
- 月商1000万円超えの個人も誕生
- 強いニーズがあればニッチなジャンルでも成立
- クリエイターの“ギルド化”サポートへ新機能提供へ
簡易的なECサイトを作ってネットで物を売るのと同じような感覚で、情熱を持った個人が自身のスキルや情報をサービスとして売れる“サービスEC”の「MOSH(モッシュ)」。この仕組みを通じてデジタルコンテンツやサブスクリプションサービスの販売に挑戦する個人が増加している。
2022年3月末時点でMOSHを活用するクリエーターは約4万5000人。約2年で9倍に増加した。現在はMOSHを通じてヨガやフィットネス、美容、音楽、料理、キャリア、育児、占いなど200職種以上のサービスが提供されている。
運営元のMOSHは今後さらなるクリエイターエコノミーの促進に向けて機能拡張や体制強化を進めていく計画。そのための資金としてグローバル・ブレイン、千葉道場ファンド、KDDI Open Innovation Fund3号、DBJキャピタルを引受先とする第三者割当増資により総額8億円を調達した。
なおMOSHでは2020年10月にBASEなどから3億円を調達しており、創業からこれまでの累計調達額は約12億円となる。
月商1000万円超えの個人も誕生

MOSHは個人が「サービスを販売してみたい」と思った際に必要となる機能が一通り揃ったツールだ。具体的には本拠地となるホームページの作成から予約の受付や決済、単品のデジタルコンテンツの販売、月額制のサブスクサービスの販売までMOSHがあれば完結する。
もともと創業者の籔和弥氏(MOSH代表取締役社長)が個人事業主にヒアリングをする中で「スマホで簡単にホームページを作れるサービス」を求める声が多かったことから、2018年2月にホームページ作成ツールとしてローンチ。そこから少しずつ機能を拡張しながら事業を拡大してきた。
MOSHは約1年半前に前回の資金調達を実施している。藪氏はそのときからの変化について、「売り上げのトップラインの上昇」と「ジャンルの拡張」を挙げる。
売り上げについては、フィットネス系など人気のカテゴリーにおいて月商で1000万円を超える個人が生まれ始めた。
MOSHはいわゆるストアフロント型(独立型)のサービスのため、モール型のマーケットプレイスとは異なり、基本的には自身のSNSなどを使って顧客を集めてこなければならない。
これはECにおけるAmazon(モール型)とBASEやShopify(ストアフロント型)との違いと同様だ。ストアフロント型は集客に一定のハードルはあるものの、それを自分でできる個人であれば、テイクレート(≒手数料率)やブランドの打ち出しやすさ、販売するサービスメニューの柔軟性などにおいて使いやすい側面もある。
「モール型は一覧の中で比較検討されるため、コモディティ化を促進するUXになっており、自身のブランドを作ることが難しい面があると考えています。ストアフロント型はどちらかというとソーシャルのトラフィックの中で築いた信頼を基に、商売をしやすくするためのツールです。個人が発信できる時代になったことで、ファンやフォロワーに向けて『自分のブランドを毀損しないようなサイトを作りたい』というニーズが高まってきているように感じています」(藪氏)
あるユーザーはもともとYoutubeで一定の収益を上げていたが、その額をMOSH経由の売り上げが上回るようになった。まだまだ発展途上ではあるものの、クリエイター目線では「Youtube以外の収益源」としてMOSHという選択肢が少しずつ広まってきていると藪氏は手応えを口にする。
強いニーズがあればニッチなジャンルでも成立
売り上げのトップラインが成長している一方でカテゴリーが多様化してきており、GMV(流通額)全体ではロングテール化が進んでいる。
以前は「トップセラーがGMVの大部分を占めていた」(藪氏)が、現在GMVの60%強は月商100万円未満のユーザーが占める。中でもニッチな領域において月商10万円〜30万円規模の収益を生み出す個人が増えてきているという。

たとえば自身の経験を基に“発達障害の子どもとの向き合い方”に関するコーチングサービスを提供しているユーザーは、地方在住。もともとオフラインでサービスを提供していたが、MOSHを活用してオンライン展開することで月に30万円前後の収益を獲得できるようになった。
この事例のように、さまざまな領域における「プライベートコンサル」はMOSHで人気のサービスの1つだ。
「(発達障害の子どもを持つ親に対するコーチングなどは)オフラインだと顧客が限られるニッチな領域に思えるかもしれませんが、オンラインになると日本全国がマーケットになる。『強いニーズのあるニッチなジャンル』がビジネスとしても成立するようになってきています」(藪氏)
必ずしも何万人のフォロワーがいなくても、ニッチな領域であっても、自身の情熱に共感したコアなファンがつけば小さな経済圏が成立しうる。実際にMOSH上では「初販売がうまくいった個人はミドルセラーに成長する傾向が強い」ため、会社としてはゼロイチの部分のサポートに力を入れてきた。
「やはり最初のところ、つまり(売り上げ)ゼロからイチに持っていくところが1番ハードルが高いんです。少しでも売り上げを作ることができれば10万円規模くらいまでの道筋は見えるようになってきているのですが、逆にいうと売り上げがゼロのまま止まってしている方も一定数存在しています」(藪氏)
そもそも登録はしたもののサービスの公開に踏み切れないユーザーもいれば、出品はしてみたものの顧客がつかないユーザーもいる。MOSHとしてはクリエイターと共同でのワークショップやセミナー、顧客サポートなどを通じて最初の障壁を下げるための活動を続けてきた。
また一度集客できたとしても、クリエイターは「集客し続けられるかどうか」という不安と向き合い続けければならない。その不安を払拭し、安定的に活動を続けられる基盤として、機能面ではクーポンの発行やアーカイブ動画の配信を始めとした“サブスク機能”を強化してきた。
こうした機能面が充実してきたこともあり、現在はGMVの半分以上がサブスクリプションサービスによるもの。これが全体のGMVの底上げにもつながり、MOSHのGMVは前年比で約2.4倍に成長しているという。
クリエイターの“ギルド化”サポートへ新機能提供へ
MOSHのようにクリエイターエコノミーを支えるサービスは国内外で増えてきている。
各社ごとにアプローチは異なるものの、海外発のサービスでは「Gumroad」や「Luma」、「KAJABI」などが近しい。日本では領域によってはスキルシェアやオンラインレッスン、オンラインサロン系のサービスなどとも重なってくるだろう。
今後もMOSHではクリエイターにとっての土台となる“売り上げの安定化”を支える機能を引き続き強化していく計画。並行して、次のステップとなる「(クリエイターの)売り上げのさらなる拡大」を実現するための仕組みも提供していく計画だ。
その取り組みの一環として、2021年にベータ版としてローンチした「MOSH for TEAMS」の本格展開を始める。MOSH for TEAMSはクリエイター同士の“ギルド化”を促進するための仕組みで、個人がチームを作り、共同でサービスを展開しやすくなるような機能を備える。

藪氏の話では個人が自身をブランド化してチームとしてサービスを展開するケースや複数人のクリエイターが共同でコミュニティを運営するケース、事務所やメディアなどで活用するケースなどを想定しているとのこと。この機能を活用することで、メンバーごとの売り上げ分配などがスムーズにできるようになるという。
実際に吉本興業などとの取り組みではこの機能に近しい仕組みが活用されているそうだ。
また顧客となる“ファンの熱量”を可視化するダッシュボードの提供も始めた。「コアファン」「トライアル」など4段階に分けてファンを分析できるようにすることで、ファンの状況に合わせて適切なコミュニケーションを実施し、クリエーターが強固な顧客基盤を構築するためのサポートをする。
「コロナのタイミングで、MOSHを活用したオンラインでのサービス販売を本業にしていこうというクリエイターの方が増えました。『このサービスがなければ生活できていない』という声をいただくようにもなり、nice to have(あればいい)からmust to have(なくてはならない)のプロダクトに変わってきているという手応えもつかめてきています。クリエイターが抱える課題はまだいくつもあるので、数年のスパンで1つずつ解決していきたい。まずは1年後に10万人のクリエーターに使われるサービスを目指します」(藪氏)