セールスイネーブルメントクラウド「ナレッジワーク」
セールスイネーブルメントクラウド「ナレッジワーク」
  • リンクアンドモチベーションを経て起業、テーマは「仕事のイネーブルメント」
  • 社内のノウハウをフル活用できる「高精度な営業ポータル」
  • すでに数十社が導入、1000人規模で活用する企業も

テクノロジーやデータを有効活用しながら、社内の営業チームを“売れるチーム”へと変えていく──米国などで「セールスイネーブルメント」と呼ばれ、すでに多くの企業に普及している営業組織の強化メソッドは、同時にスタートアップにとって“大きなビジネスチャンス”にもなっている。セールステックの中の1領域として複数のプレーヤーが参入し、ユニコーンも生まれているような状況だ。

一方、日本では米国に比べるとセールスイネーブルメントという概念自体がまだ浸透しておらず、市場がこれから本格的に立ち上がっていくような段階にあると言えるだろう。

2020年創業のナレッジワークは、まさに日本でこの領域に挑戦しているスタートアップの1社だ。同社では営業資料や営業ノウハウの共有、営業向けの学習プログラムの開発などをサポートするクラウドサービス「ナレッジワーク」を手がける。

もっとも、これまでの約2年間は大々的なマーケティング活動などを行わず、ひっそりと“ステルス”でプロダクトの検証を進めてきた。2020年10月にローンチしたベータ版は、大手企業から中堅企業を中心に数十社が導入。中には1000名規模で活用する企業もあり、2021年10月のサービス有料化の際には、導入企業全社が有料版へ移行したという。

このような状況を受け、ナレッジワークでは4月20日より正式版の提供をスタートし、本格的に事業拡大に向けて始動した。正式ローンチに先駆けてグロービス・キャピタル・パートナーズ、DNX Ventures、ANRI、XTech Venturesより、シリーズAラウンドのファーストクローズとして10億円の第三者割当増資も実施している。

リンクアンドモチベーションを経て起業、テーマは「仕事のイネーブルメント」

ナレッジワークの創業者で代表取締役CEOの麻野耕司氏
ナレッジワークの創業者で代表取締役CEOの麻野耕司氏

ナレッジワークの創業者で代表取締役CEOの麻野耕司氏はリンクアンドモチベーション出身の起業家だ。前職時代には組織人事コンサルや組織改善クラウド「モチベーションクラウド」の立ち上げ、スタートアップの子会社化など幅広い業務を経験。2018年からは同社の取締役も務めた。

その麻野氏が次の挑戦の場として、Google出身の川中真耶氏(CTO)やGoodpatch出身の小川大樹氏と共同で創業したのがナレッジワークだ。

「テーマは『仕事のイネーブルメント』です。昨日仕事でうまくできなかったことが今日できるようになる、そんなサポートをしていきます。働くことをよくしていきたいという思いは前職時代から変わっていません。前職では組織のエンゲージメントと言われるような、やりたい気持ちを高めていくことに取り組んでいました。今回は能力の向上や成果の創出というところまでさらに踏み込んで挑戦していきたい、そのような考えからイネーブルメント領域に着目しました」(麻野氏)

麻野氏たちはイネーブルメントに必要な要素を「ナレッジ」「ラーニング」「ワーク」「ピープル」という4つに分類しており、これらを支えるためのソフトウェアを“職種ごと”に開発していくというのがナレッジワークの大まかな事業方針になるという。

セールスイネーブルメントの対象領域

その一歩目が「営業」になるわけだが、なぜ営業だったのか。

「労働人口のおよそ10%強が営業や販売職に就いていると言われるように関わる人が多いことに加え、とても負が大きいと考えたことが理由です。企業側から見た生産性という観点では、実際の商談に使える時間が短く、商談の準備に多くの時間が使われてしまっている。その結果として生産性が上がっていないように感じます。営業担当者個人の視点では業務満足度が低い職種とされるなど両方の面で課題があり、イネーブルメントが必要な領域だと考えて営業から始めることにしました」(麻野氏)

アメリカではセールスイネーブルメントの普及が進んでおり、関連するプロダクトを手がけるスタートアップも多い
アメリカではセールスイネーブルメントの普及が進んでいる

社内のノウハウをフル活用できる「高精度な営業ポータル」

ナレッジワークの核となるのが、営業資料やノウハウをチーム内でフル活用するための「ナレッジ」機能だ。

同サービスにはGoogleドライブやBoxなどのクラウドストレージサービスと同じように、さまざまな形式の資料や動画を格納できる。既存サービスと異なるのは「発見のしやすさ」だ。

ナレッジ機能のUI
ナレッジ機能の画面イメージ

商材や顧客規模、商談のプロセスなど“商談の条件”に応じて必要な資料にすぐにたどり着けるだけでなく、資料内で使われているキーワードを含めてフリーワード検索ができるので、特定のトピックについて紹介している資料を探す際にも役に立つ。

たとえば過去に金融業界の企業向けにどのような提案をしてきたかを短時間で調べたり、DXについて言及しているスライドを膨大な資料の中からピンポイントで掘り起こしたりすることも可能だ。またファイル上にカーソルを合わせるだけで中身を見られるため、1件1件開く手間もない。

麻野氏によると従来は資料の共有場所としてストレージサービスなどが使われてきたが、目的の情報にたどり着くまでに時間がかかってしまい、課題を抱えている企業も多いという。

「特に商談準備の効率化の部分が大きなペインになっています。(情報にたどり着けないので)営業担当のAさんが顧客向けに2時間かけて作った資料とほぼ同じようなものを、Bさんが別の会社向けに1から作っているというような状況が発生してしまっている。情報共有がされていれば、ものすごく短時間で済んだはずです」(麻野氏)

ナレッジワークはGoogleドライブやBoxと連携できるためファイルをすべて移管する必要もない。麻野氏は「ストレージサービスは作成の場、ナレッジワークは共有や発見の場」として使い分けられるといい、ナレッジワークは「高精度な営業ポータルのような役割」だと説明する。

同サービスはナレッジ領域の機能が基本プランとなっており、オプションとしてラーニング領域の機能やワーク領域の機能を加えることもできる。料金はプランの内容や利用者の人数によって異なるが、目安としてはミニマムで月額数十万円から使えるという。

なおラーニング機能ではナレッジとして蓄積した資料や動画などを用いて、営業担当者向けの学習プログラムを簡単に準備できるのが特徴。少ない作業で効果的な学習環境を整えられる仕組みによって、新メンバーの早期戦力化や受注率向上を後押しする。ワーク機能は顧客との商談準備や実際の商談をサポートするものだ。

ラーニング機能の画面イメージ
ラーニング機能の画面イメージ

すでに数十社が導入、1000人規模で活用する企業も

ナレッジワークではサービスのアルファ版を2020年の7月、ベータ版を同年10月にリリースしており、2年近くにわたってプロダクトの検証や機能改善を続けてきた。

すでにサイバーエージェントや日清食品、マネーフォワード 、ビズリーチなど数百名規模の企業数十社でサービスが活用されている。サイバーエージェントの場合は1000人を超える営業組織で導入しており、デイリーで200人〜250人がアクセスするツールとして重宝されているそうだ。

今後は正式版として引き続き機能拡張を進めながら事業を拡大していく計画。たとえばデータを活用したレコメンドはまだまだ改良の余地があるところだという。

「Amazonを使えば世界中の本の中から好きなものを簡単に探せるし、Netflixを使えば同じように好きな映画を見つけられます。一方で社内の資料やノウハウについては、どうしてこんなにも探すのが大変なのか。そのような考えが背景にあったので、『営業資料におけるAmazonやNetflixを作りたい』という思いがあるんです。現時点では能動的に資料を探す際に使いやすいことを大切にしていますが、データを活かしたレコメンドにも今後チャレンジしていきたいと考えています」

「これまでステルスでやってきたのは、競合の出現をゆるさないという意味合いもありました。この2年間で他社に追随されないようなプロダクトを作り込めたという手応えもあります。今後も世界で誇れるプロダクトを目指して開発に取り組んでいきます」(麻野氏)