b8ta Japan代表取締役の北川卓司氏
b8ta Japan代表取締役の北川卓司氏
  • コロナ禍で命運わかれた米b8taとb8ta Japan
  • b8ta Japanは新しい小売のかたちとして注目を集め黒字化
  • “売ることを主目的としない店舗”を持ちたい事業者を支援する新事業

最新ガジェットなどを展示する“体験型店舗”「b8ta(ベータ)」を展開する米スタートアップb8taは2022年2月、コロナ禍により苦境に立たされ米国の全店舗を閉店した。その後の展開は不明ながら、同社サイトには「素晴らしい7年間でした」といったメッセージを残している。

米国事業が衰退していく最中、日本国内で店舗を運営するb8ta Japan(ベータ・ジャパン)は2020年9月に米b8taとの資本関係を解消し、2022年2月に合同会社から株式会社に移行している。同社は4月22日、リードインベスターに東芝テックを迎え、第三者割当増資を実施し、シリーズBラウンドのファーストクローズにあたる資金調達を完了したと発表。今後はCVCを含む3~4社からの追加調達により、ラウンドを6億円前後でクローズする予定だという。

また、常設店舗拡大をはじめ、同社のビジネスモデル「RaaS(Retail as a Service:サービスとしての小売)」を加速すると明らかにした。

コロナ禍で命運わかれた米b8taとb8ta Japan

米国b8taは2015年に創業。出展企業からの出展料でマネタイズし、接客から在庫管理、データ収集までをトータルでサポートするRaaSを提唱し、事業を展開してきた。米国では最大23店舗まで拡大しており、店舗によって利益が出ていたり、赤字だったり、という状況だったという。b8ta Japan代表取締役の北川卓司氏によると、店舗の固定資産が膨らんだことや、米国事業では出展料をレベニューシェアのように来店客の多寡により変動するかたちで取っていたことから、そもそも予想外だったコロナ禍やロックダウンによる来店客の減少により運営が厳しくなっていったと述べる。

一方b8ta Japanは、米b8taとサンフランシスコのベンチャーキャピタル・Evolution Venturesが合弁会社として2019年9月に設立。2020年8月に東京の新宿と有楽町に2店舗をオープンしている。今回の資金調達をシリーズBラウンドとしている理由は、この日本上陸時に資金調達(当時のレートで約11億円)を行っており、これをシリーズAラウンドと位置付けていることによる。

同社にとって転機となったのは、2020年9月の米b8taとの資本関係解消といえるだろう。以降同社は、b8taの商標とソフトウェア利用のライセンス料を支払うことで日本展開を進めてきた。国内3店舗目となる「b8ta Tokyo – Shibuya」は、その中で2021年11月にオープンした。

さらに約1年にわたる協議の末、b8ta Japanは国内事業に関わる「b8ta」の商標権およびソフトウェアのライセンスを2021年12月末に独占的に取得。事業継続に必要な資産はすべて確保したことになり、b8taによる米国事業に左右されることなく日本事業を継続可能となった。

そしてb8ta Japanでは4月27日、国内4店舗目の「b8ta Koshigaya Laketown」(埼玉県越谷市・イオンレイクタウンkaze内)を開業する。オープン時には国内外合わせて40ブランドの商品を取り扱う予定だ。

b8ta Japanは新しい小売のかたちとして注目を集め黒字化

北川氏によるとb8ta Japanの事業は好調だという。売上などの詳細については明かさなかったが、2021年度、ストアビジネスは黒字化したという。同氏は、日本ではコロナ禍を受けた緊急事態宣言はあったものの、海外のような完全なロックダウンに至ることはなかった点を指摘する。また米b8taと違い出展料を固定化しているため、来店客の減少などの影響を米b8taほどには受けなかった。

北川氏は、コロナ禍で店舗ビジネスの先行きが絶望的だった2020年8月に日本上陸したものの、b8taが新たな小売のかたちとして注目されたこと、オンライン販売がレッドオーシャン化したため顧客とのタッチポイントを増やしたい事業者による、オフラインを見直す動きが加速したことが背景にあると説明する。

b8ta Tokyo – Shibuyaでは、出展社に国内ハードウェアスタートアップが少ないことから、特に“食”の領域に「発見・体験」の手を広げ、試飲・試食を行えるようにした。これにより、出展企業や来店客の層が一気に広がったという。代替肉や新たな食材の製品は、実際に買う前に試飲・試食したいというニーズがあり、これをうまく刈り取れた。来店客は、食以外にも新しいガジェットなども手に取るため、「発見・体験」につながった。

フードテック領域以外でも、日産自動車とのEV展示やコスメが好評だったという。北川氏は、しっかりとした販売網を持つ事業者であっても、カーディーラーや百貨店といった限られたスペースに足を運ばないかぎり試せなかった製品を展示することで、新たなニーズを掘り起こせたと説明。今後も食領域に注目しつつチャレンジを続け、カテゴリーを絞りすぎず深い体験が可能な店舗を構築したいとしていた。食材を店舗内で調理したり、コスメであれば専門家とともに1時間ほどかけて試してみたり、といったサービス向上を目指すという。

b8ta Japanでは、“売ることを主目的としない”としているものの、出展している製品の販売は可能だ。バックエンドには在庫を保管しており、売り上げは事業者にノーマージンで還元される。出展する事業者は最終的には販売を目的としており、どう販売するか、来店客からどんな声・フィードバックを集めたいのかなど、出展期間中はカスタマーサクセスチームと事業者で打ち合わせを重ね、ノウハウを蓄積している。

国内4店舗目にあたるb8ta Koshigaya Laketownを埼玉県越谷市のイオンレイクタウンkazeに開業する理由としては、首都圏の郊外・ベッドタウンを環状に結ぶ国道16号の近郊であること、高所得者の数、同施設の年間来場者数が5000万人以上(2019年度)にも上ること、何らかのトラブルがあった場合に東京からのヘルプを短時間で行えることを挙げていた。不特定多数の来店者を増やす点では、東京都内に出店を絞り、常設店舗を次々と出店する手はあるものの、これでは日本全国レベルでの認知度向上が難しい。またオペレーションの観点では、札幌・大阪・福岡などの主要都市で開業した場合、東京からのヘルプに半日程度かかることを危惧した。

“売ることを主目的としない店舗”を持ちたい事業者を支援する新事業

b8ta Japanでは、CVCを含む3~4社からの追加調達を6月末に予定。シリーズBラウンドの累計調達額としては約6億円前後としている。参入当初から店舗を数百店舗まで増やすといったことは想定しておらず、常設店舗を8〜10店舗まで増やすことを狙っているという。

そして事業が頭打ちとなることや、“売ることを主目的としない店舗”のコモディティ化に備え、b8ta Japanは、同社のコンセプト自体やソフトウェアを販売するというビジョンのもと、フランチャイズ的なビジネスも始める。今後、b8taのような店舗を自社で展開したい事業者のバックエンドをサポートしていくという。例えば、ある事業者が百貨店などにポップアップストアを出店する際やイベント出展の際に、b8ta Japanがその裏で動くシステムやスタッフを提供することを計画している。同社が掲げるRaaS、“サービスとしての小売”を一段と強化していく方針だ。

これらバックエンドの支援においては、リードインベスターの東芝テックが抱える営業網や保守網とのシナジーを期待できるとしている。こうした背景から東芝テックをリードインベスターとして迎えたと北川氏は説明した。

またb8ta Japanでは、タイ・台湾・韓国などアジア数カ国でのライセンスも米b8taから取得しており、一部の国ではすでに市場リサーチを進めているそうだ。まずはポップアップストアの展開を検討しているという。北川氏は「b8taブランドの認知度はアジアでも向上しており、これを活かしたい」と明かしていた。