ユーザーからの大きな支持を得て、急成長を遂げてきたメルカリ。フリマアプリとしてスタートしたメルカリの月間利用者数は2000万人を超え、事業の幅も広がった。そして今もなお、マーケットプレイスとして新しい価値を生み出し続けている。

それだけに社会的な影響力も大きい。創業から今に至る9年間を振り返ると、メルカリのPRチームは常に社会との合意形成や関係構築のために奔走してきた。

代表例が、2017年に取り沙汰された現金出品問題や、記憶に新しいコロナ禍でのマスク転売問題などだ。誰でも気軽に利用できるマーケットプレイスは個人間の取引のハードルを下げ、利用者の価値観までを変容させた。それゆえに、これまで起こりえなかった問題が生まれることはある種の必然でもあった。PRチームはその都度、真摯に問題と向き合った。

今では決済サービスの「メルペイ」、暗号資産を扱う「メルコイン」、物流を担う「メルロジ」など、事業は多角化。新たな事業領域の成長を推し進めるなか、さまざまなステークホルダーとのコミュニケーションを担うPRチームは、いかにメルカリが提供する新しい価値を伝えているのか。2回にわたる連載で、PRチームの実像に迫っていく。

第1回は、コーポレートPRマネージャーの鈴木綾香氏と、2021年までメルカリプロダクトPRチームを牽引し、現在はソウゾウPRマネージャーを務める志和あかね氏に、メルカリのPRチームはこれから何を目指すのか、そして社会と対話を続けることの醍醐味について話を聞いた。

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社会インフラとしてのマーケットプレイスに必要なPRとは

——メルカリのPRグループはどういった体制を採用していますか。

志和:PRグループは「メルカリが目指す世界観に共感し応援してくれるファンを作る」というミッションを掲げており、メルカリコーポレートPR、メルカリサービスPR(プロダクトPR)、ソウゾウPR、メルペイ・メルコインPRの4チームがあります。その中でも主にフリマアプリ「メルカリ」に関わるチームはコーポレートPRとサービスPRの2つに分かれて活動しています。サービスPRでは毎クオーター(四半期)が始まる前に各事業部門にヒアリングし、どのタイミングで新たな機能やサービスがリリースされるかを押さえた上で、「ここは世の中に大きく発信していきましょう」というように、プロダクト部門とチームを組んで個別のPR戦略を進めていくフレームワークになっています。

ソウゾウPRチーム マネージャー 志和あかね

鈴木:コーポレートPRは決算発表やトップインタビュー、リスク対応のような企業広報に加えて、メディアリレーションや、US拠点のメルカリPRとの連携、新規事業参入時のPRなどを担当しています。世の中ではまだまだメルカリに対して「勢いのある新興企業」「フリマアプリの会社」といったイメージが強いと思います。しかし、今後メルカリグループが、社会で広く受け入れられていく過程では、社会課題へ率先して取り組み、業界内にとどまらない社会でのリーダーシップの発揮が重要です。「社会にとって必要不可欠で信頼できる存在」という認識を持ってもらえるよう、企業としてのさまざまな施策の発信を通じて、メルカリの社会的な信頼構築、企業価値の向上に取り組んでいます。

——メルカリのPRチームは、立ち上げ時から現・取締役会長の小泉文明さんが関わるなど、経営直轄であることが知られていて、PRと経営の距離が非常に近い印象があります。普段、経営陣とはどのようにコミュニケーションを取っているのでしょうか。

志和:経営とPRの間では定例の会議もありますが、それ以外でも日常的にコミュニケーションを取っています。現在、メルカリはオフィス出社、または出社を前提としないフルリモートワークを社員それぞれが選択できる勤務体制なのですが、会長の小泉は比較的出社していて、必要があって出社しているPRのメンバーに気軽に声をかけます。悶々と悩むようなときには、小泉に限らず経営陣に1on1でミーティングをお願いすることもあります。

一方でグループ内の権限委譲も進んでいて、「PRチームがそう思うなら、それを信じる」という姿勢で、多くの裁量権は現場に委ねられます。他部署との関係でも、たとえばPR部門の新人が入社5年目のプロダクト部門のマネージャーと話しても、「PRのプロ」として意見を尊重してくれる風土があります。お互いのバックグラウンドやレイヤーを忖度(そんたく)せずに意見が言える、本当にフラットな環境です。

鈴木:「PRと経営が近い」ということを普段あまり意識していませんでしたが、相談したいことがあるときには、経営陣に遠慮せずミーティングを入れることはもちろん、社内のコミュニケーションツールとして活用しているSlackを通じていつでも声をかけることができます。現場の裁量でコミュニケーションを取れるという点については、会社としてのミッションとバリューが明確かつ共有されていることも大きいでしょうね。メルカリでは「Trust & Openness」という考え方が浸透していて、経営会議の議事録もインサイダーな情報以外はすべてオープンにされています。これらの情報はPRに限らず誰でも自由にアクセスできます。

メルカリ コーポレートPRチーム マネージャー 鈴木綾香

——メルカリは現在、月間2000万人という膨大な利用者を抱えるサービスとなっています。社会インフラとしての役割も帯び、社会に対する責任も増していると思います。

鈴木:おっしゃるとおり、社会が抱えている課題に率先して取り組む姿勢が求められていると感じています。PRは働き方やD&I(ダイバーシティ・アンド・インクルージョン、多様性と受容)、サステナビリティなどについての企業姿勢の発信も担当していて、向き合っているステークホルダーもお客さまや従業員だけでなく、地域、環境、ひいては社会そのものが対象になっています。カバーする領域が広いこと、社会的に意義のある発信に携われるのは、大変ではありますが、やりがいでもあります。

志和:最近のメルカリは「モノを捨てずに循環させる“循環型社会”の実現に寄与するサービス」というメッセージを強化しています。しかし現実に利用されている方は、「売り買いが楽しいから使っている」「お小遣い稼ぎになるから使っている」という方が多いと思います。小泉からは「循環型社会の実現を訴求することはもちろん大切だけど、それだけだと置いていかれてしまう人もいる」とアドバイスを受けました。PRとしても目指す世界の訴求はしつつ、誰も置いていかれない、楽しめるサービスという情報発信もテーマとしては重要と捉えているので、発信テーマの強弱についてはいつも意識しています。

ブレないメッセージを発信し続け、社会との合意形成を図る

——メルカリというサービスは新しい価値を提供してきただけに、社会との摩擦や齟齬(そご)が発生するケースもあったかと思います。マーケットプレイスへ想定もしなかったモノが出品されることもそのひとつで、特に新型コロナウイルス流行下でのマスクの転売は議論を呼びました。

鈴木:新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で社会に生じたさまざまな混乱は、社会との対話とは何かという課題に、PRとしても改めて直面した出来事でした。マスクのように平時であれば問題のない物品が、日常生活で必要不可欠な存在になるという、誰も経験のしたことがない事態に、当時は社会全体も混乱していたと思います。「必要な方に届ける」ということもマーケットプレイスの役割のひとつです。誰もが自由に取引できるという本来のマーケットプレイスの価値とどうバランスを取っていくべきなのかが、難しい課題でした。

社内でも議論を重ね対応をしていましたが、メルカリの目指す循環型社会を実現していくためにも、この課題にしっかりと向き合い、社会にとって必要なマーケットプレイスの姿、あるべきマーケットプレイスとしての原理原則について考えようと、2020年7月に外部の有識者会議を設立しました。社内ではタスクフォースが組まれ、「マーケットリーダーとして、我々が社会で果たすべき役割は何か」という本質に立ち返って議論し、毎回の議事録もオープンにしながら、半年かけてマーケットプレイスの基本原則を策定・発表したのです。

マーケットプレイスの基本原則は、「安全であること(Safe)」「信頼できること(Trustworthy)」「人道的であること(Humane)」の3つを柱に定めている

PRチームもタスクフォースのメンバーに加わり、主に外部への発信をリードしました。策定後の発信だけでなく、策定に至るまでの議論の過程や策定後のメルカリの動きについても丁寧に発信を続けていきました。メルカリが課題意識を持って取り組んでいることを継続的に発信し、その過程も透明性高くできる限り公開していくことを意識していました。

——根幹の考えがブレることなく発信し続けるということは、当たり前のようでいてなかなかできないことです。これをできるのは、メッセージのコアに揺るがないミッションがあるからでしょうか。

志和:メルカリのPR全体に言えることなのですが、チームのメンバーは本当に泥臭く、愚直に、お客さまやメディアに向き合い続けています。これは外からではなかなか想像できない部分かもしれません。

タスクフォースには私もPRのメンバーとして参加したのですが、社内の人の視線が内に向くことがあった際には、私は「PRは社会と会社のブリッジである」ことを意識して、外からの目線を議論に反映させることを心がけました。

——情報発信だけでなく、ユーザーや社外からの情報や反響を吸い上げて社内に伝えることもPRにとって重要ということですね。基本原則の策定はメルカリにおけるマーケットプレイスのスタンスを世の中に伝えましたが、以降のメルカリの活動にも影響を与えましたか。

鈴木:誰もが安心して参加できる、多様で自由なマーケットプレイスを創っていくためには、メルカリ自身の継続した取り組みはもちろんですが、一次流通企業の皆さまをはじめ、マーケットプレイスに参加する方々との対話や連携の強化も必要です。2021年3月には、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングさまと包括連携協定を締結し、安心で安全な取引環境の構築・拡大に向けた企業連携もはじまりました。この協定は、一次流通事業者のファーストリテイリングさまと二次流通事業者であるメルカリが、商品情報を共有して、特定の新商品の発売前後における注意喚起や、権利侵害品の対策などで緊密に連携することを定めたものです。お客さまがより安心・安全に取引ができる環境が構築できるように、連携の輪も拡げながら、さらなる努力を続けています。

基本原則の策定は、あくまで一つのスタートだと思っています。大切なのはこれが適切に運用され、定期的に見直されていくことであり、私たちが終わることなく向き合い続けていくものです。この件に限らずですが、一度の施策や取り組みで社会からの認識が変わることはないということを前提に、アクションを積み重ね、継続的な社会への発信をPRとしても続けていきます。

大胆な発想で利用者の認識のアップデートに挑む

——マーケットプレイスの基本原則策定はコーポレートPRに関わる話でしたが、サービスPRの取り組みで、社会課題を意識したものとして印象に残っているものはありますか。

志和:2020年の年末に実施した『今年は「捨てない」大掃除』という企画ですね。年末には大掃除でモノを捨てることが多くなるので、メルカリでは毎年キャンペーンを行って「単に不要品を処分するのではなく、捨てずに売ることがエコにつながりますよ」というメッセージを出しています。『今年は「捨てない」大掃除』では、ブックオフさま、家事代行サービスのカジタクさまと組みました。カジタクさまが利用者のお宅の不要品整理をお手伝いし、不要品をメルカリで売るべきものとブックオフさまで売るべきものに仕分けまで行う。あとはお客さまがそれぞれのサービスの流れに沿って不要品の出品ができる、というサービスを展開しました。

なぜ『今年は「捨てない」大掃除』を企画したかというと、アンケート調査で「メルカリを知っていますか」と聞くと、認知度は9割あります。しかし、出品意向があるのにまだ出品したことのない人が、全国で3600万人くらいいらっしゃるのです。この層にどうアプローチするか検討する中で、「不要品=捨てるしかない」という選択肢を、このキャンペーンを通じて、「不要品は処分しつつ対価を得られて、エコ」という認識にアップデートできないかと考えました。

——メルカリとブックオフが組むことのインパクトは大きいですが、見方によっては競合の関係でもあります。

志和:そうですね。しかし、循環型社会の実現を1社だけで目指すのではなく、一次流通を含むさまざまな企業を巻き込んで、ムーブメントを起こしていく必要があると思いました。お客さまの目線に立っても、不要になった大量の本をたくさん持っている人がいたらブックオフさまを使いたいというニーズがあるかもしれない。お客さまにとっても選択肢が多い方が良いという考えがありました。

PRとして常々大切にしているのは、お客さまにメリットがない施策はやるべきではないということです。自社のプロモーションだけを考えたらより効果的な仕掛けがあったかもしれませんが、お客さまが便利かどうかを考えた結果、ブックオフさまとのコラボレーションという発想に着地したのです。

最初はPRチーム内で、競合と見られる企業に提案すること自体に、"反対されるのではないか"という懸念がなかったわけではありません。もちろん事前に他部門にも打診しましたが、社内的に「そんなのはNOだ」という反応は一切ありませんでした。「それはGo Boldだね。やってみようよ」となって、勢いがつきましたね。“目指す正解は一緒”という強い確信のもと、ブックオフさまに声をかけて、わずか3カ月という短い期間でこの企画を実現することができました。こうしたチャレンジングな取り組みをできるところは、メルカリのPRにどれだけ裁量権があるかということの証明になっていると思います。

プロダクトPR発案の「今年は『捨てない』大掃除プラン」

——「Go Bold」というのはメルカリのバリューのひとつですね。「Go Bold (大胆にやろう)」「All for One (全ては成功のために)」「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」という3つのバリューがありますが、実際に現場のみなさんは、このバリューを日々どのくらい意識しているのでしょうか。

志和:この3つのバリューは、ミッションを達成するために「何を大事にするのか」「どういう行動を大事にするのか」の指針で、社員全員で共有しているものです。ですから、「その選択肢もあるけど、本当にGo Boldかな?」というように、社内でも皆ことあるごとに自然に口にします。

鈴木:採用面接のときにも、バリューにどれだけ共感してくれるかというところは徹底して聞きます。だから、そもそもバリューに近い感覚を持っている人が社内に集まっているというのもあります。バリューを都度確認することで身が引き締まりますし、議論が行き詰まったときには道標になると感じています。

会社と共に成長を続けるPRチーム

——メルカリのPRを手本としているスタートアップ企業が少なくありません。そのPRチームの根底には、経営層からPRの現場までが同じバリューを共有できていることがあるのではないかと感じました。一方で、現場の最前線に立つメンバーとしての課題や、今後の伸びしろと感じていることはありますか。

志和:先ほども触れましたが、メルカリを認知はしているのに出品まで踏み切れない方が多いことです。「使い方が難しい」「どうやって出品していいかよくわからない」と感じている方に対して、どうコミュニケーションをとれば前向きになっていただけるかは、私たちにとって難しい課題です。

またメルカリというと、やはりフリマアプリの印象や、創業者である山田進太郎(代表取締役社長CEO)のイメージが強いのです。今はメルペイなどの決済事業やメルカリShops(ショップス)などのB2C事業を展開しており、新しい人材、ワクワクできることを考えている人たちもどんどん入ってきています。どうしたらメルカリの新しい姿を外に見せていけるのかも悩ましい問題です。

鈴木:昨年の通期決算で中長期の方針のひとつに「3本柱の更なる成長と国内外の未開拓領域への進出」を掲げました。新会社の設立や新規事業の開始、グローバルでは第三国への進出というように、メルカリは次の成長のフェーズに入っています。新しいサービスが増えていく中で、グループ全体としてどこに向かっていくのか、外部から見えづらくなっている面があるかもしれません。

個別最適ではなくメルカリ全体として目指す方向性やビジョンを、中長期の視点をもって発信していくこと。また事業テーマが多岐にわたる中でも総花的にならず、濃淡をつけてフォーカスしていく工夫をする。そうしたことが今後の課題と考えています。

——最後に、メルカリPRチームの強みはどこにあると思いますか。

志和:私は2つの強みを感じています。1つは仕事のやりがいで、社会課題にダイレクトに貢献できる取り組みを社会に伝えていけることが、メルカリPRの醍醐味です。循環型社会に寄与するという想いもそうですし、最近ではメルカリShopsを通じて、コロナ禍で飲食店向けの食材が売れなくなってしまった事業者がB to C事業に挑戦するサポートができたこともそうですね。

2つ目は環境です。PRとしてありがたいのは、経営層のPRへの理解が深く、信頼して任せてくれていること。マネージャーの裁量権限も大きいので、ボトムアップで施策を遂行できます。

また、PRだけではなくメルカリ全体がプロ集団で、チャレンジしたい人ばかりが集まっているので、新たな挑戦が非常にやりやすいです。

鈴木:私の考えも志和とまったく同じです。さまざまなバックグラウンドや経験をもった社内のメンバーからフィードバックを受けられること、彼らと一緒に働けるという環境自体が宝物であり、メルカリという会社の魅力だと思っています。

それから、創業から9年経っても、まだまだ「初めてやる」というチャレンジが多いことも挙げたいです。私は入社8年目ですが、今も会社と一緒に自分も前進している感覚があります。メルカリグループ自体、また次の大きな成長フェーズに突入していて、PRとしても日々ワクワクしています。

メルカリのマーケットプレイスは、社会インフラと言っても過言でないほど浸透した。結果、社会的責任を問う目も厳しくなり、社会との合意を担う“守りのPR”が重さを増している。一方で、持続可能な循環型社会を実現するためにミッションを掲げ、社会課題の解決を念頭に積極的にメッセージを発する“攻めのPR”にも注力する。社会に対して“守り“と“攻め”の表裏一体のPRで向き合うことが、メルカリPRの特徴であり、他のスタートアップが参考とする理由と感じた。

メルカリのマーケットプレイスとしての使命と社会との関係構築には、完成はない。PRチームはそれを理解しているからこそ、いまなお急速な成長を続け、次々と事業を展開するなかで直面する新たな課題に対して、泥くさいと言いたくなるほど実直にコミュニケーションを取り続けているのだ。それが、メルカリPRの本当の姿であり、メルカリの強さの要因なのである。

鈴木綾香(すずき・あやか)◎デジタルマーケティングエージェンシーで広報・販促室、アパレル企業で社長室、新規事業開発室などを担当したのち、メルカリに入社。現在、コーポレートPRチーム マネージャー。

志和あかね(しわ・あかね)◎モデル事務所にてマネージャー、PR会社でTVプロモーターなどを経験。メルカリでは主にアプリのPRを担当し、現在、「ソウゾウ」PRチームのマネージャー。

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メルカリ 採用情報ページ
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