
- 「コインチェックには未来がある」と信じ、火中の栗を拾った
- ナスダック上場を目指すが、コインチェックは引き続き国内に注力
- 暗号資産はグローバルな土壌じゃないと勝負にならない
「コインチェックを米ナスダック市場にSPAC上場させる」──マネックスグループがそう発表したのは2022年3月のこと。コインチェックは暗号資産(仮想通貨)取引サービス「Coincheck」などを手がけるスタートアップ。
多くの人の間で強く記憶に残っているのが2018年に発生した約580億円相当の暗号資産・NEMの不正流出事故だろう。当時は今ほど日本国内でも暗号資産におけるルールが定まっておらず、事態は混乱を極めた。そんなコインチェックを同年に約36億円で買収したのがマネックスグループだ。
買収後、暗号資産業界の盛り上がりとともにコインチェックは事業を拡大。マネックスグループが2022年1月に発表した2022年3月期の決算内容によれば、コインチェックが属するクリプト事業の収益は前年同期比の3.8倍となる255億円を記録。2021年からはテレビCMも再開している。
今回コインチェックが上場の手段として用いるのは「De-SPAC(SPACによる買収)」と呼ばれる手法だ。具体的にはマネックスグループがコインチェックの持株会社となる予定のコインチェックグループ(Coinchek Group)をオランダに新設する。その後、ナスダックに上場している特別買収目的会社(SPAC)のサンダーブリッジ・キャピタルパートナーズ(Thunder Bridge Capital Partners)と事業統合契約(Business Combination Agreement)を締結し、ナスダックに上場するというスキーム。
なぜナスダック上場なのか。なぜDe-SPACを用いるのか。マネックスグループの代表執行役社長CEOである松本大氏に聞いた。
「コインチェックには未来がある」と信じ、火中の栗を拾った
──不正流出事故を起こしたコインチェックを2018年に約36億円で買収した経緯について、当時の狙いを教えてください。
私たちマネックスグループは、2017年10月に「第2の創業」として新たなミッションステートメントを発表しました。その内容は暗号資産を含めた、金融業界を取り巻く環境変化に対応していくというものです。その手段の1つとして、仮想通貨交換所を作る予定だったのですが、そんなタイミングでコインチェックの不正流出事故が発生しました。
当時のコインチェックは行政や社会、ステークホルダーへの対応に手助けが必要な状況。一方で、行政側は暗号資産を合法化していくために事態を収拾できる人を求めていました。
コインチェックの人たちとは、お互いのことを知らない間柄ではありません。それに、マネックスグループとしては仮想通貨交換所のための人材を求めていたところでもありました。そこで、コインチェックと行政の間に立つことはマネックスグループのニーズにもマッチすると考え、当時の経営陣に「一緒にやらないか」と声をかけたのです。
──当時の暗号資産は今よりも未知な部分があったと思います。新たな領域へ参入することに抵抗はなかったのですか。
実は、僕と暗号資産の関わりは2013年頃から始まっていました。きっかけは、米国で暗号資産事業を展開する友人から「渋谷界隈で暗号資産を持っている人に会ってきてほしい」と頼まれたことです。たしか1ビットコインが2000円だった時代です(笑)。もっと深入りしておけばよかったと思うところもありますが……案外古い付き合いなんです。
──コインチェックは2018年にマネックスグループ入りし、それ以降、テレビCMも再開するほど事業を拡大しています。この動きは予想どおりだったのでしょうか。
彼らには未来があると信じていたからこそ、火中の栗を拾いに行くようなことをしたわけです。成長率やペース、方向性が想像どおりだったかは、あくまで結果論でしかないので「何とも言えない」というのが正直なところです。
ナスダック上場を目指すが、コインチェックは引き続き国内に注力
──今回のコインチェック上場で話題となっているのが、SPACと呼ばれる手法を取り入れているところです。
コインチェックは、新しい産業を切り開こうとしています。そのためには資本だけでなく、人材やステークホルダーなど各方面で成長に必要なリソースを集めなければならない。これらを実現できる場所として、ナスダックでの上場がベストだと考えました。

しかしながら、マネックスグループだけでナスダック上場を目指すのは難しい。そこで、まずはコインチェックグループをオランダに設立し、その傘下にコインチェックを入れ、マネックスグループの子会社としてナスダック上場済みのサンダー・ブリッジ・キャピタル・パートナーズと統合し、上場させる方法を選択しました。
──コインチェックは、海外を中心に事業を展開していくことになりますか。
コインチェック自体は金融庁から規制を受けている企業なので、今までと変わらず日本国内で事業を展開します。どちらかと言えば、コインチェックグループに連なる子会社をつくり、それらを世界に展開していくイメージですね。その事業が決済になるのか、仮想通貨交換所、またはNFTかメタバースになるのかは可能性を探っているところです。
──NFTやメタバースも視野に入れているということは、Web3と言われる領域にも可能性を感じているのでしょうか。
マネックスグループは暗号資産に着手しているので、すでにWeb3領域へ参入していると言っていいと思っています。
暗号資産はグローバルな土壌じゃないと勝負にならない
──日本政府でも、Web3を新しい資本主義の核にすべき、という声もあがっています。こうした動きを、松本さんはどう捉えていますか。
僕らはあくまでも民間企業なので、政府の動きとはそれほど関連しないと考えています。ただ、暗号資産やブロックチェーン事業はグローバルでなければ勝負になりません。コインチェックは日本の行政が定めたルールにのっとって事業を進めつつ、他の関連会社でグローバル展開にも注力していきます。私たちは、やるべきことを淡々とやっていくだけです。
──米国ではコインベースなどの大手企業が存在します。こちらはどう見ているのでしょうか。
コインベースと同じ土俵で戦えるとは思っていません。ただ、彼らはまだ機関投資家を含めて、日本の投資家の顧客基盤を抑えていない。私たちにできることはあると思っています。まずは日本のお金、日本のお客さん相手に私たちが得意とする土俵で戦っていければ、と思っています。