
- 最も重視していたのは「ルール整備のスピード感」
- 譲れなかったポイントは「最高速度」
- あわてて電動キックボードを買うのは時期尚早
- Luupのシェアサービス、2023年中の全国展開を目指す
いよいよ、日本で電動キックボードに関するルールが明確になった。2022年4月19日、道路交通法の改正案が可決され、電動キックボードをはじめとする電動小型モビリティが、運転免許やヘルメットが不要となる「特定小型原動機付自転車(特定小型原付)」と位置づけられた。従来、電動キックボードは「原動機付自転車」として、いわゆる原付スクーターと同じ扱いだった。
今回の道交法改正は電動キックボードの普及にとってどのような意義があるのか、電動キックボードのシェアリングサービスを手がけるLuup代表取締役社長兼CEOの岡井大輝氏に話を聞いた。岡井氏は2019年にマイクロモビリティ推進協議会を設立してロビイングを進めるなど、電動キックボードのルール整備に奔走してきた。
新たな道交法では、電動キックボードは新設の「特定小型原付」という車両区分に分類される。最高速度は時速20キロメートルで、運転免許は不要。年齢制限は16歳以上で、ヘルメット着用は努力義務とされた。施行されるのは「最長2年後だろう」と岡井氏は見ている。
最も重視していたのは「ルール整備のスピード感」
2018年にLuupを創業して約4年。「やっとビジネスのスタート地点に立てた」と岡井氏は胸をなで下ろす。LuupのCEOとして、マイクロモビリティ推進協議会の会長としてルール整備をうったえていく上で、岡井氏が最も重視したのが(法改正の)スピードだ。
その背景には、世界的な電動キックボードの急増がある。いずれ日本でも電動キックボードが増え、危険な電動キックボードが街にあふれて社会問題化することは目に見えていた。岡井氏は、社会問題化が今以上に進むとLuupのビジネスも大きな打撃を受けていたと振り返る。「(法改正が)あと2年遅かったら我々は電動キックボードから撤退していた」(岡井氏)
岡井氏は今回の道交法改正を「理想的なスピード感」として、「ここまでのスピード感を持って法改正までこぎ着けられたのは、関係省庁や協議会のメンバーが同じ思いを持って進めてくれたから」と振り返った。
譲れなかったポイントは「最高速度」
改正内容に関しては、どんな内容になっても対応できるように準備していた岡井氏。あえて譲れなかったポイントをひとつ挙げるとすれば、「最高速度(の引き上げ)」だったという。
Luupをはじめとする電動キックボードシェアリング事業者が実施している実証実験により、膨大な走行データと数万件のコメントが集まっている。コメントの中で特に多かったのが、速度についてだ。現在の実証実験では、電動キックボードの最高速度は時速15キロメートルに設定されている。だが実際に利用したユーザーはもちろん、クルマのドライバーからも「遅すぎる」「時速20キロメートルにしてほしい」という声が多く寄せられた。最高速度は安全性に大きく関わる。低すぎても高すぎても危険になるからこそ、多くのデータを取って適切な速度を探ったという。結果的に「電動アシスト自転車に近い速度(編集部注:電動アシスト自転車のアシスト上限は時速24キロメートル)に落ち着いた」(岡井氏)。
その他のポイントも「関係省庁に膨大なデータをしっかりと分析していただいた結果、日本の交通事情の実情に即した内容になった」と岡井氏は語る。例えば、時速6キロメートルに制限することで自転車が通行可能な歩道を走行できる点。日本の道路は狭い場所も多く、場合によっては歩道に逃げないと危険な箇所もある。「何が何でも歩道は不可」ではなく、柔軟な内容になったのは、データを通してこうした実情をしっかりくみ取ったからだろう。
あわてて電動キックボードを買うのは時期尚早
道交法の改正案が可決されたとは言え、「これを機に電動キックボードを購入しよう」と考えるのは時期尚早かも知れない。それは「特定小型原付」の保安基準が決まっていないためだ。保安基準は、道交法ではなく道路運送車両法という別の法律で定められるもので、2021年10月に国土交通省が立ち上げた「新たなモビリティ安全対策ワーキンググループ」で議論が続けられている。岡井氏も委員の1人だ。
現在検討中の案によると、ヘッドライトやブレーキライト、ウインカーのほか、「特定小型原付」の要件を満たしていることを示す「識別点滅灯火」の装着が義務づけられる。また段差乗り越えなどの走行安定性に関する試験も必要となる見込みだ。内容を考えると「現在販売されている電動キックボードが『特定小型原付』と認められる可能性は限りなく低い」と岡井氏。「Luupも将来的には(実証実験として認められている)シェアリングだけでなく販売も手がける予定だが、保安基準が定まるまでは進められない」(岡井氏)状態だ。
もし「特定小型原付」として電動キックボードを利用したいのであれば、保安基準が定まり対応製品が登場するまで待った方が良いだろう。なお現在販売中の(公道走行可能な)電動キックボードは、道交法改正後も引き続き原動機付自転車として乗ることが可能だ。
Luupのシェアサービス、2023年中の全国展開を目指す
新たに道交法の車両区分として登場する、電動キックボードをはじめとするマイクロモビリティ。社会ではどのように使われていくのだろうか。
岡井氏は「長距離は電車、中距離はクルマ、短距離はマイクロモビリティと、距離によって使い分けるようになる」と見ている。脱炭素の流れから、欧米の都市を中心に、クルマから徒歩や自転車といった交通手段に切り替え持続可能な都市を目指す「コンパクトシティ」の動きが進んでいる。「日本よりコンパクトシティに向いている場所はない」と岡井氏は言う。日本は人口密度が高く、電車や地下鉄といった公共交通機関も整備されているためだ。「ただし、コンパクトがゆえに土地がなく、全員が自転車や電動キックボードを所有しても駅前に止める場所がない。だからこそシェアリングが必要とされる」(岡井氏)
Luupは、2022年4月14日に複数のリース会社と電動キックボードのリース契約を締結。さらに融資で10億円を調達し、全国展開できる体制を整えた。電動マイクロモビリティによって日本の新たな短距離移動インフラを担うべく、2023年中をめどとした全国展開にもアクセルを踏む。