メルペイが目指すのは、金融サービスとしての新しい価値の提供だ。「循環型金融」と呼ばれるこの新しい価値は、金融サービスを便利にするだけでなく、個人が夢を実現する大きな助けにもなる。しかし、その意図や目指す世界を社会に正しく伝えなければ、循環型金融も理想のままになってしまう。

そこで重要になるのが、社会との関係構築を担うPRチームの存在だ。

メルペイのPRチームはフィンテック、ひいては金融サービスに特有の困難にも直面する。例えば、「信用」や「与信」については、デリケートな話題だと感じる人も少なくない。フィンテックに対しては、不正利用等の問題もあり風当たりも強い。だからこそPRチームは、社会の反応に対してその都度丁寧な説明を行い、多様なステークホルダーと合意形成を図ってきた。

前回はメルカリPRチームのメンバーに、いかに社会との関係構築に取り組んでいるのか、メルカリにおけるパブリック・リレーションズ(PR)の在り方について話を聞いた。

【関連記事】第1回「社会インフラとしてのマーケットプレイスを構築する。メルカリPRチームの軌跡と未来への使命」

続く本記事では、2022年1月からメルペイの指揮を執る代表取締役CEO・山本真人氏と、PRマネージャー・宮本祐一氏が登場。変化の激しいフィンテック業界で、メルペイが一貫する哲学とは何なのか。そしてそれを正しく社会へ伝えるためにPRが果たす使命について語ってもらった。

メルカリのエコシステムを加速させる「循環型金融」

──最初にメルペイについて、メルカリグループの中での役割と、決済サービスとしての特徴を改めて伺います。

山本:メルカリグループでは、「循環型社会」を重要なキーワードとしています。それは、モノを使い捨てずに循環させることでサステナビリティを成し遂げながら、より多くの方が、より多くの自分のやりたいことを実現できる社会のことです。メルペイが担うのは、この循環型社会の実現の加速装置です。

現時点では、メルカリのマーケットだけですべてのモノやサービスが手に入るわけではありません。そこにメルペイが加われば、メルカリでモノを売って得た売上金を使い、メルカリ以外の加盟店でも欲しいモノを買えるようになります。そしてメルペイを使って買ったモノをまたメルカリで売る──というように、金融機能を通じて循環型社会をより広い世界で実現していくことができるのです。

メルペイを既存の金融業界の枠組みから見ると、新しい価値を提供する決済サービスと言えると思います。クレジットカードを含めた従来の決済サービスは、基本的にはお金が顧客から加盟店に移るだけの資金移動であり、お客さまのお金が減っていくサービスでした。メルペイは、メルカリでモノを売った売上金をチャージすることで、お金を増やすことができます。このお金の双方向の動きを私たちは「循環型金融」と呼んでいます。この循環型金融は、メルカリの循環型社会を加速すると同時に、金融業界に新しい価値を提供できると考えています。

メルカリの売上金が使えることもメルペイの特徴のひとつだ (拡大画像)

──「より多くの方が、より多くの自分のやりたいことを実現できる」循環型社会の加速装置が循環型金融であるという話に、金融サービスから取り残された人たちが金融サービスへアクセスできるように支援する「金融包摂」を連想します。メルペイが推進する循環型金融には、金融包摂の要素も含んでいるのでしょうか。

山本:広い意味で、金融包摂を担うインフラになるべきだと考えています。日本はこれまで現金中心の社会でした。今もアプリの使い方がわからないから金融サービスを利用できないという人たちが大勢いますし、「クレジットカードだといくら使ったかよくわからずに使いすぎてしまう」と言う人も少なくない。メルペイはそうした既存の金融サービスの課題を補い、広く正しく、多くの人たちが気軽に使える金融サービスへの入り口を目指しています。

例えば、今月の購入代金を翌月にまとめて清算する「メルペイスマート払い」を利用されている方たちは、「アプリが使いやすく、これだと使い過ぎることがない」と言ってくださっています。利用上限金額(与信額)についても、行動情報に基づくAI審査による迅速な与信で実現するなど、今まではできなかった信用供与をテクノロジーによって可能にしました。このように、より多くの方に便利に金融サービスを使っていただこうとしています。

メルペイ 代表取締役CEO・山本真人氏

──メルペイのサービスの利用者からすると、サービスを使うだけでは、循環型社会や循環型金融といった価値を実感しにくいかもしれません。メルペイが提供する循環型金融の価値を正しく伝えていくためにも、社会との接点を担うPRは重要だと思います。お2人はメルペイにおけるPRの役割をどのように捉えていますか。

山本:PRは、多くの方に「信用を創造して、なめらかな社会を創る」というメルペイのミッションを正しく伝える役割を担っています。そのためには、このミッションのもとでわれわれが何を実現したいのかを深く理解して、メッセージを作らなくてはいけません。だからこそ、PRは経営と常にシンクロしている必要があります。

宮本:発信するメッセージには、「このサービスがお得ですよ」「便利ですよ」といった話以前に、このサービスがミッションの中でどのような位置づけなのか、何を実現したいのかまでが伝わる解像度の高さが必要です。あらゆるコミュニケーションにおいて、それは常に意識しています。

PRチームが社会と社内の「翻訳者」である理由

──メルペイがローンチしてから3年。スマートフォン決済サービス自体の普及が進む一方でサービスの淘汰が進み、取り巻く状況にも大きな変化がありました。この間にPRチームのコミュニケーションに変化はありましたか。

宮本:ローンチ当初は、国の後押しもあってキャッシュレス決済には追い風が吹いていたタイミングだったので、サービスの認知を高めるPR施策が中心になりました。このときを第1フェーズとすると、キャッシュレス決済が浸透した今は第2フェーズです。

この第2フェーズでは、「キャッシュレスは当たり前のもの」という意識が社会に広まってきたために、どう差別化するかが問われるようになりました。しかし、だからといって「他社とはここが違うんです」というコミュニケーションに意識を向けすぎると、本来メルペイが目指す姿を見失ってしまうリスクがある。そこで大事なのは、メルペイの新サービスが社会や生活をどうポジティブに変えるのか、あるいはメルペイが目指す循環型金融にどう接続しているのか、といった文脈を伝えることです。

──認知を高めるだけでなく、そのサービスの意図やもっと先にある未来を伝えるために、フェーズごとに求められるPRの役割も変化してきたということですね。

宮本:メルペイのPRに転職した当初は、これまでマーケティングのキャリアが長かったこともあって、「世の中に向けて発信していく」という意識が強かったです。当時は第1フェーズの時期だったので、世の中の状況とも合致していたと思います。

しかし、今のフェーズではただ発信するだけではなく、我々の想いが伝わるストーリーを作ることが重要です。そのサービスを誰に届け、何を実現したいのか。そして、それがどうミッションに繋がっているのか。受け手に共感してもらえるメッセージとともに発信していくことを意識しています。

メルペイ PRマネージャー・宮本祐一氏

また、「中から外へ」の発信だけでなく、社会の反応を経営陣ら社内に正しくフィードバックすることもPRの重要な仕事だと考えています。PRは、社内と社会を橋渡しする「翻訳者」であるべきなのです。この翻訳者としての動きがうまくいくと、企業と社会との相互理解が深まり、事業成長にも貢献できます。社外だけでなく社内も含めた全てのステークホルダーとコミュニケーションをすることが、パブリック・リレーションズ(PR)なのです。

──経営戦略を立てる上でも、PRが重要ということですね。前回のインタビューでもお話を伺いましたが、PRが経営直轄でなければいけない理由はこの点にもあると感じます。

山本:PRに限らず経営企画や経理などのチームが、プロダクト開発との距離がある企業も多いかと思います。メルカリグループが特徴的なのは、意志決定の場においてPRを含めたさまざまな部門が知見を出し合う文化があることです。

宮本:メッセージを発信する際には、マークさん(山本氏)とはとにかく時間をかけて議論しますよね。昨年ローンチした少額融資サービス「メルペイスマートマネー」もそうした事例のひとつです。

「メルペイがローンを始めた」とだけ聞くと、「若者にお金を貸して大丈夫なのか」「金利で儲けるつもりか」といった懸念を抱く方もいるでしょう。ですが「メルペイスマートマネー」の狙いは、循環型社会を実現する第一歩として、モノとお金の動きをなめらかにすることにあるのです。

──「モノとお金の動きをなめらかにすること」というのは、メルペイのミッションの核心にも触れる部分かと思います。その意味を改めて詳しく教えてください。

宮本:具体的には、これまで与信を受けにくく、金融サービスが使いづらかった方たちにもサービスを届けようとしています。「メルペイスマートマネー」では、年齢や会社、年収などにひも付けられた与信ではなく、「メルカリやメルペイのサービスをいかに丁寧に使っていただけているか」が与信の基準になるので、若い人でも3%程度の低金利で融資を受けられるケースがあります。

サービス開始にあたっては、メッセージの文言ひとつひとつに至るまで何度も議論を重ねた上で、「循環型金融」というコアストーリーをもとに説明することにしました。結果、懸念していたようなネガティブな反応もありませんでした。

メルペイスマートマネーは、メルカリの利用実績が与信に結びつく (拡大画像)

山本:最初にプレゼン案として出てきたスライドは、「私たちは怪しくないです。このサービスは安全です」というネガティブな反応をあらかじめ見越したような内容でした。それに対して当時のプロダクト責任者が、「もっとプロダクトの良さをストレートに伝えていこう」と言ってくれたことでメッセージを見直し、発表当日のぎりぎりまで時間をかけて、ほぼ全てのスライドをつくり直しました。結果的にそれがよかったと思っています。

「この発信で社会がどう変わるのか」を常に考えることが重要

──メルカリのエコシステムは、いまや社会インフラと言われるほどに多くの利用者を抱えています。メルペイは金融サービスとしてだけでなく、このエコシステムの一部として、信頼に足る態度が必要かと思います。社会的にも関心事となった2020年の不正利用問題における一連の対応は、メルペイのPRの姿勢をよく表していたように思います。

山本:不正利用が社会問題として取り沙汰されたとき、最初に考えたのは「これは私たちだけの問題ではない」ということでした。ここで発信するメッセージを誤ると信用を失墜し、キャッシュレス業界ごとダメージを受ける危険性すらあります。すぐに経営陣とPRを含む各チームが集まり、コミュニケーションの方法を議論して、統一したメッセージをアナウンスしました。

このときの一番重要な意志決定は、自社によるeKYC(オンライン本人確認サービス)の義務化へ全社として舵を切ったことです。不正利用を防ぐにあたってもっとも重要なお客さま本人の確認を、メルペイ自らがより積極的に実施していくことで、お客さまが安心してお使いいただけるようにすることを決断しました。

宮本:深夜までメディアから問い合わせの電話が鳴り続ける日々は、もちろん大変でした。ですが、私も山本同様、キャッシュレス決済はより多くの方に便利に金融サービスを使ってもらうために必要だと信じています。「もしキャッシュレス決済がなくなると、現金に戻るのですか? それは世の中にとって望ましいことでしょうか?」と逆にメディアに問いかけたくらいです。こうした地道なやりとりの積み重ねもあって、メルペイは率先してセキュリティを強化しているという認知を社会から得ることができました。

山本:このときに限らず、「このメッセージを発することで社会がどう変わるのか」を想定した上でメッセージを考えていこうと、宮本とはよく話をしています。社会の変化をどう生み出したいのかを念頭にリレーションすることが、PRには必要だと考えています。

ミッションを「近い未来」と想像できれば人は動く

──お2人はそれぞれ、大学時代には金融とは異なる理系の分野を研究されていたそうですね。

山本:そうですね。私は大学院までコンピューターサイエンスを専攻していたのですが、当時から「どんなテクノロジーも、価値を社会に認知されてサービスとして使われなければ意味がない」と感じていました。これまでのキャリアで、フィンテックにしてもクラウドコンピューティングにしても、それらのバズワードが産まれる前から手がけてきましたが、「テクノロジーとその価値を広くきちんと伝えることとは不可分だ」と一貫して考えてきました。

宮本:私は大学時代に量子コンピューターを研究していたのですが、当時はこの分野はまだ実用化に数年、数十年かかるという状態で、もっと近い未来に世の中の人に役立つことに携わりたいと思い、金融の道に進みました。そこからメルペイに移ったのは、メルペイでは「金融は本来便利なものだから、使いやすくすることで誰もが利用できる世界を創っていく」というコミュニケーションをしていたことが腑(ふ)に落ちたからです。こうした姿勢を通じて金融が民主化していくのではないかと可能性を感じましたし、それをPRという役割で多くの方に届けていきたいと考えました。

――今後、テクノロジーの進化のスピードを踏まえると、金融を巡る環境はますます変化が激しくなってくると思います。そうした中で、メルペイのPRの使命はどう変化していくでしょうか。

宮本:フィンテック領域の進化は早いですが、その中でメルペイもこれからどんどん成長していくはずです。さらに言えば、例えばWeb3やNFTが普及したとき、私たちの役割は大きく変わると感じています。激しい変化の中でもメルペイのミッションは変わりませんが、紡ぐべきストーリーは増え、伝えていくものも大きくなると思います。PRがやれることはもっと面白くなっていくはずです。

山本:今、「信用を創造して、なめらかな社会を創る」と言っても、それをイメージするのは難しいし、言葉だけで人は動きません。ですから、多くの方がもっと近い未来として共感できるように、私たちがこれから進む道をいかにうまく伝えるのかが、PRの醍醐味なのだと思います。

──最後に、メルペイのPRに求められる資質について、どのように考えられていますか。

宮本: PRスキルは必ずしも重要ではないと感じています。それよりメルペイのミッションにその人が共感しているか、同じ思いを抱けるか、それについてのコミュニケーションができるかが重要だと思います。メルペイのPRは常にチャレンジの連続です。スタートアップのような立ち位置で“攻めのPR”を実践していく必要がある一方で、リスク対応のような“守りのPR”も必要となります。その両方に挑戦できるところに、醍醐味を感じています。

山本:会社と本人のバリューが明確に合っているかという点と、メルペイのストーリーに共感してその流れを強められるかどうかという点は、私も重要だと思っています。メルカリやメルペイのPRとして醍醐味は、「ストーリーテリング」ができることです。ワクワクする世界を自分の言葉で語れるようになってほしいし、社会に対して伝えていくことを面白いと思ってほしいです。

循環型金融はメルペイのミッションにもある通り、お金との付き合い方を変え、一人一人がやりたいことをできるようになる社会をもたらす可能性を秘めている。しかし、そんな未来が訪れるためには、まず人々にサービスを使ってもらい、循環型金融に参加してもらわなくてはならない。メルペイ自身が社会の要請に応えて変化していく必要もあるだろう。

だからこそPRにとって、自社の意図を社会に発信するだけでなく、社会の動きや声を読み取ってメルペイがあるべき姿を社内に問うことも使命だ。時には矢面にも立って社会と対話を続ける立場だから、経営陣に対しても説得力を持つのだろう。「翻訳者」としてのPRが、メルペイの掲げる循環型金融の普及において重要な存在であることは明らかだ。

山本真人(やまもと・まさと)◎2004年 東京大学大学院卒。NTTドコモ、Google Japan、Square Japan、Apple Japanを経て18年4月、メルペイに参画。CBOとして金融新規事業などを手がけ、2022年1月にメルペイ 代表取締役CEOに就任。

宮本祐一(みやもと・ゆういち)◎大学で物理、量子コンピューター技術を学んだ後、ネット証券会社でマーケティングを担当。19年にメルペイ入社。各種キャンペーンの発信、業務提携発表などPR業務全般にPRマネージャーとして従事。

問い合わせ先
メルカリ 採用情報ページ
https://careers.mercari.com/jp/search-jobs/?cat=public-relations-jobs&s=PR