
- 新任マネージャーがぶつかる課題、3つのタイプ
- 新任マネージャーが意識すべき「内省習慣」と「傾聴習慣」
- メンバーが育つマネージャーは「コーチ」的
連載「プロが教える『コーチング・メソッド』」では、自身もコーチであり、パーソナル・コーチングサービス「mento」を展開するmento代表取締役の木村憲仁氏が新任マネージャー向けに「マネジメントに必要な素養」を語っていきます。初回のテーマは、「新任マネージャーが陥りやすい課題と意識して行うべき習慣について」です。
「来期からマネージャーをやって欲しい」──会社の上司からそんな言葉を聞いてソワソワしながら4月を迎えた人も多いのではないでしょうか。この連載では新たな役割への適応が求められる新任マネージャーのみなさんに向けて、知っておくと仕事が楽しくなるコーチングの視点をお伝えしていければと思います。
新任マネージャーがぶつかる課題、3つのタイプ
これまで私たちはさまざまな規模の会社のマネージャーにコーチングを提供する中で、マネジメントにおける悩みや課題を目の当たりにしてきました。業務・人間関係・キャリアなど悩みの種類はさまざまですが、メンバーのマネジメントにおいてぶつかる課題を大まかに分類すると、下記の3つのタイプに分けられるように思います。
①神経質タイプ
メンバーの一挙手一投足が気になり、メールのひとつから資料の言葉尻まで細かく口を出してしまいたくなるタイプです。結果的に、メンバーはマネージャーの顔色を伺いながら仕事をするようになり、アクションが小さくなるなど自律性が激減します。
マネージャー自身の視点からは「メンバーのモチベーションが低い」「メンバーの成長のためによくフィードバックしているが響かない」という悩みを聞くケースが多く、話を聞いてみるとその状況を作り出している原因が本人にもあるケースがよく見られます。
②抱え込みタイプ
このタイプはメンバーをサポートすることを重視しており、指示や依頼が苦手な人が陥りやすいパターンです。ちょっとした仕事を「やっておくよ!」と引き受けて自分で処理してしまいがちで、マネージャーとしての業務に加えてメンバーの業務も行うので、深夜や週末まで仕事をしないと終わらない……というようなワーカホリック状態になってしまいます。
メンバーから見ると「丁寧にケアしてもらっているが物足りない。もっと任せて欲しい」と思っていることもしばしばです。話を聞いてみると本人はマネージャーとして価値を出せる自信がないと感じているケースが多くあります。
③無関心タイプ
こちらはメンバーの存在に関心が薄く、業務状況をあまり把握していないタイプです。コミュニケーションが場当たり的になり、言っていることが変わりやすいという印象を持たれます。メンバーと話すときしかメンバーのことを考えておらず、チーム全体として成果を出すのではなく、自分ひとりでなんとかする前提で仕事を捉えてるケースが多いです。
メンバーは何を求められているか分からないため混乱し、結果として何とか成果を出すために迷走してしまうケースが多くあります。
新任マネージャーが意識すべき「内省習慣」と「傾聴習慣」
どのタイプも、もともとの性格によって表出する課題が異なっているだけで、根本の課題は同じところにあると思います。それはメンバーを「信頼する」ということです。「信頼される」ことはリーダーにとって重要な資質ですが、「信頼する」こともまたマネージャーの重要な能力です。
ただ、言うは易く行うは難し。「よし、今日からメンバーを信頼しよう!」と思ってできるものでもありません。また「メンバーが成長してくれないと信頼できない」と思っていても状況は変わらないので、自分自身の習慣から変えていくことが必要です。
マネージャーが意識して取り入れるべき習慣のひとつは、内省習慣です。
マネージャーになり忙しくなった結果、自分ひとりで考える・振り返る時間を取れないという人は非常に多いと思います。ただ、流れていくように毎日仕事をしているとなかなか経験から学ぶこともできないので、日常の中にマネジメントについて内省する習慣をつくります。
紙に書くもよし、マネージャー仲間に相談するもよし、プロのコーチをつけるもよし、手段はひとによってさまざまだと思いますが、コツは「自分の中に問いを持つ」ことです。
漠然と考えるのではなく「最近メンバーを信頼できなかった瞬間は?」「本当はどうすべきだったと思うか?」など、自分に問いかけることが重要です。いわゆるセルフアウェアネスを高めるために、問いの中でメンバーを信頼していない自分自身に「自覚的になる」になるトレーニングをします。
もうひとつの習慣は、傾聴習慣です。例えば1on1などをしていても、相手の話を聞きながら次に何を話すべきかを考え、時には相手の話を遮って自分の話したいことを話し始めてしまうこともあるのではないでしょうか。
ただ単にメンバーの話している事柄を聞くというのではなく、内面的な声に耳を傾けることで初めて、相手をひとりの人としてとらえて向き合うことができるようになります。
リモート環境下では特に雰囲気を察することが難しいので、カメラをオンにして相づちだけではなく、うなずきながらすこし大きめにリアクションを取って相手の話を聞き、本音を話してもらいやすい空間をつくります。
そして、最後までゆっくり聞いて、メンバーの話した“事柄”だけではなく、その裏にどんな“心情”が隠れているのかに意識を向け、気がかりな瞬間を感じ取ったらすぐさまそれを伝えてみてください。そうしてアクティブに傾聴していく習慣を身につけることで、メンバーの考えを深く知り信頼関係を築くことができます。
メンバーが育つマネージャーは「コーチ」的
マネージャーは役割として短期的な業績だけではなく、中長期的なメンバーの育成を期待されています。そして、育成が上手なマネージャーは、意識的にせよ無意識的にせよコーチングのエッセンスを上手に取り入れてマネジメントしています。
そしてコーチングをマネジメントに活かす上ではスキルも重要ですが、コーチングの基本である「相手の可能性を100%信じる」というマインドセットを身につけることが大切です。それをメンバーとのコミュニケーションで体現することにこそ、マネジメントの本質があります。
新任マネージャーとして学ぶべきこと、成長しなくてはいけないことは数限りないと思いますが、仕事の大部分を占めるコミュニケーションに力を入れることは、“複利で効く投資”のようなものだと思います。マネージャーとしてのキャリアの初めにコーチングを受け・学ぶことはその後のあなたの仕事を楽しいものに変えてくれる力を持っています。