、導入後のサービスで回収するようなモデルも検討しています。

例えば、広告が表示される3万円のモデルを販売するといったイメージです。仮に10万軒の家に32インチで表示される広告媒体があれば、絶対に広告を掲載したい企業はいるはずです。そういった戦略も考えているので、まずはMIRROR FIT.の価値を世に認めてもらい、サービス自体も進化させていければと思っています。